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大学数学基礎解説
文献あり

ロジャース=ラマヌジャン恒等式の易しい証明

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こんにちは,itouです.今回はロジャース=ラマヌジャン恒等式:
m=0qm2(1q)(1q2)(1qm)=m=01(1q5m+1)(1q5m+4)m=0qm2+m(1q)(1q2)(1qm)=m=01(1q5m+2)(1q5m+3)
の証明を解説します.

証明

まず,ヤコビの三重積:
m=xmq(m2+m)/2=m=1(1+xqm)(1+x1qm1)(1qm)
においてqq5,x=q2,q1として,示すべき等式は

(1)m=0qm2(1q)(1q2)(1qm)=(m=1(1qm))1m=(1)mq(5m2+m)/2(2)m=0qm2+m(1q)(1q2)(1qm)=(m=1(1qm))1m=(1)mq(5m2+3m)/2
となる.

q-階乗

q-階乗(q)s
(q)s:=m=1(1qm)(1qs+m)
定義する.
なお,sが正整数なら(q)s=(1q)(1q2)(1qs),sが負の整数なら(q)s1=0.

q-二項係数

整数m,Nについてq-二項係数を
(Nm)q=(1qN)(1qN1)(1qNm+1)(1q)(1q2)(1qm)=(q)N(q)m(q)Nm
と定義する.
ただし,m=0,Nのときは1,m<0,m>Nのときは0.

以下の等式を示す.

Nst0qs2+t2(1+xq)(1+xq2)(1+xqt)(1q)(1qNs)(1q)(1qst)×(1+x1)(1+x1q)(1+x1qt1)(1q)(1q2t)(3)=(m=12N(1qm))1m=NNxmq(5m2+m)/2(2NNm)q

3が示されれば1,2が従う.実際,x=1を代入し,NとしてΠm=1(1qm)を両辺に乗じて1を得る.
また,x=qを代入し,NとするとΠm=1(1qm)を両辺に乗じて,左辺は

m=0qs2(1q)(1qs)+m=1qs2+1(1q2)(1q1)(1q)(1qs1)(1q)(1q2)=m=0qs2(1q)(1qs)m=0qs2(1qs)(1q)(1qs)
これは2の左辺に等しいので,2も従う.

同様に考えることで,ロジャース=ラマヌジャン恒等式をパラメータ化した等式:

s=0xsqs2(1q)(1qs)=(n=1(1xqn))1×m=0(x2)mq(5m2m)/2(1xq2m)(1xq)(1xqm1)(1q)(1qm)
も得ることができる.

さて,3を示そう.以下の2つの補題を示す.以降,の和を取る範囲はからに渡る.

kを正整数として,
(j=1k(1xqj))1=jxjqj2(1xq)(1xqj)(kj)q

nを正整数,aを任意の実数として,
mxmqam2(q)nm(q)n+m=sqs2(q)nsmxmq(a1)m2(q)sm(q)s+m

補題1の証明

両辺をgk(x;q)とおく.k=1のときは成立.

gk(x;q)=gk1(x;q)+xqk1xqgk1(xq;q)
およびq-二項定理より,帰納的に示された.□

両辺を展開したときにxsqtの係数がt個をs個の部分に分割する場合の数に一致することによっても示されるようです.

補題2の証明

補題1においてk=nm,x=q2mとし,両辺に(q)2m1を乗じると,
(q)n+m1=jqj2+2mj(q)j+2m(q)nm(q)j(q)nmj

これを補題2の左辺の分母の(q)n+mに代入することで,

mxmqam2(q)nm(q)n+m=mxmqam2(q)nmjqj2+2mj(q)nm(q)j+2m(q)j(q)nmj=m,jq(m+j)2(q)nmjxmq(a1)m2(q)j(q)2m+j

s=m+jとしてm,sに渡る和として表示することで,補題2を得る.□

3の証明

q-二項定理:
m=0ymq(m2+m)/2(nm)q=m=1n(1+yqm)
においてn=2N,y=xqNとすることで
(4)NNxmq(m2+m)/2(2NNm)q=m=1N(1+xqm)(1+x1qm1)
を得る.

補題2を用いればqm2m2の係数を1ずつ下げていくことができるので,4の左辺の形を目指して変形する.
3の右辺について,補題2を繰り返し用いて,

(q)2N1mxmq(5m2+m)/2(2NNm)q=m(xq1/2)mq5m2/2(q)Nm(q)N+m=sqs2(s)Nsm(xq1/2)mq3m2/2(q)sm(q)s+m=sqs2(s)Nstqt2(q)stm(xq1/2)mqm2/2(q)tm(q)t+m

を得る.
mの式に4においてN=tとした式を両辺(q)2tで割った式を適用して,
(q)2N1mxmq(5m2+m)/2(2NNm)qs,tqs2+t2(q)Ns(q)stm=1t(1+xqm)(1+x1qm1)(q)2t

これは3のこと.したがって,証明は完了した.

感想

ロジャース=ラマヌジャン恒等式の証明には,分割数を用いたものやLie代数を用いた証明もあるようです.そっちも解説したい.

謝辞

ここまで読んで下さりありがとうございました.誤植等指摘お願いいたします.

追記: 別証明 も書きました.

参考文献

[1]
D. M. BRESSOUD , An Easy Proof of the Rogers-Ramanujan Identities , JOURNAL OF NUMBER THEORY 16, 235-241 (1983)
投稿日:202465
更新日:2024616
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