この記事では
WZ method
の応用としてApéryの数列
に関する謎について考察していきます。
WZ methodの記事 ではApéryの定理
の証明に使われた公式
がWZ methodによって導出できることを紹介しました。
しかしApéryの定理の証明にはこれ以外にもWZ的な現象が深く関わっています。
まずApéryの手法について簡単に紹介しておきましょう。
発想としては
実数
が成り立つとき、
ある整数
が成り立つことになるが、これは
まあこのような有理数列
しかしApéryは冒頭で紹介した奇妙な数列
を持ち出すことにより
を満たす。ただし初項は
である。
ちなみに
後で説明する。
が成り立つ。
後で説明する。
が成り立つ。
と評価できるので
を得る。
が成り立つ。
とおいたとき補題4,5から
が成り立つこと注意すると
と表せるので、
を得る。
ここで
と評価できるので補題2を適用するためには
が成り立つことを示さなければなりません。が、このあたりの議論についてはこの記事の本題から反れるので詳細については折り畳みにて解説しておきます。
とおくと
が成り立つ。特に
各
が成り立つこと、特に任意の素数
となることを示せばよい。
いまLegendreの公式(やKummerの定理)から任意の素数
と評価できるので
に注意すると
を得る。
上での議論と補題7から
が成り立つことを示せばよい。
いま素数定理から十分大きい任意の
のように評価でき、また
を解くと
この記事
にて紹介したPerronの定理から
と評価できるので、十分大きい任意の
が成り立つ。よって主張を得る。
また興味深いことに同様の数列
を用いることで
の無理性についても同じ議論で示すことができます。
やることは上と同じなので対応する補題の内容だけ紹介しておきます。
を満たす。ただし初項は
である。
が成り立つ。
が成り立つ。
が成り立つ。
見ての通りApéryの手法には多くの謎が秘められています。例えば簡単に思い浮かぶもので言えば
といった疑問が挙げられます。
これらの現象には一体どのような一般論が眠っているのか、あるいは限られた場合にしか成り立たない特殊な現象なのかが非常に気になるところではありますが、残念ながらまだその全てが解明されているわけではなさそうです。
しかし上二つの現象についてはある程度確かなことがわかっているので今回の記事ではそのことについて簡単に考察していこうと思います。
まず簡単に解決できる問題である
という等式について考察していきましょう。
素朴な方法としては
を満たすことからこの両辺にそれぞれ
がわかるので
と示せます。
正直この問題についてはこれで十分なのですが、少し味気ないのでもう少し一般的な主張を紹介しておきましょう(かなり余談なので読み飛ばしてもらっても構いません)。
の解
によって定める。
なお
とおくと
という一項間漸化式に帰着できるのでもう少し一般に次のような行列式をCasoratianと言うことにします。
の解
と定める。
このとき以下が成り立ちます。
Casoratianの一般項は
と表せる。特に
が成り立つ。
を示せばよい。そのことは
とわかる。
ちなみにCasoratianは線形微分方程式におけるWronskianの類似物であり、Wronskianの関係式
と比較すると面白いですね。
またこれを
に関するCasoratianの一般項は
と表せる。
例えば
という漸化式を満たしていたため
と求まっていたわけです。
次に今回の記事の本題である、なぜ
によって定まる数列
ここで
WZ methodの記事
において
の証明に出てきたWZ-pair
を思い出しましょう。これを用いると上の
と表せます(
またグリッド上の経路
を考えるとこれはWZ form
の経路和分
として表せます。
このように
数列
のポテンシャルであるとは、その偏差分が
を満たすことを言う。
さて
properな超幾何数列
のポテンシャル
とおくと、これらの満たす漸化式はどのような関係にあるだろうか。
そしてこの問題はZeilbergerによって次のような解答が与えられました。
上の問題設定においてある多項式
を
を満たすようなものが存在する。ただし
Zeilberger's method
により
を満たすような
このとき
とおくと
が成り立つので
とおくと
と表せる。
このとき
は
なる
そして適当な条件下でこの等式
をそれぞれ
という
特にこのことから
を満たすこともわかります。
これによりApéryの数列
が同じ漸化式を満たすことはある程度必然であることがわかりました。
しかし依然として不思議なのが
以上がApéryの定理の証明とその手法の背景に関する考察でした。
今回の記事では個人的に疑問であった「なぜ
とりあえず今回はこんなところで。では。
上でも登場したZeilbergerの文献にApéryの手法による
とおくと
とおくと
を満たす。ただし初項は
である。
あとの議論は
に注意すればわかる(と思う)ので省略します。
ちなみに
と表せる、つまり以下の事実が成り立つことが示せます。
が成り立つ。
多項式列
によって定めると上の式は
と表せる。
また部分積分を繰り返すことで任意の関数
が成り立つことと、
となることに注意すると主張を得る。