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大学数学基礎解説
文献あり

符号についての覚書

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$$\newcommand{id}[0]{\mathrm{id}} \newcommand{supp}[1]{\mathrm{supp}(#1)} $$

対称群

$n \in \mathbb{Z}_{\ge 2}$とする.$[n] := \{1,\ldots,n\}$とおく.全単射$\sigma \colon [n] \to [n]$全体のなす集合を$S_{n}$とおく.
$\sigma,\tau \in S_{n}$に対して,$\sigma\tau \in S_{n}$
$$\sigma\tau(i) = \tau(\sigma(i))$$
で定める.このとき$(\sigma,\tau) \mapsto \sigma\tau$を積として$S_{n}$は群となる.これを$n$次対称群という.

$\sigma \in S_{n}$とする.部分群$\langle \sigma \rangle$による$[n]$への作用に関する$[n]$の軌道分解を

$$[n] = X_{1} \sqcup \cdots \sqcup X_{m}$$

とする.このとき,軌道の長さ$\vert X_{1} \vert,\ldots,\vert X_{m}\vert$を大きくない順に並べてできる整数列$(a_{1},\ldots,a_{m}) \in \mathbb{Z}^{m}$$\sigma$という.必要なら添字を付け替えることで$\vert X_{i}\vert = a_{i}$としてよい.各$i \in [m]$に対して
$$X_{i} = \{x_{i,1},\ldots,x_{i,a_{i}}\},\ x_{i,1} \xmapsto{\sigma} x_{i,2} \xmapsto{\sigma} \cdots \xmapsto{\sigma} x_{i,a_{i}} \xmapsto{\sigma} x_{i,1}$$
とおいたとき,

$$ \sigma = (x_{1,1} \cdots x_{1,a_{1}}) \cdots (x_{m,1} \cdots x_{m,a_{m}}) $$
と書いて,これを置換$\sigma$巡換分解という.

型が$(1,\ldots,1,\ell)$であるような置換$\sigma \in S_{n}$巡換巡回置換などといい,$\ell$をその長さという.長さが$2$の巡換をとくに互換という.

符号

符号の定義

$\Delta_{} = \{(i,j) \in [n] \times [n]\ |\ i < j\}$とおく.

任意の$\sigma \in S_{n}$に対して
$$ \Delta = \{(\sigma(i),\sigma(j))\ |\ (i,j) \in \Delta,\ \sigma(i)<\sigma(j)\} \sqcup \{(\sigma(j),\sigma(i))\ |\ (i,j) \in \Delta,\ \sigma(i)>\sigma(j)\} $$
が成り立つ.

$\sigma \in S_{n}$とする.
$\Delta \supset \mathrm{RHS}$は明らかである.
$(k,\ell) \in \Delta$とする.$\sigma \colon [n] \to [n]$は全単射なので$i,j \in [n]$であって$(k,\ell) = (\sigma(i),\sigma(j))$となるものが存在する.$k < \ell$より$i \neq j$であるから$(k,\ell) \in \mathrm{RHS}$が成り立つ.

したがって$\sigma \in S_{n}$に対して

$$\prod_{(i,j) \in \Delta}\frac{\sigma(i)-\sigma(j)}{i-j} \in \{\pm 1\} $$
が成り立つ.

写像$\mathrm{sgn} \colon S_{n} \to \{\pm 1\}$

$$ \mathrm{sgn}(\sigma) = \prod_{(i,j) \in \Delta}\frac{\sigma(i)-\sigma(j)}{i-j} $$
で定める.$\mathrm{sgn}(\sigma)$$\sigma$符号という.$\mathrm{sgn}(\sigma) = 1$のとき$\sigma$偶置換といい,$\mathrm{sgn}(\sigma) = -1$のとき$\sigma$奇置換という.

定義より直ちに次がわかる:

任意の$\sigma \in S_{n}$に対して
$$ \mathrm{sgn}(\sigma) = (-1)^{\#\{(i,j) \in \Delta\ |\ \sigma(i)>\sigma(j)\}} $$
が成り立つ.

$\mathrm{sgn}$が準同型であること

任意の$\sigma,\tau \in S_{n}$に対して
$$ \mathrm{sgn}(\tau) = \prod_{(i,j) \in \Delta}\frac{\tau(\sigma(i)) - \tau(\sigma(j))}{\sigma(i) - \sigma(j)} $$
が成り立つ.

