射影平面とアフィン平面の基本的な性質を示したあと, $\mathbb{P}^2(\F_q)$の形で表せないような射影平面の一つである, Hall planeを作り, その性質を少し見ていきます.
一応self-containedになるように書きました. 射影平面に慣れているひとはquasi-fieldの章から読んで問題ないと思います.
集合$X$および非負整数$n$に対し, $[X]^n:=\{Y\subset X|\#Y=n\}$とする.
$P,L$を集合とし, $I\subset P\times L$とする.
三つ組$\mathbb{P}=(P,L,I)$が射影平面であるとは, 以下の3条件が全て成立することを指す:
(P1): $\forall \{p_1,p_2\} \in [P]^2,
\exists^! l\in L, (p_1,l),(p_2,l)\in I$
(P2): $\forall \{l_1,l_2\}\in [L]^2,
\exists^! p\in P, (p,l_1),(p,l_2)\in I$
(P3): $\exists S\subset [P]^4, \forall l\in L, \#\{p\in S|(p,l)\in I\}\leq 2$
射影平面$\mathbb{P}=(P,L,I)$に対して, $P$の元を点,$L$の元を直線と呼び, $(p,l)\in I$のことを直線$l$が$p$を通る, 点$p$が$l$の上にあるなどと言う.
以下, $P,L$が有限集合の場合のみを考える.
$\F$を有限体とする. $n\geq m$を満たす非負整数$n,m$に対し, $\Gr(n,m,\F)$を$\{W\subset \F^n|W\text{は}\F^n\text{の部分}m\text{次元空間} \}$と定める. $I=\{(p,l)\in \Gr(3,1,\F)\times \Gr(3,2,\F)|p\subset l\}$とすると, $(\Gr(3,1,\F),\Gr(3,2,\F),I)$は射影平面となる. これを$\P^2(\F)$と表す.
(P3では, $S=\{\gen{e_1},\gen{e_1+e_2},\gen{e_1+e_3},\gen{e_1+e_2+e_3}\}$と定めるとよい. )
この射影平面(と下の意味で同型なもの)をデザルグ平面と呼ぶ.
(本当は斜体から作られる射影平面と同型なものを, デザルグ平面と呼ぶが, 今は有限なものしか考えてないので, ウェダーバーンの定理より, この定義で問題ない)
射影平面$(P,L,I)$, $(P',L',I')$が同型であるとは, 全単射$f:P\to P'$および$g:L\to L'$が存在し, $\forall (p,l)\in P\times L, (p,l)\in I \iff (f(p),g(l))\in I$が成立することを指す.
非デザルグ平面を作るのがこの記事の目標の一つ.
$\F$を有限体とする. $A\in \mathrm{GL}(3,\F)$を任意にとると, それに対応して自然に$\P^2(\F)$の自己同型を作れる. とくに , $\P^2(\F)$の自己同型は$P$および$L$に推移的に作用する.
なお, (この結果は後で使わないが) $\P^2(\F)$の任意の自己同型は, 行列と$\F$の自己同型の組み合わせでつくれる. 詳しくは マシュー群の記事の命題17 参照.
射影平面$(P,L,I)$および$p\in P, l\in L$に対して,
$L(p):=\{l|(p,l)\in I\}, P(l):=\{p|(p,l)\in I\}$とする.
また,$\{p,p'\}\in [P]^2$に対し, $L(p)\cap L(p')$の唯一の元を直線$\overline{pp'}$,または単に$\overline{pp'}$と書く.
同様に, $\{l,l\}\in [L]^2$に対し, $P(l)\cap P(l')$の唯一の元を$l$と$l'$の交点, または単に$l\cap l'$と書く.
以下, この章が終わるまで 射影平面$\mathbb{P}=(P,L,I)$を固定する.
$I^{\op}:=\{(l,p)\in L\times P|(p,l)\in I\}$とすると, $\P^{\op}:=(L,P,I^{\op})$は射影平面となる. これを$\P$の双対と呼ぶ.
(P1),(P2)は$\P$に対する(P2),(P1)から従う.
(P3)を示す. $S:=\{a,b,c,d\}\subset P$が(P3)の条件を満たすとする. 条件より, $\{x,y\}\in [S]^2$のとき, $\overline{xy}$は$S\setminus \{x,y\}$の元を通らない.
