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大学数学基礎解説
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距離空間の直積と完備化

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距離空間の直積と完備化

まず,距離空間の直積と完備化の関係性を調べる.

距離空間の直積と完備化

(X,dX),(Y,dY)を距離空間とし,それらの直積距離空間を(X×Y,dX×Y),それぞれの完備化を((X,dX),ιX),((Y,dY),ιY)とする.
さらに,(X×Y,dX×Y)の完備化を((X×Y,dX×Y),ιX×Y)とし,(X,dX),(Y,dY)の直積距離空間を(X×Y,dX×Y)とするとき,(X×Y,dX×Y)(X×Y,dX×Y)は等距離同型であることを示せ.
XιXXX×YιX×YprXprYX×Y?X×YprXprYYιYY

ただし,この記事では距離空間(X,dX),(Y,dY)の直積距離空間(X×Y,dX×Y)
dX×Y((x1,y1),(x2,y2)):=dX(x1,x2)+dY(y1,y2)(x1,x2X, y1,y2Y)
で定義する.距離空間の完備化については,たとえば 距離空間の完備化の構成とその本質的一意性 を参照せよ.

また,直積X×Yから各成分への射影prX:X×YX, prY:X×YY
prX(x,y):=x,prY(x,y):=y(xX, yY)
とする.これらは明らかに一様連続である.

写像ιX×ιY:X×YX×Y
(ιX×ιY)(x,y):=(ιX(x),ιY(y))(xX, yY)
で定め,((X×Y,dX×Y),ιX×ιY)(X×Y,dX×Y)の完備化であることを示せばよい.

  1. ιX×ιYの等距離性
    dX×Y((ιX×ιY)(x1,y1),(ιX×ιY)(x2,y2))=dX×Y((ιX(x1),ιY(y1)),(ιX(x2),ιY(y2)))=dX(ιX(x1),ιX(x2))+dY(ιY(y1),ιY(y2))=dX(x1,x2)+dY(y1,y2)=dX×Y((x1,y1),(x2,y2)).
  2. (ιX×ιY)(X×Y)の稠密性
    ClX×Y((ιX×ιY)(X×Y))=ClX×Y(ιX(X)×ιY(Y))=ClX(ιX(X))×ClY(ιY(Y))=X×Y.
  3. (X×Y,dX×Y)の完備性
    {(x¯n,y¯n)}(X×Y,dX×Y)のコーシー列とする.このとき射影prX:X×YXprY:X×YYの一様連続性より,{x¯n},{y¯n}はそれぞれ(X,dX),(Y,dY)のコーシー列となる.すると(X,dX),(Y,dY)の完備性より,あるx¯Xy¯Yが存在してx¯nx¯ in Xかつy¯ny¯ in Yが成り立つから,
    dX×Y((x¯n,y¯n),(x¯,y¯))=dX(x¯n,x¯)+dY(y¯n,y¯)n0
    より(x¯n,y¯n)(x¯,y¯) in X×Yであることが示された.

上記3点より((X×Y,dX×Y),ιX×ιY)(X×Y,dX×Y)の完備化であるから, 完備化の一意性 よりιX×ιY=ιX×ιYιX×Yを満たす等距離同型写像ιX×ιY:X×YX×Yが一意に定まる.

要するに,ιX×ιYιX×ιYは次の図式を可換にするものである.
XιXXX×YιX×YprXprYιX×ιYX×YιX×ιYX×YprXprYYιYY

距離と完備化

一様連続写像は,一様連続性を保ったまま,その定義域を完備化へと拡張できるのだった.(参考:ノルム空間・内積空間の完備化 の命題3(距離空間の完備化の普遍性))
ところで三角不等式から直ちに,距離の一様連続性が得られる.

距離の一様連続性

距離空間(X,dX)について,写像dX:X×XRは一様連続である.
(ただし,X×Xは直積距離dX×Xによって,Rはユークリッド距離によって,それぞれ距離空間とみなしている.)

dXの(最適)一様連続度ωdX:[0,][0,]
ωdX(δ):=sup{|dX(x1,y1)dX(x2,y2)|dX×X((x1,y1),(x2,y2))δ}(δ[0,])
とし,δ[0,]を任意に取る.
このとき,dX×X((x1,y1),(x2,y2))δを満たす任意のx1,y1,x2,y2Xに対して,距離空間の完備化の構成とその本質的一意性 の補題4(距離関数の連続性)より
|dX(x1,y1)dX(x2,y2)|dX(x1,x2)+dX(y1,y2)=dX×X((x1,y1),(x2,y2))δ
が成り立つから,ωdX(δ)δを得る.したがって,はさみうちの原理よりδ+0のときωdX(δ)0となるから,dXは一様連続である.

よって,dX=dXιX×Xを満たす一様連続写像dX:X×XRが一意に定まる.
X×XdXιX×XRX×X!dX
ところでX×XX×Xと等距離同型だから,dXX×XからRへの写像とみなせる.
実はこれはX上の距離dX:X×XRである.

距離の完備化への拡張

距離空間(X,dX)に対して,その完備化を((X,dX),ιX)とし,直積距離空間(X×X,dX×X)の完備化を((X×X,dX×X),ιX×X)とする.
また,dX:X×XRdX=dXιX×Xを満たす一意的な一様連続写像とする.
このとき,dX=dXΦを満たす等距離同型写像Φ:X×XX×Xが存在する.

