以下, 多変数函数 $f:\mathbb{R}^{n}\to \mathbb{R}$ に対して, 全微分可能であることを単に微分可能ということにする. $a\in \mathbb{R}^{n}$ で微分可能な函数 $f$ に対して, その勾配を $Df(a)$ とする. 則ち,
\begin{align*}
Df(a) = {}^{{}^{{}^t}}\biggl( \frac{\partial{f}(a)}{\partial{x_{1}}},\frac{\partial{f}(a)}{\partial{x_{2}}},\cdots, \frac{\partial{f}(a)}{\partial{x_{n}}} \biggr) \in \mathbb{R}^{n}
\end{align*}
である.
前回の記事
で紹介した Legendre変換とLagrangian,Hamiltonianのconvex duality性により, $L$ または $H$ のどちらかを先に定義すれば,そのLegendre変換を用いて, $H:=L^*$ または $L:=H^*$ と定義すれば良いことが分かった.
Legendre変換の定義より, 次が分かる:
\begin{align}\tag{$\heartsuit$}
v \cdot p \leq L(v)+H(p), \quad v,p \in \mathbb{R}^{n}.
\end{align}
この不等式($\heartsuit$)と, 相加・相乗平均の不等式及び Youngの不等式の関係について考える.
まず, 具体的な Lagrangian $L$ に対して,そのLegendre変換 $L^{*}=H$を計算してみよう:
$L(v)=\frac{1}{2}|v|^{2},\ v \in \mathbb{R}^{n}$ とする. 勿論, この $L$ は凸かつ強圧的の仮定を満たす. このとき, $L^{*}=H$ は,
\begin{align*}
H(p)=\frac{1}{2}|p|^{2}, \quad p \in \mathbb{R}^{n}
\end{align*}
となる.
$p\in \mathbb{R}^{n}$ を任意に固定する. $F(v)=p\cdot v-L(v), \ v \in \mathbb{R}^{n}$ とおく. $F$ が $\mathbb{R}^{n}$ 上で最大値を取ることは前回示したので, $v^{*}\in \mathbb{R}^{n}$ で最大値を取るとすと, $DF(v^{*})=0$ であるから,
\begin{align*}
DF(v^*)= p-v^{*} &= 0 \\
\iff \quad v^{*} &= p
\end{align*}
となる. 従って,
\begin{align*}
H(p)= L^{*}(p)
&= \max_{v \in \mathbb{R}^{n}} \bigl\{v\cdot p -L(v) \bigr\} \\
&= v^{*}\cdot p -L(v^{*}) \\
&= |p|^{2}-\frac{1}{2}|p|^{2}\\
&= \frac{1}{2}|p|^{2}.
\end{align*}
以上より,
\begin{align*}
H(p)=\frac{1}{2}|p|^{2}, \quad p \in \mathbb{R}^{n}
\end{align*}
を得る.
この例に於いて, $n=1,\ v,\ p\geq 0$ として, ($\heartsuit$)に代入すると,
\begin{align*}
v\cdot p &\leq \frac{1}{2}v^{2} + \frac{1}{2}p^{2} \\
\iff \quad \sqrt{v\cdot p} &\leq \frac{v+p}{2}
\end{align*}
を得る. これは当に, 高校の数学Ⅱで習う「相加・相乗平均の不等式」である.
また, より一般に共役指数 $\alpha>1$, $\beta>1$, ($\frac{1}{\alpha}+\frac{1}{\beta}=1$) に対して, 次が成り立つ:
$L(v)=\frac{1}{\alpha}|v|^{\alpha}, \ v \in \mathbb{R}^{n}$ に対して, $H(p)=\frac{1}{\beta}|p|^{\beta}, \ p \in \mathbb{R}^{n}$ となる.
この例に於いて, ($\heartsuit$) に代入すると,
\begin{align*}
v\cdot p \leq \frac{1}{\alpha}|v|^{\alpha} + \frac{1}{\beta}|p|^{\beta}, \quad v,p \in \mathbb{R}^{n}
\end{align*}
が成り立つ. これは当に Youngの不等式である.
以上より, 具体的な Legendre変換を考えることによって, LagrangianとHamiltonianに関する不等式 ($\heartsuit$) は相加・相乗平均の不等式及びYoungの不等式を一般化した不等式になっている事が分かる.
- L.C. Evans, Partial Differential Equations, GSM 19, Amer. Math. Soc., 1998.