この記事ではApéryの数列
\begin{align}
a_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk^2\binom{n+k}k^2c_{n,k}\\
b_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk^2\binom{n+k}k^2\\
\bigg(c_{n,k}&=\sum^n_{m=1}\frac1{m^3}+\sum^k_{m=1}\frac{(-1)^{m-1}}{2m^3\binom nm\binom{n+m}m}\bigg)
\end{align}
の積分表示
\begin{align}
a_n\z(3)-b_n&=\frac12\int^1_0\int^1_0\frac{-\log xy}{1-xy}P_n(x)P_n(y)dxdy\\
\bigg(P_n(x)&=\frac1{n!}\frac{d^n}{dx^n}(x(1-x))^n\bigg)
\end{align}
について解説していきます。
1978年に証明されたApéryの定理には、その翌年Beukersによって別証明が与えられました。
$\z(3)$は無理数である。
Beukersの手法でも証明の決め手となるものは Apéryの手法 と同じであり、次の補題を満たすような整数列$p_n,q_n$を構成することにあります。
実数$\b$と整数列$p_n,q_n$に対し
$$\b\neq\frac{p_n}{q_n}\quad(\forall n\in\Z_{\geq0}),\quad\lim_{n\to\infty}(q_n\b-p_n)=0$$
が成り立つとき、$\b$は無理数である。
ある整数$p,q$を用いて$\b=p/q$と表せるとすると、十分大きいある$n$に対し
$$0<|q_np-p_nq|<1$$
が成り立つことになるが、これは$q_np-p_nq$が整数であることに矛盾。よって$\b$は無理数でなければならない。
Apéryの手法
では
\begin{align}
a_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk^2\binom{n+k}k^2c_{n,k}\\
b_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk^2\binom{n+k}k^2\\
\bigg(c_{n,k}&=\sum^n_{m=1}\frac1{m^3}+\sum^k_{m=1}\frac{(-1)^{m-1}}{2m^3\binom nm\binom{n+m}m}\bigg)
\end{align}
という有理数列を用いたのに対し、Beukersの手法ではある多項式列$P_n(x)$に対し
$$\frac12\int^1_0\int^1_0\frac{-\log xy}{1-xy}P_n(x)P_n(y)dxdy=b'_n\z(3)-a'_n$$
を満たすような有理数列$a'_n,b'_n$を用いることで所望の整数列$p_n,q_n$を構成しました。
そして興味深いことに、実はこの$a_n,b_n$および$a'_n,b'_n$はそれぞれ同じ数列を定めているというのです。この記事ではこの事実について簡単に解説していきます。
ちなみに上の有理数列$a_n,b_n$からApéryの定理を導くにあたって大まかに
という二つの主張を示していくこととなります。
これらの主張について
Apéryの手法
では
といったアプローチを取っていたのに対し、Beukersの手法では
というアプローチを取ることになります。
このような類似点にも注目してみると面白いかもしれません。
まずはBeukersによるApéryの定理の証明を完成させておきましょう。ついでに$\z(2)$の無理性も同時に証明していきます。
非負整数$n,r,s$に対し
$$\int^1_0\int^1_0\frac{(-\log xy)^n}{1-xy}x^ry^sdxdy
=\l\{\begin{array}{ll}
\dis\frac{n!}{r-s}\sum^r_{k=s+1}\frac1{k^{n+1}}&(r>s)\\
\dis(n+1)!\l(\z(n+2)-\sum^r_{k=1}\frac1{k^{n+2}}\r)&(r=s)\\
\end{array}\r.$$
が成り立つ。
この記事 の例1として示した。
