前回こんな予想を立てていました。
後編では,この予想を解決するために,代数的整数論の立場から攻めていきます。
二次体
というのは,上で因数分解して
を考える,すなわち二次体上の整数について考える方が都合よいでしょう。この節では,以後の議論に用いる命題や定理の結果を記述していきます。この節の内容はの第5章が詳しいです。
以後,簡略のためにとします。
上の整数環
一般に次の命題があります。
二次体の整数環
をではなく,さらに平方因子を持たない整数とする。として,を上における整数環(におけるの整閉包)とする。このとき次の⑴⑵が成り立つ。
⑴ ならば,は上の加群としてを基底に持つ。
⑵ ならば,は上の加群としてを基底に持つ。
なお整数環を上の加群と見たときの基底のことを,整数底と呼ぶ。
今回はこれを示すことが目標ではないので,結果として認めることにします。証明は,例えばの第8章や,の第4章,その他インターネット上のpdfなどで容易に見つけられると思います。つまり上における整数環は,です。
共役イデアル
イデアルには共役イデアルなるものが定義され,それを用いることで“イデアルのノルム”を定義できます。
共役イデアル
イデアルに対して,その共役元全体の集合を取ると,これがイデアルを定めることが容易に分かる。それをの共役イデアルと呼び,と表す。
共役イデアルの生成元として,生成元の共役をとったもの全体を取ることが出来ます。例えば,ならば,です。
共役との積は単項
イデアルの積は単項イデアルとなる。特にと書けば,である。
は正であると仮定しても良く,この時のノルムはであると言うことにします。
今回考えている問題において,という分解を考えているため,と表示できれば嬉しいですね。
代数体の判別式
一般に代数体(の有限次拡大)には判別式という量を定義できます。特に二次体の判別式は,以下のように計算が出来ます。このあたりの話は,例えばの第1章を参照ください。
二次体の判別式
をではなく,さらに平方因子を持たない整数とする。とすると,の判別式とは,の整数底としてをとったときの行列式のことである(この定め方は基底のとり方によらない。)。ここでとはの元で単位元でない方である。
特に命題3で与えた基底を使えば,次のように計算できる。
広義,狭義の類数
整数環に対して,類数なる量を定義することが出来ます。ここでは広義の意味での類数,狭義の意味での類数を思い出しておきます。やはりの附録部分に詳しいです。
イデアル類,類数
を零でないイデアルとする。
⑴ が存在してと書けるとき,とは対等であるという。
⑵ ⑴においてさらにならば正に対等であるという。ここでである。
⑴や⑵の関係によって同値関係を定めることが出来る。その同値類のことをそれぞれイデアル類,狭義のイデアル類と呼ぶ。それぞれのイデアル類は,の類を単位元とする群をなす。その群のことをそれぞれイデアル類群,狭義のイデアル群と言い,その群の位数のことをそれぞれ類数,狭義の類数と言う。
もしもがPIDならば,任意にとった零でないつのイデアルについて
が成り立ちますので,(広義の)類数はです。しかしの場合は,はPIDでない(例えばは単項イデアルではない)ため,この議論は適用できません。
例でも示しましたように,についてはもっと掘り下げていかなければなりません。
今回の議論において,最も重要な結果が次です。
の類数
の類数はである。特にそのイデアル類群の生成元はである。
さらに,の狭義の類数はである。特にその類は,で書き表すことが出来る。
ここで狭義の類数について簡単に捕捉します。(広義の)類数がなので,狭義の類数はそれを倍してとなります。説明のために完全代表系として挙げた(の)イデアルをそれぞれ,
と置きます。まずは単項イデアルです。しかし狭義の意味ではと正に対等ではありません。(対等ではあります。)しかしはと正に対等です。
については,が成り立つことから,であることが分かり,はと正に対等です。
についても同様にですので,とが正に対等であることが分かります。
そしてはそれぞれ対等ではありません。
さて,一般に次の結果が知られています。
両側類の個数
をの範囲で素因数分解したときに現れる素因数の個数をとする。
このときとなるような狭義のイデアル類の個数はである。この類は狭義の両側類と呼ばれる。
今回考えているにおいては,
でしたから,です。すなわちで両側類は代表されます。ということは,狭義の両側類によって,狭義のイデアル類が類別されるのです。
イデアルの指標系
イデアルに対して“指標”を考えてあげます。今回はの場合の指標系を与えることにとどめます。
でした。そこで,
と定めます。ただし右辺はすべてルジャンドルの記号であり,の値を取ります。例えば,
という定め方です。(もちろんこれは上での話です。)
さて,つのイデアルに対して,そのイデアルのノルムを考え,それを今定義したに代入してみます。すると,以下のように纏まります。
この計算は,の§56に倣っています。
つまるところ,狭義のイデアル類は,3つの指標によって完全に決定されます。この事実が,後の“必要十分条件”の根拠となってきます。(これ,だから言えることで,例えばとかだと言えないんですよね。つらい。)
解決に向けて
というわけで(は正の素数)で表されるときに話を落とし込んでみましょう。
がある単項イデアル(,)によってと分解できるとき,
は解を持ちます。(ある元が存在して,となるように定めることが出来るから)
これを指標系の言葉で言い換えますと,の時にが解を持つことになります(必要十分条件です)。あとは初等的にが満たすべき条件を求めればよく,のとき,は整数解を持つことが分かります。
同様にの時も考えてみます。これについてイデアルの言葉で言い換えますと,がある単項イデアル(,)によってと分解できるとき,
は解を持ちます。
そんな単項イデアルあったかなーというと,のイデアル類がこれに該当します。すなわち指標の言葉で言えば,の時にが解を持つことになります(必要十分です)。これについても計算をすれば,のときには解を持つことが分かります。
というわけで長かったですが,結論です。予想は必要十分条件でした。
が素数になるための条件!
で考えれば規則が見えてくる!!
- が整数解を持つための必要十分条件は,であること。
- が整数解を持つための必要十分条件は,であること。
合成数ではどうなの?
イデアルとは正に対等であることが計算できます。また,
ですので,方程式は解を持つことになります。(例えば)
先ほどの指標を考えたことで,次の副産物が示されます。(それほど証明は難しくありません。の§56に倣うだけです。)
合成数に拡張したい
を平方因子を含まない自然数とする。となる素数を,となる素数を,またはとなる素数を,またはまたはとなる素数をとする。
- を自然数として,が,が互いに素になるような解を持つための条件は,が以外の素因子を持たず,しかもの因数の中のの個数がすべて偶数であるかすべて奇数であるときである。
- を自然数として,が,が互いに素になるような解を持つための条件は,が以外の素因子を持たず,しかもの因数の中のの個数が奇数での個数が共に偶数になるか,の個数が偶数での個数が共に奇数であるときである。
まとめ(感想)
回り道しておいてなんですが,と限定して話をしています。ここに書いた内容の半分ぐらいは一般のでも成り立ちますが,狭義イデアル類の完全代表系を具体的に求めていかなければならず,一般論で語ることは難しいのではないかと思っています。
そもそも僕は,のときに同様の議論が出来ないかで手づまりしているので,まずはそこから解決しなきゃですね。
ところで,を考えているときは,やたらとを用いて必要十分条件が記述されますね。今回あげた例は,の時に帰着される例で,いずれも判別式がになるタイプの場合です。なにかこういった気づきから一般論に持ち込めないだろうか。。。今後の課題です。
ここまで見ていただきありがとうございました。