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大学数学基礎解説
文献あり

『代数函数論』補題1.4を示そう!

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はじめに

ぼくはこの補題から表題の本が読みにくくなってきたのですが,皆さんはどうだったのでしょうか.ちょっと先出しで主張を覗いてみましょう.前の記事と同様に,付値といえばdiscreteな指数付値を考えます.

$\nu_1,\cdots,\nu_n(n\geq2)$を互いに同値でない$K$の付値とすれば,$K$の元$x$が存在して,
$$\nu_1(1-x)>0,\quad \nu_2(x)>0,\quad \cdots,\quad \nu_n(x)>0 $$
が成り立つ.

ついでに次の補題も見ておきます(後で示します).

$\nu(x)\neq\nu(y)$ならば,$\nu(x+y)=\min(\nu(x),\nu(y))$である.

この補題より,定理1における$x$$\nu_1(x)=0$を満たさなければいけません($\nu_1(x)\neq 0$ならば,補題2より$\nu_1(1-x)=\min(0,\nu_1(x))\leq0$となってしまう).また,定理1の主張をみたす$x$として$1$は不適です($\nu(0)=\infty$,$\nu(1)=0$より).吟味できましたね.

定理1で用いる補題の証明

補題2の証明

一般に,$\nu(x)=\nu(x+y-y)\ge\min(\nu(x+y),\nu(y))$が成り立つ.ここで,$\nu(y)>\nu(x)$と仮定すれば,矛盾を生じないためには$\nu(x)\ge\nu(x+y)$でなければならない.$\nu(x+y)\ge\min(\nu(x),\nu(y))\ge\nu(x)$より,$\nu(x+y)=\nu(x)$$\nu(x)>\nu(y)$と仮定しても同様なので,これで補題2が証明できた.

$\nu_1,\nu_2$$K$の付値とする.$\nu_1(x)\ge0$のとき常に$\nu_2(x)\ge 0$ならば,$\nu_1\sim\nu_2$

$\nu_1,\nu_2$の付値環及び素イデアルをそれぞれ$A_1,\mathfrak{p}_1,A_2,\mathfrak{p}_2$とすれば,仮定により$A_1\subset A_2$よって$A_1\cap\mathfrak{p}_2$$A_1$の素イデアルであるが,離散付値環はPIDで局所環であることを思い出せば,$\mathfrak{p}_1=A_1\cap\mathfrak{p}_2$が成り立つ.
 さて,$\nu_1(x)<0$ならば,$\nu_1(1/x)>0$より,$1/x\in\mathfrak{p}_1$.よって$1/x\in\mathfrak{p}_2$つまり,$\nu_2(1/x)>0$.換言すれば$\nu_2(x)<0$.対偶をとって,$\nu_2(x)\ge 0$ならば$\nu_1(x)\ge 0$.つまり,$A_2\subset A_1$.よって$\nu_1,\nu_2$から得られる付値環および素イデアルは一致する.よって$\nu_1\sim\nu_2$が言える(以下の補題参照).

$\nu_1,\nu_2$から得られる付値環および素イデアルが一致するならば$\nu_1\sim\nu_2$である.

$\nu$が正規付値のとき,$\nu(c)=n\Longleftrightarrow(c)=\mathfrak{p^n}$をいう($c\neq 0$).
$\nu(c)=n$ならば,$\nu(ac)=\nu(a)+\nu(c)\ge\nu(c)=n$より,$\{\nu(x)|x\in(c)\}$の最小値は$n$.よって参考文献[3]の命題6の証明より$(c)=\mathfrak{p^n}$である.これが任意の$n$について成り立ち,結果が排反なのでので,逆が成り立つ.よって$\nu(c)=n\Longleftrightarrow(c)=\mathfrak{p^n}$である(これは青雪江の体論のところに載っている論法ですね).よって補題の主張が正しいことが分かります.

定理1の証明

帰納法で示す.
まず,$n=2$の時を示す.補題3より,$\nu_1(a)\ge0, \nu_2(a)<0$をみたす$a$が存在する.$a\neq 0,\pm1$$\nu_2(a)<0$より明らか.$\nu_1(a)=0$の時は$x_1=1/a$$\nu_1(a)>0$の時は$x_1=1/(1+a)$とおけば,$\nu_1(x_1)=0,\nu_2(x_1)>0$が計算によって分かる($\nu_2(1/(1+a))>0$は,$\nu_2(1+a)=\nu_2(a)<0$より分かります).同様にして,$\nu_1(x_2)>0,\nu_2(x_2)=0$をみたす$x_2$が存在します.そこで,$x=x_1/(x_1+x_2)$とおけば,$\nu_1(1-x)>0,\nu_2(x)>0$が計算によって分かります.
帰納法が回ることは省略します.

おわりに

定理1の帰納法が回ることの証明をやりたい人は文献[1]を見てみてください.全部を丸写しして岩波書店を敵に回したくないし,そもそも面倒なのでやりたくないし.といった具合で,今回もここまで見ていただきありがとうございました.

参考文献

[1]
岩澤健吉, 代数函数論
[2]
雪江明彦, 環と体とガロア理論
投稿日:29日前
更新日:27日前

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はじめまして!楽しい記事を書ければと思いますので、よろしくお願いします。

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