今回は以下のような問題を数値代入法で解こうと思います。あの「分母0にするやつを代入していいんですか」のやつです。
$0, -1, -2$以外の任意の複素数に対し
\begin{align*}
\dfrac{4}{x^{2}(x+1)(x-2)}=\dfrac{a}{x}+\dfrac{b}{x^{2}}+\dfrac{c}{x+1}+\dfrac{d}{x+2}
\end{align*}
が成り立つような複素数$a, b, c, d$をすべて求めよ。
系2が解答で使うものなので, 証明を飛ばしたい人は, 系2だけ確認してください。
$n$を正の整数とする。$n$次方程式$f(x)=0$は, 重複を含めて解を$n$個もつ。
こいつの証明はしません。以下の定理2を証明するのに使います。
を以前書いたので, 一応載せておこう。
$f(X), g(X)$は$n$次以下の多項式である。このとき
相異なる$n+1$個の複素数$\alpha_{1}, \cdots, \alpha_{n+1}$に対し
\begin{align*}
f(\alpha_{1})=g(\alpha_{1}), かつf(\alpha_{2})=g(\alpha_{2})\cdots, かつf(\alpha_{n+1})=g(\alpha_{n+1}).
\end{align*}
ならば
\begin{align*}
f(X)=g(X)
\end{align*}
が成り立つ。
$f(X), g(X)$のどちらかが定数多項式の場合は, 上の主張が成り立つのは明らかなのでそうでない場合を考える。背理法で示そう。$f(X), g(X)$がどちらも定数多項式でなく
相異なる$n+1$個の複素数$\alpha_{1}, \cdots, \alpha_{n+1}$に対し
\begin{align*}
f(\alpha_{1})=g(\alpha_{1}), かつf(\alpha_{2})=g(\alpha_{2})\cdots, かつf(\alpha_{n+1})=g(\alpha_{n+1}).
\end{align*}
が成り立つが
\begin{align*}
f(X)\neq{g(X)}
\end{align*}
であると仮定する。
\begin{align*}
h(X)=f(X)-g(X)
\end{align*}
とおくと
\begin{align*}
h(\alpha_{1})=h(\alpha_{2})=\cdots=h(\alpha_{n+1})=0
\end{align*}
である。そして, $h(X)$の次数は$n$次以下で, $h(X)\neq{0}$でもある。これは, 代数学の基本定理に矛盾する。よって, 上の定理は成り立つ。
そして, 以下の系1と系2が導かれる。
系1の「ならば」の前後は同じ主張ではないかと, 思った人は, 以下を読むとよい。
多項式とはなんぞや
系1(係数比較法) $n$次多項式$f(X)=a_{n}X^{n}+\cdots+a_{0}, g(X)=b_{n}X^{n}+\cdots+b_{0}$を考える。
\begin{align*}
任意の複素数xに対し, f(x)=g(x)
\end{align*}
ならば
\begin{align*}
f(X)=g(X),
\end{align*}
すなわち
\begin{align*}
a_{0}=b_{0}, かつa_{1}=b_{1}, かつ\cdots,a_{n+1}=b_{n+1}
\end{align*}
が成り立つ。
この系1が係数比較法ができる理由です。
系2 $n$次多項式$f(X)=a_{n}X^{n}+\cdots+a_{0}, g(X)=b_{n}X^{n}+\cdots+b_{0}$に対し, 以下の(1), (2)同値である。
そして再度述べますが, 系2が今回の問題を解く重要な主張です。
系2は, 大分ラフに述べるが, 多項式の形をしている恒等式の問題では数値代入法で逆の確認が実は必要ないという主張である。
解答
$0, -1, -2$以外の任意の複素数$x$に対し
\begin{align*}
\dfrac{4}{x^{2}(x+1)(x-2)}=\dfrac{a}{x}+\dfrac{b}{x^{2}}+\dfrac{c}{x+1}+\dfrac{d}{x+2}
\end{align*}
が成り立つための必要十分条件は
$0, -1, -2$以外の任意の複素数$x$に対し
\begin{align*}
4=ax(x+1)(x+2)+b(x+1)(x+2)+cx^{2}(x+2)+dx^{2}(x+1)
\end{align*}
が成り立つことである。そして系2より, これは, 任意の複素数$x$に対し
\begin{align*}
4=ax(x+1)(x+2)+b(x+1)(x+2)+cx^{2}(x+2)+dx^{2}(x+1)
\end{align*}
が成り立つことと同値なので, 系2をもう一度用いると,任意の$x\in\{0, -1, -2, 1\}$に対し
\begin{align*}
4=ax(x+1)(x+2)+b(x+1)(x+2)+cx^{2}(x+2)+dx^{2}(x+1)
\end{align*}
が成り立つと言い換えられる。すなわち
\begin{align*}
4=2bかつ, 4=cかつ, 4=-4d, 4=6a+6b+3c+2d
\end{align*}
である。これを満たす$a, b, c, d$は
\begin{align*}
a=-3, b=2, c=4, d=-1
\end{align*}
である。
最初の系2は「$0, 1, -2$以外のすべての複素数で〜が成り立つってこと」は, 系2の(2)を満たしている。だから, 系2の(1)に言い換えられる。そして, ここから 系2をもう一度用いて(2)に言い換えている。このような複雑な同値変形を行うことで, 本来代入できなかったはずの$0, -1, -2$を代入できるようになった。
分数式の恒等式は問題集でよく見かけるが 系2を使ってきちんと説明しないから, それの解答を見てもちんぷんかんぷんですよね。