2
大学数学基礎解説
文献あり

保型形式入門:モジュラー群の有限生成性について

206
0

はじめに

 この記事では 前回の記事 のおまけとしてモジュラー群の有限生成性について解説していきます。

有限生成群

 有限生成群の指数有限な部分群は再び有限生成である。
 特にn個の元によって生成される群G|H:G|=mなる部分群Hは高々2mn個の元によって生成される。

G=x1,x2,,xn
とおき、n<j2nに対しxj=xjn1と延長する。また
G=i=1mHgi(g1=1)
と直和分解したとき、gixjGより
gixj=hi,jgk(hi,jH)
と表せる。
 このhi,jによって生成される群
H=hi,j1im,1j2nH
を考えると、任意のxGに対しあるhHが存在して
x=g1x=hgk
が成り立つので、hHに対しては
h=hgkHHgk
よりgk=g1=1でなければならず
h=hH
つまりH=Hを得る。

 ちなみにHの生成元の個数についてはより精密な評価として以下の事実が知れらている。

Nielsen–Schreier

 上のような状況において、Hは高々1+m(n1)個の元によって生成される。

 前回の記事でも紹介したようにSL2(Z)は二つの行列
S=(1101),T=(0110)
によって生成されるので、モジュラー群については以下の事実が成り立つ。

 |SL2(Z):Γ|=mなるモジュラー群Γは高々m+1個の行列によって生成される。

主合同部分群の生成系

 主合同部分群Γ(N)の指数はN>1において
|SL2(Z):Γ(N)|=N3pN(11p2)
と計算できることが知られているが、Γ(N)の生成元の個数はこれよりも少なくできる。

 奇素数pに対しΓ(p)1+p(p21)/12個の行列によって生成できる。

 以下でその証明を行っていく。以下特筆しない限り合同式はmodpで考える。

準備

 巡回群(Z/pZ)×の生成元を任意に取りαとおく。このとき任意の整数aに対しα2na2つまり
αn11
を満たすような整数nが法q=(p1)/2で一意に定まるので、それをτ(a)Z/qZとおく。
 Z=(Z/qZ)×(Z/pZ)×(Z/pZ)×の元[λ,μ,ν]に対し
[λ,μ,ν]=[λ,μ,ν]:=[λ+τ(ν),(μν1)ν,ν1]
と定める。これは
[λ,μ,ν]=[λ,μ,ν]
を満たすのでZからZへの全単射をなす。またν±1のときはτ(ν)0よりλλν=±1のときはμ=μ1μとなるので
[λ,μ,ν][λ,μ,ν]
が成り立つことに注意する。
 さらにZの部分集合
Z={[λ,μ,ν]Zν1}
に対し
[λ,μ,ν]=[λ,μ,ν]:=[λ,μ,(1+ν1)]
と定めると、これは
[λ,μ,ν]=[λ,μ,ν]
を満たすのでZからZへの全単射をなし、また
[λ,μ,ν][λ,μ,ν],[λ,μ,ν]
が成り立つことに注意する。

生成系の明示形

 Γ=SL2(Z)/{±I}とおき
Γ(N)={(abcd)Γ(abcd)(1001)(modN)}
を考えることで以下行列AAを同一視して考える。
 また上でZ/nZ(n=p,q)の元としていたもの、つまりα,λ,μ,νを以下ではn未満の非負整数として考える。
 αβ1なる整数βを取りΓの生成系
S=(1101),T=(0110)
に対し
V=TSαTSβTSα=(βαβ11αβαα(αβ1))(β00α)
および
R=SμTSνTSνTSμ=(μ(νν+1)+νμμ(νν+1)(μν+μν)+1(νν+1)μ(νν+1)ν)(ν00ν)
とおく。
 このとき
Sp=(1p01)
および
(λ,μ,ν):=VλRVλΓ(p)
Γ(p)の生成系を成すことを示す。
 また[λ,μ,ν]の取り方は全部で|Z|=p(p1)2/2通りあるが、(λ,μ,ν)の持つ関係式によってΓ(p)を生成するには適当な(p+1)p(p1)/12個の元を取れば十分であることを示す。

