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大学数学基礎解説
文献あり

気になるトピック(1)〜overpartitionとq-Bailey恒等式〜

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新シリーズ爆誕??

直交多項式と超幾何関数の記事を現在連載中とはいえ...(終わるつもりはない)
あれ下調べに時間かかるのよ。笑
それに、それ以外のことについて何も書けなくなる雰囲気も嫌で

このシリーズでは、私が論文などを漁っていたときに気になったトピックを
備忘録がてら書いていくシリーズにしたい。
いわゆる、ゆるふわ回。

前提知識が容赦ない時もあるかもしれない。その時はすまん。気まぐれで。

今回は、overpartition について。

overpartition とは

こういう専門用語は日本語にさえ訳されていない。
機械的に訳すサイトでは、過剰分割とか返ってくるが、、過剰というイメージとは全く違う。

overpartition

$n$を自然数とする。
$n$の overpartition とは、$n$の分割であって、出てくる各数ごとに最初に現れる場所を上線付け(overline)することを許す分割のことである。

overline の "over" なのだ。「上線付き分割」がいいところかしら。

$n=3$のとき

$3$, $\overline{3}$, $2+1$, $\overline{2}+1$, $2+\overline{1}$, $\overline{2}+\overline{1}$, $1+1+1$, $\overline{1}+1+1$ の8個の overpartition がある。

ちなみに、例の如く、小さい$n$に対する overpartition の総数はOEISの A015128 に載っている。
$n=10$のときが$232$個、$n=30$のときが$116624$個、などとなっている。
OEISでは帰納的な公式が書かれている:$\displaystyle a(n) = 2\sum_{m\ge1}(-1)^{m+1}a(n-m^2)$
プログラムを走らせると、$n=50, 100$のときにそれぞれ$10605564$個、$53287424374$個と爆増する。
#そりゃたくさんあるっしょ

基本的な性質は、次のようなものがある。

overpartitionの個数の母関数

以下、$n$の overpartition の個数を$\overline{p}(n)$と書くことにする。この時
\begin{align*} \sum_{n=0}^\infty \overline{p}(n)q^n = \prod_{n=1}^\infty \frac{1+q^n}{1-q^n} = \sum_{n=0}^\infty \frac{(-1; q)_n}{(q; q)_n} q^n = 1+2q+4q^2+8q^3+14q^4+\cdots \end{align*}

このように母関数は比較的美しい形で書くことが可能である。

overpartition のうち、上線付けられている箇所は$n$以下の分割で part が全て異なるもの。
また、上線がないところは通常の分割と思うことができる。
すなわち
\begin{align*} \sum_{n=0}^\infty \overline{p}(n)q^n &= \sum_{n=0}^\infty \sum_{k=0}^n \#\{\text{$k$ の分割で part が全て異なるもの}\}\cdot p(n-k)\cdot q^n \\ &= \left\{\sum_{k=0}^\infty \#\{\text{$k$ の分割で part が全て異なるもの}\}\cdot q^k \right\} \cdot \left\{\sum_{n-k=0}^\infty p(n-k)q^{n-k} \right\} \\ &=\left\{\prod_{n=1}^\infty (1+q^n)\right\} \cdot \left\{\prod_{n=1}^\infty \frac{1}{1-q^n}\right\} =\prod_{n=1}^\infty \frac{1+q^n}{1-q^n} \end{align*}
となり overpartition の個数の母関数を求めることができる。
その次の等式
\begin{align*} \prod_{n=1}^\infty \frac{1+q^n}{1-q^n} = \sum_{n=0}^\infty \frac{(-1; q)_n}{(q; q)_n} q^n \end{align*}
$q$-二項定理そのものである。(証明終わり)

