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作ろう!(有限)非デザルグ射影平面: ~Hall quasi-fieldとHall plane~

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$$\newcommand{A}[0]{\mathbb{A}} \newcommand{Aut}[0]{\mathrm{Aut}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{char}[0]{{\bf char}} \newcommand{comp}[0]{\circ} \newcommand{core}[0]{\rm{core}} \newcommand{diag}[0]{\mathrm{diag}} \newcommand{End}[0]{\mathrm{End}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{field}[1]{\mathbb{F}_{#1}} \newcommand{gen}[1]{\langle #1 \rangle} \newcommand{GL}[0]{\mathrm{GL}} \newcommand{Gr}[0]{\mathrm{Gr}} \newcommand{imply}[0]{\Rightarrow} \newcommand{inpr}[2]{\langle {#1},{#2} \rangle} \newcommand{iso}[0]{\simeq} \newcommand{lnormal}[0]{\triangleleft } \newcommand{op}[0]{\mathrm{op}} \newcommand{P}[0]{\mathbb{P}} \newcommand{para}[0]{\mathrel{/\!/}} \newcommand{PGL}[0]{\mathrm{PGL}} \newcommand{PgL}[0]{\mathrm{P\Gamma L}} \newcommand{PSL}[0]{\mathrm{PSL}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{rnormal}[0]{\triangleright} \newcommand{semiprod}[3]{{#1}\ltimes_{#2}#3} \newcommand{SL}[0]{\mathrm{SL}} \newcommand{ver}[0]{\uparrow} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

初めに

射影平面とアフィン平面の基本的な性質を示したあと, $\mathbb{P}^2(\F_q)$の形で表せないような射影平面の一つである, Hall planeを作り, その性質を少し見ていきます.
一応self-containedになるように書きました. 射影平面に慣れているひとはquasi-fieldの章から読んで問題ないと思います.

射影平面

集合$X$および非負整数$n$に対し, $[X]^n:=\{Y\subset X|\#Y=n\}$とする.

射影平面

$P,L$を集合とし, $I\subset P\times L$とする.
三つ組$\mathbb{P}=(P,L,I)$射影平面であるとは, 以下の3条件が全て成立することを指す:
(P1): $\forall \{p_1,p_2\} \in [P]^2, \exists^! l\in L, (p_1,l),(p_2,l)\in I$
(P2): $\forall \{l_1,l_2\}\in [L]^2, \exists^! p\in P, (p,l_1),(p,l_2)\in I$
(P3): $\exists S\subset [P]^4, \forall l\in L, \#\{p\in S|(p,l)\in I\}\leq 2$
射影平面$\mathbb{P}=(P,L,I)$に対して, $P$の元を,$L$の元を直線と呼び, $(p,l)\in I$のことを直線$l$$p$を通る, $p$$l$の上にあるなどと言う.

以下, $P,L$が有限集合の場合のみを考える.

$\F$を有限体とする. $n\geq m$を満たす非負整数$n,m$に対し, $\Gr(n,m,\F)$$\{W\subset \F^n|W\text{は}\F^n\text{の部分}m\text{次元空間} \}$と定める. $I=\{(p,l)\in \Gr(3,1,\F)\times \Gr(3,2,\F)|p\subset l\}$とすると, $(\Gr(3,1,\F),\Gr(3,2,\F),I)$は射影平面となる. これを$\P^2(\F)$と表す.

(P3では, $S=\{\gen{e_1},\gen{e_1+e_2},\gen{e_1+e_3},\gen{e_1+e_2+e_3}\}$と定めるとよい. )
この射影平面(と下の意味で同型なもの)をデザルグ平面と呼ぶ.

(本当は体から作られる射影平面と同型なものを, デザルグ平面と呼ぶが, 今は有限なものしか考えてないので, ウェダーバーンの定理より, この定義で問題ない)

同型

射影平面$(P,L,I)$, $(P',L',I')$が同型であるとは, 全単射$f:P\to P'$および$g:L\to L'$が存在し, $\forall (p,l)\in P\times L, (p,l)\in I \iff (f(p),g(l))\in I$が成立することを指す.

非デザルグ平面を作るのがこの記事の目標の一つ.

$\F$を有限体とする. $A\in \mathrm{GL}(3,\F)$を任意にとると, それに対応して自然に$\P^2(\F)$の自己同型を作れる. とくに , $\P^2(\F)$の自己同型は$P$および$L$に推移的に作用する.

なお, (この結果は後で使わないが) $\P^2(\F)$の任意の自己同型は, 行列と$\F$の自己同型の組み合わせでつくれる. 詳しくは マシュー群の記事の命題17 参照.

射影平面$(P,L,I)$および$p\in P, l\in L$に対して,
$L(p):=\{l|(p,l)\in I\}, P(l):=\{p|(p,l)\in I\}$とする.
また,$\{p,p'\}\in [P]^2$に対し, $L(p)\cap L(p')$の唯一の元を直線$\overline{pp'}$,または単に$\overline{pp'}$と書く.
同様に, $\{l,l\}\in [L]^2$に対し, $P(l)\cap P(l')$の唯一の元を$l$$l'$の交点, または単に$l\cap l'$と書く.

以下, この章が終わるまで 射影平面$\mathbb{P}=(P,L,I)$を固定する.

双対

$I^{\op}:=\{(l,p)\in L\times P|(p,l)\in I\}$とすると, $\P^{\op}:=(L,P,I^{\op})$は射影平面となる. これを$\P$双対と呼ぶ.

