7
応用数学解説
文献あり

x^2-15y^2で表される素数について【後編】

765
0
$$\newcommand{bekutoru}[1]{\displaystyle\overrightarrow{\mbox{#1}\phantom{A}\hspace{-1em}}} \newcommand{bm}[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand{bunsuu}[2]{\dfrac{\,#1\,}{\,#2\,}} \newcommand{Deg}[0]{^{\circ}} \newcommand{dsqrt}[1]{\displaystyle\sqrt{\,#1\,}} \newcommand{foo}[1]{\ifnum#12\text{それは2だよ!}\else\text{それは2じゃないよ!}\fi} \newcommand{Gal}[0]{\mathop{\rm Gal}} \newcommand{gauss}[1]{\left[\mkern1mu {#1}\mkern1mu\right]} \newcommand{kaku}[1]{\angle\mbox{#1}} \newcommand{kumiawase}[2]{\mathord{{}_{#1}\kern-.12em{}\text{C}_{#2}}} \newcommand{mdot}[0]{\!\cdot\!} \newcommand{O}[0]{\mathcal O} \newcommand{rui}[1]{\left\langle#1\right\rangle} \newcommand{sankaku}[1]{\triangle \mbox{#1}} \newcommand{suuretu}[1]{\left\{#1\right\}} \newcommand{tsqrt}[1]{\textstyle\sqrt{\,#1\,}} \newcommand{zyunretu}[2]{\mathord{{}_{#1}\kern-.12em{}\text{P}_{#2}}} $$

この記事は続き物となっています。
前回: https://mathlog.info/articles/876

前回こんな予想を立てていました。

$\bm{x^2-15y^2}$が素数になるための条件?

$\pmod{60}$で考えれば規則が見えてくる??

  • $p\equiv 1,49\pmod{60}$ならば,$x^2-15y^2=p$は整数解を持つ?
  • $p\equiv 11,59\pmod{60}$ならば,$x^2-15y^2=-p$は整数解を持つ?

後編では,この予想を解決するために,代数的整数論の立場から攻めていきます。

二次体$\mathbb Q(\tsqrt{15})$

$x^2-15y^2=p$というのは,$\mathbb Z[\tsqrt{15}]$上で因数分解して$$ (x+\tsqrt{15}y)(x-\tsqrt{15}y)=p $$
を考える,すなわち二次体$\mathbb Q(\tsqrt{15})$上の整数について考える方が都合よいでしょう。この節では,以後の議論に用いる命題や定理の結果を記述していきます。この節の内容は$[高木]$の第5章が詳しいです。

以後,簡略のために$K=\mathbb Q(\tsqrt{15})$とします。

$\mathbb Q(\sqrt{d})$上の整数環

一般に次の命題があります。

二次体の整数環

$d$$1$ではなく,さらに平方因子を持たない整数とする。$K=\mathbb Q(\tsqrt{d})$として,$\O_K$$K$上における整数環($K$における$\mathbb Z$の整閉包)とする。このとき次の⑴⑵が成り立つ。
⑴ $d\equiv 1\pmod4$ならば,$\O_K$$\mathbb Z$上の加群として$\suuretu{1,\bunsuu{1+\tsqrt d}{2}}$を基底に持つ。
⑵ $d\equiv 2,3\pmod 4$ならば,$\O_K$$\mathbb Z$上の加群として$\suuretu{1,\tsqrt{d}}$を基底に持つ。

なお整数環を$\mathbb Z$上の加群と見たときの基底のことを,整数底と呼ぶ。

今回はこれを示すことが目標ではないので,結果として認めることにします。証明は,例えば$[雪江1]$の第8章や,$[数論1]$の第4章,その他インターネット上のpdfなどで容易に見つけられると思います。つまり$K=\mathbb Q(\tsqrt{15})$上における整数環$\O_K$は,$\O_K=\mathbb Z[\sqrt{15}]$です。

共役イデアル

イデアルには共役イデアルなるものが定義され,それを用いることで“イデアルのノルム”を定義できます。

共役イデアル

イデアル$I\subset\O_K$に対して,その共役元全体の集合を取ると,これがイデアルを定めることが容易に分かる。それを$I$共役イデアルと呼び,$I'$と表す。