この定理も十分美しいが、より条件を加えたoverpartitionの個数を数えやすくするための主張を述べる。

条件付きoverpartitionの個数の母関数

$\overline{p}_{k,l,m}(n)$として、$n$のoverpartitionのうち、長さが$k$、上線つけられた個数が$l$、rankが$m$のもの全体の個数とする。
このとき($l,m,n$を動かして)長さが$k$のoverpartitionの個数に関する母関数は次のように書き表される。
\begin{align*} \sum_{l,m,n=0}^\infty \overline{p}_{k,l,m}(n)a^lb^mz^kq^n =\frac{(-a; q)_k(zq)^k}{(bq;q)_k} \end{align*}
ここでoverpartitionのrankとは、(最も大きいpartの値-1)-(最も大きいpartよりも小さく上線付けられたpartの個数)として定義するものとする。

なんだなんだこのrankの定義は!
通常のpartitionには、(最も大きいpartの値)-(長さ) で定められるrankが入っているが、
これとは異なる値であることに注意せよ。
(overpartitionは通常のpartitionを含んでいるが、そこのrankとは合致しないという意味)

右辺を二つの積に分けてから、組み合わせ論的全単射を構成する。

まず$\displaystyle \frac{(zq)^k}{(bq;q)_k}$について
この関数は、長さが$k$のpartition$\lambda$全体を生成する。
$q$のべきはpartの和、$z$のべき$k$は長さ(当然)、$b$のべきは(最も大きいpart-1)の値と対応する。
ここに関しては直接は対応が見えにくいが
「長さが$k$のpartition$\lambda$全体」は
・まず全てのpartから1を引くことで、「長さ$k$の非負のpartition全体」と対応
・次に隣接する差を取ることで、「非負整数$k$個の組と対応」することからべき級数表示が得られる。
長さ$k$の非負のpartition $\widetilde{\lambda}$に対し、$\kappa_i:=\widetilde{\lambda}_i-\widetilde{\lambda}_{i+1}$とおくと
$(q\,\,\text{のべき})=(\widetilde{\lambda} \,\, \text{のpartの和})+k=\kappa_1+2\kappa_2+\cdots+k\kappa_k+k$であり、また
$(b\,\,\text{のべき})=\kappa_1+\kappa_2+\cdots+\kappa_k$がわかり
$q^kz^k(1+bq+b^2q^2+\cdots)(1+bq^2+b^2q^4+\cdots)(1+bq^3+b^2q^6+\cdots)\cdots(1+bq^{k-1}+b^2q^{2k-2}+\cdots)$
のような関数を考えるべきである。これは$(zq)^k(bq;q)_k^{-1}$に等しい。

次に$(-a;q)_k=(1+a)(1+aq)(1+aq^2)\cdots(1+aq^{k-1})$について
これはすぐわかるように、各partが$k-1$以下の、成分が非負のstrict partiton$\mu$全体を生成する。
$q$のべきはpartの和、$a$のべきは長さを表す。

最後に$(\lambda,\mu)$のペアが、長さ$k$のoverpartition全体と全単射で対応することを示す。
長さ$k$のpartiton$\lambda$に対し、以下の($\mu$の長さ)回の操作を行う:
「各$\mu_i$に対し、$\lambda$の最初から$\mu_i$項に1を加え、$\mu_i+1$番目に上線付ける」
この対応は可逆であり全単射であることが従う。
ex. $(8+4+4+2+1,\, 4+3+0)\Leftrightarrow (\overline{10}+6+6+\overline{3}+\overline{1})$ (証明終わり)

ある程度overpartitionの母関数に対する基礎づけができたと思われる。
次はFrobenius座標を導入する。

Frobenius座標との関係

分割に付随するヤング図形に関して、Frobenius座標という概念がある。軽く復習する。

$n$の分割$\lambda$に対し、$d=d(\lambda):=\max\{i \mid \lambda_i\ge i\}$ とおく。
これはヤング図形の対角成分の長さに一致する。
次に、各対角成分の枡ごとに、それより右にある数と下に数の両方を調べる。
式で書くと
\begin{align*} p_i(\lambda):=\lambda_i-i, \quad q_i(\lambda):=\lambda'_i-i=\#\{j \mid \lambda_j\ge i\}-i \end{align*}
このとき$\lambda$の Frobenius座標 を
$\lambda = \langle p_1(\lambda), p_2(\lambda), \cdots, p_d(\lambda) \mid q_1(\lambda), q_2(\lambda), \cdots, q_d(\lambda) \rangle$
のように定める。
これが一般的な記法ではあるが、以下では次の記法でも書く。
\begin{align*} \lambda=\begin{pmatrix} p_1(\lambda) & p_2(\lambda) & \cdots & p_d(\lambda) \\ q_1(\lambda) & q_2(\lambda) & \cdots & q_d(\lambda) \end{pmatrix} \end{align*}