(P1),(P2)は$\P$に対する(P2),(P1)から従う.
(P3)を示す. $S:=\{a,b,c,d\}\subset P$が(P3)の条件を満たすとする. 条件より, $\{x,y\}\in [S]^2$のとき, $\overline{xy}$$S\setminus \{x,y\}$の元を通らない.
$T=\{\overline{ab},\overline{bc},\overline{cd},\overline{da}\}$が(P3)の条件を満たすことを示す. 上の注意より, $\#T=4$がわかる. ある$p\in P$があり, $\#\{l\in T|(p,l)\in I\}\geq 3$と仮定して, 矛盾を導く.
対称性より, $p$$\overline{ab},\overline{bc},\overline{cd}$を通ったとしてよい. しかし, 点$\overline{ab}\cap \overline{bc}=b$を直線$\overline{cd}$は通らないので矛盾.

デザルグ平面の双対は, 元のデザルグ平面と同型になる.
(例えば, (ベクトル空間の意味での)双対空間に対応させるとよい.)
しかし, 一般の射影平面の双対は, もとの射影平面と同型になるとは限らない. このような例を作ることも, この記事の目標の一つである.

実は$\#L(p)$および$\#P(l)$$p,l$によらずに一定である. これを示していく.

直線$l$および, $l$の上にない$p$に対し, $\#L(p)=\#P(l)$.

$\phi:L(p)\to P(l)$$\phi(l')=l\cap l'$, $\psi:L(p)\to P(l)$$\psi(q)=\overline{pq}$と定めると, これは互いの逆写像になる.

ある非負整数$n$が存在して, $\forall p\in P, \#L(p)=n+1$および$\forall l\in L,\#P(l)=n+1$が成立する.
この$n$を射影平面$\mathbb{P}$位数と呼ぶ.
このとき, $\#P=\#L=n^2+n+1$であり, $n\geq 2$となる.

まず, $\forall l\in L, \#P(l)=n+1$を満たすような$n$の存在を示す. 上の補題から, 次の事実が成り立つことに注意せよ:
$\{l_1,l_2\}\in [L]^2$$P(l_1)\cup P(l_2)\neq P$を満たすとき, $\#P(l_1)=\#P(l_2)$($\cdots$☆)
($p\not\in P(l_1)\cup P(l_2)$をとると, $\#P(l_1)=\#L(p)=\#P(l_2)$が成立するのでよい)
射影平面の公理(P3)を満たすような$S=\{a,b,c,d\}\in [P]^4$をとる. (P3)の主張より, $\forall l\in L, \#(S\cap P(l))\leq 2$となる. とくに, $d\not\in P(\overline{ab}),P(\overline{ac})$が成立するので, (☆)より, $\#P(\overline{ab})=\#P(\overline{ac})$.
同様にして, $\#P(\overline{ab})=\#P(\overline{ac})=\#P(\overline{ad})=\#P(\overline{bd})=\#P(\overline{bc})=\#P(\overline{cd})$. この値を$n+1$とする.
任意に$l\in L$をとる. 対称性より, $a,b\not\in P(l)$としてよい. $a\in P(\overline{ac})$なので, $l\neq \overline{ac}$であり,この$2$直線はともに$b$を通らない. よって, (☆)より, $\#P(l)=\#P(\overline{ac})=n+1$となる.
任意に$p\in P$をとる. 対称性より, $p\neq a$としてよい. $\overline{ab}\cap \overline{ac}=\{a\}$なので, $p\not\in P(\overline{ab})$$p\not\in P(\overline{ac})$となる. よって,先の命題より, $\#L(p)=n+1$. これで, 主張の前半部が示された.
$\displaystyle{ P=\{a\}\cup \bigcup_{l\in L(a)}(L(l)\setminus\{a\}) }$なので, $\#P=1+(n+1)\cdot n =n^2+n+1$. また, ダブルカウントにより, $\sum_{p\in P} \#L(p)= \#I=\sum_{l\in L} \#P(l)$なので, $\#L=n^2+n+1$.
$n^2+n+1=\#P\geq \#S=4$より, $n\geq 2$が従う.

アフィン平面

普通のeuclid平面に対応するのが, アフィン平面. アフィン平面を完備化することで射影平面を作れる.

アフィン平面

$P,L$を集合とし, $I\subset P\times L$とする.
三つ組$\mathbb{A}=(P,L,I)$アフィン平面であるとは, 以下の3条件が全て成立することを指す:
(P1): $\forall \{p_1,p_2\} \in [P]^2, \exists^! l\in L, (p_1,l),(p_2,l)\in I$
(P2): $\forall l\in L,\forall p\in P\setminus P(l), \exists^! l'\in L(p), P(l)\cap P(l')=\emptyset$
(P3): $\exists S\subset [P]^4, \forall l\in L, \#(P(l)\cap S)\leq 2$
ただし, $L(p):=\{l|(p,l)\in I\}, P(l):=\{p|(p,l)\in I\}$とした.
また, , 直線,直線$l$$p$を通る, (直線)$ \overline{pq}$, 同型という言葉も, 射影平面と同様にして定義する.

(P1)より, 相異なる直線が2点以上で交わらないことに注意せよ.

$\F$を体とし, $P=\{p_{x,y}|x,y\in \F\}$, $L=\{l(a,b)|a,b\in \F\}\sqcup \{l(\ver,c)|c\in F\}$と定める. ($p,l$は適当な記号)
$(p_{x,y},l(a,b))\in I \iff y=ax+b$
$(p_{x,y},l(\ver,c))\in I \iff x=c$
$I\subset P\times L$を定めると, $(P,L,I)$はアフィン平面となる.
これは, 射影平面$\P^2(\F)$から, 直線$\gen{e_2,e_3}$を除いてアフィン化(この後の定義8参照)したものとも思える.

$\mathbb{A}=(P,L,I)$をアフィン平面とし, $l_1,l_2\in L$とする.
$l_1,l_2$が平行である $:\iff$ $l_1=l_2$または$P(l_1)\cap P(l_2)=\emptyset$
と定める. これを単に$l_1\para l_2$と表す.

(P2)より, $\forall l\in L,\forall p\in P, \exists^! l'\in L(p), l\para l'$が従う.

$\mathbb{A}=(P,L,I)$をアフィン平面とする. このとき, $\para$は同値関係.