$T=\{\overline{ab},\overline{bc},\overline{cd},\overline{da}\}$が(P3)の条件を満たすことを示す. 上の注意より, $\#T=4$がわかる. ある$p\in P$があり, $\#\{l\in T|(p,l)\in I\}\geq 3$と仮定して, 矛盾を導く.
対称性より, $p$が$\overline{ab},\overline{bc},\overline{cd}$を通ったとしてよい. しかし, 点$\overline{ab}\cap \overline{bc}=b$を直線$\overline{cd}$は通らないので矛盾.
デザルグ平面の双対は, 元のデザルグ平面と同型になる.
(例えば, (ベクトル空間の意味での)双対空間に対応させるとよい.)
しかし, 一般の射影平面の双対は, もとの射影平面と同型になるとは限らない. このような例を作ることも, この記事の目標の一つである.
実は$\#L(p)$および$\#P(l)$は$p,l$によらずに一定である. これを示していく.
直線$l$および, $l$の上にない点$p$に対し, $\#L(p)=\#P(l)$.
$\phi:L(p)\to P(l)$を$\phi(l')=l\cap l'$, $\psi:L(p)\to P(l)$を$\psi(q)=\overline{pq}$と定めると, これは互いの逆写像になる.
ある非負整数$n$が存在して, $\forall p\in P, \#L(p)=n+1$および$\forall l\in L,\#P(l)=n+1$が成立する.
この$n$を射影平面$\mathbb{P}$の位数と呼ぶ.
このとき, $\#P=\#L=n^2+n+1$であり, $n\geq 2$となる.
まず, $\forall l\in L, \#P(l)=n+1$を満たすような$n$の存在を示す. 上の補題から, 次の事実が成り立つことに注意せよ:
$\{l_1,l_2\}\in [L]^2$が$P(l_1)\cup P(l_2)\neq P$を満たすとき, $\#P(l_1)=\#P(l_2)$($\cdots$☆)
($p\not\in P(l_1)\cup P(l_2)$をとると, $\#P(l_1)=\#L(p)=\#P(l_2)$が成立するのでよい)
射影平面の公理(P3)を満たすような$S=\{a,b,c,d\}\in [P]^4$をとる. (P3)の主張より, $\forall l\in L, \#(S\cap P(l))\leq 2$となる. とくに, $d\not\in P(\overline{ab}),P(\overline{ac})$が成立するので, (☆)より, $\#P(\overline{ab})=\#P(\overline{ac})$.
同様にして, $\#P(\overline{ab})=\#P(\overline{ac})=\#P(\overline{ad})=\#P(\overline{bd})=\#P(\overline{bc})=\#P(\overline{cd})$. この値を$n+1$とする.
任意に$l\in L$をとる. 対称性より, $a,b\not\in P(l)$としてよい. $a\in P(\overline{ac})$なので, $l\neq \overline{ac}$であり,この$2$直線はともに$b$を通らない. よって, (☆)より, $\#P(l)=\#P(\overline{ac})=n+1$となる.
任意に$p\in P$をとる. 対称性より, $p\neq a$としてよい. $\overline{ab}\cap \overline{ac}=\{a\}$なので, $p\not\in P(\overline{ab})$か$p\not\in P(\overline{ac})$となる. よって,先の命題より, $\#L(p)=n+1$. これで, 主張の前半部が示された.
$\displaystyle{ P=\{a\}\cup \bigcup_{l\in L(a)}(L(l)\setminus\{a\}) }$なので, $\#P=1+(n+1)\cdot n =n^2+n+1$. また, ダブルカウントにより, $\sum_{p\in P} \#L(p)= \#I=\sum_{l\in L} \#P(l)$なので, $\#L=n^2+n+1$.
$n^2+n+1=\#P\geq \#S=4$より, $n\geq 2$が従う.
普通のeuclid平面に対応するのが, アフィン平面. アフィン平面を完備化することで射影平面を作れる.
$P,L$を集合とし, $I\subset P\times L$とする.
三つ組$\mathbb{A}=(P,L,I)$がアフィン平面であるとは, 以下の3条件が全て成立することを指す:
(P1): $\forall \{p_1,p_2\} \in [P]^2,
\exists^! l\in L, (p_1,l),(p_2,l)\in I$
(P2): $\forall l\in L,\forall p\in P\setminus P(l),
\exists^! l'\in L(p), P(l)\cap P(l')=\emptyset$
(P3): $\exists S\subset [P]^4, \forall l\in L, \#(P(l)\cap S)\leq 2$
ただし, $L(p):=\{l|(p,l)\in I\}, P(l):=\{p|(p,l)\in I\}$とした.
