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ある恒等式と部分分数分解

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$$\newcommand{matab}[2]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \end{pmatrix}} \newcommand{matac}[3]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \end{pmatrix}} \newcommand{matba}[2]{\begin{pmatrix} #1 \\ #2 \end{pmatrix}} \newcommand{matbb}[4]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \end{pmatrix}} \newcommand{matbc}[6]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \\ #4 & #5 & #6 \end{pmatrix}} \newcommand{matca}[3]{\begin{pmatrix} #1 \\ #2 \\ #3 \end{pmatrix}} \newcommand{matcb}[6]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \\ #5 & #6 \end{pmatrix}} \newcommand{matcc}[9]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \\ #4 & #5 & #6 \\ #7 & #8 & #9 \end{pmatrix}} $$

(2023/11/29 10:30頃~11:11頃 不具合により、記事が重複して投稿されておりました。)
(2023/11/30 $n\geqq 2$という条件が抜けていたので追記しました。命題2$\Longrightarrow$定理1の証明で必要になります)

 ある恒等式を発見したので、ここに残しておきます。もし既に有名であったり、名前がついているものであった場合、ご教示いただければ幸いです。
 以下、$K$を任意の体とします。(体を知らない場合、$K$は実数全体の集合または複素数全体の集合だと思ってください。) また、$n$$2$以上の整数とします。

$a_1,\ldots, a_n\in K$を相異なる元とする。このとき
$$ \sum_{i=1}^n\frac 1{\prod_{j\neq i}(a_i-a_j)}=0$$

 例えば$n=3$の場合、$a,b,c\in K$を相異なる元としたとき
$$ \frac 1{(a-b)(a-c)} + \frac 1{(b-a)(b-c)} + \frac 1{(c-a)(c-b)} = 0$$
$n=4$の場合、$a,b,c,d\in K$を相異なる元としたとき
$$ \frac 1{(a-b)(a-c)(a-d)} + \frac 1{(b-a)(b-c)(b-d)} + \frac 1{(c-a)(c-b)(c-d)} + \frac 1{(d-a)(d-b)(d-c)} = 0$$
となります。

部分分数分解との関係

 この等式は、部分分数分解に関係しています。例えば上の$n=4$の場合の式で、分かりやすいように$d$$x$で置き換えると
$$ \frac 1{(a-b)(a-c)(a-x)} + \frac 1{(b-a)(b-c)(b-x)} + \frac 1{(c-a)(c-b)(c-x)} + \frac 1{(x-a)(x-b)(x-c)} = 0$$
となり、あとは移項するだけで$\displaystyle \frac 1{(x-a)(x-b)(x-c)}$の部分分数分解が得られます。

 もともとは、部分分数分解を文字で表した式を見て「分解後の式の各項が元の式に似てるな」と思ったことから発見に至りました。

定理1の証明

 証明の前に、いくつか記号を用意する。$a_1,\ldots, a_n \in K$ に対し、その Vandermonde 行列式を$V(a_1,\ldots, a_n)$とおく。すなわち
$$ V(a_1,\ldots,a_n)=\begin{vmatrix} 1 & a_1 & \cdots & a_1^{n-1} \\ 1 & a_2 & \cdots & a_2^{n-1} \\ &&\vdots&\\ 1 & a_n & \cdots & a_n^{n-1} \\ \end{vmatrix}=\prod_{i< j}(a_j-a_i)$$
とする。また、$a_1,\ldots,a_n,b_1,\ldots,b_n\in K$に対し
$$ V'(a_1,\ldots,a_n;b_1,\ldots,b_n)=\begin{vmatrix} 1 & a_1 & \cdots & a_1^{n-2} & b_1 \\ 1 & a_2 & \cdots & a_2^{n-2} & b_2 \\ &&\vdots&&\\ 1 & a_n & \cdots & a_n^{n-2} & b_n \\ \end{vmatrix}$$
とおく。$V'(a_1,\ldots,a_n;b_1,\ldots,b_n)$を第$n$列についての余因子展開によって計算すると、
$$ V'(a_1,\ldots,a_n;b_1,\ldots,b_n)=\sum_{i=1}^n (-1)^{n+i}b_iV(a_1,\ldots,\check{a_i},\ldots,a_n)$$
を得る。ここで、$\check{a_i}$$a_i$を除くことを意味する。

