この記事は後編です.前編はこちら: 記事「2つの準同型を同一視する【前編】」
$n$次対称群$\mathfrak{S}_n$の元の共役が3.2.1項で見た書き換えになっていることを見てみましょう.例として$4$次対称群$\mathfrak{S}_4$で考えます.
$\sigma=(1234),\sigma'=(1432),\tau=(12)(34)\in \mathfrak{S}_4$とします.計算により$\sigma'=\tau\sigma\tau^{-1}$や$\sigma'\tau=\tau\sigma$が成り立っていることがわかります.(よって$\sigma,\sigma'$は$\mathfrak{S}_4$の中で共役です.)ゆえに次の可換図式が成り立ちます:
ただし$A=\{1,2,3,4\}$とおきました.
$\tau$は全単射なので,$\sigma\overset{(\tau,\tau)}{\cong}\sigma'$です.そこで,3.2.1項で見たことと同じことをしてみましょう.
$\sigma,\sigma',\tau$の対応表は次の通りです:
$\sigma,\sigma',\tau$の対応表
$\sigma$の対応表について,始域と終域の両方を$\tau$によって書き換えてみましょう.すると,次のようになります:
$\tau$により書き換えた
$\sigma'$の対応表になりました!
また,$\sigma=(1234)$という表記についても$\tau$によって書き換えてみましょう.これ…
$\sigma$
を$\tau$で書き換えて…
書き換えた
となります.確かに$\sigma'=(1432)$になりましたね.え,なってない?$(2143)$になってるって?いえ,大丈夫です.$(2143)=(1432)$だからです.
3.2.1項で見たことがここでも成り立っていることが確認されました.
さて,ここで見たことは一般に成り立っていて,$\sigma,\tau\in\mathfrak{S}_n$に対して,$\tau\sigma\tau^{-1}$は$\sigma$を$\tau$によって書き換えたものになっているのです.これは対称群における計算をする際に役立ちます.
$G$を群とします.$G$の$1$次元表現とは,群準同型$G\to GL(1,\mathbb{C})$のことです.ただし$GL(1,\mathbb{C})$とは$\mathbb{C}$成分の正則な$1\times 1$行列全体がなす群です.$GL(1,\mathbb{C})$の元はある$\alpha\in\mathbb{C}^{\times}(=\mathbb{C}\setminus \{0\})$を用いて$(\alpha)$と書けます.
今,次の群同型があります:
\begin{array}{rccc}t:&\mathbb{C}^{\times}&\longrightarrow&GL(1,\mathbb{C})\\
&\alpha&\longmapsto&(\alpha)\end{array}
$\varphi:G\to \mathbb{C}^{\times}$を群準同型とすると,
\begin{array}{rccc}\overset{\sim}{\varphi}:&G&\longrightarrow&GL(1,\mathbb{C})\\
&g&\longmapsto&(\varphi(g))\end{array}
も群準同型になります.$\overset{\sim}{\varphi}$は$1$次元表現です.さて次の図式が可換になります:
よって$\varphi\cong\overset{\sim}{\varphi}$です.表現論では,この射同型をもって$\varphi:G\to \mathbb{C}^{\times}$自体を$1$次元表現とみなすことがあります.
環$A:=\mathbb{Z}[\sqrt{2}]$とそのイデアル$I:=(\sqrt{2}+3)$を考えます.
$B:=\mathbb{Z}[x]/(x^2-2)$とすると,次の環同型$A\cong B$があります:
\begin{array}{rcccc}
f:&A&\overset{\sim}{\longrightarrow}&B\\
&a+b\sqrt{2}&\longmapsto&a+bx&(\text{ただし}a,b\in\mathbb{Z})
\end{array}
$I\subset A$に対応する$B$のイデアル$J$を求めることを考えましょう.