また, 点, 直線,直線$l$が$p$を通る, (直線)$ \overline{pq}$, 同型という言葉も, 射影平面と同様にして定義する.
(P1)より, 相異なる直線が2点以上で交わらないことに注意せよ.
$\F$を体とし, $P=\{p_{x,y}|x,y\in \F\}$, $L=\{l(a,b)|a,b\in \F\}\sqcup \{l(\ver,c)|c\in F\}$と定める. ($p,l$は適当な記号)
$(p_{x,y},l(a,b))\in I \iff y=ax+b$
$(p_{x,y},l(\ver,c))\in I \iff x=c$
と$I\subset P\times L$を定めると, $(P,L,I)$はアフィン平面となる.
これは, 射影平面$\P^2(\F)$から, 直線$\gen{e_2,e_3}$を除いてアフィン化(この後の定義8参照)したものとも思える.
$\mathbb{A}=(P,L,I)$をアフィン平面とし, $l_1,l_2\in L$とする.
$l_1,l_2$が平行である $:\iff$ $l_1=l_2$または$P(l_1)\cap P(l_2)=\emptyset$
と定める. これを単に$l_1\para l_2$と表す.
(P2)より, $\forall l\in L,\forall p\in P, \exists^! l'\in L(p), l\para l'$が従う.
$\mathbb{A}=(P,L,I)$をアフィン平面とする. このとき, $\para$は同値関係.
反射律, 対称律は定義から明らか. $l_1\para l_2 \para l_3$として, $l_1\para l_3$を示す.
もし, $P(l_1)\cap P(l_3)=\emptyset$なら, 明らかに$l_1\para l_3$. そうでないなら, $p\in P(l_1)\cap P(l_3)$が取れる. $l_1, l_3$はともに$p$を通り, $l_2$に平行なので, 上の注意から$l_1=l_3$が従う.
以下完備化によって, アフィン平面と, 射影平面(+specificな1直線)が自然に対応することを見る.
$\mathbb{A}=(P,L,I)$をアフィン平面とする.
同値関係$\para$による商集合を$P_{\infty}$と書き, 商写像$L \to P_{\infty}$による$l\in L$の像を$p_l$と表す.
$\widehat{P}=P \sqcup P_{\infty}$
$\widehat{L}=L \sqcup \{l_{\infty}\}$ ($l_{\infty}$は$L$に属さない適当な記号)
$\widehat{I}= I \cup \{(p_l,l)|l\in L\}\cup (P_{\infty}\times \{l_{\infty}\})$
と定めると, $(\widehat{P},\widehat{L},\widehat{I})$は射影平面となる(下の証明参照). これを$(P,L,I)$の射影化と呼ぶ.
また, この対応は自然であり, 同型を保つ.
(すなわち, アフィン平面を対象とし, 同型を射とした圏$\mathrm{Affine}$から, 射影平面とその直線の組を対象とし, 指定された直線を保つような同型を射とした圏$\mathrm{Proj}_{\ast}$へ関手が作れる. )
$\widehat{I}$の定義から, $(p,l)\in P\times L$に対し, $(p,l)\in I \iff (p,l)\in \widehat{I}$となることに注意せよ.
(P1): $\{p,q\}\in [\widehat{P}]^2$を任意にとる.
(P2): 上で示したように, $l\in L$と$l_{\infty}$の交点はちょうど一点. $\{l_1,l_2\}\in [L]^2$を任意にとる.
$l_1$と$l_2$は$P$内で高々$1$回交わり,交点を持たないことと$l_1\para l_2$は同値. 一方, $l_{\infty}$内での交点も高々一点であり, 交点をもつことは, $p_{l_1}=p_{l_2}$と, 従って$l_1\para l_2$と同値. ゆえに, 交点はちょうど一点.
(P3): $\mathbb{A}$についての(P3)から従う.
対応が同型を保つのは, 構成から明らか.
$\mathbb{P}=(P,L,I)$を射影平面とし, $l_{\infty}\in L$とする. このとき,
$P'=P \setminus P(l_{\infty})$
$L'=L \setminus \{l_{\infty}\}$
$I'= I \cap (P'\times L')$
と定めると, $\mathbb{A}=(P',L',I')$はアフィン平面となる(下の証明参照). これを$\P=(P,L,I)$のアフィン化と呼ぶ.
