新シリーズ爆誕??
直交多項式と超幾何関数の記事を現在連載中とはいえ...(終わるつもりはない)
あれ下調べに時間かかるのよ。笑
それに、それ以外のことについて何も書けなくなる雰囲気も嫌で
このシリーズでは、私が論文などを漁っていたときに気になったトピックを
備忘録がてら書いていくシリーズにしたい。
いわゆる、ゆるふわ回。
前提知識が容赦ない時もあるかもしれない。その時はすまん。気まぐれで。
今回は、overpartition について。
overpartition とは
こういう専門用語は日本語にさえ訳されていない。
機械的に訳すサイトでは、過剰分割とか返ってくるが、、過剰というイメージとは全く違う。
overpartition
を自然数とする。
の overpartition とは、の分割であって、出てくる各数ごとに最初に現れる場所を上線付け(overline)することを許す分割のことである。
overline の "over" なのだ。「上線付き分割」がいいところかしら。
のとき
, , , , , , , の8個の overpartition がある。
ちなみに、例の如く、小さいに対する overpartition の総数はOEISの
A015128
に載っている。
のときが個、のときが個、などとなっている。
OEISでは帰納的な公式が書かれている:
プログラムを走らせると、のときにそれぞれ個、個と爆増する。
#そりゃたくさんあるっしょ
基本的な性質は、次のようなものがある。
overpartitionの個数の母関数
以下、の overpartition の個数をと書くことにする。この時
このように母関数は比較的美しい形で書くことが可能である。
overpartition のうち、上線付けられている箇所は以下の分割で part が全て異なるもの。
また、上線がないところは通常の分割と思うことができる。
すなわち
となり overpartition の個数の母関数を求めることができる。
その次の等式
は-二項定理そのものである。(証明終わり)
この定理も十分美しいが、より条件を加えたoverpartitionの個数を数えやすくするための主張を述べる。
条件付きoverpartitionの個数の母関数
として、のoverpartitionのうち、長さが、上線つけられた個数が、rankがのもの全体の個数とする。
このとき(を動かして)長さがのoverpartitionの個数に関する母関数は次のように書き表される。
ここでoverpartitionのrankとは、(最も大きいpartの値-1)-(最も大きいpartよりも小さく上線付けられたpartの個数)として定義するものとする。
なんだなんだこのrankの定義は!
通常のpartitionには、(最も大きいpartの値)-(長さ) で定められるrankが入っているが、
これとは異なる値であることに注意せよ。
(overpartitionは通常のpartitionを含んでいるが、そこのrankとは合致しないという意味)
右辺を二つの積に分けてから、組み合わせ論的全単射を構成する。
まずについて
この関数は、長さがのpartition全体を生成する。
のべきはpartの和、のべきは長さ(当然)、のべきは(最も大きいpart-1)の値と対応する。
ここに関しては直接は対応が見えにくいが
「長さがのpartition全体」は
・まず全てのpartから1を引くことで、「長さの非負のpartition全体」と対応
・次に隣接する差を取ることで、「非負整数個の組と対応」することからべき級数表示が得られる。
長さの非負のpartition に対し、とおくと
であり、また
がわかり
のような関数を考えるべきである。これはに等しい。
次にについて
これはすぐわかるように、各partが以下の、成分が非負のstrict partiton全体を生成する。
のべきはpartの和、のべきは長さを表す。
最後にのペアが、長さのoverpartition全体と全単射で対応することを示す。
長さのpartitonに対し、以下の(の長さ)回の操作を行う:
「各に対し、の最初から項に1を加え、番目に上線付ける」
この対応は可逆であり全単射であることが従う。
ex. (証明終わり)
ある程度overpartitionの母関数に対する基礎づけができたと思われる。
次はFrobenius座標を導入する。
Frobenius座標との関係
分割に付随するヤング図形に関して、Frobenius座標という概念がある。軽く復習する。
の分割に対し、 とおく。
これはヤング図形の対角成分の長さに一致する。
次に、各対角成分の枡ごとに、それより右にある数と下に数の両方を調べる。
式で書くと
このときの Frobenius座標 を
のように定める。
これが一般的な記法ではあるが、以下では次の記法でも書く。
逆にFrobenius座標から元の分割を与えることもできる:
分割とFrobenius座標の関係
上のように分割からFrobenius座標を与える方法によって、以下の2つの集合の間に全単射があることがわかる。
- の分割全体
- 行列のうち以下の3つの条件を満たすもの全体