$$d_r=\operatorname{lcm}(1,2,3,\ldots,r)$$
とおくと、非負整数$n,r,s$に対し
$$\int^1_0\int^1_0\frac{(-\log xy)^n}{1-xy}x^ry^sdxdy
\in\l\{\begin{array}{ll}
\dis\frac1{d_r^{n+1}}\Z&(r>s)\\
\dis\frac1{d_r^{n+2}}\Z+\z(n+2)\Z&(r=s)\\
\end{array}\r.$$
が成り立つ。
整数係数の多項式列$P_n(x)$を
\begin{align}
P_n(x)
&=\frac1{n!}\frac{d^n}{dx^n}(x(1-x))^n\\
&=\sum^n_{k=0}(-1)^k\binom nk\binom{n+k}kx^k
\end{align}
によって定めると、$C^n$級関数$f$に対し
$$\int^1_0f(x)P_n(x)dx=\frac{(-1)^n}{n!}\int^1_0(x(1-x))^n\frac{d^n}{dx^n}f(x)dx$$
が成り立つ。
部分積分を繰り返し行うことで$k=0,1,2,\ldots,n$に対し
$$\int^1_0f(x)P_n(x)dx
=\frac{(-1)^k}{n!}\int^1_0\l(\frac{d^{n-k}}{dx^{n-k}}(x(1-x))^n\r)\frac{d^k}{dx^k}f(x)dx$$
が成り立つことがわかる。
$$I_n=\int^1_0\int^1_0\frac{(1-y)^n}{1-xy}P_n(x)dxdy$$
とおくと
$$I_n=(-1)^n\int^1_0\int^1_0\frac{(x(1-x)y(1-y))^n}{(1-xy)^{n+1}}dxdy$$
特に
$$0<|I_n|<\z(2)\cdot\bigg(\frac{\sqrt5-1}2\bigg)^{5n}$$
が成り立つ。
$f(x)=1/(1-xy)$について補題4を適用することで
$$I_n=(-1)^n\int^1_0\int^1_0\frac{(x(1-x)y(1-y))^n}{(1-xy)^{n+1}}dxdy$$
が成り立つ。
いま
$$F(x,y)=\frac{x(1-x)y(1-y)}{1-xy}$$
とおくと
\begin{align}
F_x(x,y)&=\frac{1-2x+x^2y}{(1-xy)^2}y(1-y)\\
F_y(x,y)&=\frac{1-2y+xy^2}{(1-xy)^2}x(1-x)
\end{align}
より方程式$F_x(x,y)=F_y(x,y)=0$を解くと
$$x=y,\quad1-x-x^2=0$$
つまり$F(x,y)$は$x,y\in[0,1]$において
$$F\l(\frac{\sqrt5-1}2,\frac{\sqrt5-1}2\r)=\bigg(\frac{\sqrt5-1}2\bigg)^5$$
を最大値に持つことがわかる。
よって
\begin{align}
0<|I_n|
&<\bigg(\frac{\sqrt5-1}2\bigg)^{5n}\int^1_0\int^1_0\frac{dxdy}{1-xy}\\
&=\bigg(\frac{\sqrt5-1}2\bigg)^{5n}\z(2)
\end{align}
を得る。
$$J_n=\int^1_0\int^1_0\frac{-\log xy}{1-xy}P_n(x)P_n(y)dxdy$$
とおくと
$$J_n=\int^1_0\int^1_0\int^1_0\frac{(x(1-x)y(1-y)z(1-z))^n}{(1-(1-xy)z)^{n+1}}dxdydz$$
特に
$$0< J_n<2\z(3)\cdot(\sqrt2-1)^{4n}$$
が成り立つ。
$$\frac{-\log xy}{1-xy}=\int^1_0\frac{dz}{1-(1-xy)z}$$
と変形し、$f(x)=1/(1-(1-xy)z)$について補題4を適用することで
$$J_n=\int^1_0\int^1_0\int^1_0\frac{(x(1-x)yz)^n}{(1-(1-xy)z)^{n+1}}P_n(y)dxdydz$$
が成り立つ。
ここで$z$について
$$z=\frac{1-w}{1-(1-xy)w}\quad\leftrightarrow\quad w=\frac{1-z}{1-(1-xy)z}$$