反射律, 対称律は定義から明らか. $l_1\para l_2 \para l_3$として, $l_1\para l_3$を示す.
もし, $P(l_1)\cap P(l_3)=\emptyset$なら, 明らかに$l_1\para l_3$. そうでないなら, $p\in P(l_1)\cap P(l_3)$が取れる. $l_1, l_3$はともに$p$を通り, $l_2$に平行なので, 上の注意から$l_1=l_3$が従う.

以下完備化によって, アフィン平面と, 射影平面(+specificな1直線)が自然に対応することを見る.

射影化

$\mathbb{A}=(P,L,I)$をアフィン平面とする.
同値関係$\para$による商集合を$P_{\infty}$と書き, 商写像$L \to P_{\infty}$による$l\in L$の像を$p_l$と表す.
$\widehat{P}=P \sqcup P_{\infty}$
$\widehat{L}=L \sqcup \{l_{\infty}\}$ ($l_{\infty}$$L$に属さない適当な記号)
$\widehat{I}= I \cup \{(p_l,l)|l\in L\}\cup (P_{\infty}\times \{l_{\infty}\})$
と定めると, $(\widehat{P},\widehat{L},\widehat{I})$は射影平面となる(下の証明参照). これを$(P,L,I)$の射影化と呼ぶ.
また, この対応は自然であり, 同型を保つ.
(すなわち, アフィン平面を対象とし, 同型を射とした圏$\mathrm{Affine}$から, 射影平面とその直線の組を対象とし, 指定された直線を保つような同型を射とした圏$\mathrm{Proj}_{\ast}$へ関手が作れる. )

$\widehat{I}$の定義から, $(p,l)\in P\times L$に対し, $(p,l)\in I \iff (p,l)\in \widehat{I}$となることに注意せよ.
(P1): $\{p,q\}\in [\widehat{P}]^2$を任意にとる.

  • $p,q\in P$のとき.
    直線$l_{\infty}$$p,q$を通らないので, 上の注意と合わせ, $\mathbb{A}$についての(P1)から従う.
  • $p,q$のちょうど一つが$P$に属するとき.
    対称性より, $q\in P, p=p_l$としてよい. $p$を通る直線としては, $l_{\infty}$, および($\mathbb{A}$で)$l$に平行な直線のみ. 前者は$q$を通らないので, 定義6の後の注から, $p,q$を通る直線は一意.
  • $p,q\in P_{\infty}$のとき.
    $l_{\infty}$$p,q$を通る. $l\in L$のとき, $l\cap l_{\infty}=p_l$となるので, $l_{\infty}$と2点以上で交わらない.

(P2): 上で示したように, $l\in L$$l_{\infty}$の交点はちょうど一点. $\{l_1,l_2\}\in [L]^2$を任意にとる.
$l_1$$l_2$$P$内で高々$1$回交わり,交点を持たないことと$l_1\para l_2$は同値. 一方, $l_{\infty}$内での交点も高々一点であり, 交点をもつことは, $p_{l_1}=p_{l_2}$と, 従って$l_1\para l_2$と同値. ゆえに, 交点はちょうど一点.
(P3): $\mathbb{A}$についての(P3)から従う.
対応が同型を保つのは, 構成から明らか.

アフィン化

$\mathbb{P}=(P,L,I)$を射影平面とし, $l_{\infty}\in L$とする. このとき,
$P'=P \setminus P(l_{\infty})$
$L'=L \setminus \{l_{\infty}\}$
$I'= I \cap (P'\times L')$
と定めると, $\mathbb{A}=(P',L',I')$はアフィン平面となる(下の証明参照). これを$\P=(P,L,I)$のアフィン化と呼ぶ.
このとき, $l,l'\in L'$に対して, $\A$において$l\para l'$であることと, $\P$において$l\cap l_{\infty}=l'\cap l_{\infty}$であることは同値.
また, この対応は自然であり, 同型を保つ.
(すなわち,この対応により, $\mathrm{Proj}_{\ast}$から$\mathrm{Affine}$へ関手が作れる )

まず, $l,l'\in L'$のとき, $l\para l'\iff l\cap l_{\infty}=l'\cap l_{\infty}$を示す. $l=l'$のときは自明. そうでないとき, $l$$l'$は必ず$\P$に交点を一つ持つので$l\para l' \iff l\cap l'\in l_{\infty}$. これは$l\cap l_{\infty}=l'\cap l_{\infty}$とも同値.
(P1): $\P$についての(P1)から従う.
(P2): $l\in L'$, $p\in P'\setminus P'(l)$と仮定する. $l\cap l_{\infty}=q$と置く. このとき, 上の注意より, $(p\in P'(l') \land P'(l)\cap P'(l')=\emptyset)\iff l'=\overline{pq}$となる.
(P3): 定理2から, $\#P(l_{\infty})\geq 3$. よって, 相異なる$x,y\in P(l_{\infty})$がとれる.
定理2から, $\#L(x)=\#L(y)\geq 3$. よって, 相異なる$l_1,l_2\in L(x)\setminus \{l_{\infty}\}$および$l_3,l_4\in L(y)\setminus \{l_{\infty}\}$が取れる.
$l_1\cap l_3 =a$, $l_1\cap l_4=b$, $l_2\cap l_4=c$, $l_2\cap l_3=d$とすると, この$a,b,c,d$$P'$の元となる. $a\neq b\neq c\neq d\neq a$は容易にわかる.
もし, $a,b,c$が共線(i.e, $a,b,c$を全て通るような直線$l$が存在する)なら, $l_1=\overline{ab}=l=\overline{bc}=l_4$とな. しかし, これは$l_{\infty}$との交点をみて矛盾する. とくに, $a\neq c$もわかる.
同様にして, $\{b,c,d\}$, $\{c,d,a\}$, $\{d,a,b\}$も非共線となる. ゆえに, $\{a,b,c,d\}\in [P']^4$であり, これは(P3)を満たす.
同型を保つことは構成から明らか.

