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大学数学基礎解説
文献あり

コーシー列を2重数列の収束と捉える

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はじめに

距離空間の点列(xn)nNがコーシー列であることを
limn,md(xn,xm)=0
書くことがあります が,左辺の極限はどういう意味なのでしょうか.ε-N論法を略記した形式的なものと思ってもいいですが,実際にある種の極限として解釈することもできます.
先に 結論 だけ書くと,N×Nを直積順序によって有向集合とみなし,d(xn,xm)をこの有向集合N×Nによって添字づけられたネットと考えればよいです.このとき(xn)nNがコーシー列であることは,ネット(d(xn,xm))(n,m)N×N0に収束することと同値になります.

距離空間におけるネット

ネットの収束

以下, ネットの上極限・下極限 の内容は既知とする.

上極限を使った議論に慣れるため,本記事の証明では敢えて上極限を多用します.
上極限に不慣れな人は,命題1命題4 を定義とみなして読み進めることも可能です.(その場合は,上極限を用いた証明をε-N論法的なやり方で書き直してみることをおすすめします.)

このとき 実数列の場合 と同様に,ネットの収束が次のように定義できる.

距離空間におけるネットの収束

(Λ,)を有向集合とし,(X,d)を距離空間とする.このときX上のネット(xλ)λΛが点xX収束するとは
lim supλΛd(xλ,x)0
が成り立つことをいう.

ε-N論法

(Λ,)を有向集合とし,(X,d)を距離空間とする.このときX上のネット(xλ)λΛと点xXについて,次の2条件は同値である.

  1. (xλ)λΛxに収束する.
  2. ε(0,)に対して「μλを満たす任意のμΛに対してd(xμ,x)<εが成り立つ」という性質を満たすλΛが存在する.

(1)を言い換えると
lim supλΛd(xλ,x)0ε(0,), lim supλΛd(xλ,x)<εε(0,), λΛ, supμλd(xμ,x)<ε
であり,supμλd(xμ,x)<εであれば「μλを満たす任意のμΛに対してd(xμ,x)<εが成り立つ」という性質が成り立つから,(1)(2)が示された.
逆に(2)のとき,各ε(0,)に対して「μλを満たす任意のμΛに対してd(xμ,x)<ε/2が成り立つ」という性質を満たすλΛが取れる.この性質はsupμλd(xμ,x)ε/2<εを意味するから,冒頭の言い換えより(2)(1)も成り立つ.

極限の一意性

(Λ,)を有向集合とし,(X,d)を距離空間とする.このときX上のネット(xλ)λΛが2点x,yXに収束するならば,x=yである.

任意のλΛに対してd(x,y)d(xλ,x)+d(xλ,y)が成り立つから
d(x,y)lim supλΛ(d(xλ,x)+d(xλ,y))lim supλΛd(xλ,x)+lim supλΛd(xλ,y)0.

収束部分ネットも収束

(Λ,Λ),(M,M)を有向集合,(X,d)を距離空間とし,X上のネット(xλ)λΛと点xXを考える.
このとき(xλ)λΛxに収束するならば,(xλ)λΛの任意の部分ネット(xϕ(μ))μMxに収束する.

(d(xϕ(μ),x))μM(d(xλ,x))λΛの部分ネットだから
lim supμMd(xϕ(μ),x)lim supλΛd(xλ,x)0.

直積順序

直積順序

(Λ,Λ),(M,M)を前順序集合とし,直積集合Λ×M上の二項関係
(λ,μ)(λ,μ)  λΛλ かつ μMμ((λ,μ),(λ,μ)Λ×M)
で定める.このとき,次のことが成り立つ.

  1. Λ×M上の前順序である.
  2. (Λ,Λ),(M,M)がともに有向集合であれば,(Λ×M,)も有向集合である.

この前順序を,ΛM直積順序という.

(λ,μ),(λ,μ),(λ,μ)Λ×Mとする.

    • λΛλμMμが成り立つから,(λ,μ)(λ,μ)である.
    • (λ,μ)(λ,μ)(λ,μ)とする.このときλΛλΛλμMμMλが成り立つから,λΛλかつμMμ,つまり(λ,μ)(λ,μ)である.

