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現代数学解説
文献あり

ラマヌジャン総和法1:ラマヌジャン定数

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はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続きラマヌジャンの総和法について勉強していきます。

オイラー・マクローリンの和公式

 まずラマヌジャン総和法の発想の大元であるオイラー・マクローリンの和公式について解説しておきます。

ベルヌーイ多項式

textet1=n=0Bn(x)n!tn
によって定まる多項式Bn(x)のことをベルヌーイ多項式と言う。

 ベルヌーイ多項式は
tet1=n=0Bnn!tn
によって定まるベルヌーイ数Bnを用いて
Bn(x)=k=0n(nk)Bnkxk
と表せる。

n=0Bn(x)n!tn=tet1ext=(n=0Bnn!tn)(n=0xnn!tn)=n=0(k=0n(nk)Bnkxk)tnn!
とわかる。

ddxBn(x)n!=Bn1(x)(n1)!

ddxn=0Bn(x)n!xn=t(xext)et1=n=1Bn1(x)(n1)!xn
とわかる。

 n1においてBn(0)=Bn(1)=Bnが成り立つ。

tet1=tetet1t=n=0Bnn!tn
に注意するとわかる。

 3以上の奇数nに対してBn=0が成り立つ。

F(t)=tet1+t2=1+n=2Bnn!tn
とおくと
F(t)=t2et+1et1
よりF(t)=F(t)が成り立つので
F(t)=F(t)+F(t)2=n=0B2n(2n)!tn
と奇数項は0となることがわかる。

オイラー・マクローリンの和公式

 fm階微分可能な関数とすると
k=1nf(k)=0nf(x)dx+f(n)f(0)2+k=2m(1)kBkk!(f(k1)(n)f(k1)(0))+(1)m+10nBm(xx)m!f(m)(x)dx
が成り立つ。特にm2m+1とすると
k=1nf(k)=0nf(x)dx+f(n)f(0)2+k=1mB2k(2k)!(f(2k1)(n)f(2k1)(0))+0nB2m+1(xx)(2m+1)!f(2m+1)(x)dx
と表せる。

 以下xの小数部分を{x}=xxと表す。

 m=1の場合はB0(x)=1および
B1(0)=12,B1(1)=12
に注意すると
0nf(n)dx=0nB0({x})f(n)dx=k=0n1[B1(x)f(m1)(x+k)]010nB1({x})f(m)(x)dx=12k=0n1(f(k+1)+f(k))0nB1({x})f(m)(x)dx=k=1nf(k)f(n)f(0)20nB1({x})f(m)(x)dx
より
k=1nf(k)=0nf(n)dx+f(n)f(0)2+0nB1({x})f(m)(x)dx
とわかる。
 またm2において
0nBm1({x})(m1)!f(m1)(x)dx=k=0n1[Bm(x)m!f(m1)(x+k)]010nBm({x})m!f(m)(x)dx=Bmm!k=0n1(f(m)(k+1)f(m)(k))0nBm({x})m!f(m)(x)dx=Bmm!(f(m)(n)f(m)(0))0nBm({x})m!f(m)(x)dx
に注意すると数学的帰納法によりわかる。

k=a+1bf(k)=abf(x)dx+f(b)f(a)2+k=1mB2k(2k)!(f(2k1)(b)f(2k1)(a))+abB2m+1(xx)(2m+1)!f(2m+1)(x)dx

 なお
k=a+1bf(k)f(b)f(a)2=k=abf(k)f(b)+f(a)2=k=ab1f(k)+f(b)f(a)2=k=a+1b1f(k)+f(b)+f(a)2
のように変形できることにも注意しましょう。

ラマヌジャン定数

 いまmにおいて
0nBm({x})m!f(m)(x)dx0
となると仮定すると
k=1nf(k)=C+0nf(x)dx+f(n)2+k=1B2k(2k)!f(2k1)(n)
ただし
C=f(0)2k=1B2k(2k)!f(2k1)(0)=:n1Rf(n)
が成り立ちます。このCのことをラマヌジャンは「級数f(n)の定数(constant)」と呼んでおり、これがいわゆるラマヌジャンの総和法となります。

 なぜ唐突にこのような(わけのわからない)定数を考えるのか、ということについてはよくわかりません。ラマヌジャンの考えたことですから。しかし下で考察するようにこの定数は適当に変形していくことによって比較的綺麗な定義を与えることもできます。

 例えば非負整数kに対してf(x)=xkとおくと
f(j)(0)={0jkk!j=k
より
n1Rnk=(1)kBk+1k+1=ζ(k)
が成り立ちます。あの定義からこのような結果が出てくるのは中々非自明で興味深いですね。
 今回の記事ではまずこの定数の定義とその性質について解説していこうと思います。

Hardyによる定義

 まず上の仮定
0nBm({x})m!f(m)(x)dx0(m)
をもう少し扱いやすくするため次のような式を考えます。

ラマヌジャン定数

 あるMより先の任意のmに対し
0B2m+1({x})f(2m+1)(x)dx
が収束するときmMにおいて
C0(f)=f(0)2k=1mB2k(2k)!f(2k1)(0)+0B2m+1({x})(2m+1)!f(2m+1)(x)dx
mに依らない定数となる。これをfラマヌジャン定数またはオイラー・マクローリン定数と言う。

