この記事は 前の記事 の続きです。先にそちらを見ることをおすすめします。
この記事と次回の記事は集合論の基礎事項と、群の定義と部分群に関する知識があれば理論上は読めます。
集合論の基礎事項については、以下を参照ください。
群論の基礎事項については、以下を参照ください。
集合 $X$ と可換環 $R$ (可換環がわからない人は $R$ を整数全体の集合 $\mathbb{Z}$ や有理数全体の集合 $\mathbb{Q}$ だと思ってください) をとる。
このとき、$X$ から $R$ への写像全体の集合を $\mathrm{Set}(X, R)$ で表し、この元を$X$ の重み付き部分集合と呼ぶ。
また特に $f \in \mathrm{Set}(X, R)$ であって、有限個の $x \in X$ を除いて $f(x) = 0$ となるものを$X$ の重み付き有限部分集合と呼ぶ。また $X$ の重み付き有限部分集合全体の集合を $\mathrm{Set}_{\mathrm{finsupp}}(X, R)$ で表すことにする。
$\mathrm{Set}(X, R)$ の元は写像を表しているが、集合のように扱えることが多い。そのため心理学的な側面から集合のように扱うときは $A$, 写像として扱うときは $f_A$ で表すことにする。
また $A \in \mathrm{Set}(X, R)$ に対して$\mathrm{supp}\, A = \{x \in X \mid f_A(x) \neq 0\}$と定め、$A$ の台と呼ぶことにする。特に $f_A = 0$ ならば $\mathrm{supp}\, A = \varnothing$ となる。
以降しばしば $a \in \mathrm{supp}\, A$ を省略して $a \in A$ と表し、 $A$ の元と呼ぶことにする。
また $A, B \in \mathrm{Set}(X, R)$ に対して $\mathrm{supp}\, A \subset \mathrm{supp}\, B$ を省略して $A \subset B$ と表し、$A$ は $B$ の重み付き部分集合と呼ぶことにする。
さらに通常の意味での $X$ の部分集合 $B$ に対して、$X$ から $R$ への写像 $f_B$ を
$$
f_B(x) = \begin{cases}
1 &(x \in B) \\
0 &(x \not\in B)
\end{cases}
$$
と定めることで、$B$ を $\mathrm{Set}(X, R)$ の元と見なせる。
集合 $X, Y$ と可換環 $R$ を取る。$A \in \mathrm{Set}_{\mathrm{finsupp}}(X, R)$ に対して
$$
|A| = \sum_{a \in A} f_A(a)
$$と定め、これを$A$ の濃度と呼ぶことにする。
次に $A, B \in \mathrm{Set}(X, R)$ に対して和 $A + B \in \mathrm{Set}(X, R)$ を
$x \in X$ に対して $f_{A + B}(x) = f_A(x) + f_B(x)$ を満たす写像 $f_{A + B}$ により定める。
また $A \in \mathrm{Set}(X, R)$, $c \in R$ に対してスカラー倍 $cA \in \mathrm{Set}(X, R)$を
$x \in X$ に対して $f_{cA}(x) = cf_A(x)$ を満たす写像 $f_{cA}$ により定める。
次に $A \in \mathrm{Set}(X, R)$, $B \in \mathrm{Set}(Y, R)$ に対して、直積 $A \times B \in \mathrm{Set}(X \times Y, R)$ を任意の $x \in X$, $y \in Y$ に対して
$$
(f_A \times f_B) (x, y)
= f_A(x) f_B(y)
$$
を満たす写像 $f_{A \times B} \coloneqq f_A \times f_B$ により定める。
余談であるが上記の演算によって
$$
\bigoplus_{n \geq 0} \mathrm{Set}(X^n, R), \quad
\bigoplus_{n \geq 0} \mathrm{Set}_{\mathrm{finsupp}}(X^n, R)
$$
は次数付き環となる。ただし $\mathrm{Set}(X^0, R)$ は $R$ を表すものとする。
話を戻して $A, B \in \mathrm{Set}(X, R)$ に対してドット積 $A \cdot B \in \mathrm{Set}(X, R)$ を
$x \in X$ に対して $f_{A \cdot B}(x) = f_A(x)f_B(x)$ を満たす写像 $f_{A \cdot B}$ により定める。
