この記事は 日曜数学 Advent Calendar 2024 の22日目の記事となります。
12/22といえばかの稀代の数学者シュリニヴァーサ・ラマヌジャンの誕生日です。
ラマヌジャンの肖像
ちなみに1222は私のMathlogのユーザーID (https://mathlog.info/users/1222/articles)でもあります。運命的ですね。
というわけでこの記事では筆者が
ラマヌジャン・佐藤級数
について調べていた時に出会った
$$a_n=\sum^n_{k=0}\binom nk\binom{n+k}kb_k$$
という形の数列の変換:ルジャンドル変換と
$$\sum^n_{k=0}\binom nk^2\binom{n+k}k^2=\sum^n_{k=0}\binom nk\binom{n+k}k\sum^k_{j=0}\binom kj^3$$
という等式に関する話題を簡単に紹介していきます。
二項係数やスターリング数による変換公式
\begin{eqnarray}
a_n=\sum^n_{k=0}\binom nkb_k\quad&\iff&\quad b_n=\sum^n_{k=0}(-1)^{n-k}\binom nka_k\\
a_n=\sum^n_{k=0}\l\{n\atop k\r\}b_k\quad&\iff&\quad b_n=\sum^n_{k=0}(-1)^{n-k}\l[n\atop k\r]a_k
\end{eqnarray}
に代表されるように
$$\sum^n_{k=m}c_{n,k}d_{k,m}=\sum^n_{k=m}d_{n,k}c_{k,m}
=\l\{\begin{array}{cl}
1&(n=m)\\
0&(n\neq m)
\end{array}\r.$$
を満たす二重数列の組$c_{n,k},d_{n,k}$を用いた変換公式
$$a_n=\sum^n_{k=0}c_{n,k}b_k
\quad\iff\quad b_n=\sum^n_{k=0}d_{n,k}a_k$$
は数多く知られていますが、その中の一つとしてルジャンドル変換というものがあります。
数列$a_n,b_n$に対し
\begin{align}
a_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk\binom{n+k}kb_k\\\iff
\binom{2n}nb_n&=\sum^n_{k=0}(-1)^{n-k}(\binom{2n}{n+k}-\binom{2n}{n+k+1})a_k
\end{align}
が成り立つ。
以下簡単のため
$$d_{n,k}=\binom{2n}{n+k}-\binom{2n}{n+k+1}$$
とおく。いま
$$\binom nk\binom{n+k}k=\frac{(n+k)!}{(n-k)!(k!)^2}=\binom{n+k}{2k}\binom{2k}k$$
が成り立つことに注意して$\binom{2n}nb_n$を再び$b_n$とおくことで
$$a_n=\sum^n_{k=0}\binom{n+k}{2k}b_k\quad\iff\quad
b_n=\sum^n_{k=0}(-1)^{n-k}d_{n,k}a_k$$
が成り立つことを示せばよい。
特に多項式列$f_n(x)$を
$$f_n(x)=\sum^n_{k=0}\binom{n+k}{2k}x^k$$
によって定めたとき
$$x^n=\sum^n_{k=0}(-1)^{n-k}d_{n,k}f_k(x)$$
が成り立つことを確かめればよい。
そしてそれは$f_n(x)$が
\begin{align}
f_{n+1}(x)+f_{n-1}(x)
&=\sum^{n+1}_{k=0}\binom{n+k}{2k}\l(\frac{n+k+1}{n-k+1}+\frac{n-k}{n+k}\r)x^k\\
&=\sum^{n+1}_{k=0}\binom{n+k}{2k}\l(\frac{2k(2k-1)}{(n-k+1)(n+k)}+2\r)x^k\\
&=(x+2)f_n(x)
\end{align}
を満たすことから
\begin{align}
x^{n+1}
&=(x+2)x^n-2x^n\\
&=\sum^n_{k=0}(-1)^{n-k}d_{n,k}(f_{k+1}(x)+f_{k-1}(x)-2f_k(x))\\
&=\sum^{n+1}_{k=0}(-1)^{n-k+1}(d_{n,k-1}+2d_{n,k}+d_{n,k+1})f_k(x)\\
&=\sum^{n+1}_{k=0}(-1)^{n-k+1}(\binom{2n}{n+k-1}+\binom{2n}{n+k}-\binom{2n}{n+k+1}-\binom{2n}{n+k+2})f_k(x)\\
&=\sum^{n+1}_{k=0}(-1)^{n-k+1}(\binom{2n+1}{n+k}+\binom{2n+1}{n+k+1}-\binom{2n+1}{n+k+1}-\binom{2n+1}{n+k+2})f_k(x)\\
&=\sum^{n+1}_{k=0}(-1)^{n-k+1}(\binom{2n+2}{n+k+1}-\binom{2n+2}{n+k+2})f_k(x)\\
&=\sum^{n+1}_{k=0}(-1)^{n-k+1}d_{n+1,k}f_k(x)
\end{align}
を得る。
Wolfram MathWorld
の該当記事がペラペラであることからも察せられるように、ルジャンドル変換という概念自体が何か興味深い理論を携えているわけではなさそうですが、アペリー数列
