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有限生成加群と有限生成代数

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可換環しか扱わないので、すべて環とよぶことにします。
$K$代数については $K$加群と$K$代数 で解説しています。

有限生成加群

$A$を環とする。$A$加群$M$が有限生成$A$加群(finitely generated A-module)であるとは、ある$r$に対し、完全列$A^{\oplus r} \longrightarrow M \longrightarrow 0$が存在すること。

有限加群(finite A-module)や、A上有限(finite over A)な加群とも呼ばれます。有限生成加群の定義としては次の(3)の方が普通でしょう。ここで$x_1,...,x_r$に対し、一次独立性を課していないことに注意してください。

$A$加群$M$に対し、次は同値。
(1)$M$は有限生成$A$加群
(2)$M$$A^{\oplus r}$の剰余加群で表せる。
(3)$x_1,...,x_r \in M$が存在して、$M=\lbrace a_1x_1+ \cdots +a_rx_r \vert a_1,...,a_r \in A\rbrace $

(1)$\Longrightarrow$(2)
完全列により、全射$A$準同型$φ:A^{\oplus r} \longrightarrow M$が存在する。準同型定理より、$M$$A^{\oplus r}$の剰余加群で表せる。

(1)$\Longleftarrow$(2)
$A^{\oplus r}$の剰余加群から$M$への$A$同型が存在するから、自然な射影との合成は$A^{\oplus r}$から$M$への$A$準同型となる。

(1)$\Longrightarrow$(3)
完全列により、全射$A$準同型$φ:A^{\oplus r} \longrightarrow M$が存在する。$A^{\oplus r}$の基底として、$t_1,...,t_r$を取ると、
$\mathrm{Im}φ=\lbrace φ(a_1t_1+ \cdots +a_rt_r) \vert a_1,...,a_r \in A\rbrace=\lbrace a_1φ(t_1)+ \cdots a_rφ(t_r) \vert a_1,...,a_r \in A\rbrace$

(1)$\Longleftarrow$(3)
$φ:A^{\oplus r} \longrightarrow M;(a_1,...,a_r) \longmapsto a_1x_1+ \cdots +a_rx_r$とおくと、これは全射$A$準同型となる。

有限表示加群

$A$を環とする。$A$加群$M$が有限表示$A$加群(finitely presented A-module)であるとは、ある$q,r$に対し、完全列$A^{\oplus q} \longrightarrow A^{\oplus r} \longrightarrow M \longrightarrow 0$が存在すること。

定義より明らかに有限表示加群なら有限生成加群です。

$A$加群$M$に対し、次は同値。
(1)$M$は有限表示$A$加群
(2)$x_1,...,x_r \in M$によって$M$が生成されて、$A^{\oplus r}$の部分加群$\lbrace (a_1,...,a_r) \in A^{\oplus r} \vert a_1x_1+ \cdots +a_rx_r=0\rbrace$$q$個の元で生成される。

(1)$\Longrightarrow$(2)
$M$は有限生成加群だからその生成元$x_1,...,x_r \in M$を取る。このとき、$\lbrace (a_1,...,a_r) \in A^{\oplus r} \vert a_1x_1+ \cdots +a_rx_r=0\rbrace$$A^{\oplus r}$の部分加群である。これを$N$とおくことにする。完全列より$N$は準同型$ψ:A^{\oplus q}\longrightarrow A^{\oplus r}$の像と等しい。したがって$A^{\oplus q}$の基底を$y_1,...,y_q \in A^{\oplus q}$とおけば、$N$$ψ(y_1),...,ψ(y_q) \in A^{\oplus r}$によって生成される。

(1)$\Longleftarrow$(2)
$M$は有限生成加群だから、完全列$A^{\oplus r} \longrightarrow M \longrightarrow 0$が存在する。この準同型$φ:A^{\oplus r} \longrightarrow M$に対し、$A^{\oplus r}$の基底の像を$x_1,...,x_r \in M$とおくと、$\mathrm{Ker}φ=\lbrace (a_1,...,a_r) \in A^{\oplus r} \vert a_1x_1+ \cdots +a_rx_r=0\rbrace$
このとき、$A^{\oplus q}$の基底を$y_1,...,y_q$とおき、写像$ψ:A^{\oplus q}\longrightarrow A^{\oplus r}$$y_1,...,y_q$の像を$\mathrm{Ker}φ$の生成元に送るものとして定める。これは準同型で$\mathrm{Im}ψ=\mathrm{Ker}φ$を満たす。

一般に有限生成加群の部分加群は有限生成ではありません。しかしNoether環上の有限生成加群はNoether加群ですから、次が成り立ちます。

Noether環上の加群において、有限生成加群であることと有限表示加群であることは同値である。

K代数の生成

$K$を環、$A$$K$代数とする。$S \subset A$が生成する部分$K$代数$K[S]$を次で定める。

Sが有限集合$\lbrace s_1,...,s_r\rbrace$のとき
$K[S]=\lbrace f(s_1,...,s_r) \vert f(x_1,...,x_r) \in K[x_1,...,x_r] \rbrace$

Sが無限集合のとき
$K[S]= \bigcup K[S']$
ただし、$S'$$S$のすべての有限部分集合を走るものとする。

$K[\lbrace s_1,...,s_r\rbrace]$を単に$K[s_1,...,s_r]$とかき、これを有限生成$K$代数(finitely generated K-algebra)という。

有限生成$K$代数のことを、有限型$K$代数(finite type K-algebra)、$K$上の有限生成環(finitely generated ring over K)と呼ぶこともあります。
次に、有限生成$K$代数も完全列によって定義できることを示します。

$K$を環とする。$K$代数$R$に対し次は同値。
(1)$R$は有限生成$K$代数
(2)ある$r$に対し、完全列$K[x_1,...,x_r]\longrightarrow R \longrightarrow 0$が存在する。
(3)$K[x_1,...,x_r]/\mathrm{Ker}φ\simeq R$を満たす$K$準同型$φ:K[x_1,...,x_r]\longrightarrow R$が存在する。

(1)$\Longrightarrow$(2)
$R=K[s_1,...,s_r]$とおく。
写像$φ:K[x_1,...,x_r]\longrightarrow R;f(x_1,...,x_r)\longmapsto f(s_1,...,s_r)$は全射$K$準同型

(1)$\Longleftarrow$(2)
完全列より、全射$K$準同型$φ:K[x_1,...,x_r]\longrightarrow R$が存在する。これは$K$代数の準同型であるから、$R$の任意の元は$x_1,...,x_r$の像の線型結合で書ける。すなわち$R=K[φ(x_1),...,φ(x_r)]$

(2)と(3)は明らかに同値であろう。

したがって、有限生成代数を多項式環の剰余環として扱うことができます。

代数幾何では体上有限生成代数の理論(Noetherの正規化定理、Hilbertの零点定理...etc)が基本的です。また有限表示加群を紹介した理由は、スキーム論でエタール射(局所同相写像の代数幾何的類似)を定義するときに必要だからです。

投稿日:59
更新日:82
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投稿者

独学していて、わかりづらいなと感じた部分をまとめます。環論など代数学が中心です。

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