  1. {λ,λ}の上界λΛ{μμ}の上界μMを取れば,λΛλμMμより(λ,μ)(λ,μ)が,λΛλμMμより(λ,μ)(λ,μ)が成り立つから,(λ,μ){(λ,μ),(λ,μ)}の上界である.

(Λ,Λ),(M,M)を前順序集合とし,Λ×M上の直積順序とする.このとき,次のことを示せ.

  1. (Λ,Λ),(M,M)がともに半順序集合であれば,(Λ×M,)も半順序集合である.
  2. (Λ,Λ),(M,M)がともに全順序集合であっても,(Λ×M,)が全順序集合とは限らない.

(λ,μ),(λ,μ)Λ×Mとする.

  1. 解答例

    (λ,μ)(λ,μ)かつ(λ,μ)(λ,μ)が成り立つとき,λΛλかつλΛλよりλ=λであり,μMμかつμMμよりμ=μだから,(λ,μ)=(λ,μ)が成り立つ.

  2. 解答例

    Nを大小関係によって全順序集合とみなすと,(0,1)(1,0)(1,0)(0,1)も成り立たないから,N×Nは直積順序に関して全順序集合でない.

(Λ,Λ),(Λ,Λ),(M,M),(M,M)を前順序集合とし,写像ϕ:ΛMϕ:ΛMは次の2条件を満たすとする.

  • λΛに対して「νMμを満たす任意のνMに対してλΛϕ(ν)が成り立つ」という性質を満たすμMが存在する.
  • λΛに対して「νMμを満たす任意のνMに対してλΛϕ(ν)が成り立つ」という性質を満たすμMが存在する.

このとき,写像ϕ×ϕ:Λ×Λ(λ,λ)(ϕ(λ),ϕ(λ))M×Mも同様の性質:

  • (λ,λ)Λ×Λに対して「(ν,ν)(μ,μ)を満たす任意の(ν,ν)M×Mに対して(λ,λ)(ϕ×ϕ)(ν,ν)が成り立つ」という性質を満たす(μ,μ)M×Mが存在する.

を満たすことを確かめよ.ただし,Λ×ΛM×Mはそれぞれ直積順序によって前順序集合とみなす.

直積順序の定義より明らか.(仮定と結論を見比べよ.)

コーシーネット

距離空間におけるコーシーネット

(Λ,)を有向集合とし,(X,d)を距離空間とする.このとき,X上のネット(xλ)λΛコーシーネットであるとは,ネット(d(xλ,xμ))(λ,μ)Λ×Λ0に収束すること,つまり
lim sup(λ,μ)Λ×Λd(xλ,xμ)0
が成り立つことをいう.ただし,Λ×Λは直積順序によって有向集合とみなしている.

上の定義がε-N論法的なコーシーネット(コーシー列)の定義と一致するという次の命題が,本記事の主題である.

ε-N論法

(Λ,)を有向集合とし,(X,d)を距離空間とする.このとき,X上のネット(xλ)λΛについて,次の2条件は同値である.

  1. (xλ)λΛはコーシーネットである.
  2. ε(0,)に対して「μλかつνλを満たす任意のμ,νΛに対してd(xμ,xν)<εが成り立つ」という性質を満たすλΛが存在する.
  • (1)(2):詳細

    ε(0,)を任意に取ると,「(μ,ν)(λ1,λ2)を満たす任意の(μ,ν)Λ×Λに対してd(xμ,xν)<εが成り立つ」という性質を満たす(λ1,λ2)Λ×Λが取れる.そこで{λ1,λ2}の上界λΛを取れば,μλかつνλを満たす任意のμ,νΛに対して(μ,ν)(λ,λ)(λ1,λ2)よりd(xμ,xν)<εが成り立つ.

  • (2)(1):詳細

    ε(0,)を任意に取ると,「μλかつνλを満たす任意のμ,νΛに対してd(xμ,xν)<εが成り立つ」という性質を満たすλΛが取れる.この性質は,(λ,λ)が「(μ,ν)(λ,λ)を満たす任意の(μ,ν)Λ×Λに対してd(xμ,xν)<εが成り立つ」という性質を満たすことを意味している.

