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応用数学解説
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エネルギーの量子化とゼータ関数

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レイリー・ジーンズの公式におけるエネルギーを量子化すればプランクの公式が得られます。また、プランクの公式をすべての周波数に渡って積分すればゼータ関数が現れます。

黒体放射を表す3つの公式

黒体放射を数式で表す試みは、当初、低周波数と高周波数の領域が別の式で表されていました。

レイリー・ジーンズの公式(低周波数)

u(ν,T)=8πν2c3kT

ウィーンの公式(高周波数)

u(ν,T)=8πν3c31ehν/kT

これらの公式を1つにまとめたのがプランクの公式です。

プランクの公式(全周波数)

u(ν,T)=8πhν3c31ehν/kT1

ここでu(ν,T)は、周波数ν、絶対温度T(ケルビン)における分光エネルギー密度を表します。また、kはボルツマン定数、cは光速度、hはプランク定数です。

3つの公式の関係

低周波極限と高周波極限において、プランクの公式から他の公式が得られます。

レイリー・ジーンズの公式

低周波極限hνkTでは、ehν/kT1+hν/kTより

u(ν,T)=8πhν3c31ehν/kT18πhν3c31hν/kT=8πν2c3kT

ウィーンの公式

高周波極限hνkTでは、ehν/kT1ehν/kTより

u(ν,T)=8πhν3c31ehν/kT18πhν3c31ehν/kT

3つの公式の一般構造

これらの公式は共通の構造を持っています。

u(ν,T)=8πν2c3E

この式は2つの部分からなります。

  1. モード密度8πν2c3
    周波数νにおける単位体積当たりのモード(振動パターン)の数を表します。

  2. 平均エネルギーE
    周波数νにおけるモードが持つ平均エネルギーです。

モード密度の導出

モード密度は、3次元空間内に閉じ込められた電磁波の定常波の数を数えることで導出されます。一辺Lの立方体容器内では波数ベクトルがπ/L刻みで離散化されます。境界条件によって波の形が制限されるため、物理的に意味があるのは波数ベクトル成分が正(kx,ky,kz0)となる第1象限のみであるため、全空間の1/8となります。

波数空間で波数の大きさがkk+dkの間にある状態数は、球殻の体積要素

d(43πk3)=4πk2dk

を状態1つあたりの体積(π/L)3と第1象限への制限8で割った値になります。電磁波には2つの独立した偏光自由度があるため、モード数は

4πk2dk1(π/L)3182=L3k2π2dk

となります。これを体積L3で割って単位体積あたりに直し、関係式k=2πν/cを用いて周波数に変換すれば、dνの係数としてモード密度が得られます。

k2π2dk=(2πνc)21π2(2πcdν)=8πν2c3dν

平均エネルギーの違い

各公式の違いは、平均エネルギーEにあります。

  • レイリー・ジーンズの公式E=kT

  • ウィーンの公式E=hνehν/kT

  • プランクの公式E=hνehν/kT1

前述のように、プランクの公式の高周波極限がウィーンの公式です。

レイリー・ジーンズの公式とプランクの公式の違いは、単に低周波極限というだけに留まらず、取り得るエネルギーの違いに由来します。

レイリー・ジーンズの公式の平均エネルギーは、古典統計力学による振動子の平均エネルギーから求められます。

E=0EeE/kTdE0eE/kTdE=kT

プランクの公式の平均エネルギーは、エネルギーを離散的な値En=nhνn=0,1,2,)に制限することにより(エネルギーの量子化)、計算を積分から総和(シグマ)に変えることで求められます。

E=n=0EneEn/kTn=0eEn/kT=hνehν/kT1

歴史的には、プランクはまず実験データを説明できる式を見つけ、その後、この式を理論的に導出するために量子化という概念を導入しました。プランクは当初、hを実験データへの当てはめパラメーターと見なしており、その物理的意味はアインシュタインが光量子仮説を提案するまで完全には認識されませんでした。