このとき, $l,l'\in L'$に対して, $\A$において$l\para l'$であることと, $\P$において$l\cap l_{\infty}=l'\cap l_{\infty}$であることは同値.
また, この対応は自然であり, 同型を保つ.
(すなわち,この対応により, $\mathrm{Proj}_{\ast}$から$\mathrm{Affine}$へ関手が作れる )
まず, $l,l'\in L'$のとき, $l\para l'\iff l\cap l_{\infty}=l'\cap l_{\infty}$を示す. $l=l'$のときは自明. そうでないとき, $l$と$l'$は必ず$\P$に交点を一つ持つので$l\para l' \iff l\cap l'\in l_{\infty}$. これは$l\cap l_{\infty}=l'\cap l_{\infty}$とも同値.
(P1): $\P$についての(P1)から従う.
(P2): $l\in L'$, $p\in P'\setminus P'(l)$と仮定する. $l\cap l_{\infty}=q$と置く. このとき, 上の注意より, $(p\in P'(l') \land P'(l)\cap P'(l')=\emptyset)\iff l'=\overline{pq}$となる.
(P3): 定理2から, $\#P(l_{\infty})\geq 3$. よって, 相異なる$x,y\in P(l_{\infty})$がとれる.
定理2から, $\#L(x)=\#L(y)\geq 3$. よって, 相異なる$l_1,l_2\in L(x)\setminus \{l_{\infty}\}$および$l_3,l_4\in L(y)\setminus \{l_{\infty}\}$が取れる.
$l_1\cap l_3 =a$, $l_1\cap l_4=b$, $l_2\cap l_4=c$, $l_2\cap l_3=d$とすると, この$a,b,c,d$は$P'$の元となる. $a\neq b\neq c\neq d\neq a$は容易にわかる.
もし, $a,b,c$が共線(i.e, $a,b,c$を全て通るような直線$l$が存在する)なら, $l_1=\overline{ab}=l=\overline{bc}=l_4$とな. しかし, これは$l_{\infty}$との交点をみて矛盾する. とくに, $a\neq c$もわかる.
同様にして, $\{b,c,d\}$, $\{c,d,a\}$, $\{d,a,b\}$も非共線となる. ゆえに, $\{a,b,c,d\}\in [P']^4$であり, これは(P3)を満たす.
同型を保つことは構成から明らか.
定義7と定義8で与えた操作は(同型を除いて)互いに逆を与える. すなわち,
前半は定義からただちに従う. 後半を示す.
$\P=(P,L,I)$, $\A=(P':=P\setminus P(l_0) ,L':=L\setminus \{l_0\},I')$. $\P_0=(P_0,L_0,I_0) $と置く.
$l,l'\in L'$のとき, $l$と$l'$が($\A$で)平行なことと, $l_0\cap l=l_0\cap l'$は同値.
よって, $f:P_0=P'\sqcup P'_{\infty}\to P$を,
$f(x)=\begin{cases}
x && x\in P'\text{のとき} \\
l\cap l_{\infty} && x=p_l (l\in L')\text{のとき}
\end{cases}
$
と定めると, これはwell-defな全単射.
$g:L_0=L'\cup \{l_{\infty}\} \to L$を, $L'$上ではidになり, $l$を$l_{\infty}$に移すように定める. 定義より, $g$は全単射となる. [1]
あとは$p\in P_0,l\in L_0$のとき, $(p,l)\in I_0 \iff (f(p),g(l))\in I$を示せばよい.
(この$f,g$の作り方は$\P$について自然なので, 圏同値がわかる.)
射影平面から取り除く直線を変えると, (一般には)同型ではないアフィン平面が得られる.
本質的に同じことだが, アフィン平面$\A$から$l_{\infty}$を付け加えて$\P$を作った後, $l_{\infty}$でない直線を取り除いて$\A'$を作ると, $\A$と$\A'$は同型とは限らない. このような例を作るのも, この記事の目標の一つ.
(デザルグ平面は, 自己同型が推移的に作用している(例2)ので, どの直線を除いても同型なアフィン平面が出てくる)
有限体からアフィン平面を作ることができるわけだが, 実は体より弱い構造からでもアフィン平面を作ることができる.