証明

直和分解

 自然な準同型f:SL2(Z)SL2(Z/pZ)の核はΓ(p)であり、またfの逆像として
VλSμ(βλβλμ0αλ),VλSμTSν(βλμβλ(μν1)αλαλν)
という形のものが
0λ<(p1)/2,0μ,ν<p
において一意に定まるので(ν=0も認めることに注意する)、これらはSL2(Γ)/Γ(p)において異なる剰余類を定める(準同型定理)、つまり直和分解
SL2(Z)=(λ,μΓ(p)VλSμ)(λ,μ,νΓ(p)VλSμTSν)
が成り立つ。

生成系

 この直和分解因子VλSμ,VλSμTSνSL2(Z)の生成元X=S,Tに対応する補題1のようなhi,jをそれぞれUλ,μ,X,Uλ,μ,ν,Xとおく。このときT2=ISpIに注意すると
Uλ,μ,S={VλSμ+1(VλSμ+1)1=Iμp1VλSpVλμ=p1Uλ,μ,T=VλSμT(VλSμT)1=IUλ,μ,ν,S={VλSμTSν+1(VλSμTSν+1)1=Iνp1VλSμTSp(VλSμT)1ν=p1Uλ,μ,0,T={VλSμT2(VλSμ)1=Iν=0(λ,μ,ν)ν0
が成り立つのでΓ(p)
(λ):=Uλ,p1,S=VλSpVλ(λ,μ):=Uλ,μ,p1,S=VλSμTSpTSμVλ(λ,μ,ν):=Uλ,μ,ν,T=VλSμTSνTSνTSμVλ
によって生成されることとなる。

生成系の簡約化

(λ,μ)={(λ,μ+1,1)1(μp1)(λ,0,1)1(λ)1(μ=p1)(λ)=(λ,pα)1(λ1,0,α)1(λ0)
が成り立つ。
 特にΓ(p)(0)=Spおよび(λ,μ,ν)によって生成される。

 T2=(ST)3=Iに注意すると
(λ,μ+1,1)=VλSμ+1TSTS(p1)TSμVλ=VλSμ(STSTS)SpTSμVλ=VλSμTSpTSμVλ=(λ,μ)1(λ,0,1)=VλS0TSTS(p1)TS(p1)Vλ=(VλSpVλ)(VλSp1(STSTS)SpTS(p1)Vλ)=(VλSpVλ)(VλSp1TSpTS(p1)Vλ)=(λ)1(λ,p1)1(λ1,0,α)=Vλ1S0TSαTS(pβ)TS(pα)Vλ=(VλSpVλ)(VλSpV1TSαTS(pβ)TS(pα)Vλ)=(VλSpVλ)(VλSp(SαTSβTSαT)(TSαTSβ)SpTS(pα)Vλ)=(VλSpVλ)(VλSpαTSpTS(pα)Vλ)=(λ)1(λ,pα)1
と計算できる。

I=(λ,μ,ν)(λ,μ,ν)=(λ,μ,ν)(λ,μ,,ν)(λ,μ,,ν)
が成り立つ。

 簡単のため
A(λ,μ,ν)=VλSμTSν
とおく。このとき
(λ,μ,ν)=A(λ,μ,ν)TA(λ,μ,ν)1
が成り立つことに注意する。
 一行目については
(λ,μ,ν)=A(λ,μ,ν)TA(λ,μ,ν)1=(λ,μ,ν)1
とわかる。
 二行目については
νν(1+ν1)(ν1)=1
および
|νν|<p1
から
νν=1
が成り立つことに注意すると
A(λ,μ,ν)1A(λ,μ,ν)=(SνTSμVλ)(VλSμTSν)=S1
より
(λ,μ,ν)(λ,μ,,ν)(λ,μ,,ν)=A(λ,μ,ν)(TS1TS1T)A(λ,μ,ν+1)1=A(λ,μ,ν)SS1TA(λ,μ,ν)1=I
とわかる。

