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現代数学解説
文献あり

ラマヌジャン・佐藤級数を理解したい(その2)

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はじめに

 この記事では前回の記事に引き続きラマヌジャン・佐藤級数についての論文Chan, Cooper(2012)を読んでいきます。

Clausenの公式の類似

 Chan-Chan-Liuの手法では
An=(1)nk=0n(nk)2(2n2knk)(2kk)
のような数列に対し直接
Z=n=0AnXn
という級数を考えていたが、超幾何関数型の円周率公式はまず
z=n=0(1s)n(11s)n(1)n2xn
という級数を考えてからClausenの公式
(n=0(1s)n(11s)n(1)n2xn)2=n=0(12)n(1s)n(11s)n(1)n3(4x(1x))n
を用いることで導出できるのであった。
 Chan-Cooperの手法ではこれの次のような一般化を考えている。

Clausenの公式の類似

 a,b,cを整数とし、数列{sn},{tn}s1=t1=0,s0=t0=1および
(n+1)2sn+1=(an2+an+b)sn+cn2sn1(n+1)3tn+1=(2n+1)(an2+an+a2b)tn(4c+a2)n3tn1
によって定める。このとき
(1+cx2)(n=0snxn)2=n=0(2nn)sn(x(1axcx2)(1+cx2)2)n(1axcx2)(n=0snxn)2=n=0tn(x1axcx2)n
が成り立つ。

Clausenの公式との関係

 上に挙げたClausenの公式はこの第一式のc=0の場合として得られる。実際
sn=(1s)n(11s)n(1)n2
とおいたとき
(n+1)2sn=(1s+n)(11s+n)sn=(n2+n+1s(11s))sn
が成り立つので上の定理が適用でき(a,b,cが整数でなくても上の定理は成り立つ)、
(12)n(1)n=(2n)!22n(n!)2=(2nn)14n
に注意すると
(n=0snxn)2=n=0(2nn)sn(x(1x))n=n=0(12)n(1)nsn(4x(1x))n
が得られる。
 ちなみに下ではbを整数にするために適当なNsを取ってsn=Nsnsnと置くわけだが、具体的には
(1m)n(2m)n(mm)n=(mn)!mmn
が成り立つことに注意すると
s=2:sn=1(22n)2((2n)!)2(n!)4=116n(2nn)2s=3:sn=133n(3n)!(n!)3=127n(3nn)(2nn)s=4:sn=22n44n(4n)!(n!)2(2n)!=164n(4n2n)(2nn)s=6:sn=22n33n66n(6n)!n!(2n)!(3n)!=1432n(6n3n)(3nn)
と表せるので
N2=16,N3=27,N4=64,N6=432
と取ることになる。

 やることとしては両辺が同じ微分方程式と同じ初期値を満たすことを確認するだけである。いま
z=n=0snxn
とおいたときこれの満たす微分方程式はϑ=xddxを用いて
ϑ2z=x(aϑ2+aϑ+b)z+cx2(ϑ+1)2z
と表せ、これを展開すると
x(1axcx2)z+(12ax3cx2)z(b+cx)z=0
となることに注意する。
 またこれはx=0,および1axcx2=0を確定特異点に持つFuchs型微分方程式であることにも注意したい。このことの意味についてはこの記事の1,2節で解説している。
 以降の議論は単純に計算するだけであるが、手計算でどうにかするのは非常に面倒なので省略する。

 このような公式の発見的な方法についても中々興味深い理論が広がっているようだが、まだ私の理解が浅いためここで解説できる段階にはないのが悲しいところ。いつかちゃんと理解してみたい。

X=x(1axcx2)(1+cx2)2,Y=x1axcx2
とおいたとき、上のような数列sn,tnに対し
n=0tnYn+12=n=0(2nn)snXn+12n=0tn(n+12)Yn+12=14aX16cX2n=0(2nn)sn(n+12)Xn+12
が成り立つ。

 第一式については
XY=1axcx21+cx2
に注意すると上の定理からわかる。第二式については
X=Y(1+aY)2+4cY2
および
14aX16cX2=(1(a2+4c)Y2(1+aY)2+4cY2)2
に注意して第一式をYについて微分することでわかる。

級数の収束性について

 いま上の定義だけだと級数
n=0snxn,n=0tnxn
x=0の近傍で収束するのか、つまりsn,tnは急速に増大してしまわないのか、という疑問がある。
 これについては漸化式に対するポアンカレやペロンの定理として知られる以下の結果が役に立つ。

 数列{xn}についての漸化式
xn+k+j=0k1pn(j)xn+j=0
であって、その係数pn(j)が極限値pn(j)p(j)を持つようなものをポアンカレ型の漸化式という。
 またポアンカレ型の漸化式に対して定まる方程式
λk+j=0k1p(j)λj=0
のことを特性方程式と言う。