① (長さのを許すstrict partition)
②
③
Frobenius座標から分割を作るには、ただ指示通り四角形を並べるだけである。証明終わり。笑
今、overpartitionを考えているので、Frobenius座標の方も少し定義を拡張する必要がある。
実は次のように定義を広げることで、overpartitionもまたFrobenius座標と全単射がつけられる。
overpartition と Frobenius座標
次の2つの集合の間に全単射があることが示される。
- のoverpartition全体
- Frobenius座標のうち、にoverpartitionの定義と同じ上線付けを許すもの
また、の上線の個数と、のうち上線が付いていない個数が対応するように出来る。
こちらも全単射的証明を行う。
まず、の全てのpartに上線があるとき、上線を忘れたpartitionのFrobenius座標を対応させる。
さて、以下ではhookの記法を用いる。
hookとは(回が並ぶ)の形で書かれる分割であり、ヤング図形は鉤型をしている。
hookを分割のヤング図形のすぐ左上に寄せてその全体がまた分割のヤング図形になる時、結合可能であると呼ぶ。
言い換えるなら、分割にhookが結合可能 かつである。
以上を踏まえて、拡張されたFrobenius座標からoverpartitionを構成する方法を述べる。
まずFrobenius座標に対し、その上の行の値を全て1増やしとする。
次に、分割を用意するが、現在は空分割としておく。
そしてが大きい順に(からまで)回次の操作を行う。
- が上線付けられているとき
このときは、hookを分割に結合させる - が上線付けられていないとき
このときは、は共役を取り、を加え、そして共役を戻す。
またにはを加える。
このようにして操作を終えたあと、分割とを繋げた分割(のpartには全て上線を付ける)が求めるoverpartitionである。
さらに、この操作は可逆であり、逆操作も構成可能である。(証明終わり)
note: overpartitionのFrobenius座標についても、やを制限することで色々な母関数が生み出される結果が知られている。詳細はまとめの章に。
-Bailey恒等式
次に示すのは、-Bailey identityと呼ばれる次の等式である。
この等式は、の極限の元で、Baileyによる次の式に帰着されることからそう名付けられた。
さて以下では-Bailey identity(*)を示すが、いくつかの段階に分けて話す。
Step 1 -Bailey恒等式の右辺はoverpartitionを生成するべき級数である
このStepが記事の内容的に一番本質で核心の気がする。細かい計算は後ろのStepに回そう。
さて右辺のべき級数は、との積で書けるが
それぞれの意味を考察する。
前者は書き下すと
のような積である。
これはの時はstrict partitionの母関数になるため、そこと関係がある。
は全てのべきに1回ずつ掛かるため、partの数
は奇数べきで1回、偶数べきで回かかるため、(奇数のpartの数)-(偶数のpartの数)
と対応する。
次に後者は
であり、これはで分割の母関数であった。または同様に長さを意味する。
以上を考えて、これらの積は
(定理1の証明を思い出して)全てのoverpartitionを生成する。
は(上線付きと上線付きでない両方の長さの和)=(overpartitonの長さ)
は(奇数の上線付きpartの数)-(偶数の上線付きpartの数)
を表す。
Step2: Durfeeの正方形の一般化
次にDurfeeの正方形を導入する。
これはpartitionに対し、そのヤング図形に(左上詰めで)含まれる最大の正方形である。
またこの正方形の一辺の長さはヤング図形の対角成分の長さと一致する。
Durfeeの正方形はpartitionの理論で多々使われるが、これをoverpartitionにも適用する。
具体的には、overpartitionに対し
一般化されたDurfeeの正方形の一辺の長さを、
「全ての上線付きの数と以上の上線付けられていない数とを合わせた個数が以上になる最大の」
というように定める。
例えば、わかりやすく極端な例だが
の時はであるが、(通常のpartitionと同じ)
の時はであることに注意する。
この一般化されたDurfeeの正方形の大きさに対し、次の定理が成立する。
<定理>
overpartitionは、を満たすとする。
このときは次を満たすとに分けることができる。
- : 長さのoverpartitionで、未満の数は全て上線付けられている
- : 長さ以下のpartition
この定理で言うは、上線付けられた数、及び上線付けられてない数を大きい方から順に、合わせて長さになるように取る。
または、残りの数からなるpartitionの共役として取る。
(例えばのとき、なのでだが残りは長さが4である。
この場合共役を取ってとすることで長さを1にすることができる。)
また逆に任意で条件を満たすものに対しを満たすoverpartitionが存在する。(全単射:四角形を並べれば良い)
ということで、overpartitionの話からとの話に切り替えることできる。