$I$の生成元$\sqrt{2}+3$は同型$f$により$x+3\in B$に写ります.なので,$I$は$f$により$J:=(x+3)\subset B$に対応しそうです.実際次の可換図式が可換になります:
ただし$\overset{\sim}{f}$は$f$の制限,$i,j$はそれぞれ包含写像です.なお$I,J$は環ではないので,$f$以外は環準同型ではないのですが,$f,\overset{\sim}{f},i,j$は加法群についての群準同型にはなっています.$\overset{\sim}{f},f$は群同型なので,$i\cong j$です.$f$により$I$と$J$が対応することがわかりました.
ここで$2$つの包含写像$i:I\to A$と$j:J\to B$とは射同型なので,剰余環$A/I$と$B/J$が同型になることを期待するかもしれませんが,実際これは成立します.$f$が誘導する次の環準同型が同型になっています:
\begin{array}{rccc}
\overline{f}:&A/I&\longrightarrow&B/J\\
&z+I&\longmapsto&f(z)+J
\end{array}
ちなみに$\pi_A:A\to A/I,\pi_B:B\to B/J$をそれぞれ自然な全射環準同型とすると,環準同型からなる次の図式は可換図式になります:
さらにちなみに,次のようにして$A/I$を決定できます:
\begin{aligned}
A/I&\cong B/J\\
&\cong\mathbb{Z}[x]/(x^2-2,x+3)\\
&=\mathbb{Z}[x]/(7,x+3)\\
&\cong\mathbb{F}_7[x]/(x+3)\\
&\cong\mathbb{F}_7
\end{aligned}
3.2.3項で見たことの環論における具体例を見ましょう.
$A,B$は可換環で$A$は$B$の部分環とします.$J\subset B$を$B$のイデアルとします.このとき,$I:=J\cap A$もまた$A$のイデアルとなるため,剰余環$B/J$と$A/I$を考えることができます.
このとき,
\begin{array}{rccc}
f:&A/I&\longrightarrow &B/J\\
&a+I&\longmapsto &a+J
\end{array}
は$\text{well-defined}$で単射な環準同型になります.よって$f$により,$A/I$は$B/J$の部分環とみなすことができます.みなせるんですが,じゃあ一体$B/J$のどのような本当の部分集合が,$B/J$の部分環をなしているのでしょうか?3.2.3項を振り返れば,$f$の像を考えればいいことがわかります.
$f$の像は$C:=\{a+J\mid a\in A\}\subset B/J$であり,環準同型からなる次の可換図式が成り立ち,$f\cong i$がわかります:
ただし$\overset{\sim}{f}$は$f$の終域を制限したもの,$i$は包含写像です.
よって$A/I$は$B/J$の本当の部分環である$C$と同一視されます.
具体例を挙げておきます:
$A:=\mathbb{Z}\subset B:=\mathbb{Z}[\sqrt{-1}],\;J:=3B\subset B$とする.
$I=J\cap A=3\mathbb{Z}$となり,単射$A/I\to B/J$による$A/I$の像$C$は
$C=\{a+J\mid a\in \mathbb{Z}\}=\{0+J,1+J,2+J\}\subset B/J.$
ちなみに$B/J\cong \mathbb{F}_9,C\cong A/I\cong \mathbb{F}_3$となる.
$A/I$と$B/J$と$C$のイメージ
この節を通して$A$は環とします.
