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拡張された留数定理(正規化)

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はじめに

ごきげんよう。りーるるです。
突然ですが、次の等式をご存知でしょうか。
$$\int_0^\infty\frac{x}{\sinh x}\,dx=\frac{\pi^2}{4}.$$
実際に解くと
$$\frac{1}{\sinh x}=\frac{2e^{-x}}{1-e^{-2x}}=2\sum_{n=0}^{\infty}e^{-(2n+1)x}$$
であり、各項は非負なので Tonelli の定理により積分と総和を交換できる。
したがって、
$$ \begin{aligned} \int_0^\infty\frac{x}{\sinh x}\,dx &=2\sum_{n=0}^{\infty}\int_0^\infty xe^{-(2n+1)x}\,dx\\ &=2\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{(2n+1)^2}\\ &=2\left(1-\frac{1}{2^2}\right)\zeta(2)\\ &=\frac{\pi^2}{4}. \end{aligned} $$
そこで、定積分
$$\displaystyle\int_0^\infty\frac{x}{\sin x}\,dx$$
は何を意味するのかを考えてみる。ここで形式的に $\sinh(ix)=i\sin x$ を利用すると、
$$\int_0^\infty\frac{x}{\sin x}\,dx$$
にも似た計算ができそうに見える。しかし、この積分には $x=n\pi$ に無数の極がある。したがって、通常の広義積分としては存在しない。
この記事の目的は単に「発散する積分に無理やり値を付ける」ことではない。
本当に考えるべき問題は、発散積分に値を与えるとき、どの正則化を選んだのか。ということである。

本稿で新しい留数定理を証明するわけではない。
有限個の極を含む輪郭ごとに通常の留数定理を適用し、輪郭を無限遠へ送る段階で Abel 正則化を導入する。したがって「拡張」されているのは留数定理そのものではなく、無限個の留数を足し合わせる極限操作を解釈したものである。

本題

通常の積分はなぜ発散するのか

$n\geq1$ とする。$x=n\pi+t$ とおけば、
$$\sin(n\pi+t)=(-1)^n\sin t=(-1)^n\left(t+O(t^3)\right).$$
よって、
$$\frac{x}{\sin x}=\frac{n\pi+t}{(-1)^n(t+O(t^3))}=(-1)^n\frac{n\pi}{t}+(-1)^n+O(t).$$
すなわち、
$$\frac{x}{\sin x}=\frac{n\pi(-1)^n}{x-n\pi}+O(1)\qquad(x\to n\pi).$$
$n\pi$ の近傍で対数的に発散するため、
$$\int_0^\infty\frac{x}{\sin x}\,dx$$
は通常の広義積分としては存在しない。
さらに重要なのは、被積分関数が極以外では実数値であることである。
したがって、実軸上で左右対称に極を避ける通常の主値操作だけから、突然純虚数
$$-\frac{\pi^2}{4}i$$
が現れることはない。
純虚数が現れた時点で、実軸の上側または下側を選ぶ複素解析的な処方が暗黙に入っている。

主値を取っても収束しない

各極を左右対称に除き、打ち切り点を極と極の中間に取る。
$$ P_N = \operatorname{F.p.}\int_0^{(N+\frac12)\pi}\frac{x}{\sin x}\,dx. $$
ここで $\operatorname{F.p.}$ は各 $n\pi$ において対称な有限部分を取ることを表す。
まず、
$$\int_0^{\pi/2}\frac{x}{\sin x}\,dx=2G$$
である。ただし、
$$ G=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{(2k+1)^2}$$
は Catalan 定数である。
次に $n\geq1$ に対して、
$$ \begin{aligned} \operatorname{F.p.}\int_{(n-\frac12)\pi}^{(n+\frac12)\pi}\frac{x}{\sin x}\,dx &=(-1)^n\operatorname{PV}\int_{-\pi/2}^{\pi/2}\frac{n\pi+t}{\sin t}\,dt. \end{aligned} $$
$\csc t$ は奇関数なので、
$$\operatorname{PV}\int_{-\pi/2}^{\pi/2}\frac{n\pi}{\sin t}\,dt=0.$$
また $t/\sin t$ は偶関数だから、
$$ \begin{aligned} \operatorname{F.p.}\int_{(n-\frac12)\pi}^{(n+\frac12)\pi}\frac{x}{\sin x}\,dx &=2(-1)^n\int_0^{\pi/2}\frac{t}{\sin t}\,dt\\ &=4G(-1)^n. \end{aligned} $$
したがって、
$$ \begin{aligned} P_N &=2G+4G\sum_{n=1}^{N}(-1)^n\\ &=2G(-1)^N. \end{aligned} $$
つまり、
$$ P_0=2G,\quad P_1=-2G,\quad P_2=2G,\quad P_3=-2G,\quad\ldots$$
となり、極で対称主値を取っただけでは極限は存在しない。
ただし、この振動列を Cesàro 総和すれば、
$$\underset{\mathrm{Ces\grave aro}}{\operatorname{sum}}\{P_N\}=0$$
となる。
したがって、対称的な正則化が自然に与える値は純虚数ではなく $0$ である。