Perronの第二定理

 ポアンカレ型の漸化式
xn+k+j=0k1pn(j)xn+j=0
に対し、その解{xn}は次のいずれかを満たす。
・あるNより先で常にxn=0が成り立つ。
・特性方程式のある解λが存在してlim supn|xn|n=|λ|が成り立つ。

 この結果によるとsn,tnが満たす漸化式についての特性方程式はそれぞれ
λ2aλc=0,λ2+2aλ+(a2+4c)=0
であり、このことから
lim supn|sn|nmax|a±a2+4c2|=:Mslim supn|tn|nmax|a±2c|=:Mt
と評価できる。したがってコーシーの収束判定法より
n=0snxn,n=0tnxn
はそれぞれ|x|<1/Ms,1/Mtで収束することが保証されるわけである。
 また
lim supn(2nn)n=4
が成り立つことにも注意したい。

余談

 ちなみにペロンの定理の一般化として次のような定理が知られている。

Coffmanの定理

 Ak×k行列、fn(y):RkRkを連続関数としynRkについての漸化式
yn+1=Ayn+fn(yn)
を考える。このときfn
fn(y)y0((n,y)(,0))
を満たすとすると
・あるNより先でyn0
yn0(n)
なる解ynに対しあるAの固有値λが存在して
limnynn=|λ|<1
が成り立つ。

 これは
dydt=Ay+g(t,y)(lim(t,y)(,0)g(t,y)y=0)
なる微分方程式を考えたとき、Aの任意の固有値λに対しy(t)|eλt|なる漸近挙動を持つ解y(t)が取れる、という感じの有名な事実の漸化式への類似となっている。
 これも中々興味深い話題ではあるのだが、足を踏み入れるには少し深そうな気がするのでまた気が向いたときに勉強しようと思う。

sn,tnの明示形

 あとはある整数a,b,cによって定まるsnを用いて
z(τ)=n=0snx(τ)n
と表せるような保型形式z(τ)と保型関数x(τ)の組を持ってくれば、上の公式とChan-Chan-Liuの手法から
1π=n=0(2nn)sn(An+B)Xn=n=0tn(An+B)Yn
という円周率公式が構成できるわけである。
 この記事では一旦具体的なz(τ)x(τ)を見ていく前に、どのようなa,b,cに対しsntnはどのように表せるのかを見ていこう。Chan-Cooperでは以下の表が提示されている(は対応するラマヌジャン・佐藤級数のレベルを表す。具体的には次回の記事で解説する)。

(a,b,c)sntn1(432,60,0)(6n3n)(3nn)k=0nsn(2kk)(n+knk)(a)nk2(64,12,0)(4n2n)(2nn)k=0nsn(2kk)(n+knk)(a)nk3(27,6,0)(3nn)(2nn)k=0nsn(2kk)(n+knk)(a)nk4(16,4,0)(2nn)2(1)nk=0n(2kk)2(2n2knk)5(11,3,1)k=0n(nk)2(n+kk)k=0n(1)nk(nk)3(4n5k3n)6A(17,6,72)jk(nk)(kj)3(8)nkk=0n(nk)2(n+kk)26B(10,3,9)k=0n(nk)2(2kk)(1)nk=0n(nk)2(2n2knk)(2kk)6C(7,2,8)k=0n(nk)3k=0n(n+kn)(n3k)(3k2k)(2kk)(3)n3k8(12,4,32)k=0n(n2k)(2kk)24n2k(1)nk=0n(nk)2(2kn)29(9,3,27)k=0n(nk)(nkk)(n2kk)(3)n3kjk(nk)2(nj)(kj)(k+jn)

 ラマヌジャンの考えた円周率公式
1π=n=0(12)n(1s)n(11s)n(1)n3An+BCn(s=2,3,4,6)
はこの=1,2,3,4snについてのものであり、Chan-Chan-Liuの発見した円周率公式
1π=38n=0(k=0n(nk)2(2n2knk)(2kk))5n+164n
はこの=6Btnについてのものとなる。
 また佐藤猛 氏の発表した円周率公式
15π=6n=0(k=0n(nk)2(n+kk)2)(20n+1035)(512)12n+6
=6Atnについてのものであり、佐藤氏が同時に発表していた円周率公式
5π=3n=0(1)ntn(282n+141505)(155(512)15)n+12((a,b,c)=(11,3,1))
=5tnの場合となっている。
 しかし Wikipedia で提示されているものを見るに円周率公式を構成できる(a,b,c)の取り方はこれだけに尽きないようにも思えるが、どうなのだろうか。このことが気にかかったので一先ずどのような(a,b,c)に対してどのように保型形式と保型関数の組z(τ),x(τ)を探せばいいのか、ということについて次回の記事で見ていこうと思う。

参考文献

[2]
S. Elaydi, An Introduction to Difference Equations, Third edition, Springer, New York, 2005, pp. 387-389
投稿日:20231122
更新日:20231226
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投稿者

子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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