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二項定理のmod N類似を探す

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本記事について

本記事は Wataru 様の次の記事 二項定理のmod 4類似
で触れられていた内容について考えてみた記事となります。
本記事をご覧になる前に そちら からご一読頂ければ幸いです。

※なお、元記事では多項式を降べきに並べていますが、本記事では使い勝手および筆者の慣れの関係で昇べきで検討しています。

問題の内容

二項定理について

二項定理

k=0n(nk)xk=x+nx+(n2)x2+(n3)x3+(n4)x4+=(1+x)n

これは二項係数についた符号がすべて正ですが、
正と負が交互に並ぶようにした
k=0n(1)k(nk)xk=xnx+(n2)x2(n3)x3+(n4)x4
(1x)nという二項定理同様の積の形で書けます。
これらの類似として、元記事では次の結果が示されています。

二項定理のmod 4類似(Wataru様)

0nに対して次が成り立つ。
k=0n(1)k2(nk)xk=k=1(mod4)0<k<4n(1xcotπk4n)
※降べき順→昇べき順での差異を筆者にて調整

これは
xnx(n2)x2+(n3)x3+(n4)x4
と、符号が+,,,+,と4つ周期で並んでいる場合についても
定理のような積の形での表示が存在するという結果です。
本記事ではどのような符号の並びであれば上記に類似した結果が得られるのかを検討します。

問題の定式化

符号の部分を係数として一般化し、次の多項式を考える。
fn(x)=k=0nak(nk)xk=a0+a1nx+a2(n2)x2+a3(n3)x3+a4(n4)x4+
f(x)の係数akについて係数がN個周期で変化することは
akが隣接N+1項間の漸化式aN+k=akを満たすことといえる。
このfn(x)が一般のnについて初等的に書ける因数分解を持つのは
akがどのような場合か考える。

係数akの表示

akが隣接N+1項間の漸化式aN+k=akを満たすという仮定から
線形代数の一般論などによりakは次のような一般項の表示を持つことがわかる。
ak=j=0N1αjexp(2jkπiN)
ここで各αja0,a1,,aN1によって定まる定数
この表示をfn(x)にあてはめると
fn(x)=k=0nak(nk)xk=k=0nj=0N1αjexp(2jkπiN)(nk)xk
整理すると
fn(x)=k=0nj=0N1αj(nk)[exp(2jπiN)x]k
有限和の順序を入れ替えると
fn(x)=j=0N1αjk=0n(nk)[exp(2jπiN)x]k=j=0N1αj(1+exp(2jπiN)x)n
となる。まとめると次のようになる

係数anについてのfn(x)の閉じた表示

akが隣接N+1項間の漸化式aN+k=akを満たすとき
fn(x)=k=0nak(nk)xk=a0+a1nx+a2(n2)x2+a3(n3)x3+a4(n4)x4+
は閉じた表示
fn(x)=j=0N1αj(1+exp(2jπiN)x)n
を持つ。ここで各αja0,a1,,aN1によって定まる定数

因数分解ができる場合

ここまでの結果から、係数の周期NについてN3とすると
N=3の場合でも一般には
fn(x)=α0(1+x)n+α1(1+ωx)n+α2(1+ω2x)n
を考えることとなる。(ω は1の原始3乗根ω=exp(2πi3)
これは初等的な分解を因数分解を持たないと考えられる。
より大きなNについても同様。
(※本当に持たないかは本記事では触れませんが多分ないのでは)

一方でN=2の時や、より大きなNでもαj=0となる項が存在することで
fn(x)=α1(1+exp(2j1πiN)x)n+α2(1+exp(2j2πiN)x)n
と書けるのであれば、これはNN乗の形と見なせるので
因数分解を書き下すことができる。
(定理2もこの形に帰着していることが元記事での計算から見て取れる)
このときak
ak=α1exp(2j1kπiN)+α2exp(2j2kπiN)
と書けることから、隣接N+1項間の漸化式aN+k=akを満たすak
より小さな隣接3項間漸化式
ak+2{exp(2j1kπiN)+exp(2j2kπiN)}ak+1+exp(2(j1+j2)kπiN)ak=0
を満たす。この漸化式の特性方程式を考えると
exp(2j1kπiN)+exp(2j2kπiN)A,exp(2(j1+j2)kπiN)=B
とあらわすことにするとt2At+B=0となる。

