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OMCE005(E)に自分が見つけた公式を使ってみる

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 以前書いた こちら の記事で扱った式がちょうど OMC の問題に使える形だったので、使ってみます。

準備

 Kを体とします(よく分からなければ、以下の話は実数や複素数の範囲での話だと思って下さい)。
 a1,,an,b1,,bnKに対し、以下のように定めます。
V(a1,,an)=|1a1a1n11a2a2n11anann1|=i<j(ajai)
V(a1,,an;b1,,bn)=|1a1a1n2b11a2a2n2b21anann2bn|

以前の記事では、以下の等式を示しました。

a1,,anが相異なるとき、
i=1nbiji(aiaj)=V(a1,,an;b1,,bn)V(a1,,an)

ただし、jijiを満たすj全体にわたって積をとることを意味します。

OMCE005(E)に現れる式

 OMCE005(E)の問題文全体は こちら をご覧下さい。問題中に、
i=1128ai130j=1127(aiai+j)
という式が登場します。ai128項で循環するように定義されているので、これはまさに命題1の左辺の形をしています!

命題1を使ってみる

 さっそく命題1を使ってみます。n=128とします。

i=1nain+2j=1n1(aiai+j)=V(a1,,an;a1n+2,,ann+2)V(a1,,an)=|1a1a1n2a1n+21a2a2n2a2n+21anann2ann+2||1a1a1n11a2a2n11anann1|
となります。変形はできましたが、これだけでは何かが分かったという感じはしませんね。さらに考えていきます。
 ちなみに、これは「シューア多項式」と呼ばれる多項式の一種なのですが(→ 参考 )、私は名前を知っているだけで特に詳しくないので、普通に頑張って考えてみます。

 a1,,ani次基本対称式をsiと書くと、
(xa1)(xan)=xns1xn1+s2xn2+(1)nsn
が成り立ちます。x=aiを代入することで、任意のi=1,,nに対して
ains1ain1+s2ain2+(1)nsn=0
が成り立つことが分かります。両辺にaikをかけて
ain+ks1ain+k1+s2ain+k2+(1)nsnank=0
も成り立ちます。これを漸化式として用いてain+2を計算します。以下、n2次以下の項は で省略します。
ain+2=s1ain+1s2ain+s3ain1+=s1(s1ains2ain1+)s2ain+s3ain1+=(s12s2)ain+(s1s2+s3)ain1+=(s12s2)(s1ain1+)+(s1s2+s3)ain1+=(s132s1s2+s3)ain1+
係数がiによらないことに注意。したがって、
|1a1a1n2a1n+21a2a2n2a2n+21anann2ann+2|=|1a1a1n2(s132s1s2+s3)a1n1+1a2a2n2(s132s1s2+s3)a2n1+1anann2(s132s1s2+s3)ann1+|
となりますが、第n列のn2次以下の項は列基本変形で消せるので、上の行列式は
(s132s1s2+s3)|1a1a1n11a2a2n11anann1|
に等しいことが分かります。命題1を用いた結果と合わせれば、
i=1nain+2j=1n1(aiai+j)=s132s1s2+s3
が得られます。

 ちょっと面倒でしたが、公式解説と同じ式が得られました。公式解説より少しは楽をすることができた……んですかね?

シューア多項式

 せっかくなので、シューア多項式について調べてみました。完全に付け焼き刃ですが、計算手順を書いてみます。 こちら こちら を参考にしました。
 まず、完全対称式を導入します。

x1,,xnに関するk次の完全対称式
hk(x1,,xn)=1i1iknxi1xik
で定める。
kが負のときはhk(x1,,xn)=0と定める。

 (kが負のときの定義が見当たらなかったのですが、多分こうだと思います)。

 つまり、k次のすべての単項式を係数1で足しあわせたものです。例えば
h0(x1,,xn)=1
h1(x1,,xn)=x1++xn
h2(x1,,xn)=(x12++xn2)+(x1x2++xn1xn)
h3(x1,,xn)=(x13++xn3)+(x12x2++xn1xn2)+(x1x2x3++xn2xn1xn)
という感じです。

 非負整数列α=(α1,,αn)に対し、
Aα(x1,,xn)=|x1α1x1α2x1αnx2α1x2α2x2αnxnα1xnα2xnαn|
と書くことにします。また、
δn=(n1,n2,,1,0)
と定めます。

 λ=(λ1,,λn)を広義単調減少な非負整数の列とする。このとき
sλ(x1,,xn)=Aλ+δn(x1,,xn)Aδn(x1,,xn)
と定め、これをλの定めるシューア多項式という。

 ここで、λ+δnは成分ごとの和です。

 先ほどの考察の中で現れた
|1a1a1n2a1n+21a2a2n2a2n+21anann2ann+2||1a1a1n11a2a2n11anann1|
は、列を入れ替えることで、λ=(3,0,,0,0)の定めるシューア多項式になっていることが分かります(符号の変化は分母と分子で打ち消しあう)。

 シューア多項式の計算方法はいくつかあるらしいのですが、以下のものを使ってみます。

sλ(x1,,xn)=|hλ1hλ1+1hλ1+n1hλ21hλ2hλ2+n2hλnn+1hλnn+2hλn|

 対角成分の添え字がλの成分で、そこから右に進むと添え字が+1,左に進むと添え字が-1となっています。

 λ=(3,0,,0)の定めるシューア多項式を求めると、
sλ(x1,,xn)=|h3h0Oh0|=h3(x1,,xn)
となることが分かります。したがって、OMCE005(E) で求めていた値は実はa1,,anの3次完全対称式だったということが分かりました!

i=1nain+2ji(aiaj)=h3(a1,,an)

 h3を基本対称式で表すと、さっき求めたものに一致します。これはただの作業なので割愛します。

 今回の結果は更に一般化することができますね。

k0のとき、
i=1nain1+kji(aiaj)=hk(a1,,an)

 分子の指数が 0n2 の場合、値は 0 になるということを 以前の記事 で示しました。これで、指数が非負整数の場合についてはすべて分かったことになります。さらに、命題1はbiについて線形なので、分子がaiの多項式であればいつでも計算できる(少なくとも、完全対称式の線形和で表せる)ことになります。  

 いや、それにしても驚きました。まさかあの等式に関係する問題がOMCで出るとは。
 ではまた。

投稿日:202475
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投稿者

koumei
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2705
(2023/11/30)別名義を使ってましたが、OMCでの名義に揃えました。

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