定義7と定義8で与えた操作は(同型を除いて)互いに逆を与える. すなわち,

  • アフィン平面$\A$$l_{\infty}$を付け加えて射影平面$\P$をつくり, その$l_{\infty}$を取り除いてアフィン平面をつくると元の$\A$に一致する.
  • 射影平面$\P$から$l_0$を除いて$\A$を作り, そこに$l_{\infty}$を付け加えて射影平面$\P_0$を作ると, 元の$\P$と同型になる.
    (定義7と定義8で与えた関手は, $\mathrm{Proj}_{\ast}$$\mathrm{Affine}$の圏同値を与える. )

前半は定義からただちに従う. 後半を示す.
$\P=(P,L,I)$, $\A=(P':=P\setminus P(l_0) ,L':=L\setminus \{l_0\},I')$. $\P_0=(P_0,L_0,I_0) $と置く.
$l,l'\in L'$のとき, $l$$l'$が($\A$で)平行なことと, $l_0\cap l=l_0\cap l'$は同値.
よって, $f:P_0=P'\sqcup P'_{\infty}\to P$を,
$f(x)=\begin{cases} x && x\in P'\text{のとき} \\ l\cap l_{\infty} && x=p_l (l\in L')\text{のとき} \end{cases} $
と定めると, これはwell-defな全単射.
$g:L_0=L'\cup \{l_{\infty}\} \to L$を, $L'$上ではidになり, $l$$l_{\infty}$に移すように定める. 定義より, $g$は全単射となる. [1]
あとは$p\in P_0,l\in L_0$のとき, $(p,l)\in I_0 \iff (f(p),g(l))\in I$を示せばよい.

  • $l=l_{\infty}$のとき
    このとき, $g(l)=l_0$であり, $f$$P'_{\infty}$$P(l_0)$に移すので, 同値が従う.
  • $p\in P', l\in L'$のとき
    このとき, $I_0\cap (P'\cap L')=I'=I\cap (P\times L)$より同値が従う.
  • $p\in P'_{\infty}, l\in L'$のとき
    このとき, $p=p_{l'}$と表せる.
    $(p_{l'},l)\in I_0\iff p_l=p_l'\iff l\para l'$. 定義8の二つ目の主張より, これは$l,l',l_0$が1点で交わることと同値.
    一方, $f(p_{l'})=l'\cap l_0,g(l)=l$なので, $(f(p_{l'}),g(l))\in I\iff l'\cap l_0 \in P(l)$. これも$l,l',l_0$が1点で交わることと同値.

(この$f,g$の作り方は$\P$について自然なので, 圏同値がわかる.)

射影平面から取り除く直線を変えると, (一般には)同型ではないアフィン平面が得られる.
本質的に同じことだが, アフィン平面$\A$から$l_{\infty}$を付け加えて$\P$を作った後, $l_{\infty}$でない直線を取り除いて$\A'$を作ると, $\A$$\A'$は同型とは限らない. このような例を作るのも, この記事の目標の一つ.
(デザルグ平面は, 自己同型が推移的に作用している(例2)ので, どの直線を除いても同型なアフィン平面が出てくる)

quasi-field

有限体からアフィン平面を作ることができるわけだが, 実は体より弱い構造からでもアフィン平面を作ることができる.
その一例として, quasi-fieldと呼ばれるものをみる.

$(A,0,+,-)$を有限アーベル群とし, $\mathrm{X}\subset \End(A)$とする. $(A,X,0,+,-)$がquasi-fieldであるとは, $X$が次の条件を全て満たすことを指す:

  • $A\neq \{0\}$
  • $0, \mathrm{id}_{A}\in X$ (ここで, $0$$0$射を表す.)
  • $\forall a\in A\setminus\{0\},\forall b\in A, \exists^{!} \phi\in X, \phi(a)=b$

最後の条件は次のように言い換えられる:
$\forall a\in A\setminus\{0\}, (\phi\in X \mapsto \phi(a)\in A)$が全単射.
これは次のようにも書ける:
$\#X=\#A$かつ, $\forall \{\phi,\psi\}\in [X]^2, \mathrm{ker}(\phi-\psi)=\{0\}$
$\mathrm{ker}(\phi-\psi)=\{0\}$の部分は, $\phi-\psi\in \Aut(A)$と書いても良い.
ここからとくに, $0\neq \phi \in X$なら, $\phi\in \Aut(A)$となることがわかる.

(あとで使わないので読み飛ばしてもよい)
$\mathrm{id}_A\in X$という条件は非本質.
実際, $X$$\mathrm{id}_{A}\not\in X$以外の条件を満たすとき, $\phi \in X\setminus \{0\}$を適当にとると, $\phi^{-1} \cdot X:=\{\phi^{-1}\psi |\psi \in X\}$はquasi-fieldとなる.
同様にして, $-\phi+X$を考えることで, $0\in X$という条件も非本質であることがわかる.
あとでquasi-fieldからアフィン平面が作れることをみるが, その際にも$0,\mathrm{id}_A\in X$という条件は使わない. 単に, (この後の注でみるような)一般的なquasi-fieldの定義に合わせるために, この条件を入れた.

(あとで使わないので読み飛ばしてもよい)
上で述べた定義は, 普通"quasi-field"と呼ばれるものと, だいぶ見た目が異なるので, その関係について述べる.
$A\neq \{0\}$なので, $1\in A\setminus\{0\}$がとれる.
$\phi\mapsto \phi(1)$は全単射なので, $A$に次のように2項演算$\cdot$が定義できる:
$a\cdot b:=\phi_a(b)$, ただし$\phi_a\in X$$\phi_a(1)=a$を満たす唯一の元.
このとき, $(A,0,1,+,-,\cdot)$は以下の条件を満たす:

  • $(A,0,+,-)$はabel群.
  • $(A\setminus\{0\},1,\cdot)$はloop. [2]
  • $\forall a,b,c\in A, a\cdot (b+c)=a\cdot b+a\cdot c$ ($\phi_a$がabel群の準同型なので)
  • $\forall \{a,b\}\in [A]^2, \forall c\in A, \text{方程式}a\cdot x=b\cdot x+c$は唯一の解を持つ. ($\phi_a-\phi_b\in \Aut(A)$より従う.)