全体の母関数は上と同様に考えてと書き表されるので、次を示せば良い。
補題: に関する母関数表示
以下として、の長さのoverpartitionであって (i) 未満の数字は全て上線付けられている (ii) (奇数の上線つけられた数)-(偶数の上線つけられた数)= であるものの個数とする。
この時、次の母関数表示が成立する:
この補題を使うと、(は長さなのでが掛かることに注意して)
全体の母関数がであることが従う。
これとの母関数を掛け合わせることで、-Bailey恒等式の左辺を得ることがわかる。
以下この補題を示すが、両辺が同じ漸化式で定義づけられるという方針で示す。
補題の証明(1)
まず、左辺は次の漸化式で特徴づけられることを言う:
実際を代入すると
である。また、初項はであることからこの漸化式を満たす。
補題の証明(2)
次に、右辺もまた上の漸化式を満たすことを示す。ここで
とおく。は自明である。
さて、で数えられるoverpartitionに対して、
との少なくとも一方が入っていなければ
少なくとも一方が出てくるまで全ての数字からを引き続ける。
その結果得られたものをとおく。
もまた、「上線付けられていない数は以上(未満の数字は全て上線付けられている)」の性質を満たしている。
ここでにがあるかどうか、と
からに至るまでを引いた回数の偶奇、によって
4通りの場合分けを行う。
- にがあるとき
このときは、その項を削除しそして全ての数字から1を引く。それをとする。
(はつ以上はないことに注意せよ)
するとは長さが以下のoverpartitionであり、上線付けられていない数は以上である。
からに: 偶数回が引かれた場合、はに入り(を引いた分偶奇が1個ずれる)
はこれの逆操作を行うことで計算ができる。
すなわち
としての方は計算できる。
またからに: 奇数回が引かれた場合、はに入り
としての方は計算できる。 - にがないとき
このときは仮定からがあるので、そのを削除しそして全ての数字から1を引く。それをとする。
こちらもまた長さのoverpartitionであり、上線付けられていない数は以上である。
からに: 偶数回が引かれた場合、はに入り
すなわち
としての方は計算できる。
またからに: 奇数回が引かれた場合、はに入り
としての方は計算できる。
以上をまとめることで
となり題意の漸化式を満たすことが示された。
以上より、-Bailey恒等式をoverpartitionを用いて組み合わせ論的に示すことができた。(証明終わり)
さて、他にも書きたいことは山ほどあるが
キリがないので
少し掻い摘んで内容を紹介する。
他のoverpartitionの応用例
山ほど論文があるので、超ざっくり。
S.Corteel, J.Lovejoy(2004)は今回一番最初に気になった論文。
これ一つでも様々なことが書かれているが...
- -Chu-Vandermondeの和公式、Ramanujanの和公式が定理4から得られること
- Rogers-Fineの等式の-類似がDurfeeグラフ(ヤング図形)を分割して計算できる(面白そうだけど画力がなかったのw)
- overpartitionのrankの偶奇の個数の差は素因数分解と関連する
- Bailey鎖、テータ級数、partialテータ関数との関連
など、どれ一つとっても記事が一本書けそうなほど面白い内容尽くしであった。
今回メインの内容には-Bailey恒等式との対応を書いたS.Corteel, J.Lovejoy(2009)を選んだ。
なおこの論文の4節では、同様の手順を焼き直すことで-Gauss恒等式についても示す方法が書かれているが本質的ではないので本記事では省略した。
他に面白そうな論文をピックアップする。(歴史的に大事な論文を見落としてるかも)
- S.Corteel, J.Lovejoy, A.J.Yee(2004): 10以上のの母関数を示している (楽しそう)
- K.Bringmann, K.Ono(2010): weak Maass formとの対応が言われた。保形形式との関連
- S.DeSalvo, I.Pak(2015), B.Engel(2017): overpartition関数に関する凸不等式, その後も詳しい結果が数本
- J.Dousse, B.Kim(2017/2018): -二項係数のoverpartition類似(気になる)
- Ramanujanの分割合同式の類似の論文も山ほど(!)
- もちろん-超幾何級数の諸定理への応用なんて数知れず、というかそれがメインストリーム
とまぁ、arXivだけ探しても100本は関連論文は下らない。全く知らなかった。
まとめ
ゆるふわ回とか言いながら
ゆるふわ回のつもりで書いていたのに
こういう概念があるんだのつもりで書いたのに
色々研究されていて今も研究最先端なんだなと思わされた。
結局サーベイが終わんなかったよ。
ぴえん。
気になるトピックのネタは山ほど...もないけど山ほどあるけど
結局サーベイが追いつかないに尽きる :‑(
overpartitionについてはおしまい。
もう疲れたよパトラッシュ
知見が広まったからよしとするか。終わり。