上側と下側の境界値

実軸上の極を避ける方法を明示するため、次の二つを定義する。
$$ I_-=\lim_{\theta\to0^+}\int_0^{\infty e^{-i\theta}}\frac{z}{\sin z}\,dz,$$
$$ I_+=\lim_{\theta\to0^+}\int_0^{\infty e^{i\theta}}\frac{z}{\sin z}\,dz.$$
$I_-$ は実軸の下側を通る境界値であり、$I_+$ は上側を通る境界値である。
この二つは同じ値になる必要がない。

$$ I_-=-\frac{\pi^2}{4}i,\qquad I_+=\frac{\pi^2}{4}i.$$

解法1 積分路の回転

$0<\theta\leq\pi/2$ に対して、
$$ F(\theta) = \int_0^{\infty e^{-i\theta}}\frac{z}{\sin z}\,dz $$
とおく。
原点では
$$\lim_{z\to0}\frac{z}{\sin z}=1$$
なので、$z=0$ は除去可能特異点である。
また第4象限の内部には $\sin z$ の零点が存在しない。
二つの角度 $0<\theta_1<\theta_2\leq\pi/2$ を固定する。二本の半直線と半径 $R$ の円弧で囲まれる扇形に留数定理を適用する。
円弧上では虚部の絶対値が $R\sin\theta_1$ 以上であり、
$$\left|\frac{z}{\sin z}\right|=O\left(Re^{-R\sin\theta_1}\right)$$
となるため、円弧積分は $R\to\infty$$0$ となる。
したがって、
$$ F(\theta_1)=F(\theta_2).$$
よって $F(\theta)$$0<\theta\leq\pi/2$ で一定である。
そこで $\theta=\pi/2$ とする。$z=-it$ とおけば、
$$\sin(-it)=-i\sinh t,\qquad dz=-i\,dt.$$
ゆえに、
$$ \begin{aligned} F\left(\frac{\pi}{2}\right) &=\int_0^{-i\infty}\frac{z}{\sin z}\,dz\\ &=-i\int_0^\infty\frac{t}{\sinh t}\,dt\\ &=-i\cdot\frac{\pi^2}{4}. \end{aligned} $$
したがって、
$$ I_-=-\frac{\pi^2}{4}i.$$
同様に第1象限で積分路を正の虚軸へ回転すると、$z=it$ より、
$$ I_+=i\int_0^\infty\frac{t}{\sinh t}\,dt=\frac{\pi^2}{4}i.$$

この方法から分かることは、$\sin$$\sinh$ の関係が単なる形式的置換ではないということである。
積分路そのものを実軸から虚軸へ回転することで、
$$\sin(-it)=-i\sinh t$$
が実際の積分変換として現れる。
また、
$$ dz=-i\,dt$$
から生じる因子 $-i$ が、答えを純虚数にしている。