普通は, 上の公理を満たす代数系をquasi-fieldと呼ぶ. 今した操作の逆を行うことで, この意味でのquasi-fieldから, 我々の意味でのquasi-fieldを得ることもできる. [3]
( wikipediaの定義 だと, $+$の可換性は課していないが, これは公理から導ける. このpdfのprop4.1.5参照 )

$\F$が有限体のとき, $X:=\{(x\mapsto ax)\in \End(\F)|a\in \F\}$と定めると, $(\F,X)$はquasi-field.

quasi-fieldからアフィン平面が作れることを見る:

$(A,X,0,+,-)$をquasi-fieldとする.
$P:=A^2=\{p_{x,y}|(x,y)\in \A^2\}$, $L:=(X\times A)\sqcup A=\{l(\phi,b)|\phi\in X,b\in A\}\sqcup \{l(\ver,c)|c\in A\}$とし,
$I\subset P\times L$を,
$(p_{x,y},l(\phi,b))\in I \iff y=\phi(x)+b$, $(p_{x,y},l(\ver,c))\in I \iff x=c$
で定めると, $(P,L,I)$はaffine space.
$l(s,b)\in L$傾き$s\in X\cup\{\ver\}$と定める. $l_1,l_2\in L$に対して, $l_1\para l_2$であることと, ($l_1$の傾き)$=$($l_2$の傾き)は同値.

$p_{x,y}$を単に$(x,y)$と書く.
最後の主張から示す. (相異なる)2直線の傾きが一致していたら, 交点を持たないのは自明. 傾きが一致しないとき, 交点を持つことを示す.
$l(\phi,b)$$l(\ver,c)$は交点$(c,\phi(c)+b)$を持つ.
$l(\phi,b)$$l(\psi,c)$は交点$((\phi-\psi)^{-1}(c-b), (\phi-\psi)^{-1}(\phi(c)-\psi(b)))$を持つ. (定義9の直後の注意から, $\phi-\psi$は全単射)
(P1): 相異なる$(x_1,y_1),(x_2,y_2)\in P$を任意にとる.
$x_1=x_2$なら, $l(\ver,x_1)$がこの2点を通る唯一の2直線.
$x_1\neq x_2$なら, $l(\ver,c)$はこの2点を同時に通らない.
$(x_1,y_1),(x_2,y_2)\in P(l(\phi,b))$ $\iff (y_1 = \phi(x_1)+b) \land (y_2=\phi(x_2)+c)$ $\iff (b=y_1-\phi(x_1)) \land (y_2-y_1=\phi(x_2-x_1))$.
quasi-fieldの最後の公理より, 条件$y_2-y_1=\phi(x_2-x_1)$から$\phi$が一意にきまる. よって, この2点を通る直線は一意に定める.
(P2): $l\in L,(x_0,y_0)\in P\setminus P(l)$を任意にとる. この証明の最初の注意より, $(x_0,y_0)$を通り, $l$と傾きが等しい直線$l'$が一意に定まることを示せばよい.
$l=l(\ver,c)$なら, $l'=l(\ver,y_0)$が条件を満たす唯一の直線.
$l=l(\phi,b)$なら, $l'=l(\phi,y_0-\phi(x_0))$が条件を満たす唯一の直線.
(P3): $a\in A\setminus \{0\}$を一つとり, 固定する. $S=\{(0,0),(0,a),(a,0),(a,a)\}$は(P3)の条件を満たす.
(鳩の巣原理より, $S$$3$点以上を通る直線は$l(\ver,\ast)$の形をしている. しかし, この直線も$S$と3点以上で交わらない)

このアフィン平面$\A$を射影化(定義8参照)すると, 射影平面$\P=(\widehat{P},\widehat{L},\widehat{I})$が得られる. 後の都合上, この射影平面の構成をexplicitに書く:

$\A$の直線の平行による同値類は, 傾きに対応するので,
$\widehat{P}=P\sqcup \{p_{\phi}|\phi\in X\cup \{\ver\}\}$, $\widehat{L}=L\sqcup \{l_{\infty}\}$,
$\widehat{I}=I\cup \{(p_s,l(s,b))|s\in X\cup \{\ver\},b\in A\}\cup \{(p_s,l_{\infty})|s\in X\cup \{\ver\}\}$
と書ける.

Hall quasi-field

$\F$を有限体, $T^2+rT+s=f(T)\in \F[T]$$\F$のモニック既約二次多項式とする.
$A=\F^2$とし, $X\subset \End(A)=M_2(\F)$を, $X:=\{aI_2|a\in \F\}\cup X', X'=\{\phi \in \End(A)| \phi\text{の固有多項式は}f\}$と定める. このとき, $(A,X,0,+,-)$はquasi-fieldになる. これをHall quasi-fieldと呼ぶ.
また, このquasi-fieldから, (定義10の意味で)作られるアフィン平面, およびそれを射影化して作れる射影平面をHall planeと呼ぶ.

$A\neq \{0\}$, および $O_2,I_2\in X$は定義より自明. $v\in A\setminus \{0\}, w\in A$を任意にとり, $\exists^{!} \phi\in X, \phi(v)=w$を示す.