その一例として, quasi-fieldと呼ばれるものをみる.
$(A,0,+,-)$を有限アーベル群とし, $\mathrm{X}\subset \End(A)$とする. $(A,X,0,+,-)$がquasi-fieldであるとは, $X$が次の条件を全て満たすことを指す:
最後の条件は次のように言い換えられる:
$\forall a\in A\setminus\{0\}, (\phi\in X \mapsto \phi(a)\in A)$が全単射.
これは次のようにも書ける:
$\#X=\#A$かつ, $\forall \{\phi,\psi\}\in [X]^2, \mathrm{ker}(\phi-\psi)=\{0\}$
$\mathrm{ker}(\phi-\psi)=\{0\}$の部分は, $\phi-\psi\in \Aut(A)$と書いても良い.
ここからとくに, $0\neq \phi \in X$なら, $\phi\in \Aut(A)$となることがわかる.
(あとで使わないので読み飛ばしてもよい)
$\mathrm{id}_A\in X$という条件は非本質.
実際, $X$が$\mathrm{id}_{A}\not\in X$以外の条件を満たすとき, $\phi \in X\setminus \{0\}$を適当にとると, $\phi^{-1} \cdot X:=\{\phi^{-1}\psi |\psi \in X\}$はquasi-fieldとなる.
同様にして, $-\phi+X$を考えることで, $0\in X$という条件も非本質であることがわかる.
あとでquasi-fieldからアフィン平面が作れることをみるが, その際にも$0,\mathrm{id}_A\in X$という条件は使わない. 単に, (この後の注でみるような)一般的なquasi-fieldの定義に合わせるために, この条件を入れた.
(あとで使わないので読み飛ばしてもよい)
上で述べた定義は, 普通"quasi-field"と呼ばれるものと, だいぶ見た目が異なるので, その関係について述べる.
$A\neq \{0\}$なので, $1\in A\setminus\{0\}$がとれる.
$\phi\mapsto \phi(1)$は全単射なので, $A$に次のように2項演算$\cdot$が定義できる:
$a\cdot b:=\phi_a(b)$, ただし$\phi_a\in X$は$\phi_a(1)=a$を満たす唯一の元.
このとき, $(A,0,1,+,-,\cdot)$は以下の条件を満たす:
普通は, 上の公理を満たす代数系をquasi-fieldと呼ぶ. 今した操作の逆を行うことで, この意味でのquasi-fieldから, 我々の意味でのquasi-fieldを得ることもできる. [3]
(
wikipediaの定義
だと, $+$の可換性は課していないが, これは公理から導ける.
このpdfのprop4.1.5参照
)
$\F$が有限体のとき, $X:=\{(x\mapsto ax)\in \End(\F)|a\in \F\}$と定めると, $(\F,X)$はquasi-field.
quasi-fieldからアフィン平面が作れることを見る:
$(A,X,0,+,-)$をquasi-fieldとする.
$P:=A^2=\{p_{x,y}|(x,y)\in \A^2\}$, $L:=(X\times A)\sqcup A=\{l(\phi,b)|\phi\in X,b\in A\}\sqcup \{l(\ver,c)|c\in A\}$とし,
$I\subset P\times L$を,
$(p_{x,y},l(\phi,b))\in I \iff y=\phi(x)+b$, $(p_{x,y},l(\ver,c))\in I \iff x=c$
で定めると, $(P,L,I)$はaffine space.
$l(s,b)\in L$の傾きを$s\in X\cup\{\ver\}$と定める. $l_1,l_2\in L$に対して, $l_1\para l_2$であることと, ($l_1$の傾き)$=$($l_2$の傾き)は同値.
$p_{x,y}$を単に$(x,y)$と書く.
最後の主張から示す. (相異なる)2直線の傾きが一致していたら, 交点を持たないのは自明. 傾きが一致しないとき, 交点を持つことを示す.
$l(\phi,b)$と$l(\ver,c)$は交点$(c,\phi(c)+b)$を持つ.
$l(\phi,b)$と$l(\psi,c)$は交点$((\phi-\psi)^{-1}(c-b), (\phi-\psi)^{-1}(\phi(c)-\psi(b)))$を持つ. (定義9の直後の注意から, $\phi-\psi$は全単射)
(P1): 相異なる$(x_1,y_1),(x_2,y_2)\in P$を任意にとる.