逆にFrobenius座標から元の分割を与えることもできる:

分割とFrobenius座標の関係

上のように分割からFrobenius座標を与える方法によって、以下の2つの集合の間に全単射があることがわかる。

  • $n$の分割全体
  • 行列$\begin{pmatrix} a_1 & a_2 & \cdots & a_m \\ b_1 & b_2 & \cdots & b_m \end{pmatrix}$のうち以下の3つの条件を満たすもの全体
     ① $a_1>a_2>\cdots>a_m\ge0$ (長さ$m$$0$を許すstrict partition)
     ② $b_1>b_2>\cdots>b_m\ge0$
     ③ $\sum_{j=1}^m(a_j+b_j)+m=n$

Frobenius座標から分割を作るには、ただ指示通り四角形を並べるだけである。証明終わり。笑

今、overpartitionを考えているので、Frobenius座標の方も少し定義を拡張する必要がある。
実は次のように定義を広げることで、overpartitionもまたFrobenius座標と全単射がつけられる。

overpartition と Frobenius座標

次の2つの集合の間に全単射があることが示される。

  • $n$のoverpartition$\lambda$全体
  • Frobenius座標$\begin{pmatrix} a_1 & a_2 & \cdots & a_m \\ b_1 & b_2 & \cdots & b_m \end{pmatrix}$のうち、$\{b_i\}$にoverpartitionの定義と同じ上線付けを許すもの

また、$\lambda$の上線の個数と、$\{b_i\}$のうち上線が付いていない個数が対応するように出来る。

こちらも全単射的証明を行う。
まず、$\lambda$の全てのpartに上線があるとき、上線を忘れたpartitionのFrobenius座標を対応させる。

さて、以下ではhookの記法を用いる。
hookとは$h(a, b)=a+1+\cdots+1$($b$$1$が並ぶ)の形で書かれる分割であり、ヤング図形は鉤型をしている。
hookを分割のヤング図形のすぐ左上に寄せてその全体がまた分割のヤング図形になる時、結合可能であると呼ぶ。
言い換えるなら、分割$\alpha$にhook$h(a,b)$が結合可能$\Leftrightarrow$ $a>\alpha_1$かつ$b\ge l(\alpha)$である。

以上を踏まえて、拡張されたFrobenius座標からoverpartitionを構成する方法を述べる。

まずFrobenius座標$\nu$に対し、その上の行$\{a_i\}$の値を全て1増やし$\{a_i'\}$とする。
次に、分割$\alpha, \beta$を用意するが、現在は空分割としておく。
そして$i$が大きい順に($m$から$1$まで)$m$回次の操作を行う。

  • $b_i$が上線付けられているとき
    このときは、hook$h(a_i', b_i)$を分割$\alpha$に結合させる
  • $b_i$が上線付けられていないとき
    このときは、$\alpha$は共役を取り、$b_i$を加え、そして共役を戻す。
    また$\beta$には$a_i'$を加える。

このようにして操作を終えたあと、分割$\alpha$$\beta$を繋げた分割($\beta$のpartには全て上線を付ける)が求めるoverpartitionである。

さらに、この操作は可逆であり、逆操作も構成可能である。(証明終わり)

note: overpartitionのFrobenius座標についても、$\{a_i\}$$\{b_i\}$を制限することで色々な母関数が生み出される結果が知られている。詳細はまとめの章に。

$q$-Bailey恒等式

次に示すのは、$q$-Bailey identityと呼ばれる次の等式である。

$q$-Bailey identity

\begin{align*} \sum_{n=0}^\infty b^nq^{n(n+1)/2}\frac{(-a, -q/a; q)_n}{(bq;q)_n(q^2; q^2)_n} =\frac{(-abq, -bq^2/a; q^2)_\infty}{(bq;q)_\infty} \tag{*} \end{align*}