$M_1,M_2,N_1,N_2$を左$A$加群とします.左$A$加群の準同型からなる次の可換図式があり,$s,t$は同型であるとします:
このとき,$f_1\cong f_2$です.$f_1,f_2$は射同型なので,$\text{Ker}f_1\cong\text{Ker}f_2$や$\text{Coker}f_1\cong\text{Coker}f_2$が成り立つことを期待するかもしれませんが,実際これらは成立します.$s,t$が誘導する次の準同型が($\text{well-defined}$な)同型になります:
\begin{array}{rccc}\overset{\sim}{s}:&\text{Ker}f_1&\longrightarrow&\text{Ker}f_2\\
&m_1&\longmapsto&s(m_1)\\
\\
\overline{t}:&\text{Coker}f_1&\longrightarrow&\text{Coker}f_2\\
&\overline{n_1}&\longmapsto&\overline{t(n_1)}
\end{array}
実はこれらは加群の間の同型であるだけでなく,次のような可換図式が成り立ちます:
ただし,$i_1,i_2$は包含写像,$\pi_1,\pi_2$は自然な全射準同型です.$\overset{\sim}{s},s,t,\overline{t}$はそれぞれ同型なので,$i_1\cong i_2,\pi_1\cong\pi_2$となります.
左$A$加群準同型のなす図式
を考えます.この図式は完全列であると仮定します.つまり$\text{Im}f=\text{Ker}g$かつ$g$は全射とします.
この状況下で,$N$は$f$の余核$\text{Coker}f(=M/\text{Im}f)$とみなすことができることが知られています.みなすことができるというのは次のような意味です:
\begin{array}{rccc}\overline{g}:&\text{Coker}f&\longrightarrow&N\\
&m+\text{Im}f&\longmapsto&g(m)\end{array}
は左$A$加群の同型であり,図式
は可換になる.ただし$\pi$は自然な全射準同型.
よって,$\text{Coker}f\cong N$であり,$\pi\cong g$である.
射同型$\pi\cong g$は,$g$は自然な全射$\pi$と同一視できるということを言っています.
この項で見たことのさらなる具体例を3.6.4項に載せています.
$\mathbb{Z}$加群準同型
\begin{array}{rccc}f:&\mathbb{Z}&\longrightarrow&\mathbb{Z}\\
&n&\longmapsto&2n\end{array}
が誘導する$\mathbb{Z}$加群準同型
\begin{array}{rccc}f\otimes \text{id}_{\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}}:&\mathbb{Z}\underset{\mathbb{Z}}{\otimes} (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})
&\longrightarrow&\mathbb{Z}\underset{\mathbb{Z}}{\otimes} (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})
\\
&n\otimes m&\longmapsto&2n\otimes m\end{array}
を考えます.前編の命題$4$を用いて,$f\otimes \text{id}_{\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}}$が単射でないことを示してみましょう.
今,$\mathbb{Z}$加群としての同型
\begin{array}{rccc}s:&\mathbb{Z}\underset{\mathbb{Z}}{\otimes} (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})&\longrightarrow
&\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\\
&n\otimes m&\longmapsto&nm\end{array}
があります.この同型により,$f\otimes \text{id}:\mathbb{Z}\underset{\mathbb{Z}}{\otimes} (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\to\mathbb{Z}\underset{\mathbb{Z}}{\otimes} (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})$に対応する$g:\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\to \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$はなんでしょうか?図式
を可換にする$g$を見つければ良さそうです.この$g$を定めるのに,インスピレーションは要りません.前編の命題$1$により,$g:=s\circ (f\otimes \text{id})\circ s^{-1}$と定めればいいからです.このように定めた$g$は上の図式を可換にし,$f\otimes \text{id}\overset{(s,s)}{\cong} g$となります.$f\otimes \text{id}$は$g$と同一視されます.
さて,実際計算してみると,$g(1)=g(0)=0$となります.よって特に$g$は単射でないです.したがって前編の命題$4$により,$f\otimes \text{id}$も単射でないことが言えます.
なおこれは,$M_1\to M_2$が単射であっても$M_1\otimes N\to M_2\otimes N$が単射になるとは限らないことの具体例になっています.
3.6.2項で見たことの具体例を見ましょう.
$M_1,M_2,M_3$は右$A$加群で,右$A$加群準同型のなす次の図式は完全であるとします:
また,$N$は左$A$加群とします.このとき,テンソル積の右完全性により,$\mathbb{Z}$加群準同型のなす次の図式も完全です:
したがって,3.6.2項で見たことにより,$\mathbb{Z}$加群として$(M_2\underset{A}{\otimes}N)/\text{Im}(f\otimes \text{id}_N)\cong M_3\underset{A}{\otimes}N$となります.
