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大学数学基礎解説
文献あり

2つの準同型を同一視する【後編】

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この記事は後編です.前編はこちら: 記事「2つの準同型を同一視する【前編】」

3.4 群論

3.4.1 対称群における元の共役

n次対称群Snの元の共役が3.2.1項で見た書き換えになっていることを見てみましょう.例として4次対称群S4で考えます.
σ=(1234),σ=(1432),τ=(12)(34)S4とします.計算によりσ=τστ1στ=τσが成り立っていることがわかります.(よってσ,σS4の中で共役です.)ゆえに次の可換図式が成り立ちます:


AστAτAσA

ただしA={1,2,3,4}とおきました.
τは全単射なので,σ(τ,τ)σです.そこで,3.2.1項で見たことと同じことをしてみましょう.
σ,σ,τの対応表は次の通りです:
!FORMULA[14][-924676181][0]の対応表 σ,σ,τの対応表
σの対応表について,始域と終域の両方をτによって書き換えてみましょう.すると,次のようになります:
!FORMULA[17][1119166004][0]により書き換えた τにより書き換えた
σの対応表になりました!
また,σ=(1234)という表記についてもτによって書き換えてみましょう.これ…
!FORMULA[21][1755120983][0] σ
τで書き換えて…
書き換えた 書き換えた
となります.確かにσ=(1432)になりましたね.え,なってない?(2143)になってるって?いえ,大丈夫です.(2143)=(1432)だからです.
3.2.1項で見たことがここでも成り立っていることが確認されました.

さて,ここで見たことは一般に成り立っていて,σ,τSnに対して,τστ1στによって書き換えたものになっているのです.これは対称群における計算をする際に役立ちます.

3.4.2 1次元表現

Gを群とします.G1次元表現とは,群準同型GGL(1,C)のことです.ただしGL(1,C)とはC成分の正則な1×1行列全体がなす群です.GL(1,C)の元はあるαC×(=C{0})を用いて(α)と書けます.

今,次の群同型があります:
t:C×GL(1,C)α(α)

φ:GC×を群準同型とすると,
φ:GGL(1,C)g(φ(g))
も群準同型になります.φ1次元表現です.さて次の図式が可換になります:

GφC×tGφGL(1,C)

よってφφです.表現論では,この射同型をもってφ:GC×自体を1次元表現とみなすことがあります.

3.5 環論

3.5.1 イデアルの対応と剰余環

A:=Z[2]とそのイデアルI:=(2+3)を考えます.

B:=Z[x]/(x22)とすると,次の環同型ABがあります:
f:ABa+b2a+bx(ただしa,bZ)

IAに対応するBのイデアルJを求めることを考えましょう.
Iの生成元2+3は同型fによりx+3Bに写ります.なので,IfによりJ:=(x+3)Bに対応しそうです.実際次の可換図式が可換になります:

IifAfJjB

ただしffの制限,i,jはそれぞれ包含写像です.なおI,Jは環ではないので,f以外は環準同型ではないのですが,f,f,i,jは加法群についての群準同型にはなっています.f,fは群同型なので,ijです.fによりIJが対応することがわかりました.

ここで2つの包含写像i:IAj:JBとは射同型なので,剰余環A/IB/Jが同型になることを期待するかもしれませんが,実際これは成立します.fが誘導する次の環準同型が同型になっています:
f:A/IB/Jz+If(z)+J

ちなみにπA:AA/I,πB:BB/Jをそれぞれ自然な全射環準同型とすると,環準同型からなる次の図式は可換図式になります:


AπAfA/IfBπBB/J

f,fは環同型なので,πAπBとなります.

さらにちなみに,次のようにしてA/Iを決定できます:
A/IB/JZ[x]/(x22,x+3)=Z[x]/(7,x+3)F7[x]/(x+3)F7

3.5.2 みなし部分環と本当の部分環

3.2.3項で見たことの環論における具体例を見ましょう.

A,Bは可換環でABの部分環とします.JBBのイデアルとします.このとき,I:=JAもまたAのイデアルとなるため,剰余環B/JA/Iを考えることができます.
このとき,
f:A/IB/Ja+Ia+J
well-defined単射な環準同型になります.よってfにより,A/IB/Jの部分環とみなすことができます.みなせるんですが,じゃあ一体B/Jのどのような本当の部分集合が,B/Jの部分環をなしているのでしょうか?3.2.3項を振り返れば,fの像を考えればいいことがわかります.
fの像はC:={a+JaA}B/Jであり,環準同型からなる次の可換図式が成り立ち,fiがわかります:


A/IffB/JCiB/J

ただしffの終域を制限したもの,iは包含写像です.
よってA/IB/Jの本当の部分環であるCと同一視されます.

具体例を挙げておきます:

A:=ZB:=Z[1],J:=3BBとする.

I=JA=3Zとなり,単射A/IB/JによるA/Iの像C
C={a+JaZ}={0+J,1+J,2+J}B/J.