  • $w= av(a\in \F)$のとき
    もし, $\phi\in X'$が存在して,$\phi(v)=w=av$を満たすなら, $0=\det(a-\phi)=f(a)$$f$の既約性に矛盾する. よって, $aI_2$が条件を満たす唯一の元.
  • $w\not\in \gen{v}$のとき
    一意性から示す. $\phi$$\phi(v)=w$を満たすと仮定する. このとき, $\phi\in X'$の必要があるので, $\phi(w)=\phi^2(v)=(-r\phi-s)(v)=-rw-sv$. いま, $v,w$$A$の基底なので, これから$\phi\in M_2(\F^2)$は一意的に定まる.
    逆に, 上のように$\phi$を定めると, 基底$v,w$による$\phi$の表現行列が$\left(\begin{matrix} 0 & -s \\ 1 & -r \\ \end{matrix}\right)$となる. この行列の固有多項式は$f$となるので, $\phi\in X$となる.

(あとで使わないので読み飛ばしてもよい)
実は, Hall-planeは$f$によらないことが示せる($\F$にのみよる).
実際, $f(T)$$f(T+a)$に変えると, $X_0$$X_0-aI_2$に変わる. $f(T)$$a^{-2}f(aT)$に変えると, $X_0$$a^{-1}X_0$に変わる. これらの変換で, Hall-planeは(up to isoで)変わらないことが示せるので, Hall-plane(の同値類)は$f$の取り方によらない.

位数$9$のHall planeの性質

以下, $\F=\F_3, f(T)=T^2+1\in \F[T]$とする. 定義11にあるようにHall quasi-field$(\F^2,X_0,0,+,-)$およびアフィン平面$\A_0$を定め, $\A_0$$l_{\infty}$を付け加えて射影化したものを$\P_0$とする. 定義10の直後に書いたような記法を用いる. (つまり, 射影化によって付け加えた点を$p_s, s\in X_0 \cup \{\ver\}$と書く)

(デザルグ平面では見れないような), $\P_0$の性質を見ていく. まず, $\P_0$から$l(\ver,0)$を除いてアフィン化すると, $\A_0$とは非同型になることを示したい.

アフィン平面$\A$の相異なる4点$a,b,c,d$が次の条件を満たすとき, $a,b,c,d$は(この順に)平行四辺形をなすと呼ぶ.

  • $\overline{ab}\para \overline{cd}$
  • $\overline{bc}\para \overline{da}$
  • $c$$\overline{ab}$上にない

アフィン平面に対する条件(TR)を, 次のように定める:

相異なる$6$$a,b,c,d,e,f$が存在し, $a,b,c,d$が平行四辺形をなし, $c,d,e,f$が平行四辺形をなし, $e$$\overline{ac}$上にないとする. このとき, $a,b,f,e$は平行四辺形をなす.

quasi-field$(A,X,0,+,-)$に対して, 定義10の意味で作れるアフィン平面を$\A$と置く.
$\A$の相異なる$4$$a,b,c,d$があり, $c$$\overline{ab}$上にないとする.このとき, $a,b,c,d$が平行四辺形をなすことと, $b-a=c-d$は同値. (ここで, 式の引き算は$P=A^2$のabel群構造から定まるもの. )

よって, $\A$(特に$\A_0$)は(TR)を満たす.

前半の主張を仮定すると, 後半の主張は, $b-a=c-d=f-e$とな従う. 以下, 前半を示す.

$b-a=c-d$のとき, $a,b,c,d$が平行四辺形をなすことを示す.
定義10の(P1)の証明からわかるように, 2点$x,y$を通る直線の傾きは$y-x$から定まる. よって, $b-a=c-d$なら$\overline{ab}$$\overline{cd}$は平行である. このとき, $b-c=a-d$なので, $\overline{bc}$$\overline{ad}$は平行となる. よって一方の含意は示せた.

逆向きを示す. 上で示したことから, $a,b,c$が一直線上にないとき, $a,b,c,b+c-a$は平行四辺形をなす. よって, 平行四辺形の最初の3点からが最後の一点が一意に定まることをみればよい.
これは, $d$が「$c$を通り$\overline{ab}$に平行な直線」と「$a$を通り, $\overline{bc}$に平行な直線」の交点として決まることからわかる.

$\P_0$から$l(\ver,0)$を除いてできたアフィン平面$\A_1$は, (TR)を満たさない.
とくに, $\A_1$$\A_0$は非同型. よって, $l_{\infty}$$l(\ver,0)$に移すような, $\P_0$の自己同型は存在しない.

前半を示す. 具体的に(TR)の反例を作ればよい. 以下, $\F^2$の元は縦ベクトルとして小文字で書き, $\A_0$の点(これは$\P$の点や, $\A_1$の点ともみなせる)は, 大文字として書く. ($A$$\A$の混同に注意せよ.)$\mathbf{0}\in \F^2$は太字で書き, $\A_0$の原点は必ず$(\mathbf{0},\mathbf{0})$と書くこととする.
$2$直線$l_1,l_2$$\A_1$内で平行なことと, $l_1\cap l(\ver,0)=l_2\cap l(\ver,0)$は同値である.(定義8参照) 以下, この事実は断りなく使う.
$v_1=\begin{pmatrix} 1\\ 0\end{pmatrix}, v_2=\begin{pmatrix} -1\\ 0\end{pmatrix}, v_3=\begin{pmatrix} 1\\ 1\end{pmatrix} \in \F^2 $とし, $\phi =\begin{pmatrix} 0 & 1\\ -1 & 0 \end{pmatrix}, \psi =\begin{pmatrix} 1 & 1\\ 1 & -1 \end{pmatrix}\in X_0 $と定める.
$A=(v_1,\mathbf{0}),B=(v_1,v_1),C=(v_2,v_2)$ $,D=(v_2,\mathbf{0}),E=(v_3,v_2-v_3),F=(v_3,v_2)$と定める.
$\overline{AB},\overline{CD},\overline{EF}$$\P_0$において, $p_{\ver}$で交わる.これは$l(\ver,\mathbf{0})$上の点なので, $\A_1$において, これら3直線は平行.
$\overline{BC}=l(I_2,\mathbf{0}),\overline{AD}=l(O_2,\mathbf{0})$なので, これは$\A_1$において平行. よって, $ABCD$は平行四辺形をなす.
同様に, $\overline{DE}=l(-I_2,v_2), \overline{FC}=l(O_2,v_2)$より$CDEF$も平行四辺形をなす.
$\phi(v_3-v_1)=v_2-v_1,\psi(v_3-v_1)=v_2-v_3$に気を付けると, $\overline{BF}=l(\phi,v_1-\phi(v_1))$, $\overline{EA}=l(\psi,-\psi(v_1))$.
しかし, $v_1-\phi(v_1)=\begin{pmatrix} 1\\ 1\end{pmatrix}\neq \begin{pmatrix} -1\\ -1\end{pmatrix}=-\psi(v_1)$なので, $A,B,F,E$は平行四辺形をなさない. ゆえに, $A,B,C,D,E,F$は(TR)の反例となる.
後半を示す. 一個前の命題と合わせて, $\A_1$$\A_0$は非同型になる. もし, $\P_0$の自己同型が$l_{\infty}$$l(\ver,0)$に移したら, $\A_1$$\A_0$が同型になり, 矛盾する.
(i.e, $\mathrm{Affine}$において$\A_1$$\A_0$が非同型なので, 圏同値で移して$(\P,l_{\infty})$$(\P,l(\ver,0))$$\mathrm{Proj}_{\ast}$で非同型)

