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現代数学解説
文献あり

テータ関数の積に関するヤコビの公式

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はじめに

 この記事では こちら記事 にて紹介した
θ3(τ)2=1+4n=1qn1+q2n
のような公式のヤコビによる導出について解説していきます。
 今回の記事では この記事 にまとめてある関係式をよく使うので適時ご参照ください。

概説

 上のような公式を導出するにあたって重要なのは変数を一つ増やしたときテータ関数は
θ1(v,τ)=q14z12z1zin=1(1q2n)(1q2nz)(1q2nz1)θ2(v,τ)=q14(z12+z1z)n=1(1q2n)(1+q2nz)(1+q2nz1)θ3(v,τ)=n=1(1q2n)(1+q2n1z)(1+q2n1z1)θ4(v,τ)=n=1(1q2n)(1q2n1z)(1q2n1z1)
という三重積を持つこと、そしてヤコビの楕円関数とテータ関数との間に
k=θ2(τ)2θ3(τ)2sn2Ku=θ3(τ)θ2(τ)θ1(u,τ)θ4(u,τ)k=θ4(τ)2θ3(τ)2cn2Ku=θ4(τ)θ2(τ)θ2(u,τ)θ4(u,τ)K=π2θ3(τ)2dn2Ku=θ4(τ)θ3(τ)θ3(u,τ)θ4(u,τ)
という関係があることにあります。
 実際ヤコビの楕円関数のuに関する対数微分を取ることで
(楕円積分)×(楕円関数)=(ランベルト級数)
のような関係式が得られ、u=0とすることで
(テータ関数)×(テータ関数)=(ランベルト級数)
といった公式が導出されることとなります。
 それでは以下で実際にその具体例を見ていくこととしましょう。

ヤコビの楕円関数のフーリエ級数展開

 この項における式番号はJacobi(1829)の第39節における式番号に対応させている。

ddulogsnu=kcnucn(Ku)ddulogcnu=snusn(Ku)ddulogdnu=k2snusn(Ku)ddulog1snu1+snu=1sin(Ku)ddulog1ksnu1+ksnu=ksin(Ku)ddulog(cnu+isnu)=idnu

(snu)=cnudnu(cnu)=snudnu(dnu)=k2snucnu
から
ddulogsnu=cnudnusnuddulogcnu=snudnucnuddulogdnu=k2snucnudnuddulog1snu1+snu=cnudnu1sn2u=dnucnuddulog1ksnu1+ksnu=kcnudnu1k2sn2u=kcnudnuddulog(cnu+isnu)=snu+icnucnu+isnudnu=idnu
が成り立つので
sn(Ku)=cnudnu,cn(Ku)=ksnudnu
に注意するとわかる。

(11)2kKπcn2Kucn(K2Ku)=cotπu4n=1qn1+qnsin2πnu(12)2Kπsn2Kusn(K2Ku)=tanπu+4n=1qn1+(q)nsin2πnu(13)2k2Kπsn(2Ku)sn(K2Ku)=+8n=1q2n11q4n2sin(4n2)πu(14)2Kπ1sn(K2Ku)=1cosπu4n=1(1)nq2n11q2n1cos(2n1)πu(15)2kKπsn(K2Ku)=4n=1(1)nqn121q2n1cos(2n1)πu

  この記事 にて紹介した
sn2Ku=θ3(τ)θ2(τ)θ1(u,τ)θ4(v,τ)=θ3(τ)θ2(τ)2sinπun=1(1q2nz)(1q2nz1)(1q2n1z)(1q2n1z1)
といった公式をuについて対数微分することで
12πiddulog((1qmz)(1qmz1))=qmz1qmz+qmz11qmz1=k=1((qmz)k(qmz1)k)=2ik=1qmksin2πku
2kKπcn2Kucn(K2Ku)=cosπusinπu+1πddum=1(1)mlog((1qmz)(1qmz1))=cotπu+4k=1(m=1(1)mqmk)sin2πku=cotπu4k=1qk1+qksin2πku
のようにしてわかる。

(16)2kKπcn(K2Ku)cn2Ku=tanπu+4n=1(1)nqn1+qnsin2πnu(17)2Kπsn(K2Ku)sn2Ku=cotπu4n=1(1)nqn1+(q)nsin2πnu(18)2Kπ1sn2Ku=1sinπu+4n=1q2n11q2n1sin(2n1)πu(19)2kKπsn2Ku=+4n=1qn121q2n1sin(2n1)πu

 (11),(12)および(13),(14)式においてu12uとすることでわかる。

(20)2kKπ1cn2Ku=1cosπu+4n=1(1)nq2n11+q2n1cos(2n1)πu(21)2kKπcn2Ku=+4n=1qn121+q2n1cos(2n1)πu(22)2kKπ1cn(K2Ku)=1sinπu4n=1q2n11+q2n1sin(2n1)πu(23)2kKπcn(K2Ku)=4n=1(1)nqn121+q2n1sin(2n1)πu