これを使って$(\mathbb{Z}/3\mathbb{Z})\underset{\mathbb{Z}}{\otimes}(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})=0$を示してみましょう.
$A=\mathbb{Z},M_1=M_2=\mathbb{Z},M_3=\mathbb{Z}/3\mathbb{Z},N=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$とする.
$g:\mathbb{Z}\to \mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$は自然な全射準同型とする.
\begin{array}{rccc}f:&\mathbb{Z}&\longrightarrow&\mathbb{Z}\\
&n&\longmapsto&3n\end{array}
とする.このとき,$\mathbb{Z}$加群準同型の図式
は完全列である.
上で見たことから,$\mathbb{Z}$加群準同型の図式
は完全であり,$\mathbb{Z}$加群として$(\mathbb{Z}/3\mathbb{Z})\underset{\mathbb{Z}}{\otimes}(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong \mathbb{Z}\underset{\mathbb{Z}}{\otimes}(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})/\text{Im}(f\otimes \text{id}).$
さて,$f\otimes \text{id}:\mathbb{Z}\underset{\mathbb{Z}}{\otimes}(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\to \mathbb{Z}\underset{\mathbb{Z}}{\otimes}(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})$の全射を示す.すると,$(\mathbb{Z}/3\mathbb{Z})\underset{\mathbb{Z}}{\otimes}(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\cong \mathbb{Z}\underset{\mathbb{Z}}{\otimes}(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})/\text{Im}(f\otimes \text{id})=0$が得られる.
今,$\mathbb{Z}$加群の同型
\begin{array}{rccc}s:&\mathbb{Z}\underset{\mathbb{Z}}{\otimes}(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})&\longrightarrow&\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\\&n\otimes m&\longmapsto&nm\end{array}
がある.$h:\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$を$h=s\circ (f\otimes\text{id})\circ s^{-1}$で定めると,次の図式は可換:
この章全体で$\mathcal{C}$を圏とします.この章では射同型と同型射の両方が出てくるので注意してください.
前編の定義$1$における射同型という関係は,射の圏における同型になっていることを見ましょう.
$\mathcal{C}$の射の圏$\overset{\sim}{\mathcal{C}}$を次のように定めます:
$\overset{\sim}{\mathcal{C}}$の対象は$\mathcal{C}$の$2$つの対象とそれらの間の射の$3$つ組$(A,B,f:A\to B).$
$(A,B,f:A\to B),(C,D,g:C\to D)$を$\overset{\sim}{\mathcal{C}}$の対象とするとき,$\overset{\sim}{\mathcal{C}}$における射$(A,B,f:A\to B)\to(C,D,g:C\to D)$とは,$\mathcal{C}$における射$s:A\to C$と$t:B\to D$との組$(s,t)$であって,次の可換図式を満たすもの:
$\overset{\sim}{\mathcal{C}}$の対象$(A,B,f:A\to B)$を,$A,B$の情報を省略して単に$f$とも書くことにしましょう.
$\overset{\sim}{\mathcal{C}}$における射$(s,t):f\to g$が同型射であることは,$s,t$がともに$\mathcal{C}$における同型射であることと同値です.したがって次のことが成り立ちます:
$f,g$は圏$\mathcal{C}$における射とする.
このとき,$f,g$が前編の定義$1$の意味で射同型であることは,$f,g$が$\overset{\sim}{\mathcal{C}}$の対象として同型であることと同値.
圏$I$を次のように定めます:
$I$の対象は$0$と$1$.
$I$の射は$\text{id}_0:0\to 0$と$\text{id}_1:1\to 1$と$\varphi:0\to 1$.
