こんにちは!はっぴーたーんです!
今回は、こちらの記事 Ohrui(削除済みなのでアーカイブです)で『証明』されていた嘘主張の反例を紹介したいと思います!
本当は Ohrui のコメント欄で私が反例をあげていたのですが、アーカイブでは何故かコメントが残らないので、記録用に記事として投稿させて頂きました〜
まず、元の記事で証明出来るとされていた主張を紹介しておきます〜
$f$を$\mathbb{R}$上のルベーグ可積分関数または広義リーマン可積分関数とする. この時
$$\lim_{|x|\to\infty}|f(x)|=0.$$
ルベーグ積分のことをちゃんと思い出すと、零集合上での違いは積分値に影響を及ぼさなかった訳ですから、非有界な零集合の定義関数は明らかに反例になっています。以降、$1_A$で(可測)集合$A \subseteq \mathbb R$の定義関数を表すことにします。
$f = 1_{\mathbb N}$は(積分値が$0$の)可積分だが$\dlim_{x \to \infty} f(x) = 0$ではない.
最初の反例なので、ちゃんと「$\dlim_{x \to \infty} f(x) = 0$ではない」の部分も説明しておこうと思います!その為に、まずは次のよく知られた事実を紹介しておきます。
$f : \mathbb R \to \mathbb R\ (\mathrel{\text{or}} \mathbb C), a \in \mathbb R$とする. このとき, 次は同値:
証明はよくある「実数上の関数の連続性と点列連続性の同値性」の議論と大体一緒なので省略します〜(知りたい人がいたらぜひコメント欄に一言お願いします!)
この事実を用いることで、上の反例では実数列$\{x_n\}_n$として$x_n := n\ (n \in \mathbb N)$を考えることで (2) の($a = 0$とした場合の)否定が成り立つことがすぐに分かります!
もしかしたら、上の反例だけだと「上手い零集合を考えたら$\dlim_{x\to\infty}f(x) = 0$となる関数$f$が存在するかも知れないじゃないか!」と言われてしまうかも知れません…
しかし、安心してください。零集合の違いを除いても成り立たない例もちゃんと構成することが出来ます!
アイディアは先ほどと同様で、非有界かつ測度有限な(可測)集合上の定義関数を考えればオーケーです!ただし、今回の条件を満たす為に『どのような零集合を除いても非有界性が保たれる』ような集合を取ってくる必要があります。具体的には、次のような集合を用いれば良いです。
(可測)集合$A \subset \mathbb R$を
$$A = \bigcup_{n=2}^\infty \left[n, n+\frac{1}{n^2}\right]$$
と定め, $f = 1_{A}$とする. このとき, $\int_\mathbb R |f(x)|\,dx = \sum_{n=2}^\infty \frac{1}{n^2} < \infty$なので, $f$は可積分である.
$g$をある零集合を除いて$f$に一致する関数とする. このとき, 各区間$[n, n+1/n^2]$の測度は正なので, ある点$x_n \in [n, n+1/n^2]$が存在して
$$g(x_n) = f(x_n) = 1$$
となる. よって, $\dlim_{x\to\infty} g(x) = 0$ではない.(特に, $\dlim_{x\to\infty} f(x) = 0$ではない)
上の反例だけだと、まだ「やっぱり反例は不連続関数だけじゃないか!」とか言われてしまうかも知れません…
しかし、安心してください。連続関数や$C^\infty$級関数の反例も(いくらでも)存在します!
これもアイディアは単純で、先ほどの反例$1_A$で上から抑えられる関数は必ず可積分な訳ですから、その中で$\dlim_{x\to\infty} g(x) = 0$とならないもの(例えば、各区間間$[n, n+1/n^2]$内のある点で必ず$1$を取る関数)を構成すれば良いだけです。
$\mathbb R$上の関数$\varphi$を次で定める:
$$\varphi(x) := \begin{cases} \exp \left(-\frac{1}{1-|x|^2} \right) & (|x| \le 1) \\ 0 & (|x| > 1) \\ \end{cases}$$
この関数$\varphi$は$C^\infty$級であることが知られている(詳細は bump_wiki 及び smooth_func_wiki を参照せよ). また, 定め方から明らかに閉区間$[-1, 1]$の外側では$\varphi(x) = 0$であり, 最大値は$x = 0$における値$e^{-1}$である.
