2
競技数学解説
文献あり

射影幾何の基礎とMoving Pointsについて

623
0

かえでです.
Moving Points (Method of Moving Pointsを略してMMPとも呼ばれる)について紹介していきます.
Moving Pointsはその名の通り,"ある動点について一般に成り立つ事実"について有効な手法です.

以下,本文において,"射影的"と書かれる所はすべて"projective"と表記します(purely projectiveのみに限り,簡略のため"純粋に射影的"と表記します).

前提知識

・射影幾何の基礎的な内容
・conic及び複比の取り扱い
を前提知識として書きます(が知らなくても理解できると思います).

実射影平面とは

homorogeneous coordinates

まず,実射影平面RP2とはどういったものであろうか?定義に戻ってみれば,RP2とは3個のRの要素の"比"全体からなる集合であった.すなわち,数式で表すと以下のようになる:

RP2=(R3{(0,0,0)}) 
ただし,任意のλRに対し(a,b,c)(λa,λb,λc)

例えば,(a,b,c)(2a,2b,2c)は同じ点を表す.なので,比のみに注目して,この点を(a:b:c)と表す.これを,実射影平面の斉次座標(homorogeneous coordinates)という.
今,(x:y:z)(xz,yz)で定まる写像RP2R2を考えよう.これはz0でないとき明らかに単射である.これがRP2R2の類似の所以である.では,(x:y:0)は余分な点であるのかというと,そんなことはない.(x:y:0)は有限平面R2にない無限遠直線上の無限遠点(特に,yx方向の無限遠点)と定義するのが最も合理的であろう.これがhomorogeneous coordinatesの正体である.

幾何的な側面

ではなぜ,RP2は"幾何学的"なのであろうか?重要なのは,RP2R3上の原点を通る直線束と考えることができるということである.例えば,(1:1:1)x=y=zを満たす全ての点に対応する.
そしてこの直線束に属する直線をすべて平面z=1に射影する.これが写像(x:y:z)(xz,yz)である.さらに,z=0上の半直線,すなわち平面z=1に平行な半直線は無限遠でz=1と交わる.
また,これらは原点を通らない別の平面にも射影することができる.したがって,無限遠直線は全く特別なものではない.適切に平面を選ぶことで,どんな直線も無限遠直線になり得るのである.この,平面を選ぶ操作こそが射影変換を適用するという操作に等しいのだ.

点と直線の双対性

R3では原点を通る平面の方程式はax+by+cz=0であるが,これはRP2における直線の方程式でもある.特に,直線は(a:b:c)として表すこともできる.
ベクトルでは,点をx=(x:y:z),直線をl=(a:b:c)と表すことができる.このとき以下が従う:

Incidence

xが直線l上にあることとxl=0は同値である.

これの基本的な意味は,点xが直線l上にあることはベクトルx,lが直交することと同値であることを表している.また,クロス積u×vu,vに直交するベクトルを表すので,以下が従う:

Intersection

x,yRP2の要素とする.このとき,
・点x,yについて,x×yxyを通る直線を表す.
・直線x,yについて,x×yxyの交点を表す.

今,点と直線に明らかな対称性があることに注意すれば,次のような事実が従う.

点についての純粋に射影的な命題を示せれば,直線についても示される.また,逆も同様.

これが射影幾何の双対原理である.例として以下の定理を考えよう.

Desarguesの定理

三角形ABC,XYZについて,直線AX,BY,CZの共点とBCYZ,CAZX,ABXYの共線は同値である.

主張そのものから点と直線の双対性を感じ取れるかもしれないが,それはDesarguesの定理がself-dual(自己双対)だからである.では,代数的に双対原理を確認していこう.

a,b,c,x,y,zRP2をそれぞれ点A,B,C,X,Y,Zとする.このとき,
(a×x)[(b×y)×(c×z)]=0
だから,
((b×c)×(y×z))[((c×a)×(z×x))×((a×b)×(x×y))]=0
a,b,c,x,y,zRP2をそれぞれ直線BC,CA,AB,YZ,ZX,XYとする.このとき,
((b×c)×(y×z))[((c×a)×(z×x))×((a×b)×(x×y))]=0
だから,
(a×x)[(b×y)×(c×z)]=0

このように,ある方向について示したとき,もう一方向についても示すことができる.

