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OMCE005(E)に自分が見つけた公式を使ってみる

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$$\newcommand{disp}[0]{\displaystyle} \newcommand{Hom}[0]{\mathrm{Hom}} \newcommand{Im}[0]{\mathrm{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\mathrm{Ker}} \newcommand{matab}[2]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \end{pmatrix}} \newcommand{matac}[3]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \end{pmatrix}} \newcommand{matba}[2]{\begin{pmatrix} #1 \\ #2 \end{pmatrix}} \newcommand{matbb}[4]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \end{pmatrix}} \newcommand{matbc}[6]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \\ #4 & #5 & #6 \end{pmatrix}} \newcommand{matca}[3]{\begin{pmatrix} #1 \\ #2 \\ #3 \end{pmatrix}} \newcommand{matcb}[6]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \\ #5 & #6 \end{pmatrix}} \newcommand{matcc}[9]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \\ #4 & #5 & #6 \\ #7 & #8 & #9 \end{pmatrix}} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb Z / #1 \mathbb Z} $$

 以前書いた こちら の記事で扱った式がちょうど OMC の問題に使える形だったので、使ってみます。

準備

 $K$を体とします(よく分からなければ、以下の話は実数や複素数の範囲での話だと思って下さい)。
 $a_1,\ldots, a_n, b_1, \ldots, b_n \in K$に対し、以下のように定めます。
$$ V(a_1, \ldots, a_n) = \begin{vmatrix} 1 & a_1 & \cdots & a_1^{n-1} \\ 1 & a_2 & \cdots & a_2^{n-1} \\ & & \vdots & \\ 1 & a_n & \cdots & a_n^{n-1} \\ \end{vmatrix} = \prod_{i < j}(a_j - a_i)$$
$$ V'(a_1, \ldots, a_n; b_1, \ldots, b_n) = \begin{vmatrix} 1 & a_1 & \cdots & a_1^{n-2} & b_1 \\ 1 & a_2 & \cdots & a_2^{n-2} & b_2 \\ & & \vdots & \\ 1 & a_n & \cdots & a_n^{n-2} & b_n \\ \end{vmatrix}$$

以前の記事では、以下の等式を示しました。

$a_1, \ldots, a_n$が相異なるとき、
$$ \sum_{i=1}^n \frac{b_i}{\prod_{j \neq i}(a_i - a_j)} = \frac{V'(a_1, \ldots, a_n; b_1, \ldots, b_n)}{V(a_1, \ldots, a_n)}$$

ただし、$\disp \prod_{j \neq i}$$j\neq i$を満たす$j$全体にわたって積をとることを意味します。

OMCE005(E)に現れる式

 OMCE005(E)の問題文全体は こちら をご覧下さい。問題中に、
$$ \sum_{i=1}^{128} \frac{a_i^{130}}{\prod_{j=1}^{127}(a_i - a_{i+j})}$$
という式が登場します。$a_i$$128$項で循環するように定義されているので、これはまさに命題1の左辺の形をしています!

命題1を使ってみる

 さっそく命題1を使ってみます。$n=128$とします。

$$ \sum_{i=1}^{n} \frac{a_i^{n+2}}{\prod_{j=1}^{n-1}(a_i - a_{i+j})} = \frac{V'(a_1, \ldots, a_n; a_1^{n+2}, \ldots, a_n^{n+2})}{V(a_1, \ldots, a_n)} = \frac{\begin{vmatrix} 1 & a_1 & \cdots & a_1^{n-2} & a_1^{n+2} \\ 1 & a_2 & \cdots & a_2^{n-2} & a_2^{n+2} \\ & & \vdots & \\ 1 & a_n & \cdots & a_n^{n-2} & a_n^{n+2} \\ \end{vmatrix}}{\begin{vmatrix} 1 & a_1 & \cdots & a_1^{n-1} \\ 1 & a_2 & \cdots & a_2^{n-1} \\ & & \vdots & \\ 1 & a_n & \cdots & a_n^{n-1} \\ \end{vmatrix}}$$
となります。変形はできましたが、これだけでは何かが分かったという感じはしませんね。さらに考えていきます。
 ちなみに、これは「シューア多項式」と呼ばれる多項式の一種なのですが(→ 参考 )、私は名前を知っているだけで特に詳しくないので、普通に頑張って考えてみます。