$x_1=x_2$なら, $l(\ver,x_1)$がこの2点を通る唯一の2直線.
$x_1\neq x_2$なら, $l(\ver,c)$はこの2点を同時に通らない.
$(x_1,y_1),(x_2,y_2)\in P(l(\phi,b))$ $\iff (y_1 = \phi(x_1)+b) \land (y_2=\phi(x_2)+c)$ $\iff (b=y_1-\phi(x_1)) \land (y_2-y_1=\phi(x_2-x_1))$.
quasi-fieldの最後の公理より, 条件$y_2-y_1=\phi(x_2-x_1)$から$\phi$が一意にきまる. よって, この2点を通る直線は一意に定める.
(P2): $l\in L,(x_0,y_0)\in P\setminus P(l)$を任意にとる. この証明の最初の注意より, $(x_0,y_0)$を通り, $l$と傾きが等しい直線$l'$が一意に定まることを示せばよい.
$l=l(\ver,c)$なら, $l'=l(\ver,y_0)$が条件を満たす唯一の直線.
$l=l(\phi,b)$なら, $l'=l(\phi,y_0-\phi(x_0))$が条件を満たす唯一の直線.
(P3): $a\in A\setminus \{0\}$を一つとり, 固定する. $S=\{(0,0),(0,a),(a,0),(a,a)\}$は(P3)の条件を満たす.
(鳩の巣原理より, $S$の$3$点以上を通る直線は$l(\ver,\ast)$の形をしている. しかし, この直線も$S$と3点以上で交わらない)
このアフィン平面$\A$を射影化(定義8参照)すると, 射影平面$\P=(\widehat{P},\widehat{L},\widehat{I})$が得られる. 後の都合上, この射影平面の構成をexplicitに書く:
$\A$の直線の平行による同値類は, 傾きに対応するので,
$\widehat{P}=P\sqcup \{p_{\phi}|\phi\in X\cup \{\ver\}\}$, $\widehat{L}=L\sqcup \{l_{\infty}\}$,
$\widehat{I}=I\cup \{(p_s,l(s,b))|s\in X\cup \{\ver\},b\in A\}\cup \{(p_s,l_{\infty})|s\in X\cup \{\ver\}\}$
と書ける.
$\F$を有限体, $T^2+rT+s=f(T)\in \F[T]$を$\F$のモニック既約二次多項式とする.
$A=\F^2$とし, $X\subset \End(A)=M_2(\F)$を, $X:=\{aI_2|a\in \F\}\cup X', X'=\{\phi \in \End(A)| \phi\text{の固有多項式は}f\}$と定める. このとき, $(A,X,0,+,-)$はquasi-fieldになる. これをHall quasi-fieldと呼ぶ.
また, このquasi-fieldから, (定義10の意味で)作られるアフィン平面, およびそれを射影化して作れる射影平面をHall planeと呼ぶ.
$A\neq \{0\}$, および $O_2,I_2\in X$は定義より自明. $v\in A\setminus \{0\}, w\in A$を任意にとり, $\exists^{!} \phi\in X, \phi(v)=w$を示す.
(あとで使わないので読み飛ばしてもよい)
実は, Hall-planeは$f$によらないことが示せる($\F$にのみよる).
実際, $f(T)$を$f(T+a)$に変えると, $X_0$は$X_0-aI_2$に変わる. $f(T)$を$a^{-2}f(aT)$に変えると, $X_0$は$a^{-1}X_0$に変わる. これらの変換で, Hall-planeは(up to isoで)変わらないことが示せるので, Hall-plane(の同値類)は$f$の取り方によらない.
以下, $\F=\F_3, f(T)=T^2+1\in \F[T]$とする. 定義11にあるようにHall quasi-field$(\F^2,X_0,0,+,-)$およびアフィン平面$\A_0$を定め, $\A_0$に$l_{\infty}$を付け加えて射影化したものを$\P_0$とする. 定義10の直後に書いたような記法を用いる. (つまり, 射影化によって付け加えた点を$p_s, s\in X_0 \cup \{\ver\}$と書く)
(デザルグ平面では見れないような), $\P_0$の性質を見ていく. まず, $\P_0$から$l(\ver,0)$を除いてアフィン化すると, $\A_0$とは非同型になることを示したい.
アフィン平面$\A$の相異なる4点$a,b,c,d$が次の条件を満たすとき, $a,b,c,d$は(この順に)平行四辺形をなすと呼ぶ.