 (14),(15)および(18),(19)式においてττ+1としたとき
keπi2k/kKkKsn(2Ku,k)θ4(τ)θ2(τ)θ1(u,τ)θ3(u,τ)=ksn2Kudn2Ku=cn(K2Ku)
が成り立つことに注意するとわかる。

(25)2Kπdn2Ku=1+4n=1qn1+q2ncos2πnu(26)2kKπ1dn2Ku=1+4n=1(1)nqn1+q2ncos2πnu

 (25)式については上と同様に
cn2Ku+isn2Ku=z12n=1(1q4n1z)/(1q4n1z1)(1q4n3z)/(1q4n3z1)
を対数微分することでわかる。
 また(26)式については(25)式においてu12uおよびττ+1とすることでわかる。

テータ関数の積のランベルト級数展開

 この項における式番号は上の項における式番号と対応させており、Jacobi(1829)の第40節における式番号とは異なることに注意する。
 いま
sn0=0cn0=1dn0=1snK=1cnK=0dnK=k
および
limu0snuu=1,limu0cn(Ku)u=k
に注意して上の公式

u=0を極にも零点にも持たないもの

(14)2Kπ1sn(K2Ku)=1cosπu4n=1(1)nq2n11q2n1cos(2n1)πu(15)2kKπsn(K2Ku)=4n=1(1)nqn121q2n1cos(2n1)πu(20)2kKπ1cn2Ku=1cosπu+4n=1(1)nq2n11+q2n1cos(2n1)πu(21)2kKπcn2Ku=+4n=1qn121+q2n1cos(2n1)πu(25)2Kπdn2Ku=1+4n=1qn1+q2ncos2πnu(26)2kKπ1dn2Ku=1+4n=1(1)nqn1+q2ncos2πnu

u=0を零点に持つもの

(12)2Kπsn2Kusn(K2Ku)=tanπx+4n=1qn1+(q)nsin2πnu(13)2k2Kπsn(2Ku)sn(K2Ku)=+8n=1q2n11q4n2sin(4n2)πu(16)2kKπcn(K2Ku)cn2Ku=tanπu+4n=1(1)nqn1+qnsin2πnu(19)2kKπsn2Ku=+4n=1qn121q2n1sin(2n1)πu(23)2kKπcn(K2Ku)=4n=1(1)nqn121+q2n1sin(2n1)πu

u=0における挙動を考えることで以下の公式を得る。なおτ2τにおいて
k2Kπk2Kπ(θ4(2τ)2=θ3(τ)θ4(τ))
となることに注意する。

(14)2Kπ=14n=1(1)nq2n11q2n1(26)=1+4n=1qn1+q2n(15)k2Kπ=4n=1(1)nqn121q2n1(21)=+4n=1qn121+q2n1(20)k2Kπ=1+4n=1(1)nq2n11+q2n1(25)=1+4n=1(1)nqn1+q2n(20, τ2τ)k2Kπ=1+4n=1(1)nq4n21+q4n2(25, τ2τ)=1+4n=1(1)nq2n1+q4n(12)(2Kπ)2=1+8n=1nqn1+(q)n(13)k2(2Kπ)2=+16n=1(2n1)q2n11q4n2(16)k2(2Kπ)2=1+8n=1(1)nnqn1+qn(23)kk(2Kπ)2=4n=1(1)n(2n1)qn121+q2n1(16, τ2τ)k(2Kπ)2=1+8n=1(1)nnq2n1+q2n(19)k(2Kπ)2=+4n=1(2n1)qn121q2n1

 また
(cnu)=((cnudnu)dnu+snu(k2snucnu))=cnu(12k2sn2u)(dnu)=k2((cnudnu)cnu+snu(snudnu))=k2dnu(12sn2u)
よりu0において
cnu=112u2+O(u4)1cnu=1+12u2+O(u4)dnu=1k22u2+O(u4)
と表せることに注意すると
(21)2kKπcn2Ku=+4n=1qn121+q2n1cos(2n1)πu(20)2kKπ1cn2Ku=1cosπu+4n=1(1)nq2n11+q2n1cos(2n1)πu(25)2Kπdn2Ku=1+4n=1qn1+q2ncos2πnu
を二階微分することで以下を得る。

(21)k(2Kπ)3=+4n=1(2n1)2qn121+q2n1(20)k(2Kπ)3=14n=1(1)n(2n1)2q2n11+q2n1(25)k2(2Kπ)3=+16n=1n2qn1+q2n(21, ττ+1)kk2(2Kπ)3=4n=1(1)n(2n1)2qn121q2n1(20, ττ+1)k2(2Kπ)3=1+4n=1(1)n(2n1)2q2n11q2n1(25, ττ+1)k2k(2Kπ)3=16n=1(1)nn2qn1+q2n