共役イデアルの生成元として,生成元の共役をとったもの全体を取ることが出来ます。例えば,$I=(2,1+\sqrt5)$ならば,$I'=(2,1-\sqrt5)$です。

共役との積は単項

イデアルの積$II'$単項イデアルとなる。特に$II'=(n)$と書けば,$n\in \mathbb Z$である。

$n$は正であると仮定しても良く,この時$I$のノルムは$n$であると言うことにします。

今回考えている問題において,$p=(x+\sqrt{15}y)(x-\sqrt{15}y)$という分解を考えているため,$(p)=II'$と表示できれば嬉しいですね。

代数体の判別式

一般に代数体($\mathbb Q$の有限次拡大)には判別式という量を定義できます。特に二次体の判別式は,以下のように計算が出来ます。このあたりの話は,例えば$[雪江2]$の第1章を参照ください。

二次体の判別式

$d$$1$ではなく,さらに平方因子を持たない整数とする。$K=\mathbb Q(\tsqrt{d})$とすると,$K$判別式$\Delta_K$とは,$K$の整数底として$\suuretu{\alpha,\beta}$をとったときの行列式$$\Delta_K\colon\!= \begin{vmatrix} \alpha&\beta\\ \alpha^\sigma&\beta^\sigma \end{vmatrix}^2 $$のことである(この定め方は基底のとり方によらない。)。ここで$\sigma$とは$\Gal(K/\mathbb Q)$の元で単位元でない方である。

特に命題3で与えた基底を使えば,次のように計算できる。$$ \Delta_K=\begin{cases} d& d\equiv1\pmod 4\\ 4d& d\equiv2,3\pmod 4 \end{cases} $$

広義,狭義の類数

整数環$\O_K$に対して,類数なる量を定義することが出来ます。ここでは広義の意味での類数,狭義の意味での類数を思い出しておきます。やはり$[高木]$の附録部分に詳しいです。

イデアル類,類数

$I,\,J\subset\O_K$を零でないイデアルとする。
⑴ $t\in K^{\times}$が存在して$tI=J$と書けるとき,$I$$J$対等であるという。
⑵ ⑴においてさらに$N(t)>0$ならば正に対等であるという。ここで$N(t)=t\overline{\,t\,}=tt^{\sigma}$である。

⑴や⑵の関係によって同値関係を定めることが出来る。その同値類のことをそれぞれイデアル類狭義のイデアル類と呼ぶ。それぞれのイデアル類は,$\O_K$の類を単位元とする群をなす。その群のことをそれぞれイデアル類群狭義のイデアル群と言い,その群の位数のことをそれぞれ類数狭義の類数と言う。

もしも$\O_K$がPIDならば,任意にとった零でない$2$つのイデアル$(a),(b)\subset \O_K$について$$ (a)=\bunsuu ab(b),\qquad \bunsuu ab\in K^{\times} $$
が成り立ちますので,(広義の)類数は$1$です。しかし$K=\mathbb Q(\sqrt{15})$の場合は,$\O_K$はPIDでない(例えば$(2,1+\sqrt{15})$は単項イデアルではない)ため,この議論は適用できません。

例でも示しましたように,$\bm{\mathbb Q(\sqrt{15})}$についてはもっと掘り下げていかなければなりません。

今回の議論において,最も重要な結果が次です。

$K=\bm{\mathbb Q(\sqrt{15})}$の類数

$K={\mathbb Q(\sqrt{15})}$の類数は$\bm 2$である。特にそのイデアル類群の生成元は$\rui{(2,1+\sqrt{15})}$である。

さらに,$K$の狭義の類数は$\bm 4$である。特にその類は,$\rui{(1)\vphantom{\sqrt1}},\;\rui{(11,2+\sqrt{15})},\;\rui{(7,8+\sqrt{15})},\;\rui{(17,7+\sqrt{15})}$で書き表すことが出来る。

ここで狭義の類数について簡単に捕捉します。(広義の)類数が$2$なので,狭義の類数はそれを$2$倍して$4$となります。説明のために完全代表系として挙げた($\O_K$の)イデアルをそれぞれ,
\begin{align} P&=(11,2+\sqrt{15})\color{gray}{\mathop{=}(2+\sqrt{15})}\\ Q&=(7,8+\sqrt{15})\\ R&=(17,7+\sqrt{15}) \end{align}
と置きます。まず$P$は単項イデアルです。しかし狭義の意味では$(1)$と正に対等ではありません。(対等ではあります。)しかし$P^2$$(1)$と正に対等です。
$Q$については,$(8+\sqrt{15})(8-\sqrt{15})=7^2$が成り立つことから,$Q^2=(8+\sqrt{15})$であることが分かり,$Q^2$$(1)$と正に対等です。
$R$についても同様に$R^2=(32+7\sqrt{15})$ですので,$R^2$$(1)$が正に対等であることが分かります。
そして$P,Q,R$はそれぞれ対等ではありません。