そこで, 各自然数$n \in \mathbb N$に対して, 関数$\varphi_n$を$\varphi_n(x) := e \varphi(2n^2 x - 1)$と定めると, 各$\varphi_n$は次の3条件を満たすことが分かる.
そこで, $f(x) := \sum_{n = 2}^\infty \varphi_n(x - n)$と定めると, $f$は$C^\infty$級関数であり, $0 \le f \le 1_A$なので可積分である. さらに, 各区間$[n, n+1/n^2]$で$1$を取るので$\dlim_{x \to \infty} f(x) = 0$ではない.
この反例は$\varphi$を適当な条件を満たす他の$C^\infty$級関数に取り替えても問題ないので、他にもいくらでも反例が作れることが分かります〜
また、連続な反例で十分なら$\varphi(x) := (1 - |x|)1_{[-1, 1]}(x)$とかでもオッケーです!
ちなみに、広義リーマン可積分関数でよければ、有名なFresnel積分 Fresnel_wiki が反例になっていることがよく知られています〜(なお、Fresnel積分はルベーグ可積分ではないらしい Fresnel_isnt_integrable です🥲)
さて、ここまで成り立たないことばかりを見てきましたが、せっかくなら成り立つことも知りたくなってくると思います〜
まず素直な考察として、関数$f$が可積分のとき各$r> 0$について集合$\{x \in \mathbb R : |f(x)| \ge r\}$は測度有限な訳ですから、大半の$x \in \mathbb R$は$|f(x)| < r$を満たすんだろうな〜という気持ちになってきます。つまり、$\dlim_{x\to\infty} f(x) = 0$が条件として強すぎただけで、実際には似たような状況になっているような感じがします。そして、実際に次の主張が成り立ちます。
$f$を$\mathbb R$上の可積分関数とする. このとき, ほとんど至る所の$x \in [0, 1]$で
$$\lim_{n\to\infty} f(nx) = 0$$
が成り立つ.
これまでの反例から、この定理の『ほとんど至る所の$x \in [0, 1]$』という部分を『全ての$x \in [0, 1]$』にすることは出来ないことが分かります〜
それでは、この定理を証明していきたいと思います〜証明はこちら Lesigne を参考にしました!
以降, (可測)集合$A \subset \mathbb R$のルベーグ測度を$|A|$で表すことにする.
$\varepsilon > 0$を任意に取り, $E := \{x > 0 : |f(x)| \ge \varepsilon\}$とおく.(既に述べたように, $f$は可積分なので$|E| < \infty$である)このとき, 次の主張が成り立つことを示す:
まず, 各$m \ge 1$に対して$E_m := E \cap (m-1, m]$と定める. そして, $a \in (0, 1)$を任意に取る.
このとき, 各$n \ge 1$に対して集合$F_n$を次のように定める.
\begin{align} F_n := \left(\frac{1}{n}E \right) \cap (a, 1] &= \left( \frac{1}{n} \bigcup_{m \ge 1} E_m \right) \cap \left( \frac{1}{n} (an, n] \right) \\ &= \frac{1}{n} \left(\left( \bigcup_{m \ge 1} E_m \right) \cap (an, n] \right) \\ &= \frac{1}{n} \bigcup_{m \ge 1} \left( E_m \cap (na, n] \right) \end{align}
と定める. このとき, $E_1, E_2, \dots$は(その定め方から)互いに素なので
\begin{align} |F_n| = \sum_{m=1}^\infty \frac{1}{n} |E_m \cap (an, n]| \end{align}
更に, 各$E_m \cap (an, n]\ \left( \subset (m-1, m] \cap (an, n] \right)$は$n \le m-1$または$m/a \le n$のとき空集合になることに注意する.