この等式は、$q\to1$の極限の元で、Baileyによる次の式に帰着されることからそう名付けられた。
\begin{align*} {}_2F_1\left[a, 1-a;\, c;\, \frac{1}{2}\right] =\Gamma\begin{bmatrix}\frac{c}{2},\frac{c+1}{2}\qquad \\ \frac{a+c}{2},\frac{c-a+1}{2}\end{bmatrix} \end{align*}
さて以下では$q$-Bailey identity(*)を示すが、いくつかの段階に分けて話す。

Step 1 $q$-Bailey恒等式の右辺はoverpartitionを生成するべき級数である

このStepが記事の内容的に一番本質で核心の気がする。細かい計算は後ろのStepに回そう。

さて右辺のべき級数は、$(-abq, -bq^2/a; q^2)_\infty$$(bq;q)_\infty^{-1}$の積で書けるが
それぞれの意味を考察する。
前者は書き下すと
\begin{align*} (-abq, -bq^2/a; q^2)_\infty =(1+abq)(1+a^{-1}bq^2)(1+abq^3)(1+a^{-1}bq^4)\cdots \end{align*}
のような積である。
これは$a=b=1$の時はstrict partitionの母関数になるため、そこと関係がある。
$b$は全ての$q$べきに1回ずつ掛かるため、partの数
$a$は奇数べきで1回、偶数べきで$-1$回かかるため、(奇数のpartの数)-(偶数のpartの数)
と対応する。
次に後者は
\begin{align*} (bq;q)_\infty^{-1} =(1+bq+b^2q^2+\cdots)(1+bq^2+b^2q^4+\cdots)(1+bq^3+b^2q^6+\cdots)\cdots \end{align*}
であり、これは$b=1$で分割の母関数であった。また$b$は同様に長さを意味する。

以上を考えて、これらの積$(-abq, -bq^2/a; q^2)_\infty(bq;q)_\infty^{-1}$
(定理1の証明を思い出して)全てのoverpartitionを生成する。
$b$は(上線付きと上線付きでない両方の長さの和)=(overpartitonの長さ)
$a$は(奇数の上線付きpartの数)-(偶数の上線付きpartの数)
を表す。

Step2: Durfeeの正方形の一般化

次にDurfeeの正方形を導入する。
これはpartitionに対し、そのヤング図形に(左上詰めで)含まれる最大の正方形である。
またこの正方形の一辺の長さはヤング図形の対角成分の長さと一致する。
Durfeeの正方形はpartitionの理論で多々使われるが、これをoverpartitionにも適用する。

具体的には、overpartition$\lambda$に対し
一般化されたDurfeeの正方形の一辺の長さ$D(\lambda)$を、
全ての上線付きの数と$n$以上の上線付けられていない数とを合わせた個数が$n$以上になる最大の$n$
というように定める。
例えば、わかりやすく極端な例だが
$\lambda=6+5+4+3+2+1$の時は$D(\lambda)=3$であるが、(通常のpartitionと同じ)
$\lambda=\overline{6}+\overline{5}+\overline{4}+\overline{3}+\overline{2}+\overline{1}$の時は$D(\lambda)=6$であることに注意する。

この一般化されたDurfeeの正方形の大きさ$D(\lambda)$に対し、次の定理が成立する。

<定理>
overpartition$\lambda$は、$D(\lambda)=n$を満たすとする。
このとき$\lambda$は次を満たす$\mu_1$$\mu_2$に分けることができる。

  • $\mu_1$: 長さ$n$のoverpartitionで、$n$未満の数は全て上線付けられている
  • $\mu_2$: 長さ$n$以下のpartition

