かえでです.
Moving Points (Method of Moving Pointsを略してMMPとも呼ばれる)について紹介していきます.
Moving Pointsはその名の通り,"ある動点について一般に成り立つ事実"について有効な手法です.
以下,本文において,"射影的"と書かれる所はすべて"projective"と表記します(purely projectiveのみに限り,簡略のため"純粋に射影的"と表記します).
前提知識
・射影幾何の基礎的な内容
・conic及び複比の取り扱い
を前提知識として書きます(が知らなくても理解できると思います).
実射影平面とは
homorogeneous coordinates
まず,実射影平面とはどういったものであろうか?定義に戻ってみれば,とは3個のの要素の"比"全体からなる集合であった.すなわち,数式で表すと以下のようになる:
例えば,とは同じ点を表す.なので,比のみに注目して,この点をと表す.これを,実射影平面の斉次座標(homorogeneous coordinates)という.
今,で定まる写像を考えよう.これはがでないとき明らかに単射である.これがとの類似の所以である.では,は余分な点であるのかというと,そんなことはない.は有限平面にない無限遠直線上の無限遠点(特に,方向の無限遠点)と定義するのが最も合理的であろう.これがhomorogeneous coordinatesの正体である.
幾何的な側面
ではなぜ,は"幾何学的"なのであろうか?重要なのは,は上の原点を通る直線束と考えることができるということである.例えば,はを満たす全ての点に対応する.
そしてこの直線束に属する直線をすべて平面に射影する.これが写像である.さらに,上の半直線,すなわち平面に平行な半直線は無限遠でと交わる.
また,これらは原点を通らない別の平面にも射影することができる.したがって,無限遠直線は全く特別なものではない.適切に平面を選ぶことで,どんな直線も無限遠直線になり得るのである.この,平面を選ぶ操作こそが射影変換を適用するという操作に等しいのだ.
点と直線の双対性
では原点を通る平面の方程式はであるが,これはにおける直線の方程式でもある.特に,直線はとして表すこともできる.
ベクトルでは,点を,直線をと表すことができる.このとき以下が従う:
これの基本的な意味は,点が直線上にあることはベクトルが直交することと同値であることを表している.また,クロス積はに直交するベクトルを表すので,以下が従う:
Intersection
をの要素とする.このとき,
・点について,はとを通る直線を表す.
・直線について,はとの交点を表す.
今,点と直線に明らかな対称性があることに注意すれば,次のような事実が従う.
点についての純粋に射影的な命題を示せれば,直線についても示される.また,逆も同様.
これが射影幾何の双対原理である.例として以下の定理を考えよう.
主張そのものから点と直線の双対性を感じ取れるかもしれないが,それはDesarguesの定理がself-dual(自己双対)だからである.では,代数的に双対原理を確認していこう.
・をそれぞれ点とする.このとき,
だから,
・をそれぞれ直線とする.このとき,
だから,
このように,ある方向について示したとき,もう一方向についても示すことができる.
Tethered Moving Points
さて,本題に入ろう.まず,Tethered moving pointsといわれるものについて説明していく.
Projective map
をconicまたは直線または直線束とする.が複比を保存するとき,これをprojective mapという.
Moving Pointsは,多項式の一致について着目した手法である.例えば,一次多項式がを満たすとき,である.このような"多項式の一致"に基づいて,次の定理を考えてみよう.
がprojectiveであり,ある異なる3点で等しい値を取るとき,.
であるとし,を上の任意の点とする.このとき,
であるから,である.
定理1が表していることは,ある問題がprojective mapを用いて表せるならば,ある異なる3点について示せば十分であるということである.
ここにprojective mapの例を幾つか載せよう.以下,点の直線束をとする.
・直線と点について,で定まる写像
・conicと点について,で定まる写像
・conicと点について,で定まる写像
projective mapの合成もまたprojective mapになることに注意する.
では,例題を見ていこう.
例題 Serbia MO 2018
三角形について,その内心をとし,内接円との接点をとする.となるように点をそれぞれ線分上に取ったとき,を示せ.
