はじめに
この記事では
前回の記事
に引き続き保型形式の基礎理論について要所を掻い摘んで解説していきます。
以下はFuchs群であるものとします。
上の計量と測度
計量と測度
上の計量および測度を
と定める。ただしとした。
また上の曲線に対しその長さを
と定める。
距離と測地線
上の二点に対してその距離を
によって定める。このとき
が成り立つことが知られている。
またとなるような曲線のことをとを結ぶ測地線という。における測地線は実軸に中心を持つ円、または実軸と直交する直線(の一部分)であることが知られている。特にが指定されていない場合においても、それらの図形のことを単にの測地線と言う。
任意にを取りとおくと
から
および同様に
が成り立つので
に注意すると主張を得る。
基本領域
保型形式を考えるにあたってを同値関係
で割った集合
を考えていくことになる。
となるとこの完全代表系としての連結集合が取れると便利である(にはの部分空間としての位相を入れる)。しかし完全代表系そのものを考えると少し扱いづらいので、少し条件を緩めた次のような集合を考える。
基本領域
の連結な開部分集合であって
(i)
(ii)
を満たすようなものをの基本領域と言う(文献によってはの方を基本領域と言うこともある)。
実際このような集合は常に存在し、具体的に次のようなものが取れる。
の楕円点ではない任意のに対し
とおくと、これはの基本領域となる。
(上の距離は通常の距離と同じ位相を定めることから)
が成り立つことに注意する。
(i)について
任意のに対し
とおくと
前回の記事
の定理3から
は有限集合となるので
となるようなが取れる。
このときの作用に対するの不変性から
が成り立つのでつまりを得る。
(ii)について
あるに対してが成り立つとすると、その任意の元に対し
となって矛盾。よって任意のに対してが成り立つ。