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「ある恒等式と部分分数分解」で得られた等式の応用

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「ある恒等式と部分分数分解」はこちら

 引き続き、Kを任意の体とします。VVの定義を再掲しておきます。
V(a1,,an)=|1a1a1n11a2a2n11anann1|=i<j(ajai)
V(a1,,an;b1,,bn)=|1a1a1n2b11a2a2n2b21anann2bn|
また、この記事ではn1以上の整数とします。n=1のとき、
V(a1)=1,V(a1;b1)=b1
と約束します。

 前回の記事では、

a1,,anKを相異なる元とする。このとき、任意のb1,,bnKに対し
i=1nbiji(aiaj)=V(a1,,an;b1,,bn)V(a1,,an)

という式を示しました。前回はn2としていましたが、n=1の場合もji(aiaj)=1と約束すれば成り立つことが確かめられます。
 前回はこの等式においてb1==bn=1とおくことにより目的の式を得ましたが、他の値を代入して得られる式をいくつか見ていきたいと思います。

bi=aim(m=1,,n2)

 m1以上n2以下の整数とし、bi=aimの場合を考えます。この場合も、Vの定義に現れる行列式が0になることが容易に分かり、従って、前回の結果と合わせて

a1,,anKを相異なる元とし、m0以上n2以下の整数とする。このとき
i=1naimji(aiaj)=0

が成り立ちます。さらに、の線形性から

a1,,anKを相異なる元とし、P(x)を高々n2次のK係数多項式とする。このとき
i=1nP(ai)ji(aiaj)=0

も成り立ちます。これにより、前回よりも一般的な状況での部分分数分解に対応できます。例えばn=4として
x22(x3)(x5)(x6)+322(3x)(35)(36)+522(5x)(53)(56)+622(6x)(63)(65)=0
など。

bi=ain1

 bi=ain1の場合を考えます。この場合は、Vの定義から
V(a1,,an;a1n1,,ann1)=V(a1,,an)
であることが分かり、したがって

a1,,anKを相異なる元とする。このとき
i=1nain1ji(aiaj)=1

が成り立ちます。

a0,,anが公差1の等差数列

 この節では、結果の見栄えのため、添え字を0,,nとします。すなわち、n0以上の整数で、等式
i=0nbiji(aiaj)=V(a0,,an;b0,,bn)V(a0,,an)
を利用します。また、体Kの標数は0であるか十分大きいとします。
 任意にaKをとり、a0,,ana,a+1,,a+nを代入します。各iに対してji(aiaj)を計算すると、
ji(aiaj)=ji(ij)=(1)nii!(ni)!
となるので、
i=0n(1)nibii!(ni)!=V(a,,a+n;b0,,bn)V(a,,a+n)
が成り立ち、さらに両辺にn!をかければ
i=0n(1)nibinCi=n!V(a,,a+n;b0,,bn)V(a,,a+n)
となります。
 ここで、先ほどと同じようにbi=(a+i)m(m=0,,n)を代入すると、

i=0n(1)ni(a+i)mnCi={0(m=0,1,n1)n!(m=n)
が得られます。
 二項係数の重み付き交代和の公式が得られました。まとめると、

nを自然数とする。aKを任意の元とし、a,a+1,,a+nが相異なると仮定する。このとき
i=0n(1)ni(a+i)mnCi={0(m=0,1,n1)n!(m=n)

 例えば、以下のような式が成り立つことが分かります。
16+317318+19=0
162+31723182+192=0
163+31733183+193=6

投稿日:20231130
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koumei
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(2023/11/30)別名義を使ってましたが、OMCでの名義に揃えました。

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