と変数変換すると
$$1-w=\frac{xyz}{1-(1-xy)z},\quad\frac{dz}{1-(1-xy)z}=-\frac{dw}{1-(1-xy)w}$$
より
$$J_n=\int^1_0\int^1_0\int^1_0\frac{((1-x)(1-w))^n}{1-(1-xy)w}P_n(y)dxdydw$$
が成り立ち、$f(y)=1/(1-(1-xy)w)$に対し補題4を適用することで
$$J_n=\int^1_0\int^1_0\int^1_0\frac{(x(1-x)y(1-y)w(1-w))^n}{(1-(1-xy)w)^{n+1}}dxdydw$$
を得る。
いま
$$F(x,y,z)=\frac{x(1-x)y(1-y)z(1-z)}{1-(1-xy)z}$$
とおくと
\begin{align}
F_x(x,y,z)&=\frac{(1-2x)(1-z)-x^2yz}{(1-(1-xy)z)^2}y(1-y)z(1-z)\\
F_y(x,y,z)&=\frac{(1-2y)(1-z)-xy^2z}{(1-(1-xy)z)^2}x(1-x)z(1-z)\\
F_z(x,y,z)&=\frac{1-2z+(1-xy)z^2}{(1-(1-xy)z)^2}x(1-x)y(1-y)
\end{align}
より方程式$F_x=F_y=F_z=0$を解くと
$$x=y,\quad z=\frac1{x+1},\quad 1-2x-x^2=0$$
つまり$F(x,y,z)$は$x,y,z\in[0,1]$において
$$F\l(\sqrt2-1,\sqrt2-1,\frac1{\sqrt2}\r)=(\sqrt2-1)^4$$
を最大値に持つことがわかる。
よって
\begin{align}
0< J_n
&<(\sqrt2-1)^{4n}\int^1_0\int^1_0\int^1_0\frac{dxdydz}{1-(1-xy)z}\\
&=(\sqrt2-1)^{4n}\cdot2\z(3)
\end{align}
を得る。
$\z(2),\z(3)$は無理数である。
補題3およびその系よりある整数$p_n,q_n,p'_n,q'_n$が存在して
$$I_n=\frac{q_n\z(2)-p_n}{d_n^2},\quad J_n=\frac{q'_n\z(3)-p'_n}{d_n^3}$$
と表せる。
また素数定理から十分大きい任意の$n$に対して
\begin{align}
d_n
&=\prod_{p\mid n}p^{\lfloor\log_pn\rfloor}\\
&\leq\prod_{p\mid n}p^{\log_pn}=n^{\pi(n)}\\
&\leq n^{(1+\e)\frac n{\log n}}=e^{(1+\e)n}<3^n
\end{align}
と評価できることに注意すると
\begin{align}
0<|q_n\z(2)-p_n|&<\z(2)\cdot d_n^2\l(\frac{\sqrt5-1}2\r)^{5n}<\frac{9^n}{11^n}\to0\\
0< q'_n\z(3)-p'_n&<2\z(3)\cdot d_n^3(\sqrt2-1)^{4n}<\frac{27^n}{33^n}\to0
\end{align}
が成り立つので補題2より$\z(2),\z(3)$は無理数であることが示された。
上では
\begin{align}
I_n&=(-1)^n\int^1_0\int^1_0\frac{(x(1-x)y(1-y))^n}{(1-xy)^{n+1}}dxdy\\
&=\frac{q_n\z(2)-p_n}{d_n^2}\\
J_n&=\int^1_0\int^1_0\int^1_0\frac{(x(1-x)y(1-y)z(1-z))^n}{(1-(1-xy)z)^{n+1}}dxdydz\\
&=\frac{q'_n\z(3)-p'_n}{d_n^3}
\end{align}
によって定まる整数列$p_n,q_n,p'_n,q'_n$が$\z(2),\z(3)$の無理性を導くことを示しました。
ところでこれらの被積分関数のように、離散変数$n$と連続変数$\x=(x_1,x_2,\ldots)$を持つ関数$f(n,\x)$であって、その階比や偏導関数との比
$$\frac{f(n+1,\x)}{f(n,\x)},\quad
