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大学数学基礎解説
文献あり

ロジャース=ラマヌジャン恒等式の分割数を用いた証明

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こんにちは,itouです.今回はロジャース=ラマヌジャン恒等式を分割数を用いて証明します.

ロジャース=ラマヌジャン恒等式とは,以下の恒等式です.
\begin{align} &\sum_{m=0}^{\infty}\frac{q^{m^2}}{(1-q)(1-q^2)\cdots(1-q^m)}=\prod_{m=0}^{\infty}\frac{1}{(1-q^{5m+1})(1-q^{5m+4})}\\ &\sum_{m=0}^{\infty}\frac{q^{m^2+m}}{(1-q)(1-q^2)\cdots(1-q^m)}=\prod_{m=0}^{\infty}\frac{1}{(1-q^{5m+2})(1-q^{5m+3})}\\ \end{align}

前回 $q$-二項定理や有限和の等式から示しました.今回は分割数を用いて証明します.

正整数$n$をいくつかの正整数の和で表すとき,これを分割といい,和に現れる正整数を和因子という.

$B_{k,i}$$n$$(b_1b_2\cdots b_s)$の形に分割する.ここで$b_j-b_{j+k-1}\geq 2 ,b_j$のうち高々$i-1$個が1に等しいする.$A_{k,i}(n)$を「法$2k+1$$\pm i$に合同な和因子に分割するような$n$の分割の数」とする.このとき,$A_{k,i}(n)=B_{k,i}(n)$が成立する.

定理1

「どの2つの和因子の差も2以上であるような$n$の分割の数」
は「どの和因子も5で割って余りが1か4であるような$n$の分割の数」に等しい.

定理1

「どの和因子も2以上であり,かつどの2つの和因子の差も2以上であるような$n$の分割の数」
は「どの和因子も5で割って余りが2か3であるような$n$の分割の数」に等しい.

定理1の証明

$b_{k,i}(m,n)$$B_{k,i}$の定義のように分割するときに,和因子の個数が$m$であるような分割の個数とする.このとき,

\begin{equation*} b_{k,i}(m,n)=\begin{cases} 1 \quad \text{if}\quad m=n\\ 0 \quad \text{elif}\quad m\leq 0 \land n\leq 0 \\ \end{cases} \end{equation*}

\begin{align} b_{k,0}(m,n)=0 \end{align}

$1\leq i \leq k$のとき,
\begin{align} b_{k,i}(m,n)-b_{k,i-1}(m,n)=b_{k,k-i+1}(m-i+1,n-m) \end{align}
が成立する.
(この3つの式を(*)とする.)
上2つの式は定義として考える.3つ目の式を示す.

$b_{k,i}(m,n)-b_{k,i-1}(m,n)$
$b_j$の中で$1$がちょうど$i-1$個あるような分割の数」
を意味する.この分割に対応するヤング図形を考えたとき,$i-1$個の$1$に対応するマスを消去する.さらに残りの図形から,各和因子に対応するマスの列からマスを$1$つずつ消す.すると,もともと$1$はちょうど$i-1$個,$1$$2$は合わせて$k-1$未満の個数しかなかった(そうでなければ$b_j-b_{j+k-1}\geq 2$の条件に矛盾)ので,操作後には$1$は高々$k-i+1$個しか現れない.よって,この分割の個数は$b_{k,k-i+1}(m-i+1,n-m)$に等しい.

さて,$b_{k,i}(m,n)$は(*)を満たすことが分かったが,(*)は$b_{k,i}(m,n)$を特徴づけている.つまり,(*)を満たす数列$c_{k,i}$を取ってくると,$b_{k,i}(m,n)=c_{k,i}(m,n)$がいえる.

以下のように定義する.

\begin{align} &H_{k,i}(a;x;q):=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^{kn}q^{kn^2+n-in}a^n(1-x^iq^{2ni})(axq^{n+1})_{\infty}(a^{-1})_n}{(q)_n(xq^n)_{\infty}}\\ &J_{k,i}(a;x;q):=H_{k,i} (a;xq;q)-xqaH_{k,i-1}(a;xq;q)\\ \end{align}

以下の補題2,3は計算により,補題4はヤコビの三重積により,示される.

\begin{align} H_{k,i}(a;x;q)-H_{k,i-1}(a;x;q)=x^{i-1}J_{k,k-i+1}(a;x;q) \end{align}

\begin{align} J_{k,i}(a;x;q)-J_{k,i-1}(a;x;q)=(xq)^{i-1}(J_{k,k-i+1}(a;xq;q)-aJ_{k,k-i+2}(a;xq;q)) \end{align}

$1\leq i\leq k,|q|<1$のとき,
\begin{align} J_{k,i}(0;1;q)=\prod^*(1-q^n)^{-1} \end{align}
ここで\begin{align} \prod^* \end{align}
$n=1\rightarrow \infty,$ただし$n\not\equiv0,\pm i(\text{mod} 2k+1)$においての積をとる.