 $a_1, \ldots, a_n$$i$次基本対称式を$s_i$と書くと、
$$ (x-a_1)\cdots(x-a_n) = x^n - s_1 x^{n-1} + s_2 x^{n-2} - \cdots + (-1)^n s_n$$
が成り立ちます。$x=a_i$を代入することで、任意の$i=1,\ldots, n$に対して
$$ a_i^n - s_1 a_i^{n-1} + s_2 a_i^{n-2} - \cdots + (-1)^n s_n = 0$$
が成り立つことが分かります。両辺に$a_i^k$をかけて
$$ a_i^{n+k} - s_1 a_i^{n+k-1} + s_2 a_i^{n+k-2} - \cdots + (-1)^n s_na_n^k = 0$$
も成り立ちます。これを漸化式として用いて$a_i^{n+2}$を計算します。以下、$n-2$次以下の項は $\cdots$ で省略します。
$$ \begin{aligned} a_i^{n+2} &= s_1a_i^{n+1} - s_2a_i^n + s_3 a_i^{n-1} + \cdots \\ &= s_1(s_1 a_i^n - s_2 a_i^{n-1} + \cdots) - s_2a_i^n + s_3 a_i^{n-1} + \cdots\\ &= (s_1^2 - s_2)a_i^n + (-s_1s_2 + s_3)a_i^{n-1} + \cdots \\ &= (s_1^2 - s_2)(s_1 a_i^{n-1} + \cdots) + (-s_1s_2 + s_3)a_i^{n-1} + \cdots \\ &= (s_1^3 - 2s_1s_2 + s_3)a_i^{n-1} + \cdots \end{aligned}$$
係数が$i$によらないことに注意。したがって、
$$ \begin{vmatrix} 1 & a_1 & \cdots & a_1^{n-2} & a_1^{n+2} \\ 1 & a_2 & \cdots & a_2^{n-2} & a_2^{n+2} \\ & & \vdots & \\ 1 & a_n & \cdots & a_n^{n-2} & a_n^{n+2} \\ \end{vmatrix} = \begin{vmatrix} 1 & a_1 & \cdots & a_1^{n-2} & (s_1^3 - 2s_1s_2 + s_3)a_1^{n-1} + \cdots \\ 1 & a_2 & \cdots & a_2^{n-2} & (s_1^3 - 2s_1s_2 + s_3)a_2^{n-1} + \cdots \\ & & \vdots & \\ 1 & a_n & \cdots & a_n^{n-2} & (s_1^3 - 2s_1s_2 + s_3)a_n^{n-1} + \cdots \\ \end{vmatrix}$$
となりますが、第$n$列の$n-2$次以下の項は列基本変形で消せるので、上の行列式は
$$ (s_1^3 - 2s_1s_2 + s_3)\begin{vmatrix} 1 & a_1 & \cdots & a_1^{n-1} \\ 1 & a_2 & \cdots & a_2^{n-1} \\ & & \vdots & \\ 1 & a_n & \cdots & a_n^{n-1} \\ \end{vmatrix}$$
に等しいことが分かります。命題1を用いた結果と合わせれば、
$$ \sum_{i=1}^{n} \frac{a_i^{n+2}}{\prod_{j=1}^{n-1}(a_i - a_{i+j})} = s_1^3 - 2s_1s_2 + s_3$$
が得られます。

 ちょっと面倒でしたが、公式解説と同じ式が得られました。公式解説より少しは楽をすることができた……んですかね?

シューア多項式

 せっかくなので、シューア多項式について調べてみました。完全に付け焼き刃ですが、計算手順を書いてみます。 こちら こちら を参考にしました。
 まず、完全対称式を導入します。

$x_1, \ldots, x_n$に関する$k$次の完全対称式
$$ h_k(x_1, \ldots, x_n) = \sum_{1 \leq i_1 \leq \cdots \leq i_k \leq n} x_{i_1}\cdots x_{i_k}$$
で定める。
$k$が負のときは$h_k(x_1, \ldots, x_n) = 0$と定める。

 ($k$が負のときの定義が見当たらなかったのですが、多分こうだと思います)。

 つまり、$k$次のすべての単項式を係数1で足しあわせたものです。例えば
$$ h_0(x_1, \ldots, x_n) = 1$$
$$ h_1(x_1, \ldots, x_n) = x_1 + \cdots + x_n$$
$$ h_2(x_1, \ldots, x_n) = (x_1^2 + \cdots + x_n^2) + (x_1x_2 + \cdots + x_{n-1}x_n)$$
$$ h_3(x_1, \ldots, x_n) = (x_1^3 + \cdots + x_n^3) + (x_1^2x_2 + \cdots + x_{n-1}x_n^2) + (x_1x_2x_3 + \cdots + x_{n-2}x_{n-1}x_n)$$
という感じです。

