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大学数学基礎解説
文献あり

ネットの上極限・下極限

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はじめに

実数列,実関数,集合列に対して,その上極限・下極限がそれぞれ次のように定義されます.

実数列の上極限・下極限

実数列(an)nNに対して
lim supnan:=infn0(supknak),lim infnan:=supn0(infknak).

実関数の上極限・下極限

関数f:RRと実数aRに対して
lim supxaf(x):=infε>0(sup0<|xa|εf(x)),lim infxaf(x):=supε>0(inf0<|xa|εf(x)).

集合列の上極限・下極限

集合列(Sn)nNに対して
lim supnSn:=n0(knSk),lim infnSn:=n0(knSk).

本記事では,これらを含むより一般的な上極限・下極限の定義を紹介します.

有向集合とネット

本記事の目標は,(完備束上の)ネットの上極限・下極限を定義し,その特別な場合として数列・関数・集合列の上極限・下極限を解釈することです.
そのために,まずこの節ではネットを定義します.

前順序

反射律・反対称律・推移律の3条件を満たす二項関係は半順序とよばれますが,この定義から反対称律を除いたものを前順序といいます.
(注意:前順序 (preorder) は,全順序 (total order) とは別の概念です.)

前順序集合

集合Λ上の前順序とは,次の2条件を満たすΛ上の二項関係のことをいう.

  • 任意のλΛに対して,λλが成り立つ.(反射律
  • λμかつμνを満たす任意のλ,μ,νΛに対して,λνが成り立つ.(推移律

集合Λとその上の前順序の組(Λ,)前順序集合という.

明らかに半順序は前順序です.

半順序

次の条件を満たす前順序集合(Λ,)を,半順序集合という.

  • λμかつμλを満たす任意のλ,μΛに対して,λ=μが成り立つ.(反対称律

半順序集合には,たとえば次のようなものがある.

  • 自然数全体の集合Nと大小関係の組(N,)
  • 集合Xの冪集合2Xと包含関係の組(2X,)

半順序でない前順序もあります.

距離と基点が定める前順序

距離空間(Λ,d)と1点aΛが与えられたとき,Λ上の前順序が次式で定まる.
λμd(λ,a)d(μ,a).

前順序集合に対しても,半順序集合と同様に上界・下界が定義できます.

上界・下界

(Λ,)を前順序集合,MΛの部分集合とする.

  • M上界とは,元λΛであって,任意のμMに対してμλを満たすもののことをいう.
  • M下界とは,元λΛであって,任意のμMに対してλμを満たすもののことをいう.
上に有界・下に有界

(Λ,)を前順序集合,MΛの部分集合とする.

  • M上に有界であるとは,Mの上界が存在することをいう.
  • M下に有界であるとは,Mの下界が存在することをいう.
  • M有界であるとは,Mが上に有界かつ下に有界であることをいう.

有向集合

任意の有限部分集合が上界をもつような前順序集合のことを有向集合といいます.

有向集合

有向集合とは,空でない前順序集合(Λ,)であって,任意の2元λ,μΛに対して{λ,μ}が上に有界であるもののことをいう.

空でない全順序集合

次の条件を満たす半順序集合(Λ,)全順序集合という.

  • 任意のλ,μΛに対して,λμまたはμλが成り立つ.

全順序集合の空でない有限集合は最大元を持つため,空でない全順序集合は有向集合である.

例:距離と基点が定める前順序で考えた前順序集合(Λ,)は,任意の部分集合がaを上界に持つから,有向集合である.

有向集合でない前順序集合もあります.

反鎖

2点集合Λ={0,1}に次の前順序を考える.
00,0⪯̸1,1⪯̸0,11.
このときΛの上界は存在しないため,(Λ,)は有向集合でない.

ネット

有向集合で添字づけられた族のことをネット(あるいは有向点族)といいます.

ネット

集合X上のネットとは,ある有向集合(Λ,)からXへの写像x:ΛXのことである.
このとき,各λΛに対してxλ:=x(λ)と書き,ネットx自身を(xλ)λΛとも書く.
また,ネット(xλ)λΛの定義域を明示して(Λ,)で添字づけられたネットということもある.

ネットは点列の一般化になっています.

点列

自然数全体の集合Nを,大小関係によって有向集合とみなす.
このとき,Nで添字づけられたネットを点列という.