この定理で言う$\mu_1$は、上線付けられた数、及び上線付けられてない数を大きい方から順に、合わせて長さ$n$になるように取る。
また$\mu_2$は、残りの数からなるpartitionの共役として取る。
(例えば$\lambda=5+1+1+1+1$のとき、$D(\lambda)=1$なので$\mu_1=5$だが残りは長さが4である。
この場合共役を取って$\mu_2=4$とすることで長さを1にすることができる。)
また逆に任意$\mu_1, \mu_2$で条件を満たすものに対し$D(\lambda)=n$を満たすoverpartitionが存在する。(全単射:四角形を並べれば良い)

ということで、overpartitionの話から$\mu_1$$\mu_2$の話に切り替えることできる。

$\mu_2$全体の母関数は上と同様に考えて$(bq; q)_n^{-1}$と書き表されるので、次を示せば良い。

補題: $\mu_1$に関する母関数表示

以下$f_n(r,m)$として、$m$の長さ$n$のoverpartitionであって (i) $n$未満の数字は全て上線付けられている (ii) (奇数の上線つけられた数)-(偶数の上線つけられた数)=$r$ であるものの個数とする。
この時、次の母関数表示が成立する:
\begin{align*} \frac{(-a, -q/a; q)_nq^{n(n+1)/2}}{(q^2; q^2)_n}=\sum_{\substack{r\in \mathbb{Z} \\ m\ge 0}}f_n(r,m)a^rq^m \end{align*}

この補題を使うと、($\mu_1$は長さ$n$なので$b^n$が掛かることに注意して)
$\mu_1$全体の母関数が$\displaystyle \frac{(-a, -q/a; q)_nb^nq^{n(n+1)/2}} {(q^2; q^2)_n}$であることが従う。
これと$\mu_2$の母関数$(bq; q)_n^{-1}$を掛け合わせることで、$q$-Bailey恒等式の左辺を得ることがわかる。

以下この補題を示すが、両辺が同じ漸化式で定義づけられるという方針で示す。

補題の証明(1)

まず、左辺は次の漸化式で特徴づけられることを言う:
\begin{align*} F_n(a)=\frac{q^n}{1-q^{2n}} \left\{(a+q^{n-1})F_{n-1}\left(\frac{1}{a}\right) +q^n\left(\frac{1}{a}+q^{n-1}\right)F_{n-1}(a)\right\}, \quad F_0(a)=1 \end{align*}
実際$\displaystyle F_n(a):=\frac{(-a, -q/a; q)_nq^{n(n+1)/2}}{(q^2; q^2)_n}$を代入すると
\begin{align*} RHS &=\frac{q^n}{1-q^{2n}} \left\{(a+q^{n-1})\frac{(-1/a, -aq; q)_{n-1}q^{n(n-1)/2}}{(q^2; q^2)_{n-1}} +q^n\left(\frac{1}{a}+q^{n-1}\right) \frac{(-a, -q/a; q)_{n-1}q^{n(n-1)/2}}{(q^2; q^2)_{n-1}}\right\} \\ &=\frac{q^{n(n+1)/2}}{(1-q^{2n})(q^2; q^2)_{n-1}} \left\{(a+q^{n-1})(-1/a, -aq; q)_{n-1} +a^{-1}q^n\left(1+aq^{n-1}\right)(-a, -q/a; q)_{n-1}\right\} \\ &=\frac{q^{n(n+1)/2}}{(q^2; q^2)_n} \left\{(a+q^{n-1})(-1/a; q)_{n-1}(-aq; q)_{n-1} +a^{-1}q^n\left(1+aq^{n-1}\right)(-a; q)_{n-1}(-q/a; q)_{n-1}\right\} \quad (\text{外の分母をまとめた}) \\ &=\frac{q^{n(n+1)/2}}{(q^2; q^2)_n} \left\{(a+q^{n-1})\frac{1+1/a}{(1+q^{n-1}/a)(1+q^n/a)} (-q/a; q)_n\frac{(-a; q)_n}{1+a} +a^{-1}q^n\left(1+aq^{n-1}\right) \frac{(-a; q)_n}{1+aq^{n-1}}\frac{(-q/a; q)_n}{(1+q^n/a)}\right\} \quad (\text{初項・項数を揃えた}) \\ &=\frac{q^{n(n+1)/2}(-a, -q/a; q)_n}{(q^2; q^2)_n} \left\{(a+q^{n-1})\frac{1+1/a}{(1+q^{n-1}/a)(1+q^n/a)}\frac{1}{1+a} +a^{-1}q^n\frac{1}{(1+q^n/a)}\right\} \\ &=\frac{q^{n(n+1)/2}(-a, -q/a; q)_n}{(q^2; q^2)_n} \left\{\frac{a}{a+q^n}+\frac{q^n}{a+q^n}\right\} \\ &=\frac{q^{n(n+1)/2}(-a, -q/a; q)_n}{(q^2; q^2)_n} =LHS \end{align*}
である。また、初項は$F_0(a)=1\cdot q^0/1=1$であることからこの漸化式を満たす。