$$a_n=\sum^n_{k=0}\binom nk^2\binom{n+k}k^2$$
とルジャンドル変換には少し面白い関わりがあるようです。
以下でそのことについて見てみましょう。
いま整数列$a_n$に対し
$$a_n=\sum^n_{k=0}\binom nk\binom{n+k}kb_k$$
なる数列$b_n$を取ったとき
$$\binom{2n}nb_n=\sum^n_{k=0}(-1)^{n-k}(\binom{2n}{n+k}-\binom{2n}{n+k+1})a_k$$
の右辺は整数の和であるので$\binom{2n}nb_n$も整数となることが言えますが、$b_n$自身が整数になるかどうかは分かりません。
そんな中Schmidt(1993)において次の予想が立てられました。
$r\geq2$に対し
$$\sum^n_{k=0}\binom nk^r\binom{n+k}k^r=\sum^n_{k=0}\binom nk\binom{n+k}kc^{(r)}_k$$
によって定まる数列$c_n^{(r)}$を考えると、これは常に整数となる。
見た目だけだと左辺の$\binom nk^{r-1}\binom{n+k}k^{r-1}$の部分が$c_k^{(r)}$に置き換わっているだけなので何となく成り立ちそうな気もしますが、いざ示そうと思うと全く方針が立たなさそうな感じもします。
とりあえず
$$d_{n,k}=\binom{2n}{n+k}-\binom{2n}{n+k+1}$$
とおいて実際に逆変換の公式から$c_k^{(r)}$を取り出してみると
\begin{align}
\binom{2n}nc_n^{(r)}
&=\sum^n_{k=0}(-1)^{n-k}d_{n,k}\sum^k_{j=0}\binom kj^r\binom{k+j}j^r\\
&=\sum^n_{k=0}(-1)^{n-k}d_{n,k}\sum^k_{j=0}\binom{k+j}{k-j}^r\binom{2j}j^r\\
&=\sum^n_{j=0}\binom{2j}j^r\sum^n_{k=j}(-1)^{n-k}d_{n,k}\binom{k+j}{k-j}^r
\end{align}
と表せることがわかります。
そして実は$r=2,3$においてはこの
$$\sum^n_{k=j}(-1)^{n-k}d_{n,k}\binom{k+j}{k-j}^r$$
の部分は"閉じた形"に表せ、具体的に
Zeilbergerのアルゴリズム
というものを用いてこれを求めると$c^{(r)}_n$は
\begin{align}
c^{(2)}_n&=\sum^n_{j=0}\binom nj^2\binom{2j}n\\
c^{(3)}_n&=\sum^n_{j=0}\binom nj^2\binom{2j}j^2\binom{2j}{n-j}
\end{align}
のように求まることがわかります(ただし$a< b$に対しては$\binom ab=0$とする)。
このように$c_n^{(2)},c_n^{(3)}$が明示的に求まり、したがって$r=2,3$においてSchmidtの予想が成り立つことはSchmidt(1995)およびStrehl(1994)により証明され、そして一般の場合も次のような結果が成り立つことがZudilin(2004)によって示されました。
$s\geq2$に対し
\begin{align}
c^{(2s)}_n=\sum_j\binom{2j}j^{2s-1}\binom nj
&\sum_{k_1}\binom j{n-k_1}\binom{k_1}j\binom{k_1+j}{k_1-j}\\
&\times\sum_{k_2}\binom{2j}{k_1-k_2}\binom{k_2+j}{k_2-j}\cdots\\
&\times\sum_{k_{s-1}}\binom{2j}{k_{s-2}-k_{s-1}}\binom{k_{s-1}+j}{k_{s-1}-j}
\cdot\binom{2j}{k_{s-1}-j}\\
c^{(2s+1)}_n=\sum_j\binom{2j}j^{2s}\binom nj^2
&\sum_{k_1}\binom{2j}{n-k_1}\binom{k_1+j}{k_1-j}^2\\
&\times\sum_{k_2}\binom{2j}{k_1-k_2}\binom{k_2+j}{k_2-j}\cdots\\
&\times\sum_{k_{s-1}}\binom{2j}{k_{s-2}-k_{s-1}}\binom{k_{s-1}+j}{k_{s-1}-j}
\cdot\binom{2j}{k_{s-1}-j}\\
\end{align}
が成り立つ。特にSchmidtの予想は正しい。
$$t_{n,j}^{(r)}=\sum^n_{k=j}(-1)^{n-k}d_{n,k}\binom{k+j}{k-j}^r$$
とおくと、これは超幾何級数を用いて
\begin{align}
t_{n,j}^{(r)}
&=\sum^n_{k=j}(-1)^{n-k}\frac{2k+1}{n+k+1}\binom{2n}{n-k}\binom{k+j}{k-j}^r\\
&=\sum^{n-j}_{k=0}(-1)^k\frac{2n-2k+1}{2n-k+1}\binom{2n}k\binom{n-k+j}{n-k-j}^r\\
&=\binom{n+j}{n-j}^r\cdot{}_{r+2}F_{r+1}\l(\begin{array}{r}