部分ネット

(Λ,Λ),(M,M)を有向集合,Xを集合とし,(xλ)λΛ,(yμ)μMをそれぞれ(Λ,Λ),(M,M)で添字づけられたX上のネットとする.
このとき(yμ)μM(xλ)λΛ部分ネットであるとは,次の2条件を満たす写像ϕ:MΛが存在することをいう.

  • 任意のλΛに対してあるμMが存在して,μMνを満たす任意のνMに対してλΛϕ(ν)が成り立つ.
  • 任意のμMに対してyμ=xϕ(μ)が成り立つ.

(Λ,Λ),(M,M)を前順序集合とし,写像ϕ:MΛは次の2条件を満たすものとする.

  • μMμを満たす任意のμ,μMに対して,ϕ(μ)Λϕ(μ)が成り立つ.(単調増加性)
  • 任意のλΛに対してあるμMが存在して,λΛϕ(μ)が成り立つ.(共終性)

このとき「任意のλΛに対してあるμMが存在して,μMνを満たす任意のνMに対してλΛϕ(ν)が成り立つ」ことを示せ.

解答例

λΛを任意に取ると,共終性よりλΛϕ(μ)を満たすμMが取れる.そこでμMνを満たすνMを任意に取ると,単調増加性よりλΛϕ(μ)Λϕ(ν)を得る.

点列の部分列は部分ネット

集合X上の点列(xn)nNとその部分列(xϕ(n))nNについて,(xϕ(n))nN(xn)nNの部分ネットである.
ϕの狭義単調増加性より,自動的に共終性も成り立つため)

点列の部分ネットは部分列とは限らない

たとえば写像ϕ:Nn2n+(1)nNは次の2条件

  • 単調増加性:各nNに対して,次式よりϕ(n)ϕ(n+1)が成り立つ:
    ϕ(n+1)ϕ(n)=2(1+(1)n+1)0.
  • 共終性:各nNに対して,次式よりnϕ(n+1)が成り立つ.
    ϕ(n+1)n=n+2+(1)n+10.

を満たすから,点列(xn)nNに対して(xϕ(n))nN(xn)nNの部分ネットとなる.
しかしϕ(0)=ϕ(1)=1よりϕは狭義単調増加ではないので,(xϕ(n))nN(xn)nNの部分列ではない.

ネットの上極限・下極限

ネット(xλ)λΛの終域Xが半順序集合であれば,その値域{xλλΛ}の部分集合に対して上限や下限を考えることができます.
ネットの上極限や下極限を定義するにあたって,上限や下限が常に存在した方が議論が簡単なので,ここでは完備束上のネットを考えることにします.

完備束

完備束とは,半順序集合(X,)であって,Xの任意の部分集合が上限と下限をもつようなもののことをいう.

この記事では次の2つの例を知っていれば十分です.

  • 拡大実数全体の集合R=R{,}は,大小関係で完備束となる.
  • 集合Xの冪集合2Xは,包含関係で完備束となる.(証明

ネットの上限・下限

実数列の場合 と同様ですが,ネットの上限・下限についての性質をいくつか書いておきます.

順序の保存

Λを集合,(X,)を完備束とし,(xλ)λΛ,(yλ)λΛ:ΛXを写像,MΛの部分集合とする.
このとき,任意のμMに対してxμyμが成り立つならば,次式が成り立つ.
supμMxμsupμMyμ,infμMxμinfμMyμ.

任意のμMに対して
xμyμsupμMyμ
が成り立つから,supμMyμ{xμμM}の上界でありsupμMxμsupμMyμを得る.同様に,任意のμMに対して
infμMxμxμyμ
が成り立つから,infμMxμ{yμμM}の下界でありinfμMxμinfμMyμを得る.

(txλ)λΛの上限・下限 (t>0)

Λを集合とし,写像(xλ)λΛ:ΛRを考える.
このとき,Λの部分集合Mと正の実数tに対して次式が成り立つ:
supμM(txμ)=tsupμMxμ,infμM(txμ)=tinfμMxμ.

(xλ)λΛの上限・下限

Λを集合とし,写像(xλ)λΛ:ΛRを考える.
このとき,Λの部分集合Mに対して次式が成り立つ:
supμM(xμ)=infμMxμ,infμM(xμ)=supμMxμ.

