本記事では,参考文献 [1], [2] をもとに,ネットの収束を用いたチコノフの定理の証明を紹介します.
ネットの収積点とコンパクト性
ネットの収積点
を位相空間とし,を上のネットとする.
このとき点がの収積点であるとは,任意のとの任意の近傍に対して,かつを満たすが存在することをいう.
収積点の存在は,収束部分ネットの存在と同値である.
を位相空間とし,を上のネット,とする.
このとき,次の2条件は互いに同値である.
- はの収積点である.
- の部分ネットでに収束するものが存在する.
は
既に示した
.を示すため,との近傍を任意に取る.(2) よりの部分ネットでに収束するものが存在し,次の2性質を満たすが取れる.
- を満たす任意のに対してである.
- を満たす任意のに対してである.
そこでの上界を取りとおけば,かつが成り立つ.
したがって,コンパクト性は次のように特徴づけられる.
ネットの収積点によるコンパクト性の特徴づけ
位相空間について,次の2条件は互いに同値である.
- はコンパクトである.
- 上の任意のネットが収積点をもつ.
チコノフの定理の証明
直積位相空間のコンパクト性を示すには,上のどのネットにも収積点が存在することを確かめればよい.そのため「一部の成分だけに注目すると収積点が存在する」という状況を考えることから始める.
成分の制限
を集合族とし,をの空でない部分集合とする.
- に対して,と書く.
- 写像をで定める.
ここでは,証明を次の3段階に分ける.
- 「収積点が存在する成分」の包含関係によって半順序集合を定義する.
- ツォルンの補題を用いての極大元の存在を示す.
- の極大元を用いて収積点の存在を示す.
半順序集合の定義
「一部の成分だけに注目すると収積点が存在する」という状況を考え,注目した成分と集積点の組全体の集合を考える.
この集合には,「収積点が存在する成分」の包含関係によって次のように前順序が定まる.
前順序集合
位相空間の空でない族に対して,その直積位相空間をとし,を上のネットとする.
このとき,の部分集合を
で定め,上の二項関係を次式で定める.
ツォルンの補題を使いやすくするため,同値関係で割って半順序集合にしておく.
半順序集合
空でない位相空間の空でない族に対して,その直積位相空間をとする.
このとき,次のことが成り立つ.
- 上のネットに対して,上で定義した二項関係は上の前順序である.したがっては上の同値関係であり,商集合は次の二項関係
によって半順序集合となる.(ただし,が代表する同値類をとした.) - の空でない部分集合に対して,次の2条件は同値である.
- はコンパクトである.
- 上の各ネットに対して,を満たすが存在する.
- を任意に取る.
- とが成り立つから,である.
- かつが成り立つとき,かつよりである.またも成り立つから,である.
したがって,は上の前順序である. -
- 1.2.) 上のネットを任意に取る.このとき 1. よりの収積点が存在するから,なるを取ればが成り立つ.
- 2.1.) 上のネットを任意に取る.このときを満たす上のネットを取れば,2. よりを満たすが取れるから,はの収積点となる.
チコノフの定理の証明に向けて
直積位相空間がコンパクトであることを証明するには,上の各ネットに対してを満たすが存在することを示せばいい.
極大元の存在
ツォルンの補題を用いて,半順序集合が極大元を持つことを示す.
は極大元を持つ
位相空間の空でない族に対して,その直積位相空間をとし,を上のネットとする.
また,をの空でない全順序部分集合とする.このときの部分集合を
で定めると,次のことが成り立つ.
- を満たすとに対して,が成り立つ.
- を任意に取り,を
で定めると,任意のに対してかつが成り立つ. - の空でない任意の有限部分集合に対して,を満たすが存在し,が成り立つ.
- である.したがって,はの上界である.
したがってが空集合でなければ,ツォルンの補題よりは極大元をもつ.
- の場合,とよりである.の場合も同様.
- は (1) よりwell-definedである.のとき,の定義よりであり,の定義より各に対してが成り立つ.
- 各に対してを満たすとを満たすを1つずつ取る.このときの最大元をとすればが成り立つ.さらにより,かつが成り立つ.
- との近傍を任意に取る.直積位相の定義より
を満たす空でない有限集合と開集合()が取れる.このときを満たすを考えると,
よりはの開近傍だから,あるに対してかつ
が成り立つ.よって
だからである.
収積点の存在
あとは,の極大元についてであることを示せばよい.
空でない位相空間と上のネットについて,の収積点が存在し,はコンパクトであるとする.
このとき,ある点が存在し,はの収積点となる.(ただし,は直積位相によって位相空間とみなす)
の近傍系を逆包含関係によって有向集合とみなし,集合を直積順序の制限によって有向集合とみなす.このとき部分ネットはに収束するのだったから,のコンパクト性よりの部分ネットであって,ある点に収束するものが取れる.
この補題から,2つのコンパクト空間の直積がコンパクトであることは直ちに従う.
チコノフの定理
空でないコンパクト位相空間の空でない族に対して,直積位相空間はコンパクトである.
上のネットを任意に取ると,因子空間のコンパクト性よりは空でないから,その極大元の代表元を任意に取りであることを示す.
と仮定し,を任意に取る.このときのコンパクト性よりを満たすが取れて,前補題よりの第成分をうまく取り直すことによって,とを満たすようにを取ることができる.しかしこれはを意味するから極大性に矛盾する.
したがってである他ないから,はコンパクトである.
誤りがあればご指摘いただけると幸いです.
ここまでお読みいただきありがとうございました.