\frac{\partial_{x_1}f(n,\x)}{f(n,\x)},\quad
\frac{\partial_{x_2}f(n,\x)}{f(n,\x)},\quad\cdots$$
が$n,x_1,x_2,\ldots$についての有理関数となるようなものについて、その適当な領域$D$上での積分
$$I_n=\int_Df(n,\x)d\x$$
は何らかの多項式係数の線形漸化式
$$\sum^m_{k=0}p_k(n)I_{n+k}=0$$
を満たすことが知られています。
より正確にはある$n,x_1,x_2,\ldots$についての有理関数
$$r_i(n,\x)\quad(i=1,2,\ldots)$$
が存在して
\begin{align}
\sum^m_{k=0}p_j(n)f(n,\x)&=\sum_i\partial_{x_i}g_i(n,\x)\\
\big(g_i(n,\x)&=r_i(n,\x)f_i(n,\x)\big)
\end{align}
という等式が成り立つことが知られており、逐次積分によって$g_i(n,\x)$が消えるような領域$D$においてこれを積分することで
$$\sum^m_{k=0}p_k(n)I_{n+k}=0$$
という等式を得ることができるわけです。
またこのような多項式$p_k(n)$と有理関数$r_i(n,\x)$を機械的に求めるアルゴリズムとしてAlmkvist-Zeilberger Algorithmというものが知られています。連続変数が一個の場合については
この記事
にて解説しており、また一般の場合については参考文献AZAなどを参照してください(気が向いたら解説記事を書こうと思います)。
この事実を上の積分
\begin{align}
I_n&=(-1)^n\int^1_0\int^1_0\frac{(x(1-x)y(1-y))^n}{(1-xy)^{n+1}}dxdy\\
J_n&=\int^1_0\int^1_0\int^1_0\frac{(x(1-x)y(1-y)z(1-z))^n}{(1-(1-xy)z)^{n+1}}dxdydz
\end{align}
に対して適用すると以下の主張が導かれます。
$I_n,J_n$は漸化式
\begin{align}
(n+1)^2I_{n+1}-(11n^2+11n+3)I_n-n^2I_{n-1}&=0\\
(n+1)^3J_{n+1}-(2n+1)(17n^2+17n+5)J_n+n^3J_{n-1}&=0
\end{align}
を満たす。
このことは上のアルゴリズムなどを用いることで確かめられますが、手計算で示すには計算が煩雑なので詳しくは省略します。
また
$$I_n=b'_n\z(2)-a'_n,\quad J_n=2(b_n\z(3)-a_n)$$
なる有理数列$a'_n,b'_n,a_n,b_n$を考えると、これらは$I_n,J_n$と同じ漸化式を満たすことがわかります(実際、そうでなければ$I_n,J_n$の満たす漸化式から例えば
$$\z(2)=\frac{(n+1)^2a'_{n+1}-(11n^2+11n+3)a'_n-n^2a'_{n-1}}{(n+1)^2b'_{n+1}-(11n^2+11n+3)b'_n-n^2b'_{n-1}}\in\Q$$
が成り立つことになり$\z(2),\z(3)$が無理数であることに矛盾する)。したがって
\begin{align}
I_0&=\z(2),&I_1&=3\z(2)-5\\\
\tfrac12J_0&=\z(3),&\tfrac12J_1&=5\z(3)-6
\end{align}
に注意すると$a'_n,b'_n,a_n,b_n$は
Apéryの手法
において用いられた数列と同じ漸化式と初期値を満たすこととなり、以下の主張が得られます($c'_{n,k}$の定義が
この記事
で紹介したものとは$2$倍だけ異なることに注意する)。
\begin{align}
a'_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk^2\binom{n+k}kc'_{n,k}\\
b'_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk^2\binom{n+k}k\\
\bigg(c'_{n,k}&=2\sum^n_{m=1}\frac{(-1)^{m-1}}{m^2}+\sum^k_{m=1}\frac{(-1)^{m+n-1}}{m^2\binom nm\binom{n+m}m}\bigg)