(xλ+yλ)λΛの上限・下限(その1)

Λを集合とし,有界な写像(xλ)λΛ,(yλ)λΛ:ΛRを考える.
このとき,Λの部分集合Mに対して次式が成り立つ:
supμM(xμ+yμ)supμMxμ+supμMyμ,infμM(xμ+yμ)infμMxμ+infμMyμ.

任意のμMに対してinfμMxμxμsupμMxμinfμMyμyμsupμMyμより
infμMxμ+infμMyμxμ+yμsupμMxμ+supμMyμ
が成り立つから
infμMxμ+infμMyμinfμM(xμ+yμ),supμM(xμ+yμ)supμMxμ+supμMyμ
を得る.

(xλ+yλ)λΛの上限・下限(その2)

(Λ,)を有向集合とし,有界な写像(xλ)λΛ,(yλ)λΛ:ΛR(Λ,)で添字づけられたR上のネットとみなす.
このとき,さらに(xλ)λΛ,(yλ)λΛ単調増加(つまりλμを満たす任意のλ,μΛに対してxλxμyλyμが成り立つ)ならば,次式が成り立つ:
supλΛ(xλ+yλ)=supλΛxλ+supλΛyλ.
また,(xλ)λΛ,(yλ)λΛ単調減少(つまりλμを満たす任意のλ,μΛに対してxλxμyλyμが成り立つ)ならば,次式が成り立つ:
infλΛ(xλ+yλ)=infλΛxλ+infλΛyλ.

λ,μΛを任意に取る.このとき{λ,μ}の上界νΛを取れば,(xλ)λΛ,(yλ)λΛの単調増加性より
xλ+yμxν+yνsupλΛ(xλ+yλ)
が成り立つから,まずλについて上限を取れば,任意のμΛに対して
supλΛxλ+yμsupλΛ(xλ+yλ)
が成り立ち,次にμについて上限を取れば
supλΛxλ+supλΛyλsupλΛ(xλ+yλ)
を得る.他方の不等式も同様に示せる.

ネットの上極限・下極限

実数列と同様に,ネットの上極限・下極限が次のように定義されます.

ネットの上極限・下極限

(Λ,)を有向集合,(X,)を完備束とし,(xλ)λΛ(Λ,)で添字づけられたX上のネットとする.
このとき,(xλ)λΛ上極限下極限を次式で定める.
lim supλΛxλ:=infλΛ(supμλxμ),lim infλΛxλ:=supλΛ(infμλxμ)

lim suplim infの下には,慣習などにより様々な式が書かれることがある.後述の例も参照せよ.

下極限上極限

(Λ,)を有向集合,(X,)を完備束とし,(xλ)λΛ(Λ,)で添字づけられたX上のネットとする.
このとき,次式が成り立つ:
lim infλΛxλlim supλΛxλ.

λ,μΛを任意に取る.このとき{λ,μ}の上界νΛを取れば
infξλxξxνsupξμxξ
が成り立つから,まずμの任意性より
infξλxξinfμΛ(supξμxξ)=lim supμΛxμ
となり,次にλの任意性より
lim infλΛxλ=supλΛ(infξλxξ)lim supμΛxμ
を得る.

順序の保存

(Λ,)を有向集合,(X,)を完備束とし,(xλ)λΛ,(yλ)λΛ(Λ,)で添字づけられたX上のネットとする.
このとき,任意のλΛに対してxλyλが成り立つならば,次式が成り立つ:
lim supλΛxλlim supλΛyλ,lim infλΛxλlim infλΛyλ.

lim supλΛxλ=infλΛ(supμλxμ)infλΛ(supμλyμ)=lim supλΛyλ,lim infλΛxλ=supλΛ(infμλxμ)supλΛ(infμλyμ)=lim infλΛyλ.

部分ネットの上極限・下極限

(Λ,Λ),(M,M)を有向集合,(X,)を完備束とし,(xλ)λΛ(Λ,)で添字づけられたX上のネットとする.
このとき,(xλ)λΛの部分ネット(xϕ(μ))μMに対して
lim infλΛxλlim infμMxϕ(μ)lim supμMxϕ(μ)lim supλΛxλ
が成り立つ.

λΛを任意に取ると,まず部分ネットの定義から「μνを満たす任意のνMに対してλϕ(ν)が成り立つ」という性質を満たすμMが存在する.この取り方から{xϕ(ν)νμ}{xξξλ}が成り立つので
infμM(supνμxϕ(ν))supνμxϕ(ν)supξλxξ
となる.すると,λΛの任意性より
lim supμMxϕ(μ)infλΛ(supξλxξ)=lim supλΛxλ
を得る.下極限についても同様.

