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大学数学基礎解説
文献あり

spanで読み解く引き戻しのpasting lemma

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概要

引き戻しには pasting lemma という基本的で重要な補題がある。次の図式の状況で、$(P_1;l,r)$$g,h$の引き戻しのとき、$(P_2;\lambda,\rho)$$f,l$ の引き戻しであることと、$(P_2;\lambda,r \circ \rho)$$g \circ f,h$ の引き戻しであることが同値になる、というものである。
正方形二つ 正方形二つ

この補題の証明は地道に普遍性を確かめれば単純計算で求まるため、いろんな教科書で演習問題に丸投げされ、解答解説がつくことは中々無い。
ベーシック圏論(第1版)の日本語版では、演習問題の解説で pasting lemma の解法をも掲載しているのだが、まあ単純計算がそのまま載っている。
この補題では、n-table の知識があれば可換図式の中に構造を見つけることができる。
n-table の性質を利用して、pasting lemma の証明をちょっとだけ見通し良くしよう。

本題

n-span、n-table、引き戻し

n-span、n-table

対象と射の有限列 $(X;x_1,x_2,\cdots,x_n)$n-span とは、各 $x_1,x_2,\cdots,x_n$ の始域が全て $X$ であることをいう。

n-span $(T;f_1,f_2,\cdots,f_n)$n-table とは、$f_1,f_2,\cdots,f_n$ が jointly monic family を成すことをいう。

つまり、任意の $x,y\colon X \to T$ について、$\bigwedge_{i=1}^n f_i \circ x = f_i \circ y$ ならば $x = y$ が従うことをいう。

span の射

$A_1,A_2,\cdots,A_n$ 上の n-span $(X;f_1,f_2,\cdots,f_n),(Y;g_1,g_2,\cdots,g_n)$ が与えられたとき、$\theta \colon X \to Y$span の射 とは、$\bigwedge_{i=1}^n f_i = g_i \circ \theta$ が成り立つことをいう。

n-span、n-table の詳細は、過去の記事を参照してもらいたい。
https://mathlog.info/articles/vzYaB1kj0PB0ChQkkLfU
n-table の定義はつまるところ、n-table に向かう span の射が存在すれば一意であると言っている。

一般に、n-table に向かう span の射がいつ存在するのかはわからないものだが、次のように span の射の存在条件が明示されている特別な場合もある。

引き戻し

$f\colon A \to C,g\colon B \to C$ の引き戻しとは、$A,B$ 上の 2-table $(P;l,r)$ のうち次の普遍性を満たすもののことをいう。
引き戻しの普遍性 引き戻しの普遍性

定義より、$f,g$ の引き戻し $(P;l,r)$ は 2-table である。しかも、同じ足の 2-span $(X;x,y)$ から $(P;l,r)$ へ span の射が存在するための必要十分条件が、方程式の形で提示されている。つまり、$f \circ x = g \circ y$ が成り立つときのみ、$(X;x,y)$ から $(P;l,r)$ に向かう span の射が存在する。

n-table の基本性質

$A,T'$ 上の 2-span $(T;f_1,f_2)$ と、$B,C$ 上の 2-table $(T';g_1,g_2)$ が任意に与えられたとする。

このとき、$(T;f_1,f_2)$ が 2-table であることは、$(T;f_1,g_1\circ f_2,g_2 \circ f_2)$ が 3-table であることと同値。
tableの連結 tableの連結

$(\Longrightarrow)$ $x,y \colon X \to T$ を任意に取り、

$$ \begin{aligned} f_1 \circ x &= f_1 \circ y,\\ g_1 \circ f_2 \circ x &= g_1 \circ f_2 \circ y,\\ g_2 \circ f_2 \circ x &= g_2 \circ f_2 \circ y \end{aligned} $$

と仮定する。

$(T';g_1,g_2)$ は 2-table であるから、下二つの方程式より、$f_2 \circ x = f_2 \circ y$ が成立。

かつ $f_1 \circ x = f_1 \circ y$ であり、$(T;f_1,f_2)$ は 2-table と仮定したから、$x = y$ が従う。

よって $(T;f_1,g_1 \circ f_2,g_2 \circ f_2)$ は 3-table の定義を満たす。

$(\Longleftarrow)$ $x,y \colon X \to T$ を任意に取り、

$$ f_1 \circ x = f_1 \circ y,\quad f_2 \circ x = f_2 \circ y $$

と仮定する。

このとき $g_1 \circ f_2 \circ x = g_1 \circ f_2 \circ y$ かつ $g_2 \circ f_2 \circ x = g_2 \circ f_2 \circ y$ であるから、$(T;f_1,g_1 \circ f_2,g_2 \circ f_2)$ を 3-table と仮定したことにより、$x = y$。したがって $(T;f_1,f_2)$ は 2-table の定義を満たす。

短絡

n-table $(T;f_1,f_2,\cdots,f_n)$ に於いて $f_k\ (1 \leq k \leq n)$短絡(short) とは、任意の $x,y\colon X \to T$ に対し、$f_k \circ x \neq f_k \circ y$ が成り立つならば、ある $f_j\ (1 \leq j < k)$$f_j \circ x \neq f_j \circ y$ が成り立つことをいう。

n-table に短絡な脚があるとき、それは jointly monic family であることに実質的に寄与していない。よって、それを除去しても、jointly monic family であることは崩れない。