コーシーネットに対しても,コーシー列と同様に以下のような性質が成り立っている.

収束ネットコーシーネット

(Λ,)を有向集合とし,(X,d)を距離空間とする.このとき,X上のネット(xλ)λΛが点xXに収束するならば,(xλ)λΛはコーシーネットである.

任意のλ,μΛに対してd(xλ,xμ)d(xλ,x)+d(xμ,x)が成り立つから
lim sup(λ,μ)Λ×Λd(xλ,xμ)lim sup(λ,μ)Λ×Λ(d(xλ,x)+d(xμ,x))lim sup(λ,μ)Λ×Λd(xλ,x)+lim sup(λ,μ)Λ×Λd(xμ,x)=lim supλΛd(xλ,x)+lim supμΛd(xμ,x)0.

コーシーネット部分ネットもコーシーネット

(Λ,Λ),(M,M)を有向集合,(X,d)を距離空間とし,X上のネット(xλ)λΛを考える.
このとき(xλ)λΛがコーシーネットであれば,(xλ)λΛの任意の部分ネット(xϕ(μ))μMもコーシーネットである.

問題2 より(d(xϕ(μ),xϕ(μ)))(μ,μ)M×M(d(xλ,xλ))(λ,λ)Λ×Λの部分ネットだから,0に収束する.

コーシーネットが収束部分ネットをもつ収束

(Λ,Λ)を有向集合,(X,d)を距離空間とし,X上のコーシーネット(xλ)λΛを考える.
このとき(xλ)λΛのある部分ネット(xϕ(μ))μMが点xXに収束するならば,(xλ)λΛxに収束する.

問題2 より(d(xλ,xϕ(μ)))(λ,μ)Λ×M(d(xλ,xλ))(λ,λ)Λ×Λの部分ネットだから
lim supλΛd(xλ,x)=lim sup(λ,μ)Λ×Md(xλ,x)lim sup(λ,μ)Λ×M(d(xλ,xϕ(μ))+d(xϕ(μ),x))lim sup(λ,μ)Λ×Md(xλ,xϕ(μ))+lim sup(λ,μ)Λ×Md(xϕ(μ),x)lim sup(λ,λ)Λ×Λd(xλ,xλ)+lim supμMd(xϕ(μ),x)0.

完備距離空間(復習)

距離空間(X,d)(点列)完備であるとは,X上の任意のコーシー列が,Xのある点に収束することをいう.

(Λ,)を有向集合,(X,d)を完備距離空間とし,X上のコーシーネット(xλ)λΛを考える.
このとき,ある点xXが存在して,(xλ)λΛxに収束する.

Λ上の二項演算であって,すべてのλ,λΛに対してλλλかつλλλを満たすものを1つ固定する.さて,(xλ)λΛはコーシーネットだから,各nNに対して「λλnかつλλnを満たす任意のλ,λΛに対してd(xλ,xλ)<2nが成り立つ」という性質を満たすλnΛが取れる.そこで写像ϕ:NΛを帰納的に
ϕ(n):={λ0(n=0),λnϕ(n1)(n1)
で定めれば,(xϕ(n))nNはコーシー列となるから,ある点xXに収束する.

  • (xϕ(n))nNがコーシー列であることの説明:各ε(0,)に対して2N<εを満たすNNを取れば,N以上の任意のm,nNに対してλNϕ(N)ϕ(m)かつλNϕ(N)ϕ(n)よりd(xϕ(m),xϕ(n))<2N<εが成り立つ.

このとき(xλ)λΛxに収束することを示すため,ε(0,)を任意に取る.すると次の2性質を満たすN1,N2Nが取れる:

  • 2N1<ε/2である.
  • N2以上の任意のnNに対してd(xϕ(n),x)<ε/2が成り立つ.
そこでN:=max({N1,N2})とおけば,λϕ(N)を満たす任意のλΛに対して
d(xλ,x)d(xλ,xϕ(N))+d(xϕ(N),x)<2N+ε2<εが成り立つから,(xλ)λΛxに収束する.