(Λ,)を有向集合,(X,)を完備束をなす全順序集合aXとし,(xλ)λΛ(Λ,)で添字づけられたX上のネットとする.
このとき
lim supλΛxλ=lim infλΛxλ=a
が成り立つならば,aを含む任意の開区間Iに対して「λIλを満たす任意のλΛに対してxλIが成り立つ」という性質を満たすλIΛが存在することを示せ.

解答例

aを含む開区間I=(b,c)を任意に取る.このとき,まず
a=lim supλΛxλ=infλΛ(supμλxμ)<c
より,あるλ1Λが存在してsupμλ1xμ<cが成り立つ.また
a=lim infλΛxλ=supλΛ(infμλxμ)>b
より,あるλ2Λが存在してinfμλ2xμ>bが成り立つ.そこで{λ1,λ2}の上界λIΛを取れば,λIλを満たす任意のλΛに対してb<xλ<cつまりxλIが成り立つ.

(txλ)λΛの上極限・下極限 (t>0)

(Λ,)を有向集合とし,(xλ)λΛ(Λ,)で添字づけられたR上のネットとする.
このとき,正の実数tに対して次式が成り立つ:
lim supλΛ(txλ)=tlim supλΛxλ,lim infλΛ(txλ)=tlim infλΛxλ.

lim supλΛ(txλ)=infλΛ(supμλ(txμ))=infλΛ(tsupμλxμ)=tinfλΛ(supμλxμ)=tlim supλΛxλ,lim infλΛ(txλ)=supλΛ(infμλ(txμ))=supλΛ(tinfμλxμ)=tsupλΛ(infμλxμ)=tlim infλΛxλ.

(xλ)λΛの上極限・下極限

(Λ,)を有向集合とし,(xλ)λΛ(Λ,)で添字づけられたR上のネットとする.
このとき,次式が成り立つ:
lim supλΛ(xλ)=lim infλΛxλ,lim infλΛ(xλ)=lim supλΛxλ.

lim supλΛ(xλ)=infλΛ(supμλ(xμ))=infλΛ(infμλxμ)=supλΛ(infμλxμ)=lim supλΛxλ,lim infλΛ(xλ)=supλΛ(infμλ(xμ))=supλΛ(supμλxμ)=infλΛ(supμλxμ)=lim infλΛxλ.

(xλ+yλ)λΛの上極限・下極限(その1)

(Λ,)を有向集合とし,有界な写像(xλ)λΛ,(yλ)λΛ:ΛR(Λ,)で添字づけられたR上のネットとみなす.
このとき,次式が成り立つ:
lim supλΛ(xλ+yλ)lim supλΛxλ+lim supλΛyλ,lim infλΛ(xλ+yλ)lim infλΛxλ+lim infλΛyλ.

(supμλxμ)λΛ,(supμλyμ)λΛが有界かつ単調減少であることに注意すれば
lim supλΛ(xλ+yλ)=infλΛ(supμλ(xμ+yμ))infλΛ(supμλxμ+supμλyμ)=infλΛ(supμλxμ)+infλΛ(supμλyμ)=lim supλΛxλ+lim supλΛyλ.
下極限についても同様に示せる.

(xλ+yλ)λΛの上極限・下極限(その2)

(Λ,)を有向集合とし,有界な写像(xλ)λΛ,(yλ)λΛ:ΛR(Λ,)で添字づけられたR上のネットとみなす.
このとき,次式が成り立つ:
lim infλΛ(xλ+yλ)lim infλΛxλ+lim supλΛyλlim supλΛ(xλ+yλ)

2つ目の不等号については
lim supλΛyλ=lim supλΛ((xλ+yλ)xλ)lim supλΛ(xλ+yλ)+lim supλΛ(xλ)=lim supλΛ(xλ+yλ)lim infλΛxλ
として,両端辺に実数lim infλΛxλを足せばよい.1つ目の不等号も同様に示せる.

(xλ+yλ)λΛの上極限・下極限(その3)

(Λ,)を有向集合とし,有界な写像(xλ)λΛ,(yλ)λΛ:ΛR(Λ,)で添字づけられたR上のネットとみなす.このとき,
lim infλΛxλ=lim supλΛxλ
であれば,次式が成り立つ:
lim supλΛ(xλ+yλ)=lim supλΛxλ+lim supλΛyλ,lim infλΛ(xλ+yλ)=lim infλΛxλ+lim infλΛyλ.