Tethered Moving Points

さて,本題に入ろう.まず,Tethered moving pointsといわれるものについて説明していく.

Projective map

C1,C2をconicまたは直線または直線束とする.f:C1C2が複比を保存するとき,これをprojective mapという.

Moving Pointsは,多項式の一致について着目した手法である.例えば,一次多項式f,gf(X)=g(X),f(Y)=g(Y),(XY)を満たすとき,fgである.このような"多項式の一致"に基づいて,次の定理を考えてみよう.

f,g:C1C2がprojectiveであり,ある異なる3点で等しい値を取るとき,fg

f(A)=g(A),f(B)=g(B),f(C)=g(C)であるとし,DC1上の任意の点とする.このとき,
(f(A),f(B);f(C),f(D))=f(A,B;C,D)=g(g(A),g(B);g(C),g(D)
であるから,f(D)=g(D)である.

定理1が表していることは,ある問題がprojective mapを用いて表せるならば,ある異なる3点について示せば十分であるということである.
ここにprojective mapの例を幾つか載せよう.以下,点Pの直線束をCPとする.
・直線lと点Pについて,XPXで定まる写像lCP
・conicγと点Pγについて,XPXで定まる写像γCP
・conicγと点Pγについて,X(PXγで定まる写像γγ

projective mapの合成もまたprojective mapになることに注意する.
では,例題を見ていこう.

例題 Serbia MO 2018

三角形ABCについて,その内心をIとし,内接円とBCの接点をDとする.2PAQ=BACとなるように点P,Qをそれぞれ線分BI,CI上に取ったとき,PDQ=90を示せ.

PBIXCIに送る写像f:BICIを,PAX=12BACで定め,さらに,PBIYCIに送る写像g:BICIを,PDY=90で定める.このとき,f,gがprojectiveであることは容易に確かめられる.一方,PがそれぞれB,I,ABDの内心のとき,X=Yであることが容易に確認できるため示される.

この問題は初等幾何では条件が非常に扱いにくいが,一方で題の成立が容易に確認できるような点が3点以上存在しているため,Moving Pointsを使用するべき問題の好例である.

Untethered Moving Points

では,Tethered moving pointsの大きな一般化であるUntethered moving pointsについて説明していこう.

一般化と次数

Moving point

t(P(t):Q(t):R(t))で定まる写像R{}RP2をmoving pointという.ただし,P,Q,Rは共通根を持たない多項式であり,t=の像はRP2での極限及び連続性によって定まる.

Moving line

t(P(t):Q(t):R(t))で定まる写像R{}RP2をmoving lineという.ただしここで,(P(t):Q(t),R(t))は直線P(t)x+Q(t)y+R(t)z=0を表している.

Degree(次数)

moving pointまたはmoving line(P(t):Q(t):R(t))について,その次数max(degP,degQ,degR)で定める.

例:
・定点,定直線の次数は0である.
・線形に動く点の次数は1である.
・直線またはconic上を動く点の射影によってprojectiveに動く点の持つ次数は1または2である.

証明方法(重要)

moving pointsを用いた証明は殆どの場合次のような形になる.

・直線上のある一点を動かす.この"パラメータ"の次数は1である.
・全ての点または証明に用いられる点の次数を計算する.
・求める条件に対応する多項式の次数dを決定し固定する.
・パラメータについて,あるd+1個のケースで示すべきことの成立を証明する.(無限遠はケースの一つとして非常に有効である.)
・代数学の基本定理によって,多項式条件は恒等的に0に等しいことであると結論する.(多項式一致の定理)

(適切なパラメータの選択の元で,)あるd+1個の証明が容易なケースが存在するとき,これは非常に強い手法となる.

次数の計算

Zackの補題

moving pointA,Bk点で一致する(重複度がkである)とき,直線ABの次数は高々degA+degBkである.

直線におけるZackの補題

moving linel1,l2の重複度がkであるとき,l1l2の次数は高々degl1+degl2kである.

A=(P1(t):Q1(t):R1(t)),B=(P2(t):Q2(t),R2(t)
について,
A×B=(Q1(t)R2(t)Q2(t)R1(t)::)である.さらに,t=t1,t2,...,tkについてA=Bとなるならば,全体が(tti)で割られる.

