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ネーター半群について

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$$\newcommand{idealgen}[0]{\mathord{\uparrow}} \newcommand{ReesJ}[0]{\mathrel{\mathcal{J}}} \newcommand{setex}[1]{\left\{#1\right\}} \newcommand{setin}[2]{\left\{#1\mathrel{}\middle|\mathrel{}#2\right\}} $$

$S$を半群とする.

半群の前順序とイデアル

$S$上の前順序$\sqsubseteq$
\begin{equation} x\sqsubseteq y\iff({}^\exists p,q\in S^1)(y=pxq) \end{equation}
で定める.ここで$S^1$$S$に単位元$1$を添加したモノイドである.

  1. 非負整数のモノイド$\mathbb{N}:=(\mathbb{N},+)$上の前順序$\sqsubseteq$は通常の順序に一致する.とくに$\sqsubseteq$は整列順序である.
  2. 正整数の乗法モノイド$\mathbb{N}^\ast:=(\mathbb{N}_{>0},\cdot)$上の前順序$\sqsubseteq$は整除関係$\mid$である.
  3. 半群$S,T$の直積$S\times T$上の前順序$\sqsubseteq$$S,T$上の前順序$\sqsubseteq_S,\sqsubseteq_T$の直積順序である.

半群$S$の(両側)イデアル$I$とは,任意の$x\in I$と任意の$p,q\in S^1$に対して$pxq\in I$であるような集合のことであった.すなわち,前順序$\sqsubseteq$の言葉で言えば,イデアルとは上方集合のことである.従って,$S$のイデアル全体の集合$\mathcal{I}_S$は位相( アレクサンドロフ位相 )をなす.ただし空集合$\emptyset$もイデアルとしている.

部分集合$A\subset S$に対し,集合
\begin{equation} \idealgen A:=S^1AS^1=\setin{x\in S}{x\sqsupseteq a({}^\forall a \in A)} \end{equation}
$S$のイデアルである.これを$A$の生成するイデアルという.一元集合$\setex{x}$, $x\in S$, が生成するイデアルを単に$\idealgen x$で表す.

$\sqsubseteq$の反対称性と同値な条件

$\ReesJ$をグリーンの$\ReesJ$-relationとする.すなわち,$x\ReesJ y\iff\idealgen x=\idealgen y$である.$S$$\ReesJ$-trivialであるとは,$\ReesJ$が恒等関係$\mathrm{id}_S$に等しいことをいう.

TFAE:

  • $x\sqsubseteq y$,
  • $\idealgen x\supset\idealgen y$,
  • $x\in\overline{\setex y}$.

$x\sqsubseteq y$$\iff y\in\idealgen x$$\iff$$\idealgen y\subset\idealgen x$である.また,$x\in\overline{\setex y}$$\iff$$({}^\forall I\in\mathcal{I})(x\in I\Rightarrow y\in I)$$\iff$$y\in\idealgen x$である.

TFAE:

  • $\sqsubseteq$は半順序である.
  • $S$$\ReesJ$-trivialである.
  • $S$$T_0$である.

補題1により,$x\sqsubseteq y,x\sqsupseteq y$$\iff$$x\ReesJ y$$\iff$$\overline{\setex x}=\overline{\setex y}$である.従って$\sqsubseteq$の反対称性,$\ReesJ$-trivialityと$T_0$は同値である.

ネーター半群

ネーター半群の定義

$S$の任意のイデアルが…
(1) 有限生成であるとき,$S$はNoetherianであるという.
(2) 一元生成であるとき,$S$はprincipalであるという.


ネーター半群の特徴付け

$I\neq\emptyset$$S$のイデアルとするとき,$I$が有限生成であることと$I$が準コンパクトであることは同値である.

$I$を有限生成とし,その生成元を$a_1,\dots,a_r\in I$とする.任意の開被覆$I=\bigcup_{\lambda\in\Lambda}I_\lambda$をとる.このとき各$a_i$について$a_i\in I_{\lambda_i}$なる$\lambda_i\in\Lambda$が取れる.よって$I=\idealgen\setex{a_1,\dots,a_r}\subset\bigcup_{i=1}^r I_{\lambda_i}$ゆえ有限部分被覆が取れた.
$I$を準コンパクトとする.このとき開被覆$I=\bigcup_{a\in I}\idealgen a$の有限部分被覆$\setex{\idealgen a_i}_{i=1,\dots,r}$をとれば,$I=\idealgen\setex{a_1,\dots,a_r}$であり,$I$は有限生成である.

従って,半群のネーター性はアレクサンドロフ位相空間としてのネーター性と等価である.よって次が成り立つ.

TFAE:

  • $S$はNoetherianである.
  • $S$のイデアルの昇鎖条件が成り立つ.
  • $S$のイデアルの極大条件が成り立つ.
  • $\sqsubseteq$ wqo である.

ネーター半群に係る性質

ネーター半群の準同型像はネーター半群

半群準同型は前順序$\sqsubseteq$を保つ.よって半群準同型は連続である.従ってネーター空間の性質から次が成り立つ.

ネーター半群の準同型像はネーター半群である.


ネーター半群の有限直積はネーター半群

直積半群の位相は直積位相である.従って次が成り立つ.

ネーター半群の有限直積はネーター半群である.


ネーター半群の有限帯はネーター半群

$B$を帯(べき等元からなる半群)とし,全射準同型$\varphi\colon S\to B$があったとする.このとき任意の$b,c\in B$について$\varphi^{-1}(b)\varphi^{-1}(c)\subset\varphi^{-1}(bc)$が成り立つ.とくに各ファイバー$\varphi^{-1}(b)$, $b\in B$, は$S$の部分半群であり,$S$は半群の直和$S=\bigcup_{b\in B}\varphi^{-1}(b)$に分解さる.このとき$S$は半群の帯(band of semigroups)であるという.すべてのファイバーが半群のあるサブクラスに属するときは,そのクラスの帯という.たとえばすべての$\varphi^{-1}(b)$が群であれば,$S$は群の帯であるという.