 定理1は、以下の命題の系として得られる。

$a_1,\ldots, a_n\in K$を相異なる元とする。このとき、任意の$b_1,\ldots,b_n \in K$に対し
$$ \sum_{i=1}^n\frac {b_i}{\prod_{j\neq i}(a_i-a_j)}=\frac {V'(a_1,\ldots,a_n;b_1,\ldots,b_n)}{V(a_1,\ldots,a_n)}$$

(命題2$\Longrightarrow$定理1)

命題2において$b_1=\cdots=b_n=1$としたとき、右辺が$0$になることを示せば良い。すなわち$V'(a_1,\ldots,a_n;1,\ldots,1)=0$を示すということだが、$V'$の定義式において$b_1=\cdots=b_n=1$とすると、2列が等しくなる(ここで$n\geqq 2$を用いている)ので行列式の値は$0$となる。よって示された。//

(命題2)

$\displaystyle \sum_{i=1}^n\frac {b_i}{\prod_{j\neq i}(a_i-a_j)}$を、分母が$V(a_1,\ldots,a_n)=\prod_{k< l}(a_l-a_k)$になるように通分することを考える。$\displaystyle \frac {b_i}{\prod_{j\neq i}(a_i-a_j)}$の分母を$\prod_{k< l}(a_l-a_k)$にするには、まず$i< j$である$j$について因子の符号を入れかえて、
$$ \frac {b_i}{\prod_{j\neq i}(a_i-a_j)}=\frac {(-1)^{n-i}b_i}{\prod_{j=1}^{i-1}(a_i-a_j)\prod_{j=i+1}^n(a_j-a_i)}$$
とする。あとは$\prod_{k< l}(a_l-a_k)$の因子のうち足りないもの、すなわち$a_i$を含まない因子を分母分子にかければ良い。$a_i$を含まない因子すべての積は$V(a_1,\ldots,\check{a_i},\ldots,a_n)$に他ならないので、
$$ \frac {b_i}{\prod_{j\neq i}(a_i-a_j)}=\frac {(-1)^{n-i}b_iV(a_1,\ldots,\check{a_i},\ldots,a_n)}{V(a_1,\ldots,a_n)}$$
を得る。これを用いて通分すると、
$$ \sum_{i=1}^n \frac {b_i}{\prod_{j\neq i}(a_i-a_j)}=\sum_{i=1}^n \frac {(-1)^{n-i}b_iV(a_1,\ldots,\check{a_i},\ldots,a_n)}{V(a_1,\ldots,a_n)}=\frac {V'(a_1,\ldots,a_n;b_1,\ldots,b_n)}{V(a_1,\ldots,a_n)}$$
となり、目的の式を得る。ここで、$(-1)^{n-i}=(-1)^{n+i}$を用いた。//

微分係数を用いた表現

一般に、$K$係数多項式$P(x)=\sum_{i=0}^n c_ix^i$に対してその微分
$$ P'(x)=\sum_{i=1}^n ic_ix^{i-1}$$
で定めます。積の微分などの公式が、実関数の場合と同様に成り立ちます。$P(x)=(x-a_1)\cdots(x-a_n)$とすると、$P'(a_i)=\prod_{j\neq i}(a_i-a_j)$が成り立ちます。これを用いて、定理1を以下のように書き換えることが出来ます。

$a_1,\ldots, a_n\in K$を相異なる元とする。$P(x)=(x-a_1)\dots(x-a_n)$とおくと
$$ \sum_{i=1}^n\frac 1{P'(a_i)}=0$$
が成り立つ。すなわち、重根を持たない$2$次以上の多項式について、根における微分係数の逆数和は$0$になる。

「重根を持たない$2$次以上の多項式について、根における微分係数の逆数和は$0$になる。」なんて言うと、いかにもよく知られている結果のような雰囲気がしますが、どうなんでしょうか?

命題2について

 命題2を用いると、定理1の他にも色々な式が得られます。別記事として後日投稿する予定です。

 (2023/11/30) 投稿しました!→ 「ある恒等式と部分分数分解」で得られた等式の応用

投稿日:20231128
更新日:20231130

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koumei
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(2023/11/30)別名義を使ってましたが、OMCでの名義に揃えました。

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