 いまZおよびZの部分集合
{[λ,μ,ν],[λ,μ,ν]},{[λ,μ,ν],[λ,μ,ν],[λ,μ,ν]}
の取り方はそれぞれ
|Z|2=p(p1)24,|Z|3=p(p1)(p2)6
通りあるのでΓ(p)の生成系として(λ,μ,ν)の中から
p(p1)2p(p1)24p(p1)(p2)6=(p+1)p(p1)12
個選んで取れると推定できる。実際それは可能であることまで示せるが、少し煩雑となるので省略する(詳しくは参考文献[1]を参照されたい)。

具体例

p=2の場合

 上ではpを奇素数としていたが、p=2の場合も同様の議論が適用できΓ(2)の生成元として
(0)=S2=(1201),(0,0)=TS2T=(1021)
が取れることがわかる。

p=3の場合

 α=2に対し
(λ,μ,1)(λ,μ1,2)=I(λ,μ,1)(λ,μ1,1)(λ,μ2,1)=I
より0λ<1に注意するとΓ(3)の生成元としてS3および(0,0,1),(0,1,1)が取れ、また
(0,0,1)=(0)1(0,2)1,(0,1,1)=(0,0)1
に注意するとより明示的に
S3=(1301),(0,0)=(1031),(0,1)=(2334)
が取れることがわかる。

p=5の場合

 α=2に対し
(λ,μ,1)(,,3)(,,2)=I(λ,μ,4)(,,1)=I
より(λ,μ,2),(λ,μ,3)に帰着でき、
(λ,μ,2)(λ+1,3μ,2)=I(λ,μ,3)(λ+1,2μ,3)=I
よりΓ(5)の生成元としてS5および
(0,μ,2),(0,μ,3)(μ=0,1,2,3,4)
が取れる。

一般の生成系について

 Γ(N)の生成系を明示的に求めるにはSageMathを使うと便利である( オンラインで実行できるページ などで試せる)。特に小難しいプログラムを書く必要はなく、

Gamma(N).generators()

を実行するだけでΓ(N)の生成系を求められる。例えば

Gamma(7).generators()

と入れればΓ(7)の生成系として

[
[1 7] [-48 7] [-209 56] [113 -35] [-55 21] [120 -49]
[0 1], [ -7 1], [ -56 15], [ 42 -13], [-21 8], [ 49 -20],

[ 15 -7] [ 239 -140] [113 -70] [ 232 -161] [-181 133] [ 8 -7]
[ 28 -13], [ 70 -41], [ 21 -13], [ 49 -34], [ -49 36], [ 7 -6],

[-76 105] [ 169 -238] [ 43 -63] [ 309 -490] [ 134 -217]
[-21 29], [ 49 -69], [ 28 -41], [ 70 -111], [ 21 -34],

[ 281 -476] [-230 399] [ 15 -28] [-97 231] [ 218 -525]
[ 49 -83], [ -49 85], [ 7 -13], [-21 50], [ 49 -118],

[-279 763] [ 22 -63] [-118 399] [ 29 -112] [-139 609]
[ -49 134], [ 7 -20], [ -21 71], [ 7 -27], [ -21 92],

[ 36 -175] [ 43 -252]
[ 7 -34], [ 7 -41]
]

が返される。
 興味があれば オンラインで実行できるページ もあるので試してみられたい。

参考文献

[1]
H. Frasch, Die Erzeugenden der Hauptkongruenzgruppen fur Primzahlstufen, Mathematische Annale, 1933, pp. 229-252
[2]
J. Nielsen, A study concerning the congruence subgroups of the modular group, Matematisk-fysiske meddelelser, 1950
[3]
Rose, John S., A course on group theory, Cambridge University Press, 1978, p. 55
投稿日:2023728
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

子葉
子葉
1065
259824
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 有限生成群
  3. 主合同部分群の生成系
  4. 準備
  5. 生成系の明示形
  6. 証明
  7. 具体例
  8. 参考文献