次に, $\P_0$がdualと非同型なことを見たい. そのために, $\Aut(\P_0)$の点/直線への作用の様子をみる.
$\A_0$の自己同型は自然に$\P_0$に伸ばせるので(定義7参照, もしくは命題4の圏同値から, といってもよい), 自然に$\Aut(\A_0)=\Aut(\P_0,l_{\infty})$と思えることに注意せよ. (左辺は$l_{\infty}$を保つような自己同型全体. )

$(A,X,+,-,0)$をquasi-fieldとし, 全単射アフィン[4]写像$f : A^2\to A^2$が次の条件を満たしたとする:

任意の$\phi\in X\cup \{\ver\}$に対し, ある$\psi\in X\cup \{\ver\},c\in A$が存在して, $f[P(l(\phi,0))]\subset P(l(\psi,c))$

このとき, $f$$A$から定まるアフィン空間$\A=(P:=A^2,L,I)$の自己同型とみなせる.

$\A$の直線上の点の個数は$\#A$に等しいので, 上の条件の$\subset$$=$に置き換えられることに注意せよ.

任意に$\phi\in X\cup \{\ver\}, b\in A$を取る. このとき, 適当な$v_b\in A^2$を用いて, $P(l(\phi,b))=P(l(\phi,0))+v_b$と書ける. すると, $f$のアフィン性より, $f[P(l(\phi,b))]=f[P(l(\phi,0))]+(f(v_b)-f(0))= P(l(\psi,c))+(f(v_b)-f(0))$. この式の右辺は, 適当な$c'\in A$を用いて, $P(l(\psi,c'))$と書ける[5].
ゆえに, $g:L\to L$$l(\phi,b)\mapsto l(\psi,c')$と定めると, $(p,l)\in I\iff (f(p),g(l))\in I$が成立する. $f$は全単射なので, $g$の全単射性も従う.
(任意に$l\in L$をとる. $l=\overline{pq}$と書けるので, $l'=\overline{(f^{-1}(p)f^{-1}(q))}$とすると, $g(l')=l$. よって, $g$は全射. $L$は有限集合なので, $g$は全単射)

ここから, $\A_0$の自己同型を作っていく.
$X_0=\{O_2,\pm I_2\}\cup \left\{ \pm\begin{pmatrix} 0 & 1\\ - 1 & 0 \end{pmatrix}, \pm \begin{pmatrix} 1 & 1\\ 1 & -1 \end{pmatrix}, \pm\begin{pmatrix} 1 & -1\\ -1 & -1 \end{pmatrix} \right\}$
なので, $X_0$は積で閉じていることがわかる[6]. (群$X_0\setminus \{O_2\}$$Q_8$と同型になる. )

次のように$(F^2)^2$のアフィン変換を定めると, これは$\A_0$の自己同型を誘導する:

  1. $(a,b)\in (F^2)^2$に対して, $\alpha_{a,b}:(x,y)\to (x+a,y+b)$
  2. $\psi\in X_0\setminus \{0\}$に対して, $\beta_{\psi}:(x,y)\to (x,\psi(y))$
  3. $\gamma:(x,y)\to (x+y,x-y)$

それぞれの写像に対して, 命題6の条件を確かめればよい.

  1. $\alpha_{a,b}[P(l(\phi,\mathbf{0}))]=l(\phi,c)$と適当な$c\in A$を用いて書けるのでよい. (命題7の証明にある注釈5も参照せよ.)
  2. このとき, $\psi=aI_2(a\neq 0)$$\psi^2=-I_2$なので, $\psi$は特に全単射. $\beta_{\psi}[P(l(\phi,\mathbf{0}))]\subset l(\psi\phi,\mathbf{0})$であり, $X_0\setminus\{0\}$が積で閉じているのでよい.
  3. $\gamma^2=-I_4$がわかるので, $\gamma$は全単射. これと,
    $\gamma[P(l(O_2,\mathbf{0}))]\subset l(I_2,\mathbf{0})$,$\gamma[P(l(I_2,\mathbf{0}))]\subset l(O_2,\mathbf{0})$,$\gamma[P(l(\ver,\mathbf{0}))]\subset l(-I_2,\mathbf{0})$,$\gamma[P(l(-I_2,\mathbf{0}))]\subset l(\ver,\mathbf{0})$,
    $\gamma[P(l(\phi,\mathbf{0}))]\subset l(-\phi,\mathbf{0})(\phi^2=-I_2\text{のとき})$より従う.

