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大学数学基礎解説
文献あり

B1でもわかるKostant's convexity theoremについて Part.2

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はじめに

基幹理工学部B1の卯月熊といいます. この記事は Wathematica Advent Calendar 2023 12/25の記事です. maximal toriでtoriをtoriたかったのでtoriです. Part.1を読んでいない方はPart.1を読んでください. 今回は本題であるKostant's convexity theoremについてみていきます. Kostant's convexity theoremは前回紹介したSchur-Horn theoremの拡張であり, 今から紹介するリー群, その特別な部分集合である極大トーラス, それと極大トーラスに対して定義されるワイル群というものの関係に関して記していきます.

リー群

まず群というものについて説明していきます. 群とは以下のように足し算と掛け算の性質を抽出して図形の対称性や式の対称性を厳密に定義したものです.

集合$G$に対して二項演算(二変数関数)$*: G\times G\longrightarrow G$が定義されていて,

  • 任意の$a,b,c\in G$に対して, $a*(b*c)=(a*b)*c$ (結合律)
  • $e\in G$で, 任意の$a\in G$に対して, $a*e=e*a=a$となるような$e$が存在(単位元の存在)
  • 任意の$a\in G$に対して, $a*a^{-1}=a^{-1}*a=e$となるような$a^{-1}$が存在(逆元の存在)

の三つの条件を満たしているならば, 組$(G,*)$群(group)と呼ぶ.
中置記法($*(a,b)$の代わりに$a*b$で表記する方法)で演算を記したが, 通常$a*b$$ab$, $a*(b*c)=(a*b)*c$$abc$と表記される.
また, $ab=ba$となるような群のことを可換群あるいはアーベル群(abelian group)という.

$\mathbb{R}^2$上の図形の集合に対して, $G=\{0^\circ \mathrm{回転},\,120^\circ \mathrm{回転},240^\circ \mathrm{回転}\}$とすると, これは群である.

このように, 群の元は割と多くの場合, 何かしらの操作になっていることが多いです. (要出典)
そして, 例1では群は有限個の離散的な操作でしたが, これを滑らかにしたものがリー群と呼ばれています.

リー群

$G$で, $C^\infty$多様体の構造を持っており, $*:G\times G\longrightarrow G$,$(g_1,g_2)\mapsto g_1g_2$$\bullet^{-1}:G\longrightarrow G,$ $g\mapsto g^{-1}$$C^\infty$級写像であるようなものをリー群(Lie group)と呼ぶ.
また, 位相空間としてみたときコンパクトで連結なものを連結コンパクトリー群(compact connected Lie group)と呼ぶ.

$\mathbb{R}^n$に対して実際に回転操作を表す特殊直交群もリー群です.

一般線型群・直交群・特殊直交群・ユニタリ群

$GL(n,\mathbb{R})$$n$次実正則正方行列を表す. これは$n$次一般線型群と呼ばれる. この部分集合で表されるリー群のことを線型リー群と呼ぶ. また, $A\,{}^{t}A=E$となる$n$次実正方行列を直交行列と言い, この集合を直交群$O(n)$(orthogonal group), 直交行列のうち行列式が$1$なものの集合を特殊直交群$SO(n)$(special orthogonal group)という. また, ユニタリ行列を集めたユニタリ群$U(n)$(unitary group)という. ただし, ここに挙げた群は通常の行列の積を演算としたものである.

まずこれらの群はリー群です.

様々なリー群

$GL(n,\mathbb{R})$, $O(n,\mathbb{R})$, $SO(n,\mathbb{R})$, $U(n,\mathbb{C})$, $SU(n,\mathbb{C})$はリー群である.

証明はTu多様体などを参照してください.

リー代数

リー群は単位元周辺を見るといい感じの構造が得られます. その名をリー代数といいます.

リー代数

$F$上のベクトル空間$\mathfrak{g}$に対して二項演算(リー括弧と呼ぶ)$[\cdot,\cdot]$で以下のような性質を満たすものをリー代数と呼ぶ.

  • すべての$a,b\in F$, $g_1,g_2,g_3\in\mathfrak{g}$に対して$[ag_1+bg_2,g_3]=a[g_1,g_3]+b[g_2,g_3]$
    $[g_1,ag_2+bg_3]=a[g_1,g_2]+b[g_1,g_3]$
    (双線形性)
  • すべての$g\in\mathfrak{g}$に対して$[g,g]=0$(交代性)
  • すべての$g_1,g_2,g_3\in\mathfrak{g}$に対し$[g_1,[g_2,g_3]]+[g_2,[g_3,g_1]]]+[g_3,[g_1,g_2]]=0$(ヤコビ恒等式)
随伴作用, リー群に付随するリー代数