$\sigma,\tau \in S_{n}$とする.
このとき,補題1より
\begin{align} \prod_{(i,j) \in \Delta}\frac{\tau(\sigma(i)) - \tau(\sigma(j))}{\sigma(i) - \sigma(j)} &= \prod_{\substack{(i,j) \in \Delta \\ \sigma(i)<\sigma(j)}}\frac{\tau(\sigma(i)) - \tau(\sigma(j))}{\sigma(i) - \sigma(j)} \times \prod_{\substack{(i,j) \in \Delta \\ \sigma(i)>\sigma(j)}}\frac{\tau(\sigma(j)) - \tau(\sigma(i))}{\sigma(j) - \sigma(i)}\\ &= \prod_{(k,\ell) \in \Delta}\frac{\tau(k) - \tau(\ell)}{k-\ell}\\ &= \mathrm{sgn}(\tau) \end{align}
が成り立つ.

写像$\mathrm{sgn} \colon S_{n} \to \{\pm 1\}$は全射準同型である.

明らかに$\mathrm{sgn}(\id) = 1,\ \mathrm{sgn}((12)) = -1$であるから$\mathrm{sgn}$は全射である.

$\sigma,\tau \in S_{n}$とする.このとき
\begin{align} \mathrm{sgn}(\sigma\tau) &= \prod_{(i,j) \in \Delta} \frac{\sigma\tau(i) - \sigma\tau(j)}{i-j}\\ &= \prod_{(i,j) \in \Delta} \frac{\sigma(i)-\sigma(j)}{i-j} \times \frac{\tau(\sigma(i)) - \tau(\sigma(j))}{\sigma(i)-\sigma(j)}\\ &= \prod_{(i,j) \in \Delta}\frac{\sigma(i) - \sigma(j)}{i-j} \times \prod_{(i,j) \in \Delta} \frac{\tau(\sigma(i)) - \tau(\sigma(j))}{\sigma(i) - \sigma(j)}\\ &= \mathrm{sgn}(\sigma)\mathrm{sgn}(\tau) \end{align}
が成り立つ.

$\sigma \in S_{n}$としその型を$(a_{1},\ldots,a_{m})$とする.このとき
$$\mathrm{sgn}(\sigma) = (-1)^{n-m}$$
が成り立つ.とくに$\sigma$が長さ$\ell$の巡換ならば
$$\mathrm{sgn}(\sigma) = (-1)^{\ell -1}$$
が成り立つ.

一般に,長さ$\ell$の巡換は$\ell -1$個の互換の積で書ける.実際
$$(x_{1} \cdots x_{\ell}) = (x_{1}x_{2}) (x_{1}x_{3}) \cdots (x_{1}x_{\ell})$$
が成り立つことが容易に確かめられる.
よって$\sigma$
$$\sum (a_{i}-1) = \left(\sum a_{i}\right) - m = n-m$$
個の互換の積で書ける.互換の符号は$-1$である(ことが容易にわかる)から
$$\mathrm{sgn}(\sigma) = (-1)^{n-m}$$
が成り立つ.
また,$\sigma$が長さ$\ell$の巡換のとき,
$$n = \sum a_{i} = (m-1) + \ell$$
より$\ell - 1=n-m$となるので
$$\mathrm{sgn}(\sigma) = (-1)^{\ell-1}$$
が成り立つ.

$\sigma \in S_{n}$としその型を$(a_{1},\ldots,a_{m})$とする.このとき
$$\mathrm{sgn}(\sigma) = (-1)^{\#\{i \in [m]\ |\ a_{i} \equiv 0 \pmod2\}}$$
が成り立つ.

$e = \#\{i \in [m]\ |\ a_{i} \equiv 0 \pmod2\}$とおく.このとき
$$ n = \sum a_{i} = e\,\text{個の偶数}+(m-e)\,\text{個の奇数}$$
となるので$n-m \equiv e \pmod2$が成り立つ.

交代群

全射準同型$\mathrm{sgn} \colon S_{n} \to \{\pm 1\}$の核を$n$次交代群といい$A_{n}$で表わす.

$A_{n}$$S_{n}$の指数$2$の正規部分群である.

置換$\sigma \in S_{n}$から定まる数がいくつか出てきたが,それらが偶数であることと$\sigma$が偶置換であることとが同値となる(巡換の長さは見なかったことにする).

$\sigma \in S_{n}$とし,その型を$(a_{1},\ldots,a_{m})$とする.
このとき次は同値である:

  1. $\sigma \in A_{n}$;
  2. $\#\{(i,j) \in \Delta\ |\ \sigma(i)>\sigma(j)\} \equiv 0 \pmod2$;
  3. $n-m \equiv 0 \pmod2$;
  4. $\#\{i \in [m]\ |\ a_{i} \equiv 0 \pmod2\} \equiv 0 \pmod2$;
  5. $\sigma$は偶数個の互換の積で書ける.

参考文献

[1]
S. MacLane, G. Birkhoff, Algebra
[2]
彌永昌吉,小平邦彦, 現代数学概説 I
投稿日:2023722

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うすい
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位相空間論に興味があります.

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