連続的なエネルギー

レイリー・ジーンズの公式の平均エネルギーは、統計力学におけるボルツマン分布によって求められます。

統計力学では、熱平衡状態にある系においてエネルギーEを持つ状態が現れる確率は、ボルツマン因子eE/kTに比例します。これがボルツマン分布の基本的な考え方です。

P(E)eE/kT

この表現を確率分布として使うため、全確率が1になるように規格化します。

P(E)=eE/kT0eE/kTdE

物理量の平均値は、その量に確率を掛けて全状態にわたって積分することで求められます。これにより平均エネルギーEが求まります。

E=0EP(E)dE=0EeE/kTdE0eE/kTdE

変数変換x=EkTより、分母の積分を計算します。

0eE/kTdE=kT0exdx=kT[ex]0=kT

同じ変数変換で分子の積分も計算します。

0EeE/kTdE=0xkTexkTdx=(kT)20xexdx

積分の部分は、部分積分で計算できます。表面項(中辺第1項)が消える(0になる)のに注意してください。

0xexdu=[x(ex)]0+0exdx=0+[ex]0=1

ここまでの結果をEの式に代入します。

E=0EeE/kTdE0eE/kTdE=(kT)2kT=kT

離散的なエネルギー

プランクの公式の平均エネルギーを計算します。

E=n=0EneEn/kTn=0eEn/kT=n=0nhνenhν/kTn=0enhν/kT

x=ehν/kT (0<x<1)とおいて、分母について等比数列の和の公式を適用します。

n=0enhν/kT=n=0xn=11x

分子を整理します。

n=0nhνenhν/kT=hνn=0nxn

総和の部分は、xddxxn=nxnより計算できます。

n=0nxn=xddxn=0xn=xddx11x=x(1x)2

ここまでの結果をEの式に代入します。

E=hν(x1x)=hν(11x1)=hνehν/kT1

全エネルギー密度とゼータ関数

プランクの公式は、周波数νにおける単位体積あたりのエネルギー密度を表します。

u(ν,T)=8πhν3c31ehν/kT1

これをすべての周波数に渡って積分することで全エネルギー密度u(T)が得られ、ゼータ関数が現れます。

u(T)=0u(ν,T)dν=48πk4T4c3h3ζ(4)

全エネルギー密度の計算

この積分を計算するための変数変換としてx=hνkTとおけば、ν=kThxとなります。

u(T)=08πhc3(kThx)31ex1d(kThx)=8πk4T4c3h30x3ex1dx

積分の中を計算します。

1ex1=1ex(1ex)=ex1ex=exn=0enx=n=1enx

これを積分に戻して計算を進めます。途中、積分と総和の順序が交換できることを利用します。

0x3ex1dx=0x3n=1enxdx=n=10x3enxdx

積分の部分に、部分積分を3回適用します。表面項はすべて消えます。

0x3enxdx=003x2(1nenx)dx=3n0x2enxdx0x2enxdx=002x(1nenx)dx=2n0xenxdx0xenxdx=00(1nenx)dx=1n0enxdx

最後の積分は直接計算できます。

0enxdx=[1nenx]0=1n

この結果から逆にたどります。

0xenxdx=1n1n=1n20x2enxdx=2n1n2=2n30x3enxdx=3n2n3=6n40x3ex1dx=n=16n4=6ζ(4)

ここでリーマンゼータ関数が現れました。

リーマンゼータ関数

ζ(s)=n=11ns

ζ(4)=π490であることが知られているため(後述)、u(T)の式に代入します。

u(T)=8πk4T4c3h30x3ex1dx=8πk4T4c3h36π490=8π5k4T415c3h3

これはシュテファン=ボルツマンの法則に対応します。

シュテファン=ボルツマンの法則

u(T)=4σcT4

シュテファン=ボルツマン定数

σ=2π5k415c2h3

ゼータ関数の計算

ζ(4)=π490を示すには、フーリエ級数展開によるパーセヴァルの等式を用いる方法が一般的です。

区間[π,π]で定義された関数x2を考えます。これは偶関数なので、フーリエ級数は余弦項のみで表されます。

x2=12πππx2dx+n=11πππx2cos(nx)dx=π23+n=14(1)nn2cos(nx)

パーセヴァルの等式を用いて、フーリエ係数からL2ノルムを結びつけます。

12πππ|x2|2dx=|π23|2+12n=1|4(1)nn2|212πππx4dx=π49+12n=116n4π45=π49+8ζ(4)8ζ(4)=π45π49ζ(4)=π48(1519)=π490

参考文献

投稿日:33
更新日:34
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  1. 黒体放射を表す3つの公式
  2. 3つの公式の関係
  3. 3つの公式の一般構造
  4. モード密度の導出
  5. 平均エネルギーの違い
  6. 連続的なエネルギー
  7. 離散的なエネルギー
  8. 全エネルギー密度とゼータ関数
  9. 全エネルギー密度の計算
  10. ゼータ関数の計算
  11. 参考文献