以下 $A \in \mathrm{Set}(X, R)$ に対して $A^n$ と書いたときは、$A$ の $n$ 個の直積を表し、ドット積を表すものではないとする。
このとき、次の性質が成立する。
$A, B \in \mathrm{Set}_{\mathrm{finsupp}}(X, R)$ に対して次が成立する。
(1) $|A + B| = |A| + |B|$
(2) $R$ が整域ならば $\mathrm{supp}\, A \cap \mathrm{supp} \, B = \mathrm{supp}\, (A \cdot B)$
証明は容易なので各々確かめられたい。整域が何かわからない人は飛ばしてもよい。
また、次の性質も成立する。
$A \in \mathrm{Set}_{\mathrm{finsupp}}(X, R)$, $B \in \mathrm{Set}_{\mathrm{finesupp}}(Y, R)$ に対して次が成立する。
(1) $|A \times B| = |A| \cdot |B|$
(2) $R$ が整域ならば $\mathrm{supp}\, A \times \mathrm{supp} \, B = \mathrm{supp}\, (A \times B)$
$X, Y$ を集合とし、$R$ を可換環とする。
このとき $A \in \mathrm{Set}_{\mathrm{finsupp}}(X, R)$, $B \in \mathrm{Set}_{\mathrm{finsupp}}(Y, R)$ に対して、写像 $\phi : \mathrm{supp}\, A \to \mathrm{supp}\, B$ を省略して $\phi : A \to B$ と表し、$A$ から $B$ への写像ということにする。
$A' \in \mathrm{Set}_{\mathrm{finsupp}}(X, R)$ に対して、$A'$ の像(順像)$\phi(A') \in \mathrm{Set}_{\mathrm{finsupp}}(Y, R)$ を
$$
f_{\phi(A')}(y) =
\begin{dcases}
\sum_{\phi(x) = y} f_{A'}(x) &(y \in B) \\
0 &(y \not\in B)
\end{dcases}
$$
を満たす写像 $f_{\phi(A')}$ により定める。
一方 $B' \in \mathrm{Set}_{\mathrm{finsupp}}(Y, R)$ に対して、$B'$ の逆像 $\phi^{-1}(B') \in \mathrm{Set}_{\mathrm{finsupp}}(X, R)$ を
$$
f_{\phi^{-1}(B')}(x) =
\begin{dcases}
f_A(x) f_{B'}(\phi(x)) &(x \in A) \\
0 &(x \not\in A)
\end{dcases}
$$
を満たす写像 $f_{\phi^{-1}(B')}$ により定める。
次に $A' \subset A$ を満たす $A' \in \mathrm{Set}_{\mathrm{finsupp}}(X, R)$ に対して
$$
\phi |_{\mathrm{supp}\, A'} : \mathrm{supp}\, A' \to \mathrm{supp}\, B
$$
を省略して$\phi |_{A'}$と表し、$\phi$ の $A'$ への制限とよぶことにする。
ある $d \in R$ が存在して、任意の $y \in B$ に対し
$$
|\phi^{-1}(y)| = d
$$
となるとき $\phi$ は$d$ 対$1$写像であるという。ここで $\phi^{-1}(y)$ とは上記の意味での逆像 $\phi^{-1}(\{y\})$ のことである。
このとき、次のような性質が成立する。
$A, A_1, A_2 \in \mathrm{Set}_{\mathrm{finsupp}}(X, R)$, $B, B_1, B_2 \in \mathrm{Set}_{\mathrm{finsupp}}(Y, R)$ と写像 $\phi: A \to B$ について次が成立する。
(1) $\phi(A_1 + A_2) = \phi(A_1) + \phi(A_2)$
(2) $\phi^{-1}(B_1 + B_2) = \phi^{-1}(B_1) + \phi^{-1}(B_2)$
(3) $A \cdot \phi^{-1}(B_1 \cdot B_2) = \phi^{-1}(B_1) \cdot \phi^{-1}(B_2)$
(4) $\phi(\phi^{-1}(B_1)) = |A|\cdot B_1$
これで一般化simasima specialの前段階は終えました。
次回はいよいよその主張を記述し、その証明を書いていきます!
追記: 一般化simasima specialの主張と証明を行う続編の記事 を更新しました。