問題1と同様に,ιX×ιX:X×XX×X
(ιX×ιX)(x,y):=(ιX(x),ιX(y))(x,yX)
で定め,ιX×ιX:X×XX×XιX×ιX=ιX×ιXιX×Xを満たす一意的な等距離同型写像とする.
X×XdXX×XιX×ιXιX×XdXRX×XιX×ιXdX
このとき,ιXの等距離性とιX×ιXの取り方より
dX=dX(ιX×ιX)=dXιX×ιXιX×X
が成り立つから,dXの定義よりdX=dXιX×ιXを得る.

上の命題で,Φの一意性が成り立つとは限らない.実際,等距離同型写像f:XXに対して
(f×f)(x¯,y¯):=(f(x¯),f(y¯))(x¯,y¯X)
で定める写像f×f:X×XX×Xも等距離同型だからdX(f×f)=dXが成り立ち,したがってdX=dXΦを満たす等距離同型写像Φ:X×XX×Xに対して
dX=dX(f×f)Φ
となる.もしfを恒等写像以外で取ることができれば(f×f)ΦΦだから,Φの一意性は成り立たない.


ボツ供養

(X,dX),(Y,dY),(Z,dZ)を距離空間,f:XYg:YZを一様連続写像とし,合成写像gf:XZは等距離であると仮定する.このとき,次のことを示せ.

  1. fが等距離かつf(X)Yの稠密部分集合であれば,gは等距離である.
  2. Yが完備かつ(gf)(X)Zの稠密部分集合であれば,gは全射である.
  1. 解答例

    y,yYを任意に取る.このときf(X)の稠密性から
    f(xn)y,f(xn)yin Y
    を満たすXの点列{xn},{xn}が取れる.fgfの等距離性より
    dY(f(xn),f(xn))=dX(xn,xn)=dZ(g(f(xn)),g(f(xn)))
    が成り立つから,nとすればgと距離の連続性からdY(y,y)=dZ(g(y),g(y))を得る.

  2. 解答例

    zZを任意に取る.このとき(gf)(X)の稠密性から
    (gf)(xn)zin Z
    を満たすXの点列{xn}が取れる.gfの等距離性から{xn}Xのコーシー列であり,fの一様連続性から{f(xn)}Yのコーシー列となるため,Yの完備性より
    f(xn)yin Y
    を満たすyYが存在する.するとgの連続性より
    (gf)(xn)g(y)in Z
    となり,極限の一意性からz=g(y)を得る.


追記:距離空間の部分空間と完備化

(2023/09/17:新しく記事を作る程の内容でもないので,この記事に追記しました)

距離空間Xの部分空間Aに対して,X,Aの完備化をそれぞれX,Aとするとき,一般にはAXの部分空間であるとは限らない.しかし,Xの部分空間として扱えた方がやはり便利なため,ここではAの完備化をXの部分空間として構成する方法を紹介する.

距離空間の部分空間と完備化

距離空間(X,dX)の完備化を((X,dX),ιX)とし,(X,dX)の距離部分空間(A,dA)に対して,Xの部分集合A^と写像jA:AA^を次のように定める.
jA:AaιX(a)ClX(ιX(A))=:A^.
このとき,(X,dX)の距離部分空間(A^,dA^)jAの組((A^,dA^),jA)(A,dA)の完備化であることを示せ.
A包含jAXιXA^包含X

埋め込みιXによってXXの部分集合ιX(X)と同一視しているため,AιX(A)と同一視される.Xの部分集合であってιX(A)を稠密部分集合として含むものは閉包ClX(ιX(A))に他ならないから,Aの完備化としてClX(ιX(A))を選ぶのは自然であろう.

jAの well-defined 性

任意のaAに対して
ιX(a)ιX(A)ClX(ιX(A))=A^
が成り立つから,jAAからA^への写像として定義できている.

  1. (A^,dA^)の完備性
    (A^,dA^)は完備距離空間(X,dX)の閉部分空間だから,それ自身も完備である.
  2. jAの等距離性
    a,bAを任意に取る.このとき
    dA^(jA(a),jA(b))=dA^(ιX(a),ιX(b))=dX(ιX(a),ιX(b))=dX(a,b)=dA(a,b)
    だから,jAは等距離である.
  3. jA(A)の稠密性
    ClA^(jA(A))=ClA^(ιX(A))=ClX(ιX(A))A^=A^A^=A^
    だから,jA(A)A^の稠密部分集合である.

上記3点より,((A^,dA^),jA)(A,dA)の完備化である.

上の証明には,次の性質を用いた.

  1. 完備距離空間(Y,dY)の閉集合Bについて,(Y,dY)の距離部分空間(B,dB)は完備である.
  2. 位相空間(Z,OZ)の位相部分空間(C,OC)Cの部分集合Dについて,ClC(D)=ClZ(D)Cが成り立つ.ただし,D(Z,OZ),(C,OC)における閉包をそれぞれClZ(D),ClC(D)とした.
  1. 解答例

    Bのコーシー列{bn}を任意に取る.このときdBの定義から{bn}Yのコーシー列となるため,bny in Yを満たすyYが存在する.いまBは閉集合だから,Bの収束列{bn}の極限yBに属していて
    dB(bn,y)=dY(bn,y)n0
    よりbny in Bであることがわかった.よってBも完備である.

  2. 解答例

    ClZ(D)Zの閉集合だから,OCの定義よりClZ(D)CCの閉集合である.また
    D=DDClZ(D)C
    でもあるから,ClC(D)ClZ(D)Cがわかった.一方ClC(D)Cの閉集合だから,Zのある閉集合Fが存在してClC(D)=FCと表せる.すると
    DClC(D)=FCF
    よりDFだからClZ(D)Fでもあり,
    ClC(D)=FCClZ(D)C
    を得る.よってClC(D)=ClZ(D)Cが示された.

参考文献

投稿日:2023913
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  2. 距離と完備化
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