一般に
lim infλΛxλ+lim supλΛyλlim supλΛ(xλ+yλ)lim supλΛxλ+lim supλΛyλ
が成り立つが,仮定より上の不等号はすべて等号となる.下極限についても同様に示せる.

例1:実数列の上極限・下極限

実数列(an)nNR上のネットとみなして上極限・下極限を考えれば,よく知られた定義式
lim supnan:=infn0(supknak),lim infnan:=supn0(infknak)
が得られます.

例2:関数の上極限・下極限

実数列だけではなく,関数の上極限・下極限を考えることもあります.
まず次の定義を思い出しておきましょう.

集積点

距離空間(Λ,d)Λの部分集合Mおよび点aΛについて,aM集積点であるとは,任意の正実数εに対してあるμMが存在して0<d(μ,a)εが成り立つことをいう.

さて,距離空間(Λ,d)の部分集合M上で定義された関数f:MRMの集積点aΛについて,まずM{a}を前順序
μνd(μ,a)d(ν,a)
によって有向集合とみなします.するとfは(定義域の制限と終域の拡張により)M{a}で添字づけられたR上のネットとみなせるので,その上極限・下極限を考えれば
lim supμaf(μ):=infμM{a}(supνM{a}d(ν,a)d(μ,a)f(ν)),lim infμaf(μ):=supμM{a}(infνM{a}d(ν,a)d(μ,a)f(ν))
となります.

距離空間(Λ,d)と,Λの部分集合MおよびMの集積点aΛについて,先述の通りM{a}上の前順序
μνd(μ,a)d(ν,a)
で定める.このとき,(M{a},)が有向集合になることを示せ.
(注意:例:距離と基点が定める前順序 とは違い,有限部分集合の上界としてaを取ることはできない)

解答例

M{a}の2元μ1,μ2を任意に取ると,ε:=min({d(μ1,a),d(μ2,a)})>0である.するとaMの集積点であることから0<d(μ,a)εを満たすμMが存在し,εの取り方からμμ1かつμμ2が成り立つ.すなわち,μ{μ1,μ2}の上界である.

さらにaが集積点であることから,d(μ,a)=εと置き換えた次の表示も得られます.

この例の状況で,次式が成り立つ.
lim supμaf(μ)=infε>0(supνM0<d(ν,a)εf(ν)),lim infμaf(μ)=supε>0(infνM0<d(ν,a)εf(ν))

上極限の方だけ証明する.正実数εに対して
sε:=supνM0<d(ν,a)εf(ν)
とおき,infμM{a}sd(μ,a)=infε>0sεを示せばよい.まず{sd(μ,a)μM{a}}{sεε>0}より
infμM{a}sd(μ,a)infε>0sε
が成り立つ.また正実数εを任意に取ると,aMの集積点であることから0<d(μ,a)εを満たすμMが取れる.すると
infμM{a}sd(μ,a)sd(μ,a)sε
となるから,εの任意性より
infμM{a}sd(μ,a)infε>0sε
も示された.

上の条件式0<d(ν,a)εは,0<d(ν,a)<εに置き換えても良い.

(Λ,d)を距離空間とし,MΛの部分集合,aΛMの集積点とする.
また,M{a}上の点列(μn)nNaに収束する,つまり
lim supnd(μn,a)0
を満たすものとする.このとき,次のことを示せ.

  1. 任意のμM{a}に対してあるNNが存在して,Nnを満たす任意のnNに対してμμnが成り立つ.
  2. 完備束(X,)と写像f:MXに対して,次の不等式が成り立つ:
    lim infμaf(μ)lim infnf(μn)lim supnf(μn)lim supμaf(μ).
  1. 実数列の極限を上極限で定義する で示した通り,任意のε>0に対してあるNNが存在して,Nnを満たす任意のnNに対してd(μn,a)εが成り立つ.この性質を,任意に取ったμM{a}に対してε:=d(μ,a)とおいて使えばよい.
  2. (1)より(f(μn))nN(f(μ))μM{a}の部分ネットである.

例3:集合列の上極限・下極限

ここでは,集合Xの冪集合2Xを包含関係
STST
によって半順序集合とみなします.このとき,2Xは完備束です.

