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ノルムとは、単なるベクトル空間上の平行移動不変で絶対同次な距離でしかないことを示す。$\mathbb{K}$を絶対値付き体とする。
ノルムベクトル空間
$\mathbb{K}$-ベクトル空間$V$上のノルムとは、写像$\|\cdot\|:V\rightarrow\mathbb{R}_0^+$で
劣絶対同次性 | 各$x\in V$と$\alpha\in\mathbb{K}$に対して $ \|\alpha\triangleright x\|\leq|\alpha|\cdot\|x\|$ |
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劣加法性 | 各$x,y\in V$に対して $\|x+_V y\|\leq \|x\|+\|y\|$ |
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独立性 | 各$x\in V$に対して $\|x\|=0$ならば$x=0_V$ |
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を満たすもののこと。ペア$(V,\|\cdot\|)$を$\mathbb{K}$-ノルムベクトル空間、または単にノルムベクトル空間、ノルム空間という。
ちなみに、上の定義で独立性を満たすとは限らないものをセミノルムと呼ぶ。劣絶対同次性から、0のノルムは0であることと絶対同次性が言える。
$(V,\|\cdot\|)$をノルムベクトル空間とする。このとき次が成り立つ。
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絶対同次性 | 各$x\in V$と$\alpha\in\mathbb{K}$に対して $ \|\alpha\triangleright x\|=|\alpha|\cdot\|x\|$ |
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進次郎について
劣絶対同次性より $$\|0_V\|=\|0\triangleright 0_V\|\leq|0|\cdot\|0_V\|=0$$なので$\|0_V\|\leq 0$。ノルムは非負なので$\|0_V\|\geq 0$。
絶対同次性について
$x\in V$を任意に固定する
[1]$\,\alpha=0$のとき:ノルムは非負なので$$\|0\triangleright x\|=\|0_V\|\geq0=|0|\cdot\|x\|$$なので従う。
[2]$\,\alpha\neq0$のとき:$\cfrac{1}{\alpha}\in\mathbb{K}$と$\alpha\triangleright x\in V$について劣絶対同次性を適用すると\begin{array}{rrcll} &\|x\|=\left\|\dfrac{1}{\alpha}\triangleright(\alpha\triangleright x)\right\| &\leq& \left|\dfrac{1}{\alpha}\right|\cdot\|\alpha\triangleright x\| &\\ \Longrightarrow& |\alpha|\cdot\|x\| &\leq & \|\alpha\triangleright x\| & \end{array}となり従う。
ちなみに、ノルムの値域を$\mathbb{R}_0^+$でなく$\mathbb{R}$としても、劣絶対同次性と劣加法性から非負性が言える。
劣絶対同次性+劣加法性$\Rightarrow$非負値
ノルムを$\|\cdot\|:V\rightarrow\color{red}\mathbb{R}$としても、劣絶対同次性と劣加法性により$(\forall x\in V)\big[\|x\|\geq0\big]$が言える。
まず、$\|0_V\|\geq0$を示す。劣加法性より
\begin{eqnarray}
\|0_V\|=\|0_V+0_V\|\leq \|0_V\|+\|0_V\|
\end{eqnarray}
なので、両辺から$\|0_V\|$を引くと言える。
次に、任意の$x\in V$に対して
\begin{eqnarray}
0 &\leq& \|0_V\| =\|x-x\|=\|x+(-1)\triangleright x\| \\
&\leq& \|x\|+\|(-1)\triangleright x\| \\
&\leq& \|x\|+|-1|\cdot\| x\| \\
&=& 2\|x\|
\end{eqnarray}
より従う。劣加法性と劣絶対同次性を用いた。
ノルムとはただの距離
ノルムとはただの距離である
$\mathbb{K}$-ベクトル空間$V$上のノルムは、次の(I),(II)の条件を満たす$V$上の距離$d:V\times V\rightarrow\mathbb{R}_0^{+}$と一対一対応する。
(I) 絶対同次性 | 各$x,y\in V$と$\alpha\in\mathbb{K}$に対して $d(\alpha\triangleright x,\alpha\triangleright y)=|\alpha|\cdot d(x,y)$ |
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その一対一対応は\begin{array}{ccrl}