 またこれらを適当に変形することで
(2Kπ)3=k2(2Kπ)3+k2(2Kπ)3k3(2Kπ)3=k(2Kπ)3kk2(2Kπ)3k3(2Kπ)3=k(2Kπ)3kk2(2Kπ)3k3(2Kπ)3=(θ2(τ)θ3(τ))3=18θ2(τ2)3k3(2Kπ)3=(θ3(τ)θ4(τ))3=θ4(2τ)6(kk)3(2Kπ)3=18θ2(τ+12)6
q-展開も求めることができる(明示形については この記事 を参照されたい)。

8次の積について

 より高次の積についても同様にして求めることができると推測されるが、ヤコビの楕円関数の展開係数は例えば
snu=u1+k23!u3+1+14k2+k45!u5+u2sn2u=1+1+k23u2+1k2+k415u4+
のように一般にk,kについての多項式となるため
(k,kについての単項式)×(2Kπ)n
という形を作るのは骨が折れるものと考えられる。
 しかしn=4の場合の一部については次のような式を考えることで比較的簡単に求めることができる。

A=(2kKπ)201sn2(2Kt)dt
とおくと
(§41, 1)(2kKπ)2sn22Ku=A8n=1nqn1q2ncos2πnu
が成り立つ。

(19)2kKπsn2Ku=4n=1qn121q2n1sin(2n1)πu
を二乗したとき、積和の公式
2cos((2l1)x)sin((2m1)x)=cos(2(lm)x)cos(2(l+m1)x)
からあるuに依らない定数
A=8l=1q2l1(1q2l1)2

An=2BnCnBn=l=1qn+2l1(1q2l1)(1q2(n+l)1)Cn=l=1nqn(1q2l1)(1q2(nl)+1)
を用いて
(2kKπ)2sn22Ku=A+8n=1Ancos2πnu
と表せる。
 いま
qn+m(1qm)(1q2n+m)=qn1q2n(qm1qmq2n+m1q2n+m)qn(1qm)(1q2nm)=qn1q2n(qm1qm+q2nm1q2nm+1)
のように分解すると
Bn=qn1q2n(l=1q2l11q2l1l=n+1q2l11q2l1)=qn1q2nl=1nq2l11q2l1Cn=nqn1q2n+2l=1nq2l11q2l1
と変形できるので
An=2BnCn=nqn1q2n
を得る。
 またAはフーリエ級数の定数項として
A=(2kKπ)201sn2(2Kt)dt
と表せる。

k2(2Kπ)4=16n=1n3qn1q2nk2k2(2Kπ)4=16n=1(1)nn3qn1q2nk4(2Kπ)4=256n=1n3q2n1q4n

 第一式については(§41,1)式をuで二階微分してu=0とすることで得られる。
 第二式については第一式においてττ+1とすることで得られる。
 第三式については第一式と第二式を足し合わせることで得られる。

(§42, 2)(2Kπ)21sn22Ku=A+1sin2πu8n=1nq2n1q2ncos2πnu

 logsnuを二階微分すると
d2du2logsnu=dducnudnusnu=((snudnu)dnu+cnu(k2snucnu))snu(cnudnu)2sn2u=(1+k22k2sn2u)sn2u+(1sn2u)(1k2sn2u)sn2u=k2sn2u1sn2u
が成り立つので
(§41, 1)(2kKπ)2sn22Ku=A8n=1nqn1q2ncos2πnu(11)1πddulogsn2Ku=cotπu4n=1qn1+qnsin2πnu
に注意すると
(2Kπ)21sn22Ku=A8n=1nqn1q2ncos2πnu(1sin2πu8n=1nqn1+qncos2πnu)=A+1sin2πu8n=1nqn(1(1qn))1q2ncos2πnu=A+1sin2πu8n=1nq2n1q2ncos2πnu
を得る。

k4(2Kπ)4=1+16n=1(1)nn3qn1qnk2(2Kπ)4=1+16n=1(1)nn3q2n1q2n(2Kπ)4=1+16n=1n3qn1+qn

1sn2u=1u2+1+k23+1k2+k415u2+1sin2x=1x2+13+x215+
に注意して(§42,2)式におけるu2の係数を考えることで
1k2+k415(2Kπ)4=115+16n=1n3q2n1q2n
が成り立つ。
 いま
k2(2Kπ)4=16n=1n3qn1q2n=16n=1(n3qn1qnn3q2n1q2n)
に注意すると
k4(2Kπ)4=(1k2+k4)(2Kπ)4k2(2Kπ)4=1+16n=1(16n3q2n1q2nn3qn1qn)=1+16n=1(2(2n)3q2n1q2nn3qn1qn)=1+16n=1(1)nn3qn1qn
を得る。
 また第二式については第一式においてτ2τとすることで得られ、第三式については第一式においてττ+1とすることで得られる。

おまけ

B=(2kKπ)201cn2(2Kt)dt,C=(2Kπ)