\end{align}
とおくと
$$b'_n\z(2)-a'_n=\int^1_0\int^1_0\frac{(1-y)^n}{1-xy}P_n(x)dxdy$$
が成り立つ。
\begin{align}
a_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk^2\binom{n+k}k^2c_{n,k}\\
b_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk^2\binom{n+k}k^2\\
\bigg(c_{n,k}&=\sum^n_{m=1}\frac1{m^3}+\sum^k_{m=1}\frac{(-1)^{m-1}}{2m^3\binom nm\binom{n+m}m}\bigg)
\end{align}
とおくと
$$b_n\z(3)-a_n=\int^1_0\int^1_0\frac{-\log xy}{1-xy}P_n(x)P_n(y)dxdy$$
が成り立つ。
上では$I_n,J_n$が満たす漸化式からこれらがApéryの数列と結びついていることを示しましたが、実は$\z(2),\z(3)$の係数がApéryの数列となることは普通に積分を計算することでも確かめられます。
実際
$$P_n(x)=\sum^n_{k=0}(-1)^k\binom nk\binom{n+k}kx^k$$
より
\begin{align}
(1-y)^nP_n(x)&=\sum^n_{r,s=0}(-1)^{r+s}\binom nr\binom{n+r}r\binom nsx^ry^s\\
P_n(x)P_n(y)&=\sum^n_{r,s=0}(-1)^{r+s}\binom nr\binom{n+r}r\binom ns\binom{n+s}sx^ry^s
\end{align}
と展開できることと
$$\int^1_0\int^1_0\frac{(-\log xy)^n}{1-xy}x^ry^sdxdy
=\l\{\begin{array}{rl}
0\cdot\z(n+2)+(\mbox{有理数})&(r\neq s)\\
(n+1)!\z(n+2)+(\mbox{有理数})&(r=s)\\
\end{array}\r.$$
であったことに注意すると
\begin{align}
I_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk^2\binom{n+k}k\cdot\z(2)+(\mbox{有理数})\\
J_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk^2\binom{n+k}k^2\cdot\z(3)+(\mbox{有理数})
\end{align}
となることがわかります。
以上がBeukersによる$\z(2),\z(3)$の無理性証明とそのApéryの手法との関係でした。
とりあえず個人的に把握できていることについてはまとめてみましたが、やはりまだApéryやBeukersの手法にはなぜ上手くいくのかが解明されていないところが多く、まだまだ謎は深まるばかりですね。
ちなみに他にも
$$I_n=\int_{[0,1]^k}f(\x)(x_1(1-x_1)x_2(1-x_2)\cdots x_k(1-x_k)g(\x))^nd\x$$
という形の積分を考えることで
$$C=\int_{[0,1]^k}f(\x)d\x$$
という形の定数の無理性を示せないか、ということが期待されていますが未だ目ぼしい結果は得られていないように思います。
ゆくゆくは同様の手法による$\z(5)$などの無理性証明も発見されていくのでしょうか。それともこれらの手法でできることには限りがあるのでしょうか。皆さんも興味があればApéryやBeukersの手法について考察してみてはいかがでしょうか。
とりあえず今回はこんなところで。では。
ちなみにBeukersの手法は$e$や$\log$の無理性を示すのにも応用することができます。以下ではそのことについて紹介していきます。
まず
$$I_n=\int^1_0P_n(x)e^{1-x}dx=\frac1{n!}\int^1_0(x(1-x))^ne^{1-x}dx$$
という積分を考えることによって$e$は無理数であることを示していきましょう。