以下のように$J_{k,i}(0;x;q)$を展開することを考える.
\begin{align} J_{k,i}(0;x;q)=\sum_{m=0}^{\infty}\sum_{n=0}^{\infty}c_{k,i}(m,n)x^mq^n \end{align}
この$c_{k,i}(m,n)$が(*)を満たすことを示そう.
まず,(*)の上の2式を満たすことはすぐにわかる.

補題2において$a=0$として$x^mq^n$の係数を見てやることで,

\begin{align} c_{k,i}(m,n)-c_{k,i-1}(m,n)=c_{k,k-i+1}(m-i+1,n-m) \end{align}

もわかる.よって,$b_{k,i}(m,n)=c_{k,i}(m,n)$が示された.

さて,$A_{k,i}(n)=B_{k,i}(n)$を示す.
定義より
\begin{align} \sum_{m\geq 0}b_{k,i}(m,n)=B_{k,i}(n) \end{align}
であったので,
\begin{align} \sum_{n\geq 0}B_{k,i}(n)q^n&=\sum_{m\geq0}\sum_{n\geq0}b_{k,i}(m,n)q^n\\ &=J_{k,i}(0;1;q)(\because b_{k,i}(m,n)=c_{k,i}(m,n))\\ &=\prod^*(1-q^n)^{-1}(\because \text{補題4})\\ &=\sum_{n\geq0}A_{k,i}(n)q^n(\because \text{$A_{k,i}(n)$の母関数表示}) \end{align}

したがって,$q^n$の係数比較によって,$A_{k,i}(n)=B_{k,i}(n)$が示された.□

定理1を級数にする

定理1は2つの分割が同一であることを意味していますが,これを級数と無限積の等式に翻訳してやることができます.

$1\leq i\leq k,k\geq 2,|q|<1$のとき,
\begin{align} \sum_{n_1,n_2,\cdots,n_{k-1}\geq 0}\frac{q^{N_1^2+N_2^2+\cdots+N~_{k-1}^2+N_1+N_2+\cdots+N_{k-1}}}{(q)_{n_1}(q)_{n_2}\cdots(q)_{n_{k-1}}} =\prod^{**}(1-q^n)^{-1}\\ \end{align}
ここで
\begin{align} \prod^{**} \end{align}
$n=1\rightarrow \infty,$ただし$n\not\equiv0,\pm i\mod 2k+1$においての積をとる.

ただし,$N_j=n_j+n_{j+1}+\cdots+n_{k-1}$.

定理5の証明

\begin{align} J_{k,i}(0;x;q)=\sum_{n\geq 0}\frac{x^{(k-1)n}q^{(k-1)n^2+(k-i)n}}{(q)_n}J_{k-1,i}(0;xq^{2n};q)\label{1}\tag{1} \end{align}
が示されれば,$k$についての帰納法により,補題3を用いると定理5が従う.

\begin{align} R_{k,i}(x;q):=\sum_{n\geq 0}\frac{x^{(k-1)n}q^{(k-1)n^2+(k-i)n}}{(q)_n}J_{k-1,i}(0;xq^{2n};q) \end{align}

とすると,

\begin{align} R_{k,i}(0;q)=R_{k,i}(x;0)=1\quad (1\leq i\leq k),R_{k,0}(x;q)=0 \end{align}

また,
\begin{align} R_{k,i}(x;q)-R_{k,i-1}(x;q)=\cdots=(xq)^{i-1}R_{k,k-i+1}(xq;q) \end{align}
であることが計算によってわかる.

したがって,$R_{k,i}(x;q)$は(*)を満たす.よって,$R_{k,i}(x;q)=J_{k,i}(0;x;q)$であることが分かった.よって,\ref{1}が示されたので,定理5も示された.□

ロジャース=ラマヌジャン恒等式の証明

定理5において$k=i=2$および$k=2,i=1$を代入して,冒頭の
ロジャース=ラマヌジャン恒等式が示される.□

感想

$b_{k,i}(m,n)=c_{k,i}(m,n)$を同じ漸化式と初期条件を満たすことで示すっていうのが面白いですね.$H,J$はwell-poisedな超幾何級数ってやつらしい.

謝辞

ここまで読んでいただきありがとうございます.誤植指摘等よろしくお願いいたします.

参考文献

[1]
George E. Andrews Pennsylvania State University University Park, Pennsylvania, The Theory of Partitions p103~p118, CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS
投稿日:616
更新日:616

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itou
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