今までの結果をまとめると, 次のように$\P_0$の性質がわかる:

$G=\Aut(\P_0)$とし, $\P_0=(P_0,L_0,I)$と置く.

  1. $G$$L_0$への作用は推移的であり, 軌道は$\{l_{\infty}\}$$L_0\setminus\{l_{\infty}\}$からなる.
  2. $G$$P_0$への作用は推移的であり, 軌道は$P(l_{\infty})$$P_0\setminus{P(l_{\infty})}$からなる.
  3. $\P_0$から$l_{\infty}$を取り除いてできたアフィン平面と, $l_{\infty}$以外の直線を取り除いてできたアフィン平面は同型.
  4. $\P_0$はその双対$\P_0^{D}$同型.
  5. $\P_0$はデザルグ平面ではない.
  1. 命題6で示したように, $G$の作用で$l_{\infty}$$l_{\ver,0}$は同じ軌道に入らない. よって, $l_{\ver,0}$の軌道が$L_0\setminus \{l_{\infty}\}$と一致することを示せばよい.
    $\alpha_{a,b}$の作用によって, 同じ傾きの直線は, 同じ軌道に入る. これと, $\beta_{\psi}$作用を合わせて, 傾きが$X_0\setminus \{0,\ver\}$に属する直線は同じ軌道に入る. 最後に, $\gamma$によって, 傾き$0$の直線は$I_2$に, 傾きが$\ver$の直線は$-I_2$に移るので, $L_0\setminus\{l_{\infty}\}$は一つの軌道になる.
  2. 1.で示したことように, $l_{\infty}$$G$の作用によって, 固定される. よって, $P(l_{\infty})$の元は, 作用によって$P_0\setminus P(l_{\infty})$に移らない. あとは, $G$$P(l_{\infty})$および$P_0\setminus P(l_{\infty})$に推移的に作用することを示せばよい.
    $\alpha_{a,b}$の作用を考えることで, $P_0\setminus P(l_{\infty})$に推移的に作用することがわかる. また, 1.と同様に, $\beta,\gamma$の作用を考えることで, $P_0\setminus P(l_{\infty})$に作用することがわかる.
  3. 1.から, $l_{\infty}$以外のどの直線を除いても, 出来るアフィン平面は同型. 命題6より, これは$\A_0$とは非同型.
  4. 双対の定義より, 自然に$\Aut(\P_0^D)\iso G$がわかる. 2.より, $\Aut(\P_0^D)$$\P_0^D$の点(=$P$の直線)への作用は, 10点+81点に分かれる. 1.より, これは$G$$\P_0$の直線への作用(1点+90点)と非同型.
    よって, $\P_0^D$$\P_0$は非同型.
  5. 今まで示してきたことのどれからも従う. 例えば, デザルグ平面はその双対と同型になるので(例3を参照), 4.より, $\P_0$は非デザルグ平面.

なお、$\#G$$2^8\times 3^5\times 5$になる(らしい). 下の参考文献を参照せよ. (気が向いたら書くかも)

参考文献

https://multramate.github.io/projects/fpp/main.pdf :有限射影平面について書かれているpdf. 全体的に参考にした.
Projektive Ebenen über Fastkörpern. :ドイツ語で書かれた論文. $\P_0$の自己同型の位数などを決定している. 命題8で参考にした.




[1]:
$f$の全射性は少し非自明. $p\in P(l_0)$を任意にとる. $\#L(p)\geq 3$なので, $L(p)$から$l_0$ではない元$l$をとれる. すると, $f(p_l)=l\cap l_0=p$となる.

[2]:
$(X,1,\cdot)$ がloopであるとは, $\forall x\in X, 1\cdot x=x\cdot 1$が成立し, 任意の$x\in X$に対して, $y\mapsto x \cdot y$$y\mapsto y\cdot x$が全単射であることをさす.

[3]:
この公理から, $0 \cdot x=x\cdot 0=0$を示すのが若干非自明なので,注意に書く:
$x\cdot 0=x\cdot(0+0)=x\cdot 0+x\cdot 0$より, $x\cdot 0=0$.
$a\neq 0$を任意にとる. $0\cdot a=b\neq 0$として矛盾を導く. $A\setminus \{0\}$はloopなので, $c\cdot a=b$となる$c\in A\setminus \{0\}$がとれる.
すると, $x$の方程式, $0\cdot x=c\cdot x+0$が解$0,a$を持つので矛盾.

[4]:
アーベル群$G$に対し, 自己準同型$\phi\in \End(G)$$g\in G$を用いて, $h\mapsto \phi(h)+g$と書ける写像をアフィンと呼ぶ.

[5]:
$f(v_b)-f(0)=(x_0,y_0)$と置く. $\psi=\ver$のときは, $c'=c+x_0$とするとよい. $\psi\in X$のときは, $c'=c+y_0-\psi(x_0)$とするとよい.


[6]:
$i=\begin{pmatrix} 0 & 1\\ - 1 & 0 \end{pmatrix}, j=\begin{pmatrix} 1 & 1\\ 1 & -1 \end{pmatrix}, k=\begin{pmatrix} 1 & -1\\ -1 & -1 \end{pmatrix}$とすると, $ij=k$が計算でわかる. $ijij=k^2=-I_2$の左から$i$,右から$j$を掛けて, $k=ij=-ji$を得る. よって, $ik=i(-ij)=j$, $ki=(ji)i=-j$,$kj=(ij)j=-i$,$jk=j(-ji)=i$となる.
なお, $GL_2(\F_3)\geq Q_8$という群の包含は. 次のようにみることも出来る:
2項正八面体群 $GL_2(\F_3)$と同型. ( Shironetsuさんのblog などを見るとわかりやすいかも. )
このなかで, 正八面体の3本の軸を固定するような部分群が$Q_8$に対応する.

投稿日:14日前
更新日:4日前
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