今回の目標
複素数に対して、平方根を取る関数を定義したいのですが、実はこれは一筋縄ではいきません。この記事では、どのような点でうまくいかないのか、解析接続という見方からどのようにがとらえられるかを解説します。
今回の予備知識
定義など
以前の記事
での解析接続の定義は次のようなものでした。
解析接続
を領域とし、を空でない領域とする。, を正則関数とする。がをのりしろとしたのへの解析接続であるとは、上でが成り立つことをいう。
今回の記事では、この定義に基づいて、のりしろを介して関数を「貼り付けていく」ことによりについて考察していきます。
とりあえず雑にを定義してみる
複素数は、極形式という形で以下のようにあらわされるのでした:
ただし、はの絶対値、はの偏角です。また、ふたつの複素数の積は、
に対して、
と表されるのでした。
これを見ると、と表しておいて、
と定義すればよいような気がしますが、これでは定義になっていません。というのも、偏角の選び方が一通りではないからです。
実際、極形式での代わりにとしてもは変わりません。このとき、の式ではがとなり、偏角が180度変わってしまいます。このことは、の平方根が符号の違いでふたつ存在することに対応しています。
いい感じに定義できるように定義域を狭めてみる
そこで、例えば、偏角の動く範囲をに制限してみましょう。すると、の偏角の表し方は一通りになり、は一意的に定まりそうです。
対応が領域上の正則関数になることを確かめてみましょう。
そのために、今回は極座標に関するコーシー・リーマンの方程式を使います。のように実部と虚部に分けて、
を示せば正則性が従います。今回は, なので、計算すると、
となります。これより、が上の正則関数になることが分かります。
これで一件落着……というわけにもいかず、例えばこの選び方だとが定義されていないですね。それでは、が定義域に入るようにと選ぶことにしてみると、今度はが定義域に入っていません。このように、すべての複素数に対してが連続に(あるいは正則に)なるようにうまく定義することはできないことが知られています。
実用上は、この節でみたように、都合がいいようにの一部分を選び、そこで適切にを定義して使うことになります(この操作を分枝を取ると言ったりします)。
解析接続
偏角をの範囲に制限して定義したと、の範囲に制限して定義したは、上半平面(の部分)では同じ関数を定めていますね。これを解析接続という言葉を用いて表現すると、次のようになります:
, とおく。上で定義したを、上で定義したをとおく。すると、はをのりしろとするのへの解析接続である。
下半平面(、あるいはの部分)もに含まれていますが、ここではとなっています。解析接続により一周回って戻ってきたとき、元の関数と値が変わっている例になっています。
また、同様にしてさらに解析接続を続けていくこともできます。が原点の周りを2周すると関数の値が元に戻るようになっていることを確かめてみると面白いかもしれません。
まとめ
今回の記事では、以下のことを紹介しました:
- が複素数全体で「いい感じに」定義できないこと
- 部分的に正則に定義することはできて、解析接続と思ってそれらを貼り合わせられること
またこのあたりの話題を紹介できればと思っております。ここまでお読みいただきありがとうございました。それではまた!