を半群とする.
半群の前順序とイデアル
上の前順序を
で定める.ここではに単位元を添加したモノイドである.
- 非負整数のモノイド上の前順序は通常の順序に一致する.とくには整列順序である.
- 正整数の乗法モノイド上の前順序は整除関係である.
- 半群の直積上の前順序は上の前順序の直積順序である.
半群の(両側)イデアルとは,任意のと任意のに対してであるような集合のことであった.すなわち,前順序の言葉で言えば,イデアルとは上方集合のことである.従って,のイデアル全体の集合は位相(
アレクサンドロフ位相
)をなす.ただし空集合もイデアルとしている.
部分集合に対し,集合
はのイデアルである.これをの生成するイデアルという.一元集合, , が生成するイデアルを単にで表す.
の反対称性と同値な条件
をグリーンの-relationとする.すなわち,である.が-trivialであるとは,が恒等関係に等しいことをいう.
TFAE:
- は半順序である.
- は-trivialである.
- はである.
補題1により,である.従っての反対称性,-trivialityとは同値である.
ネーター半群
ネーター半群の定義
の任意のイデアルが…
(1) 有限生成であるとき,はNoetherianであるという.
(2) 一元生成であるとき,はprincipalであるという.
ネーター半群の特徴付け
をのイデアルとするとき,が有限生成であることとが準コンパクトであることは同値である.
を有限生成とし,その生成元をとする.任意の開被覆をとる.このとき各についてなるが取れる.よってゆえ有限部分被覆が取れた.
を準コンパクトとする.このとき開被覆の有限部分被覆をとれば,であり,は有限生成である.
従って,半群のネーター性はアレクサンドロフ位相空間としてのネーター性と等価である.よって次が成り立つ.
TFAE:
- はNoetherianである.
- のイデアルの昇鎖条件が成り立つ.
- のイデアルの極大条件が成り立つ.
- は
wqo
である.
ネーター半群に係る性質
ネーター半群の準同型像はネーター半群
半群準同型は前順序を保つ.よって半群準同型は連続である.従ってネーター空間の性質から次が成り立つ.
ネーター半群の有限直積はネーター半群
直積半群の位相は直積位相である.従って次が成り立つ.
ネーター半群の有限帯はネーター半群
を帯(べき等元からなる半群)とし,全射準同型があったとする.このとき任意のについてが成り立つ.とくに各ファイバー, , はの部分半群であり,は半群の直和に分解さる.このときは半群の帯(band of semigroups)であるという.すべてのファイバーが半群のあるサブクラスに属するときは,そのクラスの帯という.たとえばすべてのが群であれば,は群の帯であるという.
ネーター空間の有限直和はネーター空間である.の位相はの直和位相より弱い(包含写像が連続だから)のでネーター空間である.従ってはネーター半群である.
ネーター半群のネーター半群によるイデアル拡大はネーター半群
をイデアルとする., がともにNoetherianであれば,もNoetherianである.すなわち,ネーター半群のネーター半群によるイデアル拡大はネーター半群である.
自然な準同型をとかく.をの列とする.
- のとき.の元からなる部分列が取れる.上の前順序はwqoであるから,なるが存在する.このときである.
- のとき.の元からなる部分列が取れる.はのでない元からなる列である.上の前順序はwqoであるから,なるが存在する.よってがあってが成り立つ.従って, すなわちである.
以上よりはwqoであり,はNoetherianと分かった.
その他イデアルの有限生成性に関する性質
をの有限生成イデアルとし,はNoetherianであるとする.このときを含むの任意のイデアルは有限生成である.
とする.背理法により示す.そのため有限生成でないのイデアルがあったとする.ゆえが取れる.とおく.であるからが取れる.とおく.これを繰り返すことでのイデアルの上昇鎖を得る.従ってのイデアルの上昇鎖を得る.これはのネーター性に矛盾である.
はNoetherianとし,を空でない任意の部分集合とする.このとき有限部分集合があって,が成り立つ.とくに,がprincipalであればは一元集合にとれる.
ネーター性から, と書ける.各はに属するので,なるが取れる.このとき
ゆえである.
は-trivialとする.このときがprincipalであることとが整列順序であることは同値である.
はprincipalであるとする.任意の空でない部分集合をとる.命題10により,をみたすが存在する.このとき任意のについてであるから,はの最小元である.よっては整列順序である.
は整列順序とする.任意の空でないのイデアルをとり,の最小元をとする.はの要素であるから,である.また最小性からも成り立つ.よってである.
例
- 命題11よりはprincipalである.よってその有限直積, , はNoetherianである.
- はNoetherianでない(例えば素数全体の生成するイデアルは有限生成でない).一方を部分半群として含む正の有理数全体は,群であるため自明なイデアルしか持たず,principalである.
- を有限箙,を
付随する半群
とする.を矢の生成するイデアルとし,とする.を長さの道が生成するイデアルとする.は有限生成である.また剰余半群は,長さ未満の道が有限個であることから有限半群,とくにNoetherianである.従って命題9により,を含むのイデアルは有限生成である.