ここで, $\sum_{n=1}^\infty |F_n|$の値を考えると, これは非負値の二重級数なので, 総和の順序を交換する(所謂、Fubiniの定理)ことで,
\begin{align} \sum_{n=1}^\infty |F_n| &= \sum_{n=1}^\infty \sum_{m=1}^\infty \frac{1}{n} |E_m \cap (an, n]| \\ &= \sum_{m=1}^\infty \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n} |E_m \cap (an, n]| \\ &= \sum_{m=1}^\infty \sum_{n=m}^{\lfloor m/a \rfloor} \frac{1}{n} |E_m \cap (an, n]| \\ &\le \sum_{m=1}^\infty \sum_{n=m}^{\lfloor m/a \rfloor} \frac{1}{n} |E_m| \\ &= \sum_{m=1}^\infty |E_m| \sum_{n=m}^{\lfloor m/a \rfloor} \frac{1}{n} \\ \end{align}
となる. ここで, 内側の有限和は積分との比較によって
\begin{align} \sum_{n=m}^{\lfloor m/a \rfloor} \frac{1}{n} &\le 1 + \sum_{n=m+1}^{\lfloor m/a \rfloor} \int_{n-1}^{n} \frac{1}{x}\,dx \\ &= 1 + \int_{m}^{\lfloor m/a \rfloor} \frac{1}{x}\,dx \\ &\le 1 + \int_{m}^{m/a} \frac{1}{x}\,dx \\ &= 1 + \left[ \ln x \right]_{m}^{m/a} \\ &= 1 + \ln (m) - \ln (a) - \ln (m) \\ &= 1 - \ln a \\ \end{align}
と抑えられるので,
\begin{align} \sum_{n=1}^\infty |F_n| = \sum_{m=1}^\infty |E_m| \sum_{n=m}^{\lfloor m/a \rfloor} \frac{1}{n} \le (1 - \ln a) \sum_{m=1}^\infty |E_m| = (1 - \ln a) |E| < \infty \end{align}
となることが分かる. ゆえに, 関数$\sum_{n=1}^\infty 1_{F_n}$を考えると
\begin{align} \int_\mathbb R \sum_{n=1}^\infty 1_{F_n}(x)\, dx = \sum_{n=1}^\infty \int_\mathbb R 1_{F_n}(x)\, dx = \sum_{n=1}^\infty |F_n| < \infty \end{align}
となるのでこれは可積分関数であり, 従ってほとんど至る所で有限値を取る. よって, ほとんど至る所の$x \in (a, 1]\ (\subset \mathbb R)$は有限個の$F_n$にしか属さないことが分かる.(所謂, Borel–Cantelliの補題 borel_cantelli である)
ここで, $x \notin F_n$であるということは$nx \notin E$に等しいので, これは$|f(nx)| \ge \varepsilon$を意味している. 従って, 有限個の$F_n$にしか属していない点$x \in (a, 1]$は, $|f(nx)| \ge \varepsilon$となる$n \ge 1$を有限個しかない持たないことが分かる.
あとは, $a \in (0, 1)$の任意性より, $a = 1/k \to 0\ (k\to\infty)$とすることで, ほとんど至る所の$x \in [0, 1]$は$|f(nx)| \ge \varepsilon$となる$n \ge 1$を有限個しかない持たないことが得られた.
更に, $\varepsilon > 0$の任意性より$\varepsilon = 1/k \to 0\ (k\to\infty)$とすることで, ほとんど至る所の$x \in [0, 1]$で$\dlim_{n\to\infty} f(nx) = 0$となることが分かる.
(証明終)
この証明において、区間$[0, 1]$の部分は(適当な線形変換などを考えることによって)一般の区間にすることが出来るので、元の主張の『$x \in [0, 1]$』を『$x \in \mathbb R$』にすることが可能です〜
dnbksskさんのコメントにもありますように、定理3はより強く
$$\sum_{n=1}^\infty |f(nx)| < \infty \quad (\text{a.e.}\ x)$$
を証明することが出来ます!さらに、この$(nx)_n$の部分を、適切な条件を満たす増加列$(c_n)_n$を用いた$(c_n x)_n$に一般化することが出来ます!
