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雑記:線形微分方程式

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はじめに

 この記事では線形微分方程式の基本事項について雑にまとめていきます。

問題設定

 線形微分方程式とは未知関数x(t)とその導関数x,x,についての線型方程式
An(t)x(n)+An1(t)x(n1)++A1(t)x+A0(t)x=f(t)
のことを言います。
 より一般に線形微分方程式はベクトル値関数u(t)(tI)についての線型方程式
u=A(t)u+b(t)(u,bCn, AMn(C))
の形に帰着されます(下でAのジョルダン標準形を考えたりするので各関数の終域をC-線形空間としていますが、それぞれRに置き換えても特に問題ありません)。
 実際例えば上のn階線形微分方程式は、簡単のためAn(t)=1とし
u=(x(n1)xx)T
とおくことで
u=(An1(t)A1(t)A0(t)100010)u+(f(t)00)
という微分方程式に書き換えることができます(逆にこれを満たすようなuは第n成分をxとおくことで
u=(x(n1)xx)T
と表せることにも注意しましょう)。

行列の指数関数

 まず定数係数の線形微分方程式を考える上で重要となる行列の指数関数というものについて解説しておきます。

 正方行列Aに対してexpA
expA=n=0Ann!
によって定める。

基本性質

 A,BAB=BAを満たすとき
exp(A+B)=(expA)(expB)
が成り立つ。特に
(expA)1=exp(A)
が成り立つ。

 積の可換性から二項定理
(A+B)n=k=0n(nk)AkBnk
が成り立つので
exp(A+B)=n=0(k=0n(nk)AkBnk)1n!=(n=0Ann!)(n=0Bnn!)=(expA)(expB)
を得る。

 上の変形は冪級数の積
(n=0antnn!)(n=0bntnn!)=n=0(k=0n(nk)akbnk)tnn!
と比較するとわかりやすい。

det(expA)=exp(trA)
が成り立つ。

 Aのジョルダン標準形をJ=P1APとおき、その対角成分(つまりAの固有値)をλ1,λ2,,λnとすると
expJ=P1(expA)P
eλ1,eλ2,,eλnを対角成分とする上三角行列となるので
det(expA)=det(expJ)=eλ1eλ2eλn=eλ1+λ2++λn=etrA
を得る。

計算方法

 行列Aをジョルダン標準形PJP1に表したとき
expA=P(expJ)P1
が成り立つので各ジョルダン細胞に対しexpを計算すればexpAを求めることができます。

exp(λ10000λ10000λ00000λ10000λ)=eλ(11121(n2)!1(n1)!0111(n3)!1(n2)!0011(n4)!1(n3)!0001100001)

 ジョルダン細胞JMn(C)を対角成分λIと冪零因子Nに分けたとき、λINの積は可換なのでNn=0に注意すると
expJ=exp(λI+N)=exp(λI)expN=eλm=0n1Nkk!
を得る。

 ついでexp(At)も計算しておきましょう。

exp((λ10000λ10000λ00000λ10000λ)t)=eλt(1tt22tn2(n2)!tn1(n1)!01ttn3(n3)!tn2(n2)!001tn4(n4)!tn3(n3)!0001t00001)

exp(Jt)=exp(λtI)exp(tN)=eλtk=0n1tkk!Nk
とわかる。

定数係数の場合

 まず係数A(t)tに依らない場合の方程式
u=Au+b(t)
を考えましょう。
 これを解くにあたっては次の事実が重要となります。

 W=exp(At)
W=AW=WA
を満たす。

(exp(At))=n=1Antn1(n1)!
に注意するとわかる(項別微分の正当性については省略)。

 この事実によって
W1(uAu)=(W1u)
と変形できるので件の方程式
u=Au+b(t)

(W1u)=W1b(t)
という微分方程式に帰着でき、これを解くことで
u=exp(At)exp(At)b(t)dt
という一般解が得られます。
 また必要に応じてW=exp(A(tt0))と平行移動することで次のような結果が得られます。

 b(t)Cnを区間IRにおいて連続な関数とする。
 このとき任意のt0I,u0Cnに対し微分方程式
u=Au+b(t)
の解uであって初期値u(t0)=u0を満たすようなものが一意に存在し、特にその解は
u=exp(A(tt0))(t0texp(A(st0))b(s)ds+u0)
と求まる。

 ちなみにこのことから同次方程式
u=Au
の解
u=exp(At)u0(u0Rnは任意)
のなす線形空間Vn次元となることがわかります。
 実際exp(At)は正則であったことに注意すると例えば
ui=exp(At)ei(i=1,2,,n)
Vの基底を成すことになります。

一般の場合

定数係数の場合との違い

 一般の場合も定数係数の場合と同じように
B(t)=atA(s)ds
およびW=expB(t)とおくと
W=n=1Bn1(n1)!B=WA
とできそうな気がしますが、残念ながらこれは成り立ちません。実際、行列値関数において積の微分は
(A1A2)=A1A2+A1A2
となるので累乗の微分は
(Bn)=k=0n1BkBBnk1
となります。
 定数係数のときはB=AtB=Aの積が可換であったため(Bn)=nBn1Bつまり
(expB(t))=exp(B(t))A
が成り立っていたのでした。
 このように一般の場合において明示的に解を求めることは難しいですが、同次形の方程式
u=A(t)u
の基本解を構成できれば非同次形の方程式
u=A(t)u+b(t)
の解も求めることはできます。