連続写像とネット

距離空間における連続写像(復習)

距離空間(X,dX),(Y,dY)と写像f:XYおよび点xXに対して,fxにおいて連続であるとは,各ε(0,)に対して「dX(x,x)<δを満たす任意のxXに対してdY(f(x),f(x))<εが成り立つ」という性質を満たすδ(0,)が存在することをいう.

ネットの収束による連続性の特徴づけ

距離空間(X,dX),(Y,dY)と写像f:XYおよび点xXに対して,次の2条件は同値である.

  1. fxにおいて連続である.
  2. 任意の有向集合(Λ,)xに収束するX上の任意のネット(xλ)λΛに対して,(f(xλ))λΛf(x)に収束する.
  • (1)(2):詳細

    有向集合(Λ,)xに収束するX上のネット(xλ)λΛおよびε(0,)を任意に取る.このときfxにおける連続性より「dX(x,x)<δを満たす任意のxXに対してfY(f(x),f(x))<εが成り立つ」という性質を満たすδ(0,)が取れて,(xλ)λΛxに収束することから「μλを満たす任意のμΛに対してd(xμ,x)<δが成り立つ」という性質を満たすλΛが取れる.このときμλを満たす任意のμΛに対してd(xμ,x)<δよりfY(f(xλ),f(x))<εが成り立つから,(f(xλ))λΛf(x)に収束する.

  • (2)(1):詳細

    ε(0,)を任意に取る.もしfxにおいて連続でなければ,各δ(0,)に対してdX(xδ,x)<δかつdY(f(xδ),f(x))εを満たすxδXを取ることによってX上のネット(xδ)δ(0,)が得られる((0,)は逆大小関係によって有向集合とみなす).このとき
    lim supδ(0,)dX(xδ,x)lim supδ(0,)δ=0
    より(xδ)δ(0,)xに収束するが,一方
    lim supδ(0,)dY(f(xδ),f(x))ε>0
    より(f(xδ))δ(0,)f(x)に収束しないので(2)に矛盾する.したがってfxにおいて連続である.

ネットの収束による一様連続性の特徴づけ

距離空間(X,dX),(Y,dY)と写像f:XYに対して,次の2条件は同値である.

  1. fは一様連続である.
  2. (dX(xλ,xλ))λΛ0に収束する」という性質を満たす任意の有向集合(Λ,)X上の任意のネット(xλ)λΛ,(xλ)λΛに対して,(dY(f(xλ),f(xλ)))λΛ0に収束する.
  • (1)(2):詳細

    有向集合(Λ,)
    lim supλΛdX(xλ,xλ)0
    を満たすX上のネット(xλ)λΛ,(xλ)λΛを任意に取る.写像ωf:[0,][0,]を次式で定めると,fの一様連続性よりωf0において連続である.
    ωf(δ):=sup{dY(f(x),f(x))x,xX, dX(x,x)δ}(δ[0,]).
    また仮定より(dX(xλ,xλ))λΛ0に収束するため,(ωf(dX(xλ,xλ)))λΛωf(0)=0に収束する.すると,任意のλΛに対してdY(f(xλ),f(xλ))ωf(dX(xλ,xλ))が成り立つことから
    lim supλΛdY(f(xλ),f(xλ))lim supλΛωf(dX(xλ,xλ))0.

  • (2)(1):詳細

    ε(0,)を任意に取る.もしfが一様連続でなければ,各δ(0,)に対してdX(xδ,xδ)<δかつdY(f(xδ),f(xδ))εを満たすxδ,xδXを取ることによってX上のネット(xδ)δ(0,),(xδ)δ(0,)が得られる((0,)は逆大小関係によって有向集合とみなす).このとき
    lim supδ(0,)dX(xδ,xδ)lim supδ(0,)δ=0
    より(dX(xδ,xδ))δ(0,)0に収束するが,一方
    lim supδ(0,)dY(f(xδ),f(xδ))ε>0
    より(dY(f(xδ),f(xδ)))δ(0,)0に収束しないから(2)に矛盾する.したがってfは一様連続である.