アフィン平面に対する条件(TR)を, 次のように定める:
相異なる$6$点$a,b,c,d,e,f$が存在し, $a,b,c,d$が平行四辺形をなし, $c,d,e,f$が平行四辺形をなし, $e$は$\overline{ac}$上にないとする. このとき, $a,b,f,e$は平行四辺形をなす.
quasi-field$(A,X,0,+,-)$に対して, 定義10の意味で作れるアフィン平面を$\A$と置く.
$\A$の相異なる$4$点$a,b,c,d$があり, $c$が$\overline{ab}$上にないとする.このとき, $a,b,c,d$が平行四辺形をなすことと, $b-a=c-d$は同値. (ここで, 式の引き算は$P=A^2$のabel群構造から定まるもの. )
よって, $\A$(特に$\A_0$)は(TR)を満たす.
前半の主張を仮定すると, 後半の主張は, $b-a=c-d=f-e$とな従う. 以下, 前半を示す.
$b-a=c-d$のとき, $a,b,c,d$が平行四辺形をなすことを示す.
定義10の(P1)の証明からわかるように, 2点$x,y$を通る直線の傾きは$y-x$から定まる. よって, $b-a=c-d$なら$\overline{ab}$と$\overline{cd}$は平行である. このとき, $b-c=a-d$なので, $\overline{bc}$と$\overline{ad}$は平行となる. よって一方の含意は示せた.
逆向きを示す. 上で示したことから, $a,b,c$が一直線上にないとき, $a,b,c,b+c-a$は平行四辺形をなす. よって, 平行四辺形の最初の3点からが最後の一点が一意に定まることをみればよい.
これは, $d$が「$c$を通り$\overline{ab}$に平行な直線」と「$a$を通り, $\overline{bc}$に平行な直線」の交点として決まることからわかる.
$\P_0$から$l(\ver,0)$を除いてできたアフィン平面$\A_1$は, (TR)を満たさない.
とくに, $\A_1$と$\A_0$は非同型. よって, $l_{\infty}$を$l(\ver,0)$に移すような, $\P_0$の自己同型は存在しない.
前半を示す. 具体的に(TR)の反例を作ればよい. 以下, $\F^2$の元は縦ベクトルとして小文字で書き, $\A_0$の点(これは$\P$の点や, $\A_1$の点ともみなせる)は, 大文字として書く. ($A$と$\A$の混同に注意せよ.)$\mathbf{0}\in \F^2$は太字で書き, $\A_0$の原点は必ず$(\mathbf{0},\mathbf{0})$と書くこととする.
$2$直線$l_1,l_2$が$\A_1$内で平行なことと, $l_1\cap l(\ver,0)=l_2\cap l(\ver,0)$は同値である.(定義8参照) 以下, この事実は断りなく使う.
$v_1=\begin{pmatrix} 1\\ 0\end{pmatrix}, v_2=\begin{pmatrix} -1\\ 0\end{pmatrix},
v_3=\begin{pmatrix} 1\\ 1\end{pmatrix} \in \F^2
$とし, $\phi =\begin{pmatrix}
0 & 1\\
-1 & 0
\end{pmatrix},
\psi =\begin{pmatrix}
1 & 1\\
1 & -1
\end{pmatrix}\in X_0
$と定める.
$A=(v_1,\mathbf{0}),B=(v_1,v_1),C=(v_2,v_2)$ $,D=(v_2,\mathbf{0}),E=(v_3,v_2-v_3),F=(v_3,v_2)$と定める.
$\overline{AB},\overline{CD},\overline{EF}$は$\P_0$において, $p_{\ver}$で交わる.これは$l(\ver,\mathbf{0})$上の点なので, $\A_1$において, これら3直線は平行.
$\overline{BC}=l(I_2,\mathbf{0}),\overline{AD}=l(O_2,\mathbf{0})$なので, これは$\A_1$において平行. よって, $ABCD$は平行四辺形をなす.
同様に, $\overline{DE}=l(-I_2,v_2), \overline{FC}=l(O_2,v_2)$より$CDEF$も平行四辺形をなす.
$\phi(v_3-v_1)=v_2-v_1,\psi(v_3-v_1)=v_2-v_3$に気を付けると, $\overline{BF}=l(\phi,v_1-\phi(v_1))$, $\overline{EA}=l(\psi,-\psi(v_1))$.