上限・下限の存在

Xを集合とし,冪集合2Xを包含関係によって半順序集合とみなす.
このとき,2Xの任意の部分集合Sは上限と下限をもち,
sup(S)=S,inf(S)=S
が成り立つ.

下記2点より,sup(S)=Sが成り立つ.

  • SSの上界であること

    SSを任意に取る.このとき,任意のsSに対してsSが成り立つから,SSが成り立つ.よってSSの上界である.

  • SSの上界の最小元であること

    Sの上界T2XxSを任意に取る.このとき,xSを満たすSSが存在するから,STよりxTとなる.よってSTだから,SSの上界の最小元である.

inf(S)=Sについても同様に示せる.

集合Xの部分集合族(Sλ)λΛは,添字集合Λが有向集合であれば2X上のネットなので,上極限と下極限を定義することができます.
特にΛ=Nの場合,これはよく知られた「集合列の上極限・下極限」の定義と一致します.

(Λ,)を有向集合,Xを集合とし,(Sλ)λΛ2X上のネットとする.
このとき,次式が成り立つ.
lim supλΛSλ=λΛ(μλSμ),lim infλΛSλ=λΛ(μλSμ).

前命題より
lim supλΛSλ=infλΛ(supμλSμ)=λΛ(μλSμ),lim infλΛSλ=supλΛ(infμλSμ)=λΛ(μλSμ).

例4:リーマン和

I=[a,b]を有界閉区間とするとき,
a=x0<x1<<xn=b
なる有限集合Δ={x0,x1,,xn}I分割といい,さらにξi[xi1,xi] (i=1,2,,n)を満たす有限列ξ:ξ1,ξ2,,ξnΔ代表点というのでした.Iの分割とその代表点の組(Δ,ξ)全体の集合Λ
(Δ,ξ)(Δ,ξ)ΔΔ
によって有向集合とみなせば,有界関数f:IR(Δ,ξ)Λによるリーマン和
S(f;Δ;ξ):=i=1nf(ξi)(xixi1)
は(fを固定したとき)Λで添字づけられたR上のネットとみなせるので,その上極限・下極限を考えることができます.

この例の状況で,Λが有向集合になることを示せ.

解答例

Λの任意の2元(Δ1,ξ1),(Δ2,ξ2)に対して,次のように定める(Δ,ξ){(Δ1,ξ1),(Δ2,ξ2)}の上界となる.

  • Δ:=Δ1Δ2.
  • ξは(どのように取っても良いが,たとえば)Δの各小区間から左端点を取ったものとする.

この例の状況で,各(Δ,ξ)Λに対して次式が成り立つ.(右辺は代表点ξの取り方によらない)
sup(Δ,ξ)(Δ,ξ)S(f;Δ;ξ)=i=1n(supx[xi1,xi]f(x))(xixi1),inf(Δ,ξ)(Δ,ξ)S(f;Δ;ξ)=i=1n(infx[xi1,xi]f(x))(xixi1).

上限の方だけ示す.右辺が
A:={S(f;Δ;ξ)(Δ,ξ)Λ, (Δ,ξ)(Δ,ξ)}
の上限であることが次の2点により示される.

  • Aの上界であること

    (Δ,ξ)(Δ,ξ)を満たす(Δ,ξ)Λを任意に取り,(Δ,ξ)Δの各小区間[xi1,xi]の分割・代表点とみなしたものを(Δi,ξi)と書くことにする.このとき,リーマン和の簡単な評価S(f,Δ,ξ)(supxIf(x))(ba)から次の不等式を得る:
    S(f;Δ;ξ)=i=1nS(f;Δi;ξi)i=1n(supx[xi1,xi]f(x))(xixi1).

  • Aの上界の最小元であること

    ε>0を任意に取る.このときΔの各小区間[xi1,xi]において
    supx[xi1,xi]f(x)εn(xixi1)<f(ξi)
    を満たすξi[xi1,xi]を1つずつ取ることによってΔの代表点ξを構成でき,この取り方からS(f;Δ;ξ)ε<S(f;Δ,ξ)が成り立つ.

上の命題から,リーマン和の上極限・下極限は次のように表せます.