補題の証明(2)

次に、右辺もまた上の漸化式を満たすことを示す。ここで
\begin{align*} G_n(a)=\sum_{\substack{r\in \mathbb{Z} \\ m\ge 0}}f_n(r,m)a^rq^m \end{align*}
とおく。$G_0(a)=1$は自明である。

さて、$G_n(a)$で数えられるoverpartition$\lambda$に対して、
$\overline{1}$$n$の少なくとも一方が入っていなければ
少なくとも一方が出てくるまで全ての数字から$1$を引き続ける。
その結果得られたものを$\lambda'$とおく。
$\lambda'$もまた、「上線付けられていない数は$n$以上($\Leftrightarrow$$n$未満の数字は全て上線付けられている)」の性質を満たしている。

ここで$\lambda'$$\overline{1}$があるかどうか、と
$\lambda$から$\lambda'$に至るまで$1$を引いた回数の偶奇、によって
4通りの場合分けを行う。

  • $\lambda'$$\overline{1}$があるとき
    このときは、その項を削除しそして全ての数字から1を引く。それを$\lambda''$とする。
    ($\overline{1}$$2$つ以上はないことに注意せよ)
    すると$\lambda''$は長さが$n-1$以下のoverpartitionであり、上線付けられていない数は$n-1$以上である。
    $\lambda$から$\lambda'$$r$: 偶数回$1$が引かれた場合、$\lambda''$$aG_{n-1}(1/a)$に入り($\overline{1}$を引いた分偶奇が1個ずれる)
    $\lambda$はこれの逆操作を行うことで計算ができる。
    すなわち
    \begin{align*} \sum_{\substack{r\ge0 \\ r:\,\text{偶数}}}aG_{n-1}(1/a)q^{(n-1)(r+1)}\times q^{1+r} =aq^nG_{n-1}(1/a)\sum_{\substack{r\ge2 \\ r:\,\text{偶数}}}q^{nr} =\frac{aq^n}{1-q^{2n}}G_{n-1}(1/a) \end{align*}
    として$\lambda'$の方は計算できる。
    また$\lambda$から$\lambda'$$r$: 奇数回$1$が引かれた場合、$\lambda''$$a^{-1}G_{n-1}(a)$に入り
    \begin{align*} \sum_{\substack{r\ge1 \\ r:\,\text{奇数}}}a^{-1}G_{n-1}(a)q^{(n-1)(r+1)}\times q^{1+r} =\frac{q^{2n}}{a(1-q^{2n})}G_{n-1}(a) \end{align*}
    として$\lambda'$の方は計算できる。
  • $\lambda'$$\overline{1}$がないとき
    このときは仮定から$n$があるので、その$n$を削除しそして全ての数字から1を引く。それを$\lambda''$とする。
    こちらもまた長さ$n-1$のoverpartitionであり、上線付けられていない数は$n-1$以上である。
    $\lambda$から$\lambda'$$r$: 偶数回$1$が引かれた場合、$\lambda''$$G_{n-1}(1/a)$に入り
    すなわち
    \begin{align*} \sum_{\substack{r\ge0 \\ r:\,\text{偶数}}}G_{n-1}(1/a)q^{(n-1)(r+1)}\times q^{n+r} =\frac{q^{2n-1}}{1-q^{2n}}G_{n-1}(1/a) \end{align*}
    として$\lambda'$の方は計算できる。
    また$\lambda$から$\lambda'$$r$: 奇数回$1$が引かれた場合、$\lambda''$$G_{n-1}(a)$に入り
    \begin{align*} \sum_{\substack{r\ge1 \\ r:\,\text{奇数}}}G_{n-1}(a)q^{(n-1)(r+1)}\times q^{n+r} =\frac{q^{3n-1}}{1-q^{2n}}G_{n-1}(a) \end{align*}
    として$\lambda'$の方は計算できる。