\phi:\;\set{\|\cdot\|:\textsf{ノルム}} &\longrightarrow& \set{d:\textsf{距離}}\cap\textsf{(I)}\cap\textsf{(II)};& \\ \|\cdot\| & \longmapsto & \phi(\|\cdot\|):\;V\times V\;\;\longrightarrow& \mathbb{R}_0^+;\\&&(x,y)\;\;\;\longmapsto&\|x-y\|;
\end{array}\begin{array}{ccrl}
\tau:\;\set{d:\textsf{距離}}\cap\textsf{(I)}\cap\textsf{(II)} &\longrightarrow& \set{\|\cdot\|:\textsf{ノルム}};& \\ d & \longmapsto & \tau(d):\,V\;\longrightarrow& \mathbb{R}_0^+;\\&&x\,\;\longmapsto&d(x,0_V);
\end{array}で与えられる。
$\phi(||\cdot||)$が条件(I),(II)を満たす距離になること
今、$\phi(\|\cdot\|)\coloneqq\|\cdot-\cdot\|$と定義している。距離になることは自明。ノルムの絶対同次性より\begin{eqnarray} \|\alpha\triangleright x-\alpha\triangleright y\|&=&\|\alpha\triangleright(x-y)\|\\&=&|\alpha|\cdot\|x-y\|\end{eqnarray}なので(I)はOK。$\|(x+r)-(y+r)\|=\|x-y\|$なので(II)もOK。
$\tau(d)$がノルムになること
今、$\tau(d)\coloneqq d(\cdot,0_V)$と定義している。正の実数値をとることは自明。(I)より\begin{eqnarray} d(\alpha\triangleright x,0_V)&=&d(\alpha\triangleright x,\alpha\triangleright 0_V)\\&=&|\alpha|\cdot d(x,0_V)\end{eqnarray}なので、絶対同次性はOK。三角不等式と(II)より\begin{eqnarray} d(x+y,0_V) &\leq& d(x+y,y)+d(y,0_V)\\ &=& d(x+y-y,y-y)+d(y,0_V)\\ &=& d(x,0_V)+d(y,0_V) \end{eqnarray}なので、劣加法性もOK。独立性は距離の非退化性より従う。
$\tau\circ\phi=\text{id}_{\set{\|\cdot\|:\textsf{ノルム}}}$であること
各$x\in V$に対して$\|x-0_V\|=\|x\|$を言えばいいが、自明。
$\phi\circ\tau=\text{id}_{\set{d:\textsf{距離}}\cap\textsf{(I)}\cap\textsf{(II)}}$であること
各$x,y\in V$に対して$d(x-y,0_V)=d(x,y)$を言えばいいが、(II)より自明。
ところで、距離は二項関係の族として関係代数的に定義できる。
↓ ↓ ↓ ↓
(
距離空間を二項関係で定義する
)
↑ ↑ ↑ ↑
このとき、関係代数系としての標準的な準同型写像は非拡大写像となる。以上の話から、ノルム空間の"自然な"準同型写像は非拡大線形写像となる。
非拡大線形写像
$(V,\|\cdot\|_V),(W,\|\cdot\|_W)$をノルムベクトル空間とする。$f:V\rightarrow W$が非拡大線型写像であるとは、線形写像であり、
非拡大 | 各$x\in V$に対して $\|f(x)\|_W\leq \|x\|_V$ |
|
を満たすこと。
命題2の同一視の下で、上の定義の非拡大線形写像は、距離空間としての非拡大写像のうち線形なものに一致する。
線形写像$f$が距離空間としての非拡大写像であるとは、各$x,y\in V$に対して$$ \|f(x)-f(y)\|_W\leq\|x-y\|_V$$ということだが、$f$は線形写像なので$f(x)-f(y)=f(x-y)$。よって、$z=x-y$と置けば定義2の非拡大性と同値になることが分かる。
ということで、ノルムベクトル空間の"自然な"準同型は非拡大線形写像であることが分かった。これを射とするノルムベクトル空間の圏を$\mathbb{K}\texttt{-}\textbf{Nor}$と書く。
同様にして、セミノルムもベクトル空間上の平行移動不変で絶対同次な擬距離として特徴つけられる。
$\|\cdot - \cdot\|$
$ \|\cdot - <\|$
1: $\,$ベクトル空間に双線型な乗法を入れた『多元環』の場合も、ノルムが満たすcompatibleな条件はこれに類似している。$\mathbb{K}$を絶対値付き体、(単位的結合)$\mathbb{K}$-多元環$M$の積を$*_M$、乗法単位元を$1_M$とする。$(M,\|\cdot\|)$が$\mathbb{K}$-ノルム多元環であるとは、$\mathbb{K}$-ノルムベクトル空間であり(1) $\|x*_M y\|\leq \|x\|\cdot\|y\|$(劣乗法性)(2) $\|1_M\|\leq 1$を満たすことである。自明な多元環では$\|1_M\|=\|0_M\|=0$になる。非自明な多元環では$x=y=1_M$に劣乗法性を適用すれば、$\|1_M\|=1$になる(独立性より$\|1_M\|\neq0$)。非拡大多元環準同型写像を射とする圏を$\mathbb{K}\texttt{-}\mathbf{NorMulRing}$と書く。多元環のことを代数と呼ぶのは嫌いである。↩