ちなみにB/JF9,CA/IF3となる.
!FORMULA[124][35230637][0]と!FORMULA[125][35260459][0]と!FORMULA[126][36709][0]のイメージ A/IB/JCのイメージ

3.6 環上の加群

この節を通してAは環とします.

3.6.1 核と余核

M1,M2,N1,N2を左A加群とします.左A加群の準同型からなる次の可換図式があり,s,tは同型であるとします:

M1f1sN1tM2f2N2

このとき,f1f2です.f1,f2は射同型なので,Kerf1Kerf2Cokerf1Cokerf2が成り立つことを期待するかもしれませんが,実際これらは成立します.s,tが誘導する次の準同型が(well-definedな)同型になります:
s:Kerf1Kerf2m1s(m1)t:Cokerf1Cokerf2n1t(n1)

実はこれらは加群の間の同型であるだけでなく,次のような可換図式が成り立ちます:


Kerf1i1sM1sN1π1tCokerf1tKerf2i2M2N2π2Cokerf2

ただし,i1,i2は包含写像,π1,π2は自然な全射準同型です.s,s,t,tはそれぞれ同型なので,i1i2,π1π2となります.

3.6.2 みなし余核と本当の余核

A加群準同型のなす図式


LfMgN0

を考えます.この図式は完全列であると仮定します.つまりImf=Kergかつgは全射とします.

この状況下で,Nfの余核Cokerf(=M/Imf)みなすことができることが知られています.みなすことができるというのは次のような意味です:

g:CokerfNm+Imfg(m)
は左A加群の同型であり,図式

MπCokerfgMgN

は可換になる.ただしπは自然な全射準同型.

よって,CokerfNであり,πgである.

射同型πgは,gは自然な全射πと同一視できるということを言っています.

この項で見たことのさらなる具体例を3.6.4項に載せています.

3.6.3 テンソル積(1)

Z加群準同型
f:ZZn2n
が誘導するZ加群準同型
fidZ/2Z:ZZ(Z/2Z)ZZ(Z/2Z)nm2nm
を考えます.前編の命題4を用いて,fidZ/2Zが単射でないことを示してみましょう.

今,Z加群としての同型
s:ZZ(Z/2Z)Z/2Znmnm
があります.この同型により,fid:ZZ(Z/2Z)ZZ(Z/2Z)に対応するg:Z/2ZZ/2Zはなんでしょうか?図式

ZZ(Z/2Z)fidsZZ(Z/2Z)sZ/2ZgZ/2Z

を可換にするgを見つければ良さそうです.このgを定めるのに,インスピレーションは要りません.前編の命題1により,g:=s(fid)s1と定めればいいからです.このように定めたgは上の図式を可換にし,fid(s,s)gとなります.fidgと同一視されます.

さて,実際計算してみると,g(1)=g(0)=0となります.よって特にgは単射でないです.したがって前編の命題4により,fidも単射でないことが言えます.

なおこれは,M1M2が単射であってもM1NM2Nが単射になるとは限らないことの具体例になっています.

3.6.4 テンソル積(2)

3.6.2項で見たことの具体例を見ましょう.
M1,M2,M3は右A加群で,右A加群準同型のなす次の図式は完全であるとします:

M1fM2gM30

また,Nは左A加群とします.このとき,テンソル積の右完全性により,Z加群準同型のなす次の図式も完全です:

M1ANfidNM2ANgidNM3AN0

したがって,3.6.2項で見たことにより,Z加群として(M2AN)/Im(fidN)M3ANとなります.

これを使って(Z/3Z)Z(Z/2Z)=0を示してみましょう.

A=Z,M1=M2=Z,M3=Z/3Z,N=Z/2Zとする.
g:ZZ/3Zは自然な全射準同型とする.
f:ZZn3n
とする.このとき,Z加群準同型の図式

ZfZgZ/3Z0

は完全列である.

上で見たことから,Z加群準同型の図式

ZZ(Z/2Z)fidZZ(Z/2Z)gid(Z/3Z)Z(Z/2Z)0

は完全であり,Z加群として(Z/3Z)Z(Z/2Z)ZZ(Z/2Z)/Im(fid).

さて,fid:ZZ(Z/2Z)ZZ(Z/2Z)の全射を示す.すると,(Z/3Z)Z(Z/2Z)ZZ(Z/2Z)/Im(fid)=0が得られる.

今,Z加群の同型
s:ZZ(Z/2Z)Z/2Znmnm
がある.h:Z/2ZZ/2Zh=s(fid)s1で定めると,次の図式は可換:

ZZ(Z/2Z)fidsZZ(Z/2Z)sZ/2ZhZ/2Z

計算により,h(0)=0,h(1)=1がわかるので,h=idZ/2Zであり,hは全射.よって前編の命題5により,fid:ZZ(Z/2Z)ZZ(Z/2Z)も全射であることがわかり,(Z/3Z)Z(Z/2Z)=0を得る.

4.圏論を用いて整理してみよう

この章全体でCを圏とします.この章では射同型と同型射の両方が出てくるので注意してください.