 非負整数列$\alpha=(\alpha_1, \ldots, \alpha_n)$に対し、
$$ A_{\alpha}(x_1, \ldots, x_n) = \begin{vmatrix} x_1^{\alpha_1} & x_1^{\alpha_2} & \cdots & x_1^{\alpha_n} \\ x_2^{\alpha_1} & x_2^{\alpha_2} & \cdots & x_2^{\alpha_n} \\ && \vdots & \\ x_n^{\alpha_1} & x_n^{\alpha_2} & \cdots & x_n^{\alpha_n} \\ \end{vmatrix}$$
と書くことにします。また、
$$ \delta_n = (n-1,n-2, \ldots,1,0)$$
と定めます。

 $\lambda = (\lambda_1, \ldots, \lambda_n)$を広義単調減少な非負整数の列とする。このとき
$$ s_{\lambda} (x_1, \ldots, x_n) = \frac{A_{\lambda + \delta_n} (x_1, \ldots, x_n)}{A_{\delta_n} (x_1, \ldots, x_n)}$$
と定め、これを$\lambda$の定めるシューア多項式という。

 ここで、$\lambda + \delta_n$は成分ごとの和です。

 先ほどの考察の中で現れた
$$ \frac{\begin{vmatrix} 1 & a_1 & \cdots & a_1^{n-2} & a_1^{n+2} \\ 1 & a_2 & \cdots & a_2^{n-2} & a_2^{n+2} \\ & & \vdots & \\ 1 & a_n & \cdots & a_n^{n-2} & a_n^{n+2} \\ \end{vmatrix}}{\begin{vmatrix} 1 & a_1 & \cdots & a_1^{n-1} \\ 1 & a_2 & \cdots & a_2^{n-1} \\ & & \vdots & \\ 1 & a_n & \cdots & a_n^{n-1} \\ \end{vmatrix}}$$
は、列を入れ替えることで、$\lambda=(3,0,\ldots,0,0)$の定めるシューア多項式になっていることが分かります(符号の変化は分母と分子で打ち消しあう)。

 シューア多項式の計算方法はいくつかあるらしいのですが、以下のものを使ってみます。

$$ s_{\lambda}(x_1, \ldots, x_n) = \begin{vmatrix} h_{\lambda_1} & h_{\lambda_1 + 1} & \cdots & h_{\lambda_1 + n-1} \\ h_{\lambda_2 - 1} & h_{\lambda_2} & \cdots & h_{\lambda_2 + n - 2} \\ && \vdots & \\ h_{\lambda_n - n + 1} & h_{\lambda_n - n + 2} & \cdots & h_{\lambda_n} \\ \end{vmatrix}$$

 対角成分の添え字が$\lambda$の成分で、そこから右に進むと添え字が+1,左に進むと添え字が-1となっています。

 $\lambda = (3,0,\ldots,0)$の定めるシューア多項式を求めると、
$$ s_{\lambda}(x_1, \ldots, x_n) = \begin{vmatrix} h_3 & & & * \\ & h_0 & & \\ && \ddots & \\ O & & & h_0 \\ \end{vmatrix} = h_3(x_1, \ldots, x_n)$$
となることが分かります。したがって、OMCE005(E) で求めていた値は実は$a_1, \ldots, a_n$の3次完全対称式だったということが分かりました!

$$ \sum_{i=1}^{n} \frac{a_i^{n+2}}{\prod_{j\neq i}(a_i - a_j)} = h_3(a_1, \ldots, a_n)$$

 $h_3$を基本対称式で表すと、さっき求めたものに一致します。これはただの作業なので割愛します。

 今回の結果は更に一般化することができますね。

$k \geq 0$のとき、
$$ \sum_{i=1}^{n} \frac{a_i^{n-1+k}}{\prod_{j\neq i}(a_i - a_j)} = h_{k}(a_1, \ldots, a_n)$$

 分子の指数が $0 \sim n-2$ の場合、値は 0 になるということを 以前の記事 で示しました。これで、指数が非負整数の場合についてはすべて分かったことになります。さらに、命題1は$b_i$について線形なので、分子が$a_i$の多項式であればいつでも計算できる(少なくとも、完全対称式の線形和で表せる)ことになります。  

 いや、それにしても驚きました。まさかあの等式に関係する問題がOMCで出るとは。
 ではまた。

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koumei
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(2023/11/30)別名義を使ってましたが、OMCでの名義に揃えました。

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