 ただ今後f(0)が定義できないような関数もしばしば考えるので以降では主に次によって定まるラマヌジャン和について考察していきます。

ラマヌジャン総和法

 あるMより先の任意のmに対し
1B2m+1({x})f(2m+1)(x)dx
が収束するときmMにおいて
C1(f)=f(1)2k=1mB2k(2k)!f(2k1)(1)+1B2m+1({x})(2m+1)!f(2m+1)(x)dx
mに依らない定数となる。以降ではこのラマヌジャン定数を級数f(n)ラマヌジャン和と言い
C1(f)=n1Rf(n)
と表す。

 このときオイラー・マクローリンの和公式から
k=1nf(k)=C0+0nf(x)dx+f(n)2+k=1mB2k(2k)!f(2k1)(n)nB2m+1({x})(2m+1)!f(2m+1)(x)dx=C1+1nf(x)dx+f(n)2+k=1mB2k(2k)!f(2k1)(n)nB2m+1({x})(2m+1)!f(2m+1)(x)dx
が成り立つことに注意しましょう。
 またこのことから上で定めた二つの定数C0,C1の間には以下の関係が成り立ちます。

C1(f)=C0(f)+01f(x)dx

簡単な性質

推移性

n1Rf(n)=n1Rf(n+1)+f(1)12f(x)dx

 ラマヌジャン和の定義から
n1Rf(n)n1Rf(n+1)=f(2)f(1)2+k=1mB2k(2k)!(f(2k1)(2)f(2k1)(1))+12B2m+1({x})(2m+1)!f(2m+1)(x)dx
が成り立つのでオイラー・マクローリンの和公式より
n1Rf(n)n1Rf(n+1)=k=11f(k)12f(x)dx=f(1)12f(x)dx
を得る。

極限表示

1B2m+1({x})f(2m+1)(x)dx
が収束するとき
n1Rf(n)=limn(k=1nf(k)1nf(x)dxf(n)2k=1mB2k(2k)!f(2k1)(n))
が成り立つ。

 fのラマヌジャン和をCとおくと
k=1nf(k)=C+1nf(x)dx+f(n)2+k=1mB2k(2k)!f(2k1)(n)nB2m+1({x})(2m+1)!f(2m+1)(x)dx
が成り立っていたので広義積分の収束性から
limnnB2m+1({x})(2m+1)!f(2m+1)(x)dx=0
となることに注意するとわかる。

命題7

 n=1f(n),1f(x)dxがそれぞれ収束するとき
n1Rf(n)=n=1f(n)1f(x)dx
が成り立つ。

 オイラー・マクローリンの和公式から
k=1nf(k)1nf(x)dx=f(n)+f(1)2+1nB1({x})f(x)dx
が成り立っていたので級数・積分の収束性から
limxf(x)=0
が成り立つことに注意すると
1B1({x})f(x)dx
は収束することがわかる。したがって上の命題から主張を得る。

計算例

 Re(s)>1においてf(x)=1/xsとおくと
n1R1ns=n=11ns1dxxs=ζ(s)1s1
と求まる。またs=1のときは
n1R1n=limn(k=1n1k1ndxx)=limn(k=1n1klogn)=γ
と求まる(ただしγはオイラー定数とした)。

 非負整数kに対しf(x)=xkとおくとC0(f)=ζ(k)であったことから
n1Rnk=ζ(k)+01xkdx=ζ(k)+1k+1
と求まる。また
n1R(n1)k=n1Rnk12(x1)kdx=ζ(k)
が成り立つ。

 Re(s)>1においてf(x)=logx/xsとおくと
n1Rlognns=n=1lognns1logxxsdx=dds(n=11ns1dxxs)=ζ(s)1(s1)2
と求まる。

 f(x)=logxのときはスターリングの公式
limnn!n(en)n=2π
に注意すると
n1Rlogn=limn(k=1nlogk1nlogx dx12logn)=limn(log(n!)[x(logx1)]1n12logn)=limn(log(n!n(en)n)1)=12log2π1=ζ(0)1
と求まる(最後の等号については この記事 の定理10などを参照されたい)。
 同様にグレイシャー・キンケリン定数を経由することで
n1Rnlogn=ζ(1)14
なども示せる。

ラマヌジャンによる記述

 ちなみにラマヌジャンのノートブックには次のような記述があります。

Notebook 2より Notebook 2より

 これによるとラマヌジャンは形式的に
ϕ(x)=f(1)+f(2)+f(3)++f(x)
と表される関数、つまり関数方程式
ϕ(x)ϕ(x1)=f(x)(ϕ(0)=0)
の解ϕ(x)として
ϕ(x)=Ca(f)+axf(t)dtn=1Bnn!f(n1)(x)
というものを考え、この表示における定数項Ca(f)のことを級数f(n)の定数と呼んでいました。
 ここで上の手法に則るとこの定数は
Ca(f)=n1Rf(n)+1af(x)dx
のように表せますが、ラマヌジャンはこのaの取り方については特に言及していません。そして面白いことにこのaの取り方によっては
C(f)=n1Rf(n)+1f(x)dx=n=1f(n)
と正規性が現れます。ラマヌジャンは別のページにて1=12,n=112や「収束級数n=1f(n)に対し対応する定数はその級数の値となる」といった記述を残していますが、それはこのようにfによって恣意的にaを取り替えることで正当化することができます。

参考文献

[1]
Bernard Candelpergher, Ramanujan Summation of Divergent Series, Springer, 2017
[2]
B. C. Berndt, Ramanujan's Notebooks Part I, Springer, 1986
投稿日:202426
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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