気になる人は、ぜひこちら A.Komisarski をご確認ください〜
この定理3から次の事実が直ぐに分かります!
$f$を$\mathbb{R}$上のルベーグ可積分関数とする. このとき, 極限$\dlim_{x\to\infty} f(x)$が存在するならば, それは$0$である.
$a := \dlim_{x\to\infty} f(x)$とする. まず, 定理3より特に, ある点$x \in (0, 1]$が存在して
$$\lim_{n\to\infty} f(nx) = 0$$
となる. ここで, 実数列$\{x_n\}_n$を$x_n := nx\ (n \in \mathbb N)$と定めれば, これは$x_n \to \infty\ (n \in \mathbb N)$となるので, 命題2より$a = \dlim_{n\to\infty} f(x_n)$でなければならない. よって, $\{x_n\}_n$の定め方から$a = 0$である.
(証明終)
このように、適切な仮定をおくことで$\lim_{x\to\infty} f(x) = 0$となることを正当化出来ることが分かります。最後に、そのような仮定の例をもう1つ紹介しておこうと思います〜
$f$を$\mathbb R$上のルベーグ可積分関数とする. このとき, $f$が一様連続ならば
$$\lim_{x\to\infty} f(x) = 0$$
となる.
先ほどの$C^\infty$級関数の反例は遠方に行くほど非零となる区間が小さくなるので, その分傾きが急になっている(従って一様連続でない)ということですね〜そして, この現象を一様連続性を用いて定式化しているこの命題ということになります。
それでは、この定理を証明していきたいと思います!
$\varepsilon > 0$を任意に取る. $\varepsilon / 2 > 0$に対して$f$の一様連続性を適用すると, ある$\delta > 0$が存在して, 任意の$x, y \in \mathbb R$について, $|x-y| < \delta$ならば$|f(x) - f(y)| < \varepsilon/2$となることが分かる.
このとき, $|f(x)| \ge \varepsilon$なる任意の$x \in \mathbb R$について
$$|f(y)| \ge |f(x)| - |f(x) - f(y)| > \varepsilon/2 \quad (y \in (x-\delta, x+\delta))$$
より$\int_{x-\delta}^{x+\delta} |f(x)|\, dx \ge \varepsilon/2 \times 2\delta = \varepsilon \delta$となる.
ここで, ルベーグの収束定理より(ただし, 優関数として$|f(x)|$を考える)
$$\lim_{R \to \infty} \int_{|x| \ge R} |f(x)|\, dx = 0$$
となることから, 十分大きい$R > 0$において
$\int_{|x| \ge R} |f(x)|\, dx < \varepsilon\delta$
となることに注意する. すると, 任意の$x > R + \delta$について
$$\int_{x - \delta}^{x + \delta} |f(x)|\, dx \le \int_{|x| \ge R} |f(x)|\, dx < \varepsilon\delta$$
となるので, 先ほどの議論から$|f(x)| \ge \varepsilon$でない, つまり$|f(x)| < \varepsilon$となることが分かる.
よって, $\varepsilon > 0$の任意性より$\dlim_{x \to \infty} f(x) = 0$となることが確かめられた.
(証明終)
例えば、絶対連続関数は一様連続ですし、特に導関数が可積分な関数は(積分の絶対連続性と微分積分学の基本定理から)絶対連続なので、様々な関数がこの命題の仮定を満たすことが分かります〜
いかがでしたか?数学では、直感的には成り立ちそうでも実は反例がいっぱい存在したりすることがたま〜にあるので、ちゃんと証明を考えることが大事だとよ〜く分かりますね!(まあ、肝心の証明が滅茶苦茶だったら意味ないですけどね)
それでは、平和で楽しいMathlogライフを〜