元々akaN+k=akを満たす数列だということと合わせると
漸化式aN+k=akの特性方程式がtN1=0なので
多項式t2At+BtN1の因数でなければならない。
数列akを整数列に限定すると多項式t2At+B
整数係数の多項式でなければならないので
t2At+Bは円分多項式かそれらの積に限定される。

多項式の次数が2の円分多項式Φm(t)
Φ3(t)=t2+t+1,Φ4(t)=t2+1,Φ6(t)=t2t+1
の3種類しかないのでakが満たしうる漸化式は
ak+2+ak+1+ak=0,ak+2+ak=0,ak+2ak+1+ak=0
のいずれかであるか、または
円分多項式の積まで考えてt21=(t1)(t+1)から
ak+2ak=0となる。

元の問題に立ちかえって、akを符号の付き方と見なすと
+,,+,,(周期2)はak+2ak=0、より簡単にはak+1+ak=0に対応し
+,,,+,(周期4)はak+2+ak=0に対応する。

また、符号として0まで許容すれば
+,0,,+,0,,(周期3)はak+2+ak+1+ak=0に対応し
+,0,,,0,+,(周期6)はak+2ak+1+ak=0に対応する。
(シフトと正負反転をのぞく)これ以外の符号(または0)の
付き方では対応する漸化式の特性多項式の次数が2次より大きく
なるため、元の問題は簡単な因数分解をもたないと考えられる。

より一般に実数係数を許す場合には1のN乗根exp(2jπi/N)=ξN
その複素共役ξN¯
ak=α1ξNk+α2ξN¯k
ak+22cos(2jπi/N)ak+1+ak=0
と書けるakについては因数分解ができると言える

周期的な係数を持つ二項定理が積表示を持つ場合

周期nの係数aN+k=akを持つ
fn(x)=k=0nak(nk)xk=a0+a1nx+a2(n2)x2+a3(n3)x3+a4(n4)x4+
ak+22cos(2jπi/N)ak+1+ak=0
を満たすとき積表示を持つ。(十分条件)

周期的な符号交代を持つ二項定理が積表示を持つ場合

周期nの符号(aN+k=ak,ak=±1)を係数に持つ
fn(x)=k=0nak(nk)xk=a0+a1nx+a2(n2)x2+a3(n3)x3+a4(n4)x4+
は以下の場合と、そのシフトの場合に積表示を持つ。
+,,+,,(周期2、ak+1+ak=0
+,,,+,(周期4、ak+2+ak=0

またak=0を許すと上記以外の周期で
+,0,,+,0,,(周期3、ak+2+ak+1+ak=0
+,0,,,0,+,(周期6、ak+2ak+1+ak=0)
とそのシフト、正負の反転およびその組み合わせの場合に積表示を持つ。

因数分解の計算

因数分解可能な場合を把握したので、実際に因数分解がどうなるかを計算する。
次の場合を考える。
ak+22cosθak+1+ak=0 (θπ),a0=1,a1=0
この漸化式を満たす数列akの一般項は
ak=α1exp(ikθ)+α2exp(ikθ)
と書けるのでa0=1,a1=0より
a0=α1+α2=1,a1=α1exp(iθ)+α2exp(iθ)=0
2つ目の式から
α1exp(iθ)+α2exp(iθ)=0
(α1+α2)cosθ+(α1α2)isinθ=0
cosθ+(α1α2)isinθ=0
α1α2=icotθ