非負整数$k$に対し
$$\int^1_0x^ke^{1-x}dx=k!e-\sum^k_{m=0}\frac{k!}{m!}$$
が成り立つ。特に
$$I_n\in e\Z+\Z$$
が成り立つ。
$$\int^1_0x^ke^{1-x}dx
=\l[-\sum^k_{m=0}\frac{k!}{m!}x^me^{1-x}\r]^1_0
=k!e-\sum^k_{m=0}\frac{k!}{m!}$$
とわかる。
$$0< I_n<\frac{e-1}{4^nn!}$$
が成り立つ。
$f(x)=x(1-x)$は$0\leq x\leq1$において$f(1/2)=1/4$を最大値に持つことから
$$0< I_n<\frac1{4^nn!}\int^1_0e^{1-x}dx=\frac{e-1}{4^nn!}$$
を得る。
$e$は無理数である。
補題11からある整数列$a_n,b_n$が存在して
$$I_n=b_ne-a_n$$
と表せ、また補題12から
$$0< b_ne-a_n<\frac{e-1}{4^nn!}\to0$$
が成り立つので補題2より$e$は無理数であることが示された。
ちなみにこの$I_n$は以下の漸化式を満たします。
$I_n$は漸化式
$$I_{n+1}+2(2n+1)I_n-I_{n-1}=0$$
を満たす。またその初項は
$$I_0=e-1,\quad I_1=3-e$$
である。
部分積分によって
$$I_{n+1}=\frac1{(n+1)!}\int^1_0\l(\frac{d^2}{dx^2}(x(1-x))^{n+1}\r)e^{1-x}dx$$
と変形できることと
$$\frac{d^2}{dx^2}\frac{(x(1-x))^{n+1}}{(n+1)!}=-2(2n+1)\frac{(x(1-x))^n}{n!}+\frac{(x(1-x))^{n-1}}{(n-1)!}$$
が成り立つことからわかる。
また積分を直接計算することでその一般項は以下のように求まることがわかります。
\begin{align}
a_n&=\sum^n_{k=0}(-1)^k\frac{(n+k)!}{k!(n-k)!}\sum^k_{m=0}\frac1{m!}\\
b_n&=\sum^n_{k=0}(-1)^k\frac{(n+k)!}{k!(n-k)!}
\end{align}
とおくと
$$b_ne-a_n=\int^1_0P_n(x)e^{1-x}dx$$
が成り立つ。
なお$P_n(1-x)=(-1)^nP_n(x)$から
$$I_n=(-1)^n\int^1_0P_n(x)e^xdx$$
と変形すると
\begin{align}
a_n&=(-1)^n\sum^n_{k=0}\frac{(n+k)!}{k!(n-k)!}\\
b_n&=(-1)^n\sum^n_{k=0}\frac{(n+k)!}{k!(n-k)!}\sum^k_{m=0}\frac{(-1)^m}{m!}
\end{align}
とも表せます。
次に
$$I_n=\int^1_0\frac{P_n(x)}{1+cx}dx=c^n\int^1_0\frac{(x(1-x))^n}{(1+cx)^{n+1}}dx$$
という積分を考えることによって、特定の有理数$c$に対し$\log(1+c)$が無理数となることを示していきましょう。
余談ですがこの積分は
$$I_n=\int^1_0\int^1_0\frac{P_n(xy)}{(1+cxy)(-\log xy)}dxdy$$
という二重積分に表すこともできます。
以下$c$を$c>-1$かつ$c\neq0$なる有理数とし、また$r,s\ (s>0)$を$c=r/s$なる整数とします。
非負整数$k$に対し
$$\int^1_0\frac{x^k}{1+cx}dx
=\frac1{(-c)^k}\l(\frac{\log(1+c)}c-\sum^k_{m=1}\frac{(-c)^{m-1}}m\r)$$
が成り立つ。特に
$$I_n\in\frac{\log(1+c)}{r^{n+1}}\Z+\frac1{r^nd_n}\Z$$
が成り立つ。
\begin{align}
\int^1_0\frac{x^k}{1+cx}dx
&=\frac1{(-c)^k}\int^1_0\frac{1-(1-(-cx)^k)}{1+cx}dx\\
&=\frac1{(-c)^k}\int^1_0\l(\frac1{1+cx}-\sum^k_{m=1}(-cx)^{m-1}\r)dx\\