この$I$を用いて$I$から$\mathcal{C}$への関手のなす圏$\mathcal{C}^I$を次のように定めます:
$\mathcal{C}^I$の対象は関手$F:I\to \mathcal{C}.$
$F,G$を$\mathcal{C}^I$の対象とするとき,$\mathcal{C}^I$における射$F\to G$とは,自然変換$\alpha:F\to G.$
さて,先ほどの$\overset{\sim}{\mathcal{C}}$と$\mathcal{C}^I$とは圏同値です.詳しくは書きませんが,関手$I\to \mathcal{C}$とは,$\mathcal{C}$の射を指定することに他ならないからです.したがって,$\mathcal{C}$における射$f,g$が前編の定義$1$の意味で射同型であることは,$f,g$のそれぞれに対応する$\mathcal{C}^I$の対象$F,G$が同型であることと同値です.
4.2.1項の圏$I$を別の圏に取り替えることで,この記事では触れなかった,より複雑な図式の同型を考えることもできます.そのことを最後に見ましょう.
例えば圏$J$を次のように定めます:
$J$の対象は$0,1,2.$
$J$の射は$\text{id}_i(i=0,1,2)$と$\varphi:0\to 1$と$\psi:1\to 2$と$\psi\circ\varphi:0\to 2.$
$J$から$\mathcal{C}$への関手のなす圏$\mathcal{C}^J$を考えます.$\mathcal{C}^J$の対象は,$\mathcal{C}$における
という形の図式ことです.
また$\mathcal{C}$における可換図式
があり$3$本の縦の射が全て同型射のとき,上の行$A\to B\to C$と下の行$A'\to B'\to C'$とが$\mathcal{C}^J$の対象として同型ということになります.このとき,上の行と下の行とは同一視でき,色々な性質を共にすると思っていいです.
次に,$\mathbb{Z}$を通常の順序によって圏とみなしましょう.
圏$\mathbb{Z}:$
圏$\mathbb{Z}$から圏$\mathcal{C}$への関手のなす圏$\mathcal{C}^{\mathbb{Z}}$における対象は,$\mathcal{C}$における左右に伸びる図式
です.また,$\mathcal{C}$における可換図式
があり,縦の射が全て同型射であるとき,上の行と下の行とが$\mathcal{C}^{\mathbb{Z}}$の対象として同型ということになります.
$A$を環として,$\mathcal{C}=A\text{-Mod}$の場合を考えることで,加群の複体どうしの同型を考えることができます.同型な$2$つの複体は同一視でき,色々な性質を共にすると思っていいです.例えばそれらの第$n$(コ)ホモロジー群が同型になります.
この記事を書いてるときに,私はスキームについて勉強していました.スキームの射$\varphi:Y\to X$が開埋め込み(5p.28)であるとは,$X$の開部分スキーム$U$と自然な$i:U\to X$および同型射$\psi:Y\to U$が存在して次の可換図式を満たすもののことを言います:
つまり,$\varphi:Y\to X$が開埋め込みであるとは,$\varphi\overset{(\psi,\text{id}_X)}{\cong}i$となるような$i:U\to X$が存在するということですね.
ここで重要なのは,スキームとか,開部分スキームという用語を知らなくても,「開埋め込みとは要するにある$i:U\to X$と同一視できる射のことなんだな」と理解できることです.
実は5p.28の定義には上の可換図式は出てこず,$\varphi=i\circ\psi$という関係で(式として)書かれています.この式だけでは「?」となってしまうかもしれませんが,可換図式を書いてみると「あーこれはことりのあの記事に出てきた射同型じゃないか!」と気づけると思います.
スキームの開埋め込みであることの定義は結構難しいと思うのですが(そうでもない?),自分で手を動かして可換図式を書くと,ただの同一視だと気づいてちょっと安心できます.
あなたも数学をするときは積極的に可換図式を書いて,「あーなんだただの射同型か!射の同一視か!」と安心してみてください!おしまい.