なのでα1=1/2(1+icotθ),α2=1/2(1icotθ)
α1=12sinθ(sinθ+icosθ)=12sinθ(cos(π/2θ)+isin(π/2θ))=exp(iθ+πi/2)2sinθ
α2=exp(iθπi/2)2sinθ
ゆえ
ak=exp(iθ+πi/2)2sinθexp(ikθ)+exp(iθπi/2)2sinθexp(ikθ)
fn(x)=k=0nak(nk)xk=a0+a1nx+a2(n2)x2+a3(n3)x3+a4(n4)x4+
について
fn(x)=exp(iθ+πi/2)2sinθ(1+exp(iθ)x)n+exp(iθπi/2)2sinθ(1+exp(iθ)x)n
1+exp(iθ)xの極形式表示を1+exp(iθ)x=rexp(iϕ)とすると
r2=|1+exp(iθ)x|2=((1+xcosθ)2+x2sin2θ)=1+2xcosθ+x2=(x+cosθ)2+sin2θ>0
tanϕ=xsinθ1+xcosθ
この時
fn(x)=exp(iθ+πi/2)2sinθ(1+exp(iθ)x)n+exp(iθπi/2)2sinθ(1+exp(iθ)x)n=(1+2xcosθ+x2)nsinθcos(nϕθ+π/2)
cos(nϕθ+π/2)=0となるのはnϕθ+π/2=π/2+kπ k=0,1,,n1なので
ϕ=(θ+kπ)/n k=0,1,,n1
xsinθ1+xcosθ=tanϕ
xsinθ=tanϕ(1+xcosθ)
xsinθcosϕ=sinϕ(1+xcosθ)
x(sinθcosϕcosθsinϕ)=sinϕ
xsin(θϕ)=sinϕ

1=sin(θϕ)sinϕ=sin(θ)cos(ϕ)cos(θ)sin(ϕ)sin(ϕ)=cosθ+sinθcot(ϕ)
1=cosθ+sinθcot((θkπ)/n)=cosθsinθcot((kπθ)/n) k=0,1,,n1
よって因数定理より定数Cがあって
fn(x)=Ck=0n1{1x(cosθsinθcot((kπθ)/n))}=Ck=0n1{1+x(cosθ+sinθcot((kπθ)/n))}
と因数分解できる。fn(x)の定数項は1なので係数比較によりC=1
以上から次が得られる

ak+22cosθak+1+ak=0 (θπ),a0=1,a1=0のとき
k=0nak(nk)xk=k=0n1{1+x(cosθ+sinθcot((kπθ)/n))}

+,0,,+,0,,(周期3),ak+2+ak+1+ak=0の場合

a0=1,a1=0,ak+2+ak+1+ak=0とした時
これは定理5のcosθ=1/2(θ=2π/3)の場合なので
1(n2)x2+(n3)x3(n5)x5+=k=0n1{1+x(1/2+3/2cot((kπ2π/3)/n))}
1(n2)x2+(n3)x3(n5)x5+=k=0n1[1+x{12+32cot(3k23nπ)}]
cotは周期πなので、右辺の添え字を0番目をn番目とした次でも同じ
1(n2)x2+(n3)x3(n5)x5+=k=1n[1+x{12+32cot(3k23nπ)}]

+,0,,,0,+,(周期6),ak+2ak+1+ak=0の場合

a0=1,a1=0,ak+2ak+1+ak=0とした時
これは定理5のcosθ=1/2(θ=2π/6=π/3)の場合なので

1(n2)x2(n3)x3+(n5)x5+=k=1n[1+x{12+32cot(3k13nπ)}]

終わりに

もう少し計算可能なパターンが多ければもっと楽しかったように思うが
そうは問屋が卸してくれなかった。

本記事では計算量を抑えるためa0=1,a1=0の場合のみ計算したが
より一般の場合についてもakの一般項における基底の係数が
変わるだけなので、その時の係数の偏角を考慮すれば本記事と
同じように計算が可能である。
定理5では、右辺のxの係数がよりシンプルになる
適切なa0,a1があるかもしれない。

投稿日:225
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  1. 本記事について
  2. 問題の内容
  3. 問題の定式化
  4. 係数akの表示
  5. 因数分解ができる場合
  6. 因数分解の計算
  7. +,0,,+,0,,(周期3),ak+2+ak+1+ak=0の場合
  8. +,0,,,0,+,(周期6),ak+2ak+1+ak=0の場合
  9. 終わりに