一様連続写像はコーシーネットをコーシーネットにうつす

(Λ,)を有向集合,(X,dX),(Y,dY)を距離空間とし,f:XYを一様連続写像,(xλ)λΛX上のコーシーネットとする.このとき,(f(xλ))λΛもコーシーネットである.

写像ωf:[0,][0,]を次式で定めると,fの一様連続性よりωf0において連続である.
ωf(δ):=sup{dY(f(x),f(x))x,xX, dX(x,x)δ}(δ[0,]).
また(xλ)λΛがコーシーネットであることから(dX(xλ,xμ))(λ,μ)Λ×Λ0に収束するため,(ωf(dX(xλ,xμ)))(λ,μ)Λ×Λωf(0)=0に収束する.すると,任意の(λ,μ)Λ×Λに対してdY(f(xλ),f(xμ))ωf(dX(xλ,xμ))が成り立つことから
lim sup(λ,μ)Λ×ΛdY(f(xλ),f(xμ))lim sup(λ,μ)Λ×Λωf(dX(xλ,xμ))0.

余談:位相空間におけるネット

ネットの収束

位相空間上のネットに対しても,収束を次のように定義することができる.

位相空間におけるネットの収束

(Λ,)を有向集合,(X,O)を位相空間とする.このときX上のネット(xλ)λΛが点xX収束するとは,xの各近傍Nに対して「μλを満たす任意のμΛに対してxμNが成り立つ」という性質を満たすλΛが存在することをいう.

距離空間上のネットに対しては2通りの方法で収束を定義したが,これらの定義は同値である.

(Λ,)を有向集合とし,(X,d)を距離空間とする.このときX上のネット(xλ)λΛと点xXについて,次の2条件は同値である.

  1. (xλ)λΛxに(定義1の意味で)収束する.
  2. (xλ)λΛxに(定義5の意味で)収束する.ただし,Xdが定める距離位相によって位相空間とみなす.
  • (1)(2):詳細

    xの近傍Nを任意に取る.このときB(x,ε):={yXd(y,x)<ε}Nを満たすε(0,)が取れるから,(1)より「μλを満たす任意のμΛに対してd(xμ,x)<εが成り立つ」という性質を満たすλΛが存在する.このときεの取り方によって,μλを満たす任意のμΛに対してxμB(x,ε)Nが成り立つから,(xλ)λΛxに(2)の意味でも収束する.

  • (2)(1):詳細

    ε(0,)を任意に取る.このときB(x,ε)xの近傍だから,(2)より「μλを満たす任意のμΛに対してxμB(x,ε)が成り立つ」という性質を満たすλΛが取れる.したがって,(xλ)λΛxに(1)の意味でも収束する.

収束部分ネットも収束

(Λ,Λ),(M,M)を有向集合,(X,O)を位相空間とし,X上のネット(xλ)λΛと点xXを考える.
このとき(xλ)λΛxに収束するならば,(xλ)λΛの任意の部分ネット(xϕ(μ))μMxに収束する.

xの近傍Nを任意に取る.このとき(xλ)λΛxに収束することから「λΛλ0を満たす任意のλΛに対してxλNが成り立つ」という性質を満たすλ0Λが取れて,部分ネットの定義から「μMμ0を満たす任意のμMに対してλ0Λϕ(μ)が成り立つ」という性質を満たすμ0Mが取れる.するとμMμ0を満たす任意のμMに対して,λ0Λϕ(μ)よりxϕ(μ)Nが成り立つから,(xϕ(μ))μMxに収束する.

距離空間とは違い,ハウスドルフでない位相空間においては極限の一意性は成り立たない.

コンパクト性

位相空間における様々な概念をネットの収束によって書き直せることが知られているが,ここではコンパクト性について軽く触れるに留める.

コンパクト空間(復習)

位相空間(X,O)コンパクトであるとは,Xの任意の開被覆が有限部分被覆を持つことをいう.

収束部分ネットの存在

(Λ,)を有向集合,(X,O)を位相空間とする.このとき,X上のネット(xλ)λΛと点xXが次の性質:

  • λΛxの各近傍Nに対して,λ0λかつxλ0Nを満たすλ0Λが存在する.
    (つまり,各λΛに対してx{xλλΛ, λλ}が成り立つ.)