短絡な脚の除去

n-table $(T;f_1,f_2,\cdots,f_n)$$f_k\ (1 \leq k \leq n)$ が短絡だとする。このとき、$f_k$ を除去した族 $(T;f_1,f_2,\cdots,f_{k-1},f_{k+1},\cdots,f_n)$ は尚も $(n-1)$-table である。

n-table $(T;\vec{f})$ の脚の一つ $f_k$ が短絡だと仮定する。

短絡の定義の対偶を取ると、$f_k$ が短絡とは、任意の $x,y\colon X \to T$ に対し、$\bigwedge_{i=1}^{k-1}f_i \circ x = f_i \circ y$ ならば $f_k \circ x = f_k \circ y$ が成り立つことをいう。

よって、$\bigwedge_{i=1}^{k-1} f_i \circ x = f_i \circ y$ かつ $\bigwedge_{i=k+1}^n f_i \circ x = f_i \circ y$ ならば $\bigwedge_{i=1}^n f_i \circ x = f_i \circ y$ が従う。

$(T;f_1,f_2,\cdots,f_n)$ は n-table だったから、$\bigwedge_{i=1}^n f_i\circ x = f_i \circ y$ ならば $x = y$

したがって、$\bigwedge_{i=1}^{k-1} f_i \circ x = f_i \circ y$ かつ $\bigwedge_{i=k+1}^n f_i \circ x = f_i \circ y$ ならば $x = y$ が従うが、これは $(T;f_1,f_2,\cdots,f_{k-1},f_{k+1},\cdots,f_n)$$(n-1)$-table であることを示している。

脚の追加

$(T;f_1,f_2,\cdots,f_n)$ を n-table とする。

このとき、$T$ を始域にもつ任意の射を列中の任意の位置に追加して得た $(T;f_1,f_2,\cdots,f_n,f_{n+1})$ は尚も $(n+1)$-table である。

これは明らかである。追加した射がなんであれ、それ以外が jointly monic family を成していれば全体は jointly monic family を成す。

pasting lemmaの証明

さて、pasting lemma の図式をもう一度見てみよう。
正方形二つ 正方形二つ

引き戻しに含まれうる部分を抜き出すと次の形をしている。
引き戻しに含まれうる部分 引き戻しに含まれうる部分

three-tableを使える形をしているのが分かる。これに注目して、pasting lemma を見通しよく証明して終わりにしよう。

pasting lemma

次の図式に於いて、$(P_1;l,r)$$g,h$ の引き戻しとする。このとき、$(P_2;\lambda,\rho)$$f,l$ の引き戻しであることは、$(P_2;\lambda,r \circ \rho)$$g \circ f,h$ の引き戻しであることと同値。
pasting lemma pasting lemma

$(\Longrightarrow)$ $(P_2;\lambda,\rho)$$f,l$ の引き戻しだと仮定する。

引き戻しの定義より、$(P_2;\lambda,\rho),(P_1;l,r)$ は 2-table であるから、three-tableより $(P_2;\lambda,l\circ \rho,r\circ \rho)$$A,B,C$ 上の 3-table である。

このうち、2番目の脚 $l\circ \rho$ は短絡である。実際、$l\circ \rho = f \circ \lambda$ であるから、任意の $p,q \colon X \to P_2$ に対し、$\lambda \circ p = \lambda \circ q$ ならば $f \circ \lambda \circ p = f \circ \lambda \circ q$、したがって $l \circ \rho \circ p = l \circ \rho \circ q$ が成り立ち、$l \circ \rho$ が短絡であることの定義(の対偶)が成立している。

よって remove-shortより、$(P_2;\lambda,r \circ \rho)$$A,C$ 上の 2-table である。

$A,C$ 上の任意の 2-span $(X;x,y)$ を取り、$g\circ f \circ x = h \circ y$ と仮定すると、二つの引き戻しの普遍性より次が成立。

$(P_2;\lambda,r \circ \rho)$ が 2-table であることから、図中の射 $X \to P_2$ は一意でなければならない。よって $(P_2;\lambda,r \circ \rho)$ は引き戻しの普遍性を満たす。

$(\Longleftarrow)$ $(P_2;\lambda,r \circ \rho)$$g\circ f,h$ の引き戻しだと仮定する。

このとき、add-shortより、$(P_2;\lambda,l \circ \rho,r \circ \rho)$$A,B,C$ 上の 3-table であるから、three-tableより、$(P_2;\lambda,\rho)$ は 2-table である。

$(X;x,y)$$A,P_1$ 上の任意の span として、$f \circ x = l \circ y$ と仮定する。

このとき二つの引き戻しの普遍性から次が成り立つ。

$$ \begin{aligned} l \circ y &= f \circ \lambda \circ \theta = l \circ \rho \circ \theta,\\ r \circ y &= r \circ \rho \circ \theta \end{aligned} $$

より、引き戻し $(P_1;l,r)$ の普遍性から $y = \rho \circ \theta$ が成立。よって $x = \lambda \circ \theta$ かつ $y = \rho \circ \theta$

$\theta$$(X;x,y)$ に対して一意であることは、$(P_2;\lambda,\rho)$ が 2-table であることから従う。

参考文献

[1]
Freyd, Peter J. and Scedrov, Andre, Categories, Allegories, North-Holland Mathematical Library, North-Holland, 1990
投稿日:1日前
更新日:1日前
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