さて,一般に次の結果が知られています。

両側類の個数

$\Delta_K$$\mathbb Z$の範囲で素因数分解したときに現れる素因数の個数を$t$とする。
このとき$C^2=(1)$となるような狭義のイデアル類の個数は$2^{t-1}$である。この類は狭義の両側類と呼ばれる。

今回考えている$\mathbb Q(\sqrt{15})$においては,$$ \Delta_K=60=2^2\cdot3\cdot5 $$
でしたから,$t=3$です。すなわち$(1),P,Q,R$で両側類は代表されます。ということは,狭義の両側類によって,狭義のイデアル類が類別されるのです。

イデアルの指標系

イデアルに対して“指標”を考えてあげます。今回は$K=\mathbb Q(\sqrt{15})$の場合の指標系を与えることにとどめます。

$\Delta_K=2^2\cdot3\cdot5$でした。そこで,$$ \chi_1(n)=\left(\dfrac{n}{2}\right),\quad \chi_2(n)=\left(\dfrac{n}{3}\right),\quad \chi_3(n)=\left(\dfrac{n}{5}\right) $$
と定めます。ただし右辺はすべてルジャンドルの記号であり,$\pm1$の値を取ります。例えば,$$ \chi_3(n)=\left(\dfrac{n}{5}\right)= \begin{cases} 1 & \left(x^2\equiv n\pmod 5\;\style{font-family:inherit}{\text{が解を持つ}}\right)\\ -1& \left(x^2\equiv n\pmod 5\;\style{font-family:inherit}{\text{が解を持たない}}\right)\\ \end{cases} $$
という定め方です。(もちろんこれは$\mathbb Z$上での話です。)

さて,$4$つのイデアル$(1),P,Q,R$に対して,そのイデアルのノルムを考え,それを今定義した$\chi_i$に代入してみます。すると,以下のように纏まります。

$$ \begin{array}{c|c|c|c|c} \style{font-family:inherit}{\text{代表するイデアル}} & \style{font-family:inherit}{\text{イデアルのノルム}} & \style{font-family:inherit}{\text{指標}}\chi_1 & \style{font-family:inherit}{\text{指標}}\chi_2 & \style{font-family:inherit}{\text{指標}}\chi_3\\ \hline (1) & 1 & 1 & 1 & 1 \\ P &11 &-1 &-1 & 1 \\ Q & 7 &-1 & 1 &-1 \\ R &17 & 1 &-1 &-1 \end{array} $$

この計算は,$[高木]$の§56に倣っています。

つまるところ,狭義のイデアル類は,3つの指標によって完全に決定されます。この事実が,後の“必要十分条件”の根拠となってきます。(これ,$m=15$だから言えることで,例えば$m=79$とかだと言えないんですよね。つらい。)

解決に向けて

というわけで$x^2-15y^2=p$$p$は正の素数)で表されるときに話を落とし込んでみましょう。

$p$がある単項イデアル$J=(\alpha)$$\alpha\in\O_K$$N(\alpha)>0$)によって$p=JJ'$と分解できるとき,$$ x^2-15y^2=p $$
は解を持ちます。(ある元$\beta\in J$が存在して,$\beta\overline{\beta}=p$となるように定めることが出来るから)
これを指標系の言葉で言い換えますと,$\chi_1(p)=\chi_2(p)=\chi_3(p)=1$の時に$x^2-15y^2=p$が解を持つことになります(必要十分条件です)。あとは初等的に$p$が満たすべき条件を求めればよく,$p\equiv 1,49\pmod{60}$のとき,$x^2-15y^2=p$は整数解を持つことが分かります。