リー群$G$に対し, 単位元における接空間$\mathfrak{g}:=T_eG=\mathrm{Map}(C^\infty(G),\mathbb{R})$を考える.
$g\in G$に対して随伴作用(adjoint action)$Ad_g$$Ad_g(g_1)=gg_1g^{-1}$で定める. この時, この写像を単位元において微分すると,
$(Ad_g)_*:\mathfrak{g}\rightarrow\mathfrak{g}$が得られる. これを$g$によって定まる, 写像への写像と見ることによって($GL(\mathfrak{g})$$\mathfrak{g}$から$\mathfrak{g}$への線形写像の集合)
$Ad_*:G\rightarrow GL(\mathfrak{g})$, $g\mapsto (Ad_g)_*$
が得られ, これを$g=e$において微分すると($\mathfrak{gl}=T_eGL$)
$ad:\mathfrak{g}\rightarrow\mathfrak{gl}(\mathfrak{g})$,
$\mathfrak{g}\ni v\mapsto((C^\infty(GL(\mathfrak{g}))\ni) f\mapsto v(f\circ Ad_*))$
となり, これを$x\in\mathfrak{g}$に対して
$ad_x:\mathfrak{g}\rightarrow \mathfrak{g}$
とすると$[x,y]:=ad_x(y)$はリー括弧になる(証明略).

$\mathfrak{g}$は有限次元ベクトル空間なので, $GL(\mathfrak{g})$はその間の変換行列の集合とも言えます.
 ここで$G$が線形リー群である場合を考えて, 実際に$[x,y]$を計算してみましょう. $Ad_g$$g=e$(単位行列)で微分すると, 行列値関数でも積の微分をすることができるので,
$(Ad_g)_*(v)=\left.(vg(e+tv)^{-1}-(e+tv)gv)\right|_{t=0}=vg-gv$
ここで, $ \left.\dfrac{d(e+tv)^{-1}}{dt}\right|_{t=0}=-v$を使いました. なので, 前回出てきた曲線$\gamma_v$の記法を使って,
$ad_x(y)=\dfrac{d(Ad_{\gamma_y(t)})_*(x)}{dt}=\dfrac{d(x\gamma_y(t)-\gamma_y(t)x)}{dt}=xy-yx$
ということで線形リー群の場合のリー括弧を計算することができました.
また, $G=U(n)$のとき, $\gamma(0)=E$となるような曲線$\gamma$を取って, $\gamma(t)\gamma^*(t)=E$の両辺を微分して, $\gamma'(t)\gamma^*(t)+\gamma(t)\gamma'^*(t)=O$ すなわち$ \gamma'^*(0)+\gamma'(0)=O$なので, $\gamma'(0)$はエルミート行列$H$を用いて$iH$と表すことができる(歪エルミート行列). つまり$U(n)$のリー代数$\mathfrak{u}(n)$は歪エルミート行列の集合となります.

ワイル群の作用

トーラス

$G$をコンパクトリー群とする. $T$$G$の部分アーベル群で, コンパクトかつ連結であるとき, トーラス(torus)という. また, 包含関係で極大なもの, すなわち$T\subset T_1$ならば, $T_1=T$となるようなトーラス$T$極大トーラス(maximal torus)という.

トーラスはドーナツ型の意味なのですが, これは例えばコンパクトで(≒有限な), 連続な一次元のアーベル群は$|z|=1$となるような複素数の集合に掛け算として群演算をいれた$\mathbb{T}$という群に同型(構造を保つ全単射が存在)であり, $n$次元の時はこれの直積と同型になって, $2$次元の時は円周を回転させたような図形であるドーナツ型と同じとみなすことができます.

ワイル群

$G$の部分集合$S$に対して, $gS=\{gs\mid s\in S\}$, $Sg=\{sg\mid s\in S\}$とする. $gS=Sg$となるような$g$の集合(にもとからある群演算を入れたもの)を正規化群(normalizer)と言い, $N_G(S)$と表す.
リー群$G$とその極大トーラス$T$に対して, $W(T,G)=N_G(T)/T:=\{aT\mid a\in N_G(T)\}$$(aT)\cdot(bT):=\{AB\mid A\in aT,B\in bT\}$で定まる演算を群演算としたものをワイル群(Weyl Group)と呼ぶ.