解法2 等比級数を正しく使う

実軸上では、
$$\left|e^{-2ix}\right|=1$$
なので、
$$\frac{1}{1-e^{-2ix}}=\sum_{n=0}^{\infty}e^{-2inx}$$
という展開は成立しない。
そこで二つの正則化パラメータ $\varepsilon,\delta>0$ を導入し、
$$ I_-(\varepsilon,\delta) = \int_0^\infty\frac{xe^{-\varepsilon x}}{\sin(x-i\delta)}\,dx $$
とおく。
$\delta>0$ なので、
$$\left|e^{-2i(x-i\delta)}\right|=e^{-2\delta}<1.$$
したがって、
$$ \begin{aligned} \frac{1}{\sin(x-i\delta)} &=\frac{2ie^{-i(x-i\delta)}}{1-e^{-2i(x-i\delta)}}\\ &=2i\sum_{n=0}^{\infty}e^{-(2n+1)\delta}e^{-i(2n+1)x}. \end{aligned} $$
$\varepsilon,\delta>0$ のもとでは絶対収束するので、総和と積分を交換できる。
$$ \begin{aligned} I_-(\varepsilon,\delta) &=2i\sum_{n=0}^{\infty}e^{-(2n+1)\delta} \int_0^\infty xe^{-(\varepsilon+i(2n+1))x}\,dx\\ &=2i\sum_{n=0}^{\infty} \frac{e^{-(2n+1)\delta}} {\left(\varepsilon+i(2n+1)\right)^2}. \end{aligned} $$
ここで、
$$\int_0^\infty xe^{-sx}\,dx=\frac{1}{s^2}\qquad(\operatorname{Re}s>0)$$
を用いた。
まず $\varepsilon\to0^+$ とすると、
$$ \lim_{\varepsilon\to0^+}I_-(\varepsilon,\delta) = -2i\sum_{n=0}^{\infty} \frac{e^{-(2n+1)\delta}}{(2n+1)^2}. $$
さらに $\delta\to0^+$ とすれば、
$$ \begin{aligned} I_- &=-2i\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{(2n+1)^2}\\ &=-2i\left(1-\frac{1}{2^2}\right)\zeta(2)\\ &=-\frac{\pi^2}{4}i. \end{aligned} $$
同様に $x+i\delta$ として上側から近づけば、
$$ I_+=\frac{\pi^2}{4}i.$$

この計算において $\varepsilon$ は無限遠での Abel 減衰を与え、$\delta$ は実軸上の極をどちら側から避けるかを決定している。
両者には別々の役割がある。

解法3 無限個の留数

$f(z)=z/\sin z$$z=n\pi$ における留数は、
$$ \begin{aligned} \operatorname*{Res}_{z=n\pi}\frac{z}{\sin z} &=\frac{n\pi}{\cos(n\pi)}\\ &=n\pi(-1)^n. \end{aligned} $$
したがって正の実軸上の留数を形式的に足すと、
$$\pi\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^n n$$
となる。
しかし、
$$-1+2-3+4-\cdots$$
は通常の意味では収束しない。
ここで $0< q<1$ として Abel 因子 $q^n$ を入れる。
$$ \begin{aligned} \sum_{n=1}^{\infty}(-1)^n nq^n &=q\frac{d}{dq} \left(\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^nq^n\right)\\ &=q\frac{d}{dq}\left(-\frac{q}{1+q}\right)\\ &=-\frac{q}{(1+q)^2}. \end{aligned} $$
したがって、
$$\lim_{q\to1^-}\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^n nq^n=-\frac14.$$
よって留数和の Abel 正則化は、
$$ \underset{\mathrm{Abel}}{\operatorname{sum}} \sum_{n=1}^{\infty} \operatorname*{Res}_{z=n\pi}\frac{z}{\sin z} = -\frac{\pi}{4}. $$
実軸上の一つの極を下側から避ける積分路と上側から避ける積分路との差は、
$$ 2\pi i\operatorname*{Res}_{z=n\pi}\frac{z}{\sin z}$$
である。
したがって無限個の極について Abel 正則化すると、
$$ \begin{aligned} I_--I_+ &= 2\pi i \underset{\mathrm{Abel}}{\operatorname{sum}} \sum_{n=1}^{\infty} \operatorname*{Res}_{z=n\pi}\frac{z}{\sin z}\\ &=2\pi i\left(-\frac{\pi}{4}\right)\\ &=-\frac{\pi^2}{2}i. \end{aligned} $$
一方、
$$ I_-=-\frac{\pi^2}{4}i,\qquad I_+=\frac{\pi^2}{4}i$$
なので確かに、
$$ I_--I_+=-\frac{\pi^2}{2}i.$$
また二つの平均は、
$$\frac{I_-+I_+}{2}=0.$$
これは対称的な有限部分が $0$ になることと整合する。
すなわち、
$$ \boxed{ \text{下側境界値} = \text{対称部分} +i\pi\cdot\text{正則化留数和} } $$
という構造になっており、今回は、
$$ 0+i\pi\left(-\frac{\pi}{4}\right)=-\frac{\pi^2}{4}i$$
である。