同様に$x^2-15y^2=-p$の時も考えてみます。これについてイデアルの言葉で言い換えますと,$p$がある単項イデアル$J=(\alpha)$$\alpha\in\O_K$$N(\alpha)\bm{<}0$)によって$p=JJ'$と分解できるとき,$$ x^2-15y^2=-p $$
は解を持ちます。
そんな単項イデアルあったかなーというと,$P=(2+\sqrt{15})$のイデアル類がこれに該当します。すなわち指標の言葉で言えば,$\chi_1(p)=-1,\;\chi_2(p)=-1,\;\chi_3(p)=1$の時に$x^2-15y^2=-p$が解を持つことになります(必要十分です)。これについても計算をすれば,$p\equiv 11,59\pmod{60}$のときに$x^2-15y^2=-p$は解を持つことが分かります。

というわけで長かったですが,結論です。予想は必要十分条件でした。

$\bm{x^2-15y^2}$が素数になるための条件!

$\pmod{60}$で考えれば規則が見えてくる!!

  • $x^2-15y^2=p$が整数解を持つための必要十分条件は,$p\equiv 1,49\pmod{60}$であること。
  • $x^2-15y^2=-p$が整数解を持つための必要十分条件は,$p\equiv 11,59\pmod{60}$であること。

合成数ではどうなの?

イデアル$QR$$P$は正に対等であることが計算できます。また,$$ N(QR)=7\cdot 17 $$
ですので,方程式$x^2-15y^2=-7\cdot 17$は解を持つことになります。(例えば$x=11,y=4$

先ほどの指標を考えたことで,次の副産物が示されます。(それほど証明は難しくありません。$[高木]$の§56に倣うだけです。)

合成数に拡張したい

$p>1$を平方因子を含まない自然数とする。$p\equiv 1,49\pmod{60}$となる素数を$p_1$$p\equiv 11,59\pmod{60}$となる素数を$p_2$$p\equiv17,53\pmod{60}$または$p=3$となる素数を$p_3$$p\equiv 7,43\pmod{60}$または$p=2$または$p=5$となる素数を$p_4$とする。

  1. $n$を自然数として,$x^2-15y^2=n$が,$x,y$が互いに素になるような解を持つための条件は,$n$$p_1,p_2,p_3,p_4$以外の素因子を持たず,しかも$n$の因数の中の$p_2,p_3,p_4$の個数がすべて偶数であるかすべて奇数であるときである。
  2. $n$を自然数として,$x^2-15y^2=-n$が,$x,y$が互いに素になるような解を持つための条件は,$n$$p_1,p_2,p_3,p_4$以外の素因子を持たず,しかも$n$の因数の中の$p_2$の個数が奇数で$p_3,p_4$の個数が共に偶数になるか,$p_2$の個数が偶数で$p_3,p_4$の個数が共に奇数であるときである。

まとめ(感想)

回り道しておいてなんですが,$m=15$と限定して話をしています。ここに書いた内容の半分ぐらいは一般の$m$でも成り立ちますが,狭義イデアル類の完全代表系を具体的に求めていかなければならず,一般論で語ることは難しいのではないかと思っています。

そもそも僕は,$m=79$のときに同様の議論が出来ないかで手づまりしているので,まずはそこから解決しなきゃですね。

ところで,$\mathbb Q(\tsqrt{d})$を考えているときは,やたらと$\pmod{|4d|}$を用いて必要十分条件が記述されますね。今回あげた例は,$d=-1,2,3,15$の時に帰着される例で,いずれも判別式が$4d$になるタイプの場合です。なにかこういった気づきから一般論に持ち込めないだろうか。。。今後の課題です。

ここまで見ていただきありがとうございました。

参考文献

[1]
雪江明彦, 整数論1: 初等整数論からp進数へ, 日本評論社, 2013
[2]
雪江明彦, 整数論2: 代数的整数論の基礎, 日本評論社, 2013
[3]
加藤和也 黒川信重 斎藤毅, 数論〈1〉Fermatの夢と類体論, 岩波書店, 2005
[4]
加藤和也 黒川信重 斎藤毅, 数論〈2〉岩沢理論と保型形式, 岩波書店, 2005
[5]
高木貞治, 代数的整数論 第2版, 岩波書店, 1971
投稿日:20201123
更新日:423
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

ぱるち
ぱるち
135
23974
数学屋さんをしています。代数,数論系に興味があり,今は楕円曲線と戯れています。Mathlogは現実逃避用という噂もあります。@f_d00123

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中