4.1 射の圏

前編の定義1における射同型という関係は,射の圏における同型になっていることを見ましょう.

Cの射の圏Cを次のように定めます:

Cの対象はC2つの対象とそれらの間の射の3つ組(A,B,f:AB).
(A,B,f:AB),(C,D,g:CD)Cの対象とするとき,Cにおける射(A,B,f:AB)(C,D,g:CD)とは,Cにおける射s:ACt:BDとの組(s,t)であって,次の可換図式を満たすもの:

AfsBtCgD

Cの対象(A,B,f:AB)を,A,Bの情報を省略して単にfとも書くことにしましょう.

Cにおける射(s,t):fgが同型射であることは,s,tがともにCにおける同型射であることと同値です.したがって次のことが成り立ちます:

f,gは圏Cにおける射とする.
このとき,f,gが前編の定義1の意味で射同型であることは,f,gCの対象として同型であることと同値.

4.2 関手圏として見る

4.2.1 射の圏は関手圏

Iを次のように定めます:

Iの対象は01
Iの射はid0:00id1:11φ:01

0φ1

このIを用いてIからCへの関手のなす圏CIを次のように定めます:

CIの対象は関手F:IC.
F,GCIの対象とするとき,CIにおける射FGとは,自然変換α:FG.

さて,先ほどのCCIとは圏同値です.詳しくは書きませんが,関手ICとは,Cの射を指定することに他ならないからです.したがって,Cにおける射f,gが前編の定義1の意味で射同型であることは,f,gのそれぞれに対応するCIの対象F,Gが同型であることと同値です.

4.2.2 ほかの図式の同型

4.2.1項の圏Iを別の圏に取り替えることで,この記事では触れなかった,より複雑な図式の同型を考えることもできます.そのことを最後に見ましょう.
例えば圏Jを次のように定めます:

Jの対象は0,1,2.
Jの射はidi(i=0,1,2)φ:01ψ:12ψφ:02.

0φ1ψ2

JからCへの関手のなす圏CJを考えます.CJの対象は,Cにおける

ABC

という形の図式ことです.

またCにおける可換図式

ABCABC

があり3本の縦の射が全て同型射のとき,上の行ABCと下の行ABCとがCJの対象として同型ということになります.このとき,上の行と下の行とは同一視でき,色々な性質を共にすると思っていいです.

次に,Zを通常の順序によって圏とみなしましょう.

Z:

...21012...

Zから圏Cへの関手のなす圏CZにおける対象は,Cにおける左右に伸びる図式

...M2M1M0M1M2...

です.また,Cにおける可換図式

...M2M1M0M1M2......M2M1M0M1M2...

があり,縦の射が全て同型射であるとき,上の行と下の行とがCZの対象として同型ということになります.
Aを環として,C=A-Modの場合を考えることで,加群の複体どうしの同型を考えることができます.同型な2つの複体は同一視でき,色々な性質を共にすると思っていいです.例えばそれらの第n(コ)ホモロジー群が同型になります.

5.おわりに

この記事を書いてるときに,私はスキームについて勉強していました.スキームの射φ:YXが開埋め込み(5p.28)であるとは,Xの開部分スキームUと自然なi:UXおよび同型射ψ:YUが存在して次の可換図式を満たすもののことを言います:


YφψXUiX

つまり,φ:YXが開埋め込みであるとは,φ(ψ,idX)iとなるようなi:UXが存在するということですね.

ここで重要なのは,スキームとか,開部分スキームという用語を知らなくても,「開埋め込みとは要するにあるi:UXと同一視できる射のことなんだな」と理解できることです.

実は5p.28の定義には上の可換図式は出てこず,φ=iψという関係で(式として)書かれています.この式だけでは「?」となってしまうかもしれませんが,可換図式を書いてみると「あーこれはことりのあの記事に出てきた射同型じゃないか!」と気づけると思います.

スキームの開埋め込みであることの定義は結構難しいと思うのですが(そうでもない?),自分で手を動かして可換図式を書くと,ただの同一視だと気づいてちょっと安心できます.

あなたも数学をするときは積極的に可換図式を書いて,「あーなんだただの射同型か!射の同一視か!」と安心してみてください!おしまい.

参考文献

[1]
雪江明彦, 代数学1 群論入門, 日本評論社, 2010
[2]
雪江明彦, 代数学2 環と体とガロア理論, 日本評論社, 2010
[3]
永井保成, 代数学入門 群・環・体の基礎とガロワ理論, 森北出版, 2024
[4]
T.レンスター, ベーシック圏論 普遍性からの速習コース, 丸善出版, 2017
[5]
渡辺敬一・日高文夫, 特異点論における代数的手法, 共立出版
投稿日:2024712
更新日:2024712
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  1. 3.4 群論
  2. 3.5 環論
  3. 3.6 環上の加群
  4. $4.$圏論を用いて整理してみよう
  5. 4.1 射の圏
  6. 4.2 関手圏として見る
  7. $5.$おわりに
  8. 参考文献