リーマン和の上極限・下極限

この例の状況で,次式が成り立つ.
lim sup(Δ,ξ)ΛS(f;Δ;ξ)=infΔ : I の分割(i=1n(supx[xi1,xi]f(x))(xixi1))=:abf(x)dx,lim inf(Δ,ξ)ΛS(f;Δ;ξ)=supΔ : I の分割(i=1n(infx[xi1,xi]f(x))(xixi1))=:abf(x)dx
上極限abf(x)dxf上ダルブー積分といい,下極限abf(x)dxf下ダルブー積分という.

有界閉区間[a,b]上の有界関数f:[a,b]Rに対して,その上ダルブー積分abf(x)dxと下ダルブー積分abf(x)dxは,実数としてそれぞれ必ず存在する.

有界閉区間上の有界関数f,g:[a,b]Rと実数rRに対して,次のことを示せ.

  1. [a,b]の分割Δとその代表点ξに対して,次の等式が成り立つ.
    S(f+g;Δ;ξ)=S(f;Δ;ξ)+S(g;Δ;ξ),S(rf;Δ;ξ)=rS(f;Δ;ξ).
  2. 次の不等式が成り立つ.
    ab(f(x)+g(x))dxabf(x)dx+abg(x)dx,ab(f(x)+g(x))dxabf(x)dx+abg(x)dx.
  3. r>0のとき,次の等式が成り立つ.
    abrf(x)dx=rabf(x)dx,abrf(x)dx=rabf(x)dx.
  4. r<0のとき,次の等式が成り立つ.
    abrf(x)dx=rabf(x)dx,abrf(x)dx=rabf(x)dx.
  1. S(f+g;Δ;ξ)=i=1n(f(ξi)+g(ξi))(xixi1)=i=1nf(ξi)(xixi1)+i=1ng(ξi)(xixi1)=S(f;Δ;ξ)+S(g;Δ;ξ),S(rf;Δ;ξ)=i=1nrf(ξi)(xixi1)=ri=1nf(ξi)(xixi1)=rS(f;Δ;ξ).

  2. ab(f(x)+g(x))dx=lim sup(Δ,ξ)ΛS(f+g;Δ;ξ)=lim sup(Δ,ξ)Λ(S(f;Δ;ξ)+S(g;Δ;ξ))lim sup(Δ,ξ)ΛS(f;Δ;ξ)+lim sup(Δ,ξ)ΛS(g;Δ;ξ)=abf(x)dx+abg(x)dx,ab(f(x)+g(x))dx=lim inf(Δ,ξ)ΛS(f+g;Δ;ξ)=lim inf(Δ,ξ)Λ(S(f;Δ;ξ)+S(g;Δ;ξ))lim inf(Δ,ξ)ΛS(f;Δ;ξ)+lim inf(Δ,ξ)ΛS(g;Δ;ξ)=abf(x)dx+abg(x)dx.

  3. abrf(x)dx=lim sup(Δ,ξ)ΛS(rf;Δ;ξ)=lim sup(Δ,ξ)Λ(rS(f;Δ;ξ))=rlim sup(Δ,ξ)ΛS(f;Δ;ξ)=rabf(x)dx,abrf(x)dx=lim inf(Δ,ξ)ΛS(rf;Δ;ξ)=lim inf(Δ,ξ)Λ(rS(f;Δ;ξ))=rlim inf(Δ,ξ)ΛS(f;Δ;ξ)=rabf(x)dx.

  4. abrf(x)dx=lim sup(Δ,ξ)ΛS(rf;Δ;ξ)=lim sup(Δ,ξ)Λ(rS(f;Δ;ξ))=rlim inf(Δ,ξ)ΛS(f;Δ;ξ)=rabf(x)dx,abrf(x)dx=lim inf(Δ,ξ)ΛS(rf;Δ;ξ)=lim inf(Δ,ξ)Λ(rS(f;Δ;ξ))=rlim sup(Δ,ξ)ΛS(f;Δ;ξ)=rabf(x)dx.


誤りがあればご指摘いただけると幸いです.
ここまでお読みいただきありがとうございました.

参考文献

投稿日:2024814
更新日:126
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  1. はじめに
  2. 有向集合とネット
  3. 前順序
  4. 有向集合
  5. ネット
  6. ネットの上極限・下極限
  7. ネットの上限・下限
  8. ネットの上極限・下極限
  9. 例1:実数列の上極限・下極限
  10. 例2:関数の上極限・下極限
  11. 例3:集合列の上極限・下極限
  12. 例4:リーマン和
  13. 参考文献