しかし, $v_1-\phi(v_1)=\begin{pmatrix} 1\\ 1\end{pmatrix}\neq \begin{pmatrix} -1\\ -1\end{pmatrix}=-\psi(v_1)$なので, $A,B,F,E$は平行四辺形をなさない. ゆえに, $A,B,C,D,E,F$は(TR)の反例となる.
後半を示す. 一個前の命題と合わせて, $\A_1$と$\A_0$は非同型になる. もし, $\P_0$の自己同型が$l_{\infty}$を$l(\ver,0)$に移したら, $\A_1$と$\A_0$が同型になり, 矛盾する.
(i.e, $\mathrm{Affine}$において$\A_1$と$\A_0$が非同型なので, 圏同値で移して$(\P,l_{\infty})$と$(\P,l(\ver,0))$も$\mathrm{Proj}_{\ast}$で非同型)
次に, $\P_0$がdualと非同型なことを見たい. そのために, $\Aut(\P_0)$の点/直線への作用の様子をみる.
$\A_0$の自己同型は自然に$\P_0$に伸ばせるので(定義7参照, もしくは命題4の圏同値から, といってもよい), 自然に$\Aut(\A_0)=\Aut(\P_0,l_{\infty})$と思えることに注意せよ. (左辺は$l_{\infty}$を保つような自己同型全体. )
$(A,X,+,-,0)$をquasi-fieldとし, 全単射アフィン[4]写像$f : A^2\to A^2$が次の条件を満たしたとする:
任意の$\phi\in X\cup \{\ver\}$に対し, ある$\psi\in X\cup \{\ver\},c\in A$が存在して, $f[P(l(\phi,0))]\subset P(l(\psi,c))$
このとき, $f$は$A$から定まるアフィン空間$\A=(P:=A^2,L,I)$の自己同型とみなせる.
$\A$の直線上の点の個数は$\#A$に等しいので, 上の条件の$\subset$は$=$に置き換えられることに注意せよ.
任意に$\phi\in X\cup \{\ver\}, b\in A$を取る. このとき, 適当な$v_b\in A^2$を用いて, $P(l(\phi,b))=P(l(\phi,0))+v_b$と書ける. すると, $f$のアフィン性より, $f[P(l(\phi,b))]=f[P(l(\phi,0))]+(f(v_b)-f(0))= P(l(\psi,c))+(f(v_b)-f(0))$. この式の右辺は, 適当な$c'\in A$を用いて, $P(l(\psi,c'))$と書ける[5].
ゆえに, $g:L\to L$を$l(\phi,b)\mapsto l(\psi,c')$と定めると, $(p,l)\in I\iff (f(p),g(l))\in I$が成立する. $f$は全単射なので, $g$の全単射性も従う.
(任意に$l\in L$をとる. $l=\overline{pq}$と書けるので, $l'=\overline{(f^{-1}(p)f^{-1}(q))}$とすると, $g(l')=l$. よって, $g$は全射. $L$は有限集合なので, $g$は全単射)
ここから, $\A_0$の自己同型を作っていく.
$X_0=\{O_2,\pm I_2\}\cup \left\{
\pm\begin{pmatrix}
0 & 1\\
- 1 & 0
\end{pmatrix},
\pm \begin{pmatrix}
1 & 1\\
1 & -1
\end{pmatrix},
\pm\begin{pmatrix}
1 & -1\\
-1 & -1
\end{pmatrix}
\right\}$
なので, $X_0$は積で閉じていることがわかる[6]. (群$X_0\setminus \{O_2\}$は$Q_8$と同型になる. )
次のように$(F^2)^2$のアフィン変換を定めると, これは$\A_0$の自己同型を誘導する:
それぞれの写像に対して, 命題6の条件を確かめればよい.
今までの結果をまとめると, 次のように$\P_0$の性質がわかる:
$G=\Aut(\P_0)$とし, $\P_0=(P_0,L_0,I)$と置く.
なお、$\#G$は$2^8\times 3^5\times 5$になる(らしい). 下の参考文献を参照せよ. (気が向いたら書くかも)
https://multramate.github.io/projects/fpp/main.pdf
:有限射影平面について書かれているpdf. 全体的に参考にした.
Projektive Ebenen über Fastkörpern.
:ドイツ語で書かれた論文. $\P_0$の自己同型の位数などを決定している. 命題8で参考にした.