ただし,次数を計算するために"ケース"を用いたとき,そのケースはd+1個のケースに含められないことに注意する必要がある.

conic doubling

Zackの補題

conic C上のdegA=2なるmoving pointAについて,C上の任意の定点Xに対してdegXA=1が成り立つ.

これは次のように一般化できる.

Conic doubling

C1,C2を直線またはconicとしϕ:C1C2をprojective mapとする.C上のmoving point Pについて,以下が成り立つ.
C1,C2がともに直線またはconicのとき,deg(ϕ(x))=degP
C1,C2がそれぞれ直線,conicのとき,deg(ϕ(x))=2degP
C1,C2がそれぞれconic,直線のとき,deg(ϕ(x))=12degP

さらに,以下が成り立つ.

次数nのmoving pointがk次曲線上を動いているとき,knを割り切る.

statementの次数

Untethered moving pointsでは,statementの次数を求めることが目標であった.実に,statementの次数について以下が成り立つ.

Collinearty

moving pointP,Q,Rの次数がそれぞれa,b,cであるとき,命題"P,Q,Rは共線"の次数deg(P,Q,R collinear)a+b+cに等しい.

Concurrency

moving linel1,l2,l3の次数がそれぞれa,b,cであるとき,命題"l1,l2,l3は共点"の次数deg(l1,l2,l3 concurrent)a+b+cに等しい.

純粋な代数計算によるため省略する.

   

以上をもってMoving Pointsは完成である.

 
では,例題に入ろう.

例題 刈屋の定理

三角形ABCについて,その内心をIとし,Iから直線BC,CA,ABに下ろした垂線の足をそれぞれD,E,Fとする.直線ID,IE,IF上に点X,Y,ZIX=IY=IZを満たすように取るとき,直線AX,BY,CZは共点である.

tR{}についてIX=tIDとし,Y,Zも同様に定める.tを動かしたとき,degX=degY=degZ=1であるから,degAX=degBY=degCZ=1である.よってdeg(AX,BY,CZ concurrent)=3である.一方t=1,0,1,のときこの共点の成立は明らかである.

この例題は証明が容易であるような"ケース"が十分多く存在するときにおけるMoving Pointsの強力さを示している.

練習問題

USA TST 2015 P6

三角形ABCについて,その九点円をΩ,Euler線をlとし,BC,CA,ABの中点をそれぞれMa,Mb,Mcとする.l上の点Sについて,直線MaS,MbS,McSωと再び交わる点をそれぞれX,Y,Zとしたとき,直線AX,BY,CZの共点を示せ.

USA TST 2020 P2

2円Γ1,Γ2の共通外接線l1,l2の交点をTとし,Γ1,Γ2l1,l2の接点をそれぞれA,Bとする.A,Bを通る円ΩΓ1,Γ2とそれぞれC,Dで再び交わっており,4点A,B,C,Dはこの順にある.X=ACBD,Y=ADBCとしたとき,T,X,Yの共線を示せ.

三角形ABCと任意の点Pについて,A,B,Cから対辺に下ろした垂線の足をそれぞれD,E,Fとし,Pから直線BC,CA,AB,AD,BE,CFに下ろした垂線の足をそれぞれPa,Pb,Pc,X,Y,Zとする.このとき,直線PaX,PbY,PcZの共点を示せ.

最後に

過去作『 九点円の基礎と応用 』以来の大作だったと思います.
Moving pointsは本当に強い手法ですので,沢山の人に広まって欲しいと思っています.また,今回の記事で射影幾何について興味を持った方がいれば,是非過去作『 Involutionについて 』をご覧下さい.
お疲れ様でした.

参考文献

投稿日:2024115
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

ユークリッド幾何学専門

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 前提知識
  2. 実射影平面とは
  3. homorogeneous coordinates
  4. 幾何的な側面
  5. 点と直線の双対性
  6. Tethered Moving Points
  7. Untethered Moving Points
  8. 一般化と次数
  9. 証明方法(重要)
  10. 次数の計算
  11. conic doubling
  12. statementの次数
  13. 練習問題
  14. 最後に
  15. 参考文献