を満たすならば,(xλ)λΛの部分ネット(xϕ(μ))μMであってxに収束するものが存在する.

xの近傍系N(x)を逆包含関係によって有向集合とみなすと,M:={(λ,N)Λ×N(x)xλN}は直積順序の制限によって有向集合となる.

  • Mが有向集合となることの説明:詳細

    (λ,N),(λ,N)Mを任意に取ると,まず{λ,λ}の上界λΛが存在する.すると仮定よりλ0λかつxλ0NNを満たすλ0Λが取れるが,このとき(λ0,NN)M{(λ,N),(λ,N)}の上界となっている.

あとは,写像ϕ:M(λ,N)λΛが所望の部分ネット(xϕ(μ))μMを定めることを確かめればよい.

  • 部分ネットであること:詳細

    λΛに対してμ:=(λ,X)とおくと,μνを満たす任意のνMに対して直積順序の定義からλϕ(ν)が成り立つ.

  • xに収束すること:詳細

    NN(x)を任意に取ると,仮定よりxλNを満たすλΛが存在する.このとき(λ,N)Mであり,(λ,N)(λ,N)を満たす任意の(λ,N)Mに対してxϕ(λ,N)=xλNNが成り立つから,(xϕ(μ))μMxに収束する.

ネットの収束によるコンパクト性の特徴づけ

位相空間(X,O)について,次の2条件は同値である.

  1. (X,O)はコンパクトである.
  2. 任意の有向集合(Λ,)X上の任意のネット(xλ)λΛに対して,(xλ)λΛの部分ネット(xϕ(μ))μMと点xXで「(xϕ(μ))μMxに収束する」という性質を満たすものが存在する.
  • (1)(2):詳細

    有向集合(Λ,)X上のネット(xλ)λΛを任意に取る.このとき各λΛに対して開集合Uλ
    Uλ:={xλλΛ, λ⪯̸λ}
    で定めると,(Uλ)λΛXを被覆しない.もし被覆すると仮定すると,(1)よりある有限個の添字λ1,,λnΛによってX=Uλ1Uλnと書けるが,{λ1,,λn}の上界λΛを取ればX=Uλxλとなり矛盾するからである.したがってどのUλにも属さない点xXが存在し,前補題よりxに収束する部分ネット(xϕ(μ))μMも存在する.

  • (2)(1):詳細

    Xの開被覆Uを任意に取り,Uの有限部分集合全体の集合Λを包含関係によって有向集合とみなす.もしXがコンパクトでなければ,各λΛに対してxλXλを満たすxλXを取ることによってX上のネット(xλ)λΛが得られ,さらに(2)よりある部分ネット(xϕ(μ))μMがある点xXに収束する.このときUUxの近傍Nを任意に取ると,次の2性質を満たすμ,μMが取れる.

    • (部分ネットの定義)νμを満たす任意のνMに対して{U}ϕ(ν)が成り立つ.
    • (xϕ(μ))μMxに収束する)νμを満たす任意のνMに対してxϕ(ν)Nが成り立つ.
    そこで{μ,μ}の上界μMを取れば,xϕ(μ)Nであり,さらに(xλ)λΛの取り方から
    xϕ(μ)Xϕ(μ)X{U}=XU
    も成り立つ.つまりXUxの任意の近傍Nと交わるからxXU=XUであるが,Uは任意だったからUXの開被覆であることに矛盾する.したがって,Xはコンパクトである.

コンパクト距離空間は完備

コンパクト距離空間(X,d)は完備である.

Xのコーシー列(xn)nNを任意に取ると,Xのコンパクト性より(xn)nNは収束部分ネットをもつ.このときコーシー列(xn)nN自身も収束するから,(X,d)は完備である.


誤りがあればご指摘いただけると幸いです.
ここまでお読みいただきありがとうございました.

参考文献

投稿日:22
更新日:13日前
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  1. はじめに
  2. 距離空間におけるネット
  3. ネットの収束
  4. 直積順序
  5. コーシーネット
  6. 連続写像とネット
  7. 余談:位相空間におけるネット
  8. ネットの収束
  9. コンパクト性
  10. 参考文献