&=\frac1{(-c)^k}\l(\frac{\log(1+c)}c-\sum^k_{m=1}\frac{(-c)^{m-1}}m\r)
\end{align}
とわかる。
$$0<|I_n|<\frac{(\sqrt{1+c}-1)^{2n}}{|c|^n}\frac{\log(1+c)}c$$
が成り立つ。
$$f(x)=\frac{x(1-x)}{1+cx}$$
とおくとこれは$0\leq x\leq1$において
$$f\l(\frac{\sqrt{1+c}-1}c\r)=\l(\frac{\sqrt{1+c}-1}c\r)^2$$
を最大値に持つので
\begin{align}
0<|I_n|
&<\l(\frac{(\sqrt{1+c}-1)^2}{|c|}\r)^n\int^1_0\frac{dx}{1+cx}\\
&<\l(\frac{(\sqrt{1+c}-1)^2}{|c|}\r)^n\frac{\log(1+c)}c
\end{align}
を得る。
$$(\sqrt{1+c}-1)^2s< e^{-1}$$
を満たすような有理数$c$に対し$\log(1+c)$は無理数となる。
補題16よりある整数$p_n,q_n$が存在して
$$I_n=\frac{q_n\log(1+c)-p_n}{r^{n+1}d_n}$$
と表せ、また補題17から十分大きい任意の$n$に対し
\begin{align}
0<|q_n\log(1+c)-p_n|
&<(\sqrt{1+c}-1)^{2n}s^nd_n\cdot s|\log(1+c)|\\
&<((\sqrt{1+c}-1)^2se^{1+\e})^n\to0
\end{align}
が成り立つので補題2より$\log(1+c)$は無理数であることが示された。
$c=1$のとき$(\sqrt2-1)^2\cdot 1< e^{-1}$より$\log2$は無理数となる。
ちなみにこの$I_n$は以下の漸化式を満たします。
$I_n$は漸化式
$$(n+1)I_{n+1}-\l(\frac2c+1\r)(2n+1)I_n+nI_{n-1}=0$$
を満たす。またその初項は
$$I_0=\frac1c\log(1+c),\quad I_1=\frac{2+c}{c^2}\log(1+c)-\frac2c$$
である。
$P_n(x)$は漸化式
$$(n+1)P_{n+1}(x)+(2x-1)(2n+1)P_n(x)+nP_{n-1}(x)=0$$
を満たすことが知られている(cf. ルジャンドル多項式)、特に
$$(n+1)I_{n+1}+nI_{n-1}=-\int^1_0\frac{(2x-1)(2n+1)P_n(x)}{1+cx}dx$$
が成り立つことに注意すると
\begin{align}
&(n+1)I_{n+1}-\l(\frac2c+1\r)(2n+1)I_n+nI_{n-1}\\
={}&-(2n+1)\int^1_0\frac{(\frac2c+1)+(2x-1)}{1+cx}P_n(x)dx\\
={}&-(2n+1)\frac2c\int^1_0P_n(x)dx=0
\end{align}
を得る。
また積分を直接計算することでその一般項は以下のように求まることがわかります。
\begin{align}
a_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk\binom{n+k}k\frac1{c^k}\sum^k_{m=1}\frac{(-c)^{m-1}}m\\
b_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk\binom{n+k}k\frac1{c^k}
\end{align}
とおくと
$$b_n\frac{\log(1+c)}c-a_n=\int^1_0\frac{P_n(x)}{1+cx}dx$$
が成り立つ。
特に$c=1$としたもの
\begin{align}
a_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk\binom{n+k}k\sum^k_{m=1}\frac{(-1)^{m-1}}m\\
b_n&=\sum^n_{k=0}\binom nk\binom{n+k}k
\end{align}
は
この記事
のおまけとして紹介した数列に一致します。