ネーター半群の有限帯はネーター半群である.

ネーター空間の有限直和はネーター空間である.$S$の位相は$(\varphi^{-1}(b))_{b\in B}$の直和位相より弱い(包含写像$\varphi^{-1}(b)\to S$が連続だから)のでネーター空間である.従って$S$はネーター半群である.


ネーター半群のネーター半群によるイデアル拡大はネーター半群

$I\subset S$をイデアルとする.$I$, $S/I$がともにNoetherianであれば,$S$もNoetherianである.すなわち,ネーター半群のネーター半群によるイデアル拡大はネーター半群である.

自然な準同型を$[\cdot]\colon S\to S/I$とかく.$(x_n)_{n=1,2,\dots}$$S$の列とする.

  1. $\#\setin{n}{x_n\in I}=\infty$のとき.$I$の元からなる部分列$(y_n)$が取れる.$I$上の前順序$\sqsubseteq_I$はwqoであるから,$y_i\sqsubseteq_I y_j$なる$i< j$が存在する.このとき$y_i\sqsubseteq y_j$である.
  2. $\#\setin{n}{x_n\in I}<\infty$のとき.$S\setminus I$の元からなる部分列$(z_n)$が取れる.$([z_n])$$S/I$$0$でない元からなる列である.$S/I$上の前順序$\sqsubseteq'$はwqoであるから,$[z_i]\sqsubseteq'[z_j]$なる$i< j$が存在する.よって$p,q\in S\setminus I$があって$0\neq[z_j]=[pz_iq]$が成り立つ.従って$z_j=pz_iq$, すなわち$z_i\sqsubseteq z_j$である.

以上より$\sqsubseteq$はwqoであり,$S$はNoetherianと分かった.


その他イデアルの有限生成性に関する性質

$I$$S$の有限生成イデアルとし,$S/I$はNoetherianであるとする.このとき$I$を含む$S$の任意のイデアルは有限生成である.

$I=\idealgen\setex{a_1,\dots,a_r}$とする.背理法により示す.そのため有限生成でない$S$のイデアル$J\supset I$があったとする.$J\supsetneq I$ゆえ$b_1\in J\setminus I$が取れる.$J_1=\idealgen\setex{a_1,\dots,a_r,b_1}$とおく.$J\supsetneq J_1$であるから$b_2\in J\setminus J_1$が取れる.$J_2=\idealgen\setex{a_1,\dots,a_r,b_1,b_2}$とおく.これを繰り返すことで$S$のイデアルの上昇鎖$I\subsetneq J_1\subsetneq J_2\subsetneq\cdots$を得る.従って$S/I$のイデアルの上昇鎖$0\subsetneq J_1/I\subsetneq J_2/I\cdots$を得る.これは$S/I$のネーター性に矛盾である.

$S$はNoetherianとし,$A\subset S$を空でない任意の部分集合とする.このとき有限部分集合$A_0\subset A$があって,$\idealgen A_0=\idealgen A$が成り立つ.とくに,$S$がprincipalであれば$A_0$は一元集合にとれる.

ネーター性から$\idealgen A=\idealgen\setex{s_1,\dots,s_r}$, $s_1,\dots,s_r\in S$と書ける.各$s_i$$\idealgen A$に属するので,$s_i\sqsupseteq a_i$なる$a_i\in A$が取れる.このとき
\begin{equation} \idealgen A=\idealgen\setex{s_1,\dots,s_r}\subset\idealgen\setex{a_1,\dots,a_r}\subset\idealgen A \end{equation}
ゆえ$\idealgen A=\idealgen\setex{a_1,\dots,a_r}$である.

$S$$\ReesJ$-trivialとする.このとき$S$がprincipalであることと$\sqsubseteq$が整列順序であることは同値である.

$S$はprincipalであるとする.任意の空でない部分集合$A\subset S$をとる.命題10により,$\idealgen A=\idealgen a_0$をみたす$a_0\in A$が存在する.このとき任意の$a\in A$について$a\sqsupseteq a_0$であるから,$a_0$$A$の最小元である.よって$\sqsubseteq$は整列順序である.
$\sqsubseteq$は整列順序とする.任意の空でない$S$のイデアル$I$をとり,$I$の最小元を$a_0$とする.$a_0$$I$の要素であるから,$\idealgen a_0\subset I$である.また最小性から$\idealgen a_0\supset I$も成り立つ.よって$I=\idealgen a_0$である.

  1. 命題11より$\mathbb{N}$はprincipalである.よってその有限直積$\mathbb{N}^d$, $d>0$, はNoetherianである.
  2. $\mathbb{N}^\ast\cong\bigoplus_{i=1}^\infty\mathbb{N}$はNoetherianでない(例えば素数全体の生成するイデアルは有限生成でない).一方$\mathbb{N}^\ast$を部分半群として含む正の有理数全体$\mathbb{Q}_{>0}$は,群であるため自明なイデアルしか持たず,principalである.
  3. $Q$を有限箙,$S_Q$ 付随する半群 とする.$R=\idealgen E$を矢の生成するイデアルとし,$n>1$とする.$R^n=\setex 0\cup\setin{p\in S_Q\setminus\setex 0}{|p|\ge n}$を長さ$n$の道が生成するイデアルとする.$R^n$は有限生成である.また剰余半群$S_Q/R^n$は,長さ$n$未満の道が有限個であることから有限半群,とくにNoetherianである.従って命題9により,$R^n$を含む$S_Q$のイデアルは有限生成である.
投稿日:2023428

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