基本解系

 いま同次方程式
u=A(t)u
の解として
u=u1,u2,,un
が得られたとき、これらが線形独立であるかどうかを判定する方法としてロンスキアンというものがあります。

 関数u1,u2,,unCnに対し
W(u1,u2,,un)=(u1u2un)
と定まる関数のことをロンスキー行列と言い、その行列式
W(u1,u2,,un)=det(u1u2un)
のことをロンスキアンと言う。

 通常ロンスキー行列と言えばn階線形微分方程式
u=(xxx(n1))T
の場合に定まるもの
W(x1,x2,,xn)=(x1x2xnx1x2xnx1(n1)x2(n1)xn(n1))
のことを言いますが、ここではより一般の方程式
u=A(t)u
の解を横に並べたものについてもロンスキー行列と言うことにします。

 u1,u2,,unが同次方程式
u=A(t)u
の解であるときそのロンスキアンW(t)
W(t)=exp(t0ttrA(s)ds)W(t0)
を満たす。特に
u1,u2,,unが線形独立常にW(t)0u1,u2,,unが線形従属常にW(t)=0
が成り立つ。

 W=tr(A(t))Wを示せばよい。
 いまujの取り方からそのロンスキー行列は
W=A(t)W
を満たす。ここでA(t)(i,j)成分をAi,j、ロンスキー行列の第i行をviとおくとこれは
vi=j=1nAi,jvj(i=1,2,,n)
と言い換えられることに注意する。
 したがって
W=det(v1v2vn)+det(v1v2vn)++det(v1v2vn)=det(A1,1v1v2vn)+det(v1A2,2v2vn)++det(v1v2An,nvn)=tr(A(t))W
を得る。

  この記事 にて紹介したように同次方程式
u=A(t)u
は(A(t)が連続ならば)必ずn個の線形独立な解u1,u2,,unを持ち、そのような関数の組のことを基本解系と言います。
 いま、ある基本解系のなすロンスキー行列をW(t)とおくとこれは可逆であり
0=(WW1)=WW1+W(W1)
より
(W1)=W1WW1=W1(A(t)W)W1=W1A(t)
が成り立つので
W1(uA(t)u)=(W1u)
と変形できます。
 したがって件の方程式
u=A(t)u+b(t)

(W1u)=W1b(t)
という微分方程式に帰着され、これを解くことで
u=W(t)W(t)1b(t)dt
という一般解が得られます。

定数係数のn階線形微分方程式

 最後に定数係数のn階線形微分方程式
x(n)+an1x(n1)++a1x+a0x=0
の性質について簡単に紹介しておきましょう。

Bn=(b1bn1bn100010)
の固有多項式は
det(λIBn)=λn+b1λn1++bn1λ+bn
と求まる。

det(λIBn)=|λ+b1b2bn1bn1λ000100001λ|
を第n列について余因子展開することで
det(λIBn)=det(λIBn1)λ+bn
が成り立つことに注意するとわかる。

A=(an1a1a0100010)
の固有値λに対し固有空間Ker(AλI)の次元は1となる。特にAのジョルダン標準形においてλに関するジョルダン細胞は一つだけである。

 Aの固有値λに関する固有ベクトルpに対しその第n成分をaとおくとAp=λpの各成分を比較することで
p=a(λn1λ1)T
が成り立つことからわかる。

 この補題と命題4から以下の事実が得られます。

 微分方程式
x(n)+an1x(n1)++a1x+a0x=0()
の特性方程式が
0=λn+an1λn1++a1λ+a0=(λλ1)e1(λλ2)e2(λλm)em
と因数分解されるとき、()の解は
x=tjeλkt(0jek1)
の線型結合によって尽くされる。

 なおx(t)Rの範囲で考えると、()の基本解系として
x=tjeμktcos(νkt), tjeμktsin(νkt)(λk=μk+iνk)
が取れます。

おまけ:線形漸化式

 ちなみに一般に線形演算子Lに対して、xに関する定数係数の方程式
(Ln+an1Ln1++a1L+a0)x=0
を考えたときにも
u=(Ln1xLn2xx),A=(an1a1a0100010)
とおき
Lu=Au
という方程式に帰着させることでいい感じになることがあります。
 上では微分演算子L=ddtについて議論してきましたがL=Sを数列xnに対する前進作用素Sxn=xn+1とするとl項間漸化式
xn+l+al1xn+l1++a1xn+1+a0xn=0
は一項間漸化式
Sun=un+1=Aun
に帰着されます。これは単純に
un=Anu0
と解けるので以下の主張が得られます。

 漸化式
xn+l+al1xn+l1++a1xn+1+a0xn=0()
の特性方程式が
0=λl+al1λl1++a1λ+a0=(λλ1)e1(λλ2)e2(λλm)em
と因数分解されるとき、()の解は
xn=njλkn(0jek1)
の線型結合によって尽くされる。

 ジョルダン細胞J=λI+NMe(C)に対し
Jn=j=0e1(nj)λnjNj
が成り立つこと、および
(nj)=n(n1)(nj+1)j!
nについての多項式であることに注意するとわかる。

投稿日:2024224
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. 問題設定
  3. 行列の指数関数
  4. 基本性質
  5. 計算方法
  6. 定数係数の場合
  7. 一般の場合
  8. 定数係数の場合との違い
  9. 基本解系
  10. 定数係数のn階線形微分方程式
  11. おまけ:線形漸化式