-(2n+1),-\frac12(2n-1),-(n-j),\ldots,-(n-j)\\
-\frac12(2n+1),-(n+j),\ldots,-(n+j)
\end{array};1\r)
\end{align}
と表せる。
またAndrewの変換公式
\begin{align}
&{}_{2s+3}F_{2s+2}\l(\begin{array}{cccccccc}
a,&1+\tfrac12a,&b_1,&c_1,&\ldots,&b_s&c_s&-m\\
&\tfrac12a,&1+a-b_1,&1+a-c_1,&\ldots,&1+a-b_s,&1+a-c_s,&1+a+m
\end{array};1\r)\\
={}&\frac{(1+a)_m(1+a-b_s-c_s)_m}{(1+a-b_s)_m(1+a-c_s)_m}\\
&\times\sum_{l_1}\frac{(1+a-b_1-c_1)_{l_1}(b_2)_{l_1}(c_2)_{l_1}}{(1)_{l_1}(1+a-b_1)_{l_1}(1+a-c_1)_{l_1}}\\
&\times\sum_{l_2}\frac{(1+a-b_2-c_2)_{l_2}(b_3)_{l_1+l_2}(c_3)_{l_1+l_2}}{(1)_{l_2}(1+a-b_2)_{l_1+l_2}(1+a-c_2)_{l_1+l_2}}\cdots\\
&\times\sum_{l_{s-1}}\frac{(1+a-b_{s-1}-c_{s-1})_{l_{s-1}}(b_s)_{l_1+\cdots+l_{s-1}}(c_s)_{l_1+\cdots+l_{s-1}}}{(1)_{l_{s-1}}(1+a-b_{s-1})_{l_1+\cdots+l_{s-1}}(1+a-c_{s-1})_{l_1+\cdots+l_{s-1}}}\\
&\qquad\times\frac{(-m)_{l_1+\cdots+l_{s-1}}}{(b_s+c_s-a-m)_{l_1+\cdots+l_{s-1}}}
\end{align}
を用いると
$a=-(2n+1),b=-n$および
$$c_1=b_2\cdots=b_s=c_s=-m=-(n-j)$$
とし、また$k_i=n-(l_1+l_2+\cdots+l_i)$と変数変換することで
\begin{align}
\binom{2n}n^{-1}\binom{2j}jt_n^{(2s)}
=\binom nj
&\sum_{k_1}\binom j{n-k_1}\binom{k_1}j\binom{k_1+j}{k_1-j}\\
&\times\sum_{k_2}\binom{2j}{k_1-k_2}\binom{k_2+j}{k_2-j}\cdots\\
&\times\sum_{k_{s-1}}\binom{2j}{k_{s-2}-k_{s-1}}\binom{k_{s-1}+j}{k_{s-1}-j}
\cdot\binom{2j}{k_{s-1}-j}
\end{align}
が得られる。
$a=-(2n+1)$および
$$b_1=c_1=\cdots=b_s=c_s=-m=-(n-j)$$
とし、また$k_i=n-(l_1+l_2+\cdots+l_i)$と変数変換することで
\begin{align}
\binom{2n}n^{-1}\binom{2j}jt_n^{(2s+1)}
=\binom nj^2
&\sum_{k_1}\binom{2j}{n-k_1}\binom{k_1+j}{k_1-j}^2\\
&\times\sum_{k_2}\binom{2j}{k_1-k_2}\binom{k_2+j}{k_2-j}\cdots\\
&\times\sum_{k_{s-1}}\binom{2j}{k_{s-2}-k_{s-1}}\binom{k_{s-1}+j}{k_{s-1}-j}
\cdot\binom{2j}{k_{s-1}-j}
\end{align}
が得られる。
そして
$$c_n^{(r)}=\sum^n_{j=0}\binom{2j}j^{r-1}\cdot\binom{2n}n^{-1}\binom{2j}jt_n^{(r)}$$
であったことから主張を得る。
なお$s=1$のときのAndrewの公式は
$${}_5F_4\l(\begin{array}{cccccccc}
a,&1+\tfrac12a,&b,&c,&-m\\
&\tfrac12a,&1+a-b,&1+a-c,&1+a+m
\end{array};1\r)
=\frac{(1+a)_m(1+a-b-c)_m}{(1+a-b)_m(1+a-c)_m}$$
となるので同様の議論により
\begin{align}
c^{(2)}_n&=\sum_j\binom nj^2\binom{2j}n\\
c^{(3)}_n&=\sum_j\binom nj^2\binom{2j}j^2\binom{2j}{n-j}
\end{align}
となることが確かめられます。
以上がルジャンドル変換とアペリー数列に関する雑記でした。
ちなみに$c^{(2)}_n$はFranel数である、つまり
$$c^{(2)}_n=\sum^n_{j=0}\binom nj^3$$
とも表せること(Strehlの恒等式)が知られており、これによって
$$\sum^n_{k=0}\binom nk^2\binom{n+k}k^2
=\sum^n_{k=0}\binom nk\binom{n+k}k\sum^k_{j=0}\binom kj^3$$
という等式が得られます。不思議ですね。