$-1+2-3+4-\cdots=-1/4$ との関係

Dirichlet のイータ関数を、
$$ \eta(s) = \sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^{n-1}}{n^s} $$
とする。
解析接続により、
$$\eta(s)=\left(1-2^{1-s}\right)\zeta(s)$$
であるから、
$$ \eta(-1) = (1-2^2)\zeta(-1) = (-3)\left(-\frac{1}{12}\right) = \frac14. $$
したがって形式的には、
$$ 1-2+3-4+\cdots=\frac14,$$
$$-1+2-3+4-\cdots=-\frac14$$
となる。
これは先ほどの Abel 正則化と同じ値である。
ただし、ここで注意すべきことがある。
発散級数に $-1/4$ を割り当てられることだけでは、発散積分の値は決まらない。
積分側と留数側に同じ正則化を入れ、その対応を示して初めて留数計算として意味を持つ。

Mittag–Leffler 展開から見えるもの

$\csc z$ は、
$$ \csc z = \frac{1}{z} + 2z\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-1)^n}{z^2-n^2\pi^2} $$
という部分分数展開を持つ。
したがって、
$$ \frac{z}{\sin z} = 1+ 2z^2\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-1)^n}{z^2-n^2\pi^2}. $$
この展開では $n\pi$$-n\pi$ の極が対称に組み合わされている。
無限個の極を扱うときには、留数をどの順序で足すか、どの極を対にするか、どの減衰因子を入れるかが結果に影響する。
有限個の留数については順序を気にする必要はないが、発散する無限和では順序や総和法そのものが数学的データの一部となる。
これが有限個の極に対する通常の留数定理と、正則化された無限留数計算との決定的な違いである。

結論

記号
$$\int_0^\infty\frac{x}{\sin x}\,dx$$
だけでは値は定まらない。
通常の広義積分としては発散する。
各極で対称主値を取り、極の中間で打ち切った有限部分は、
$$ 2G,-2G,2G,-2G,\ldots$$
と振動する。
その対称的な Cesàro 値は、
$$ 0$$
である。
一方、積分路を実軸の下側から近づけると、
$$ \boxed{ \lim_{\theta\to0^+} \int_0^{\infty e^{-i\theta}} \frac{z}{\sin z}\,dz = -\frac{\pi^2}{4}i } $$
となる。
上側から近づければ、
$$ \boxed{ \lim_{\theta\to0^+} \int_0^{\infty e^{i\theta}} \frac{z}{\sin z}\,dz = \frac{\pi^2}{4}i } $$
となる。
したがって、
$$ \int_0^\infty\frac{x}{\sin x}\,dx = -\frac{\pi^2}{4}i $$
とだけ書くのは正確ではない。
正しくは、
$$ \underset{\text{実軸の下側境界値}}{\operatorname{Reg}} \int_0^\infty\frac{x}{\sin x}\,dx = -\frac{\pi^2}{4}i $$
と書くべきである。
最初に扱った
$$\int_0^\infty\frac{x}{\sinh x}\,dx=\frac{\pi^2}{4}$$
との関係は、単に $\sinh(ix)=i\sin x$ を形式的に代入したものではない。
積分路を実軸から負の虚軸へ回転すると、
$$ \frac{z}{\sin z}\,dz \longmapsto -i\frac{t}{\sinh t}\,dt $$
となることが本質である。
今回現れた純虚数は「発散積分が複素数へ収束した」ことを意味しない。
実軸上の極を下から避けるか、上から避けるかという幾何学的な選択が、留数を通して虚部として記録されたのである。
正規化とは発散を無視する操作ではない。どの情報を残し、どの対称性を採用し、どの方向から境界へ近づいたかを明示した上で、発散する対象から有限な量を抽出する操作である。

おまけ

次の発散積分について考える。
$$ \int_0^\infty\frac{dx}{\cos x}. $$
通常の広義積分としては存在しないことを確認した上で、
$$ I_-= \lim_{\theta\to0^+} \int_0^{\infty e^{-i\theta}} \frac{dz}{\cos z}, \qquad I_+= \lim_{\theta\to0^+} \int_0^{\infty e^{i\theta}} \frac{dz}{\cos z} $$
を求めよ。
さらに、正の実軸上の極
$$ z=\left(n+\frac12\right)\pi \qquad (n=0,1,2,\ldots) $$
における留数を求め、その無限和を Abel 正則化することで、
$$ I_--I_+ $$
を留数から再現せよ。

全然解かなくてもいいです。ここまで読んでくださり有難うございました。

投稿日:5時間前
更新日:5時間前
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