$N_G(T)/T$$T$の元倍の違いを無視して$N_G(T)$の元を同一視した集合と言えます.
$G=U(n)$として$T:=\{\mathrm{diag}( e^{i\theta_1},\cdots,e^{i\theta_n})\mid\theta_1,\theta_2,\cdots,\theta_n\in\mathbb{R}\}$(ただし$\mathrm{diag}$は括弧内を成分とする対角行列)とすると, $T$は通常の積に対して可換であり, 極大トーラスとなります(次元を比較するとこれが極大であることが分かる). また$T$のリー代数$\mathfrak{t}$$\mathrm{diag}(i\theta_1,\cdots,i\theta_n)$で表される集合となります. この時, $N_G(T)$は任意の$g\in N_G(T)$に対して, $gT=Tg$, つまり$g$に依存する対角行列$\Lambda_1$ ,$\Lambda_2$$g\Lambda_1=\Lambda_2 g$となるようなものが常に存在すればよく, 固有値は同じであるため, $\Lambda_1=\mathrm{diag}(\lambda_{1},\cdots,\lambda_{n})$, $\Lambda_2=\mathrm{diag}(\lambda_{\sigma(1)},\cdots,\lambda_{\sigma(n)})$としてよいです. $g$の成分を$g_{ij}$とすると, クロネッカーのデルタ$\delta_{ij}=\begin{cases}0\quad(i\neq j)\\1\quad(i=j)\\\end{cases}$を使って,
$\sum_k g_{ik}\delta_{kj}\lambda_{j}=\sum_k \delta_{ik}\lambda_{\sigma{(i)}}g_{kj}$
$\Leftrightarrow g_{ij}(\lambda_{j}-\lambda_{\sigma(i)})=0$
$\Leftrightarrow g_{ij}=0$または$\sigma(i)=j$
これと$g\in N_G(T) \subset G=U(n)$であることを考えると, $N_G(T)$は置換行列の各成分に符号が付いたものの集合となります. そしてこの元の$\mathfrak{t}$に対する随伴作用は定義から対角成分の入れ替えとなります. この対角成分を入れ替える作用のことが$G=U(n)$とその極大トーラス$T:=\{\mathrm{diag}( e^{i\theta_1},\cdots,e^{i\theta_n})\mid\theta_1,\theta_2,\cdots,\theta_n\in\mathbb{R}\}$ワイル群の作用です.

ここで, $N_G(T)$の元が作用しているように見えますが, 実際のところ$g\in i\mathfrak{t}$に対して$t\in T$を作用させても$t^{-1}gt$$g$となるため恒等写像となります. 故に$N_G(T)/T$の元が作用していると考えることができます.

Kostant's convexity theorem

いよいよ主題の定理です. (証明は追えていないため記しません).

Kostant's convexity theorem

$G$をコンパクトリー群, $T$をその極大トーラスとし, それらのリー代数を$\mathfrak{g},\mathfrak{t}$とする. $\mathfrak{g}$から$\mathfrak{t}$への($Ad$-不変内積に対する)直交射影を$\pi$とすると, $X\in \mathfrak{t}$に対して$\pi(Ad_G(X))$$w(X):=\{f(X)\mid f\in W(T,G)\}$の凸包に等しい.
ここで, $\mathfrak{t}$は前述のとおり$T$の作用で変わらない$\mathfrak{g}$上の点の集合と言える.
但し, $Ad_G(X)$$Ad_g(X)$$g\in G$にわたって動かしたときの値域とする.

$G=U(n)$の場合, $\mathfrak{g}$の元はエルミート行列の$i$倍となり, $\mathfrak{t}$の元は実対角行列の$i$倍となります. 簡単のため($i$倍しても議論としては変わらないので)係数$i$は省略します. $\pi$は対角成分のみを取ってほかの成分を$0$にする写像とします. $X=\mathrm{diag}(\lambda_1,\cdots,\lambda_n)$とすると, $\pi(Ad_GX)$$\mathrm{diag}(\lambda_1,\cdots,\lambda_n)$と同伴な行列, つまり固有値が$\lambda_1,\cdots,\lambda_n$となる行列全体の対角成分を渡り, $\Omega_X$$\mathrm{diag}(\lambda_{\sigma(1)},\cdots,\lambda_{\sigma(n)})$($\sigma$は置換)で表される行列の集合なので, これは実はSchur-Horn theoremのリー群への拡張になっていることが確かめられました.

願望

①他の例は時間がなかったので(あとちょっと前までいい感じのコンパクトリー群が見つからなかったので), 読者の皆さんが考えてみてください(丸投げ). スピン群 とかコンパクトリー群なので良いんじゃないでしょうか. (でも Wikipedia にリー環が特殊直交群と同じと書いてあったのでもしかしたらそんなに面白い結果にはならないかもしれません)
②Kostant's convexity theoremのステートメントに双対を取る(随伴軌道ではなく余随伴軌道を取っている)バージョンもあったので, もし双対を取っている理由が分かる方は是非@uzukikumaに教えていただけると助かります.
③前回も言ったように, 何か間違ったところがあったり疑問点がある場合も是非@uzukikumaに教えていただけると助かります.

最後に

 アドカレ企画に携わってくれたWathematicaの皆さん、記事を読んでくださった方々、ありがとうございました!これからもWathematicaをよろしくお願いします!
 これをもって Wathematica Advent Calendar 2023 の結びの挨拶とさせていただきます。次回のアドカレでお会いしましょう!

参考文献

[1]
Loring W. Tu, An Introduction to Manifolds, Universitext
[3]
Bertram Kostant, On convexity, the Weyl group and the Iwasawa decomposition, Annales Scientifiques de l'École Normale Supérieure, Societé Mathématique de France, 1973, 426, 452
投稿日:20231224

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