をに送る写像を,で定め,さらに,をに送る写像を,で定める.このとき,がprojectiveであることは容易に確かめられる.一方,がそれぞれの内心のとき,であることが容易に確認できるため示される.
この問題は初等幾何では条件が非常に扱いにくいが,一方で題の成立が容易に確認できるような点が3点以上存在しているため,Moving Pointsを使用するべき問題の好例である.
Untethered Moving Points
では,Tethered moving pointsの大きな一般化であるUntethered moving pointsについて説明していこう.
一般化と次数
Moving point
で定まる写像をmoving pointという.ただし,は共通根を持たない多項式であり,の像はでの極限及び連続性によって定まる.
Moving line
で定まる写像をmoving lineという.ただしここで,は直線を表している.
Degree(次数)
moving pointまたはmoving lineについて,その次数をで定める.
例:
・定点,定直線の次数はである.
・線形に動く点の次数はである.
・直線またはconic上を動く点の射影によってprojectiveに動く点の持つ次数はまたはである.
証明方法(重要)
moving pointsを用いた証明は殆どの場合次のような形になる.
・直線上のある一点を動かす.この"パラメータ"の次数はである.
・全ての点または証明に用いられる点の次数を計算する.
・求める条件に対応する多項式の次数を決定し固定する.
・パラメータについて,ある個のケースで示すべきことの成立を証明する.(無限遠はケースの一つとして非常に有効である.)
・代数学の基本定理によって,多項式条件は恒等的にに等しいことであると結論する.(多項式一致の定理)
(適切なパラメータの選択の元で,)ある個の証明が容易なケースが存在するとき,これは非常に強い手法となる.
次数の計算
Zackの補題
moving pointが点で一致する(重複度がである)とき,直線の次数は高々である.
直線におけるZackの補題
moving lineの重複度がであるとき,の次数は高々である.
について,
である.さらに,についてとなるならば,全体がで割られる.
ただし,次数を計算するために"ケース"を用いたとき,そのケースは個のケースに含められないことに注意する必要がある.
conic doubling
Zackの補題
conic 上のなるmoving pointについて,上の任意の定点に対してが成り立つ.
これは次のように一般化できる.
Conic doubling
を直線またはconicとしをprojective mapとする.上のmoving point について,以下が成り立つ.
・がともに直線またはconicのとき,
・がそれぞれ直線,conicのとき,
・がそれぞれconic,直線のとき,
さらに,以下が成り立つ.
次数のmoving pointが次曲線上を動いているとき,はを割り切る.
statementの次数
Untethered moving pointsでは,statementの次数を求めることが目標であった.実に,statementの次数について以下が成り立つ.
Collinearty
moving pointの次数がそれぞれであるとき,命題"は共線"の次数はに等しい.
Concurrency
moving lineの次数がそれぞれであるとき,命題"は共点"の次数はに等しい.
以上をもってMoving Pointsは完成である.
では,例題に入ろう.
例題 刈屋の定理
三角形について,その内心をとし,から直線に下ろした垂線の足をそれぞれとする.直線上に点をを満たすように取るとき,直線は共点である.
についてとし,も同様に定める.を動かしたとき,であるから,である.よってである.一方のときこの共点の成立は明らかである.
この例題は証明が容易であるような"ケース"が十分多く存在するときにおけるMoving Pointsの強力さを示している.
練習問題
USA TST 2015 P6
三角形について,その九点円を,Euler線をとし,の中点をそれぞれとする.上の点について,直線がと再び交わる点をそれぞれとしたとき,直線の共点を示せ.
USA TST 2020 P2
2円の共通外接線の交点をとし,との接点をそれぞれとする.を通る円はとそれぞれで再び交わっており,4点はこの順にある.としたとき,の共線を示せ.
三角形と任意の点について,から対辺に下ろした垂線の足をそれぞれとし,から直線に下ろした垂線の足をそれぞれとする.このとき,直線の共点を示せ.
最後に
過去作『
九点円の基礎と応用
』以来の大作だったと思います.
Moving pointsは本当に強い手法ですので,沢山の人に広まって欲しいと思っています.また,今回の記事で射影幾何について興味を持った方がいれば,是非過去作『
Involutionについて
』をご覧下さい.
お疲れ様でした.