以上をまとめることで
\begin{align*} G_n(a) &=\frac{aq^n}{1-q^{2n}}G_{n-1}(1/a)+\frac{q^{2n}}{a(1-q^{2n})}G_{n-1}(a) \frac{q^{2n-1}}{1-q^{2n}}G_{n-1}(1/a)+\frac{q^{3n-1}}{1-q^{2n}}G_{n-1}(a) \\ &=\frac{q^n}{1-q^{2n}} \left\{(a+q^{n-1})G_{n-1}\left(\frac{1}{a}\right) +q^n\left(\frac{1}{a}+q^{n-1}\right)G_{n-1}(a)\right\} \end{align*}
となり題意の漸化式を満たすことが示された。

以上より、$q$-Bailey恒等式をoverpartitionを用いて組み合わせ論的に示すことができた。(証明終わり)

さて、他にも書きたいことは山ほどあるが
キリがないので
少し掻い摘んで内容を紹介する。

他のoverpartitionの応用例

山ほど論文があるので、超ざっくり。

S.Corteel, J.Lovejoy(2004)は今回一番最初に気になった論文。
これ一つでも様々なことが書かれているが...

  • $q$-Chu-Vandermondeの和公式、Ramanujanの${}_1\psi_1$和公式が定理4から得られること
  • Rogers-Fineの等式の$q$-類似がDurfeeグラフ(ヤング図形)を分割して計算できる(面白そうだけど画力がなかったのw)
  • overpartitionのrankの偶奇の個数の差は素因数分解と関連する
  • Bailey鎖、テータ級数、partialテータ関数との関連

など、どれ一つとっても記事が一本書けそうなほど面白い内容尽くしであった。

今回メインの内容には$q$-Bailey恒等式との対応を書いたS.Corteel, J.Lovejoy(2009)を選んだ。
なおこの論文の4節では、同様の手順を焼き直すことで$q$-Gauss恒等式についても示す方法が書かれているが本質的ではないので本記事では省略した。

他に面白そうな論文をピックアップする。(歴史的に大事な論文を見落としてるかも)

  • S.Corteel, J.Lovejoy, A.J.Yee(2004): 10以上の$p_{A, B}(n)$の母関数を示している (楽しそう)
  • K.Bringmann, K.Ono(2010): weak Maass formとの対応が言われた。保形形式との関連
  • S.DeSalvo, I.Pak(2015), B.Engel(2017): overpartition関数に関する凸不等式, その後も詳しい結果が数本
  • J.Dousse, B.Kim(2017/2018): $q$-二項係数のoverpartition類似(気になる)
  • Ramanujanの分割合同式の類似の論文も山ほど(!)
  • もちろん$q$-超幾何級数の諸定理への応用なんて数知れず、というかそれがメインストリーム

とまぁ、arXivだけ探しても100本は関連論文は下らない。全く知らなかった。

まとめ

ゆるふわ回とか言いながら
ゆるふわ回のつもりで書いていたのに
こういう概念があるんだのつもりで書いたのに
色々研究されていて今も研究最先端なんだなと思わされた。

結局サーベイが終わんなかったよ。
ぴえん。
気になるトピックのネタは山ほど...もないけど山ほどあるけど
結局サーベイが追いつかないに尽きる :‑(
overpartitionについてはおしまい。
もう疲れたよパトラッシュ

知見が広まったからよしとするか。終わり。

参考文献

投稿日:514
更新日:514

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整数論を研究中。 本音は組合せ論がやりたい。 最近は直交多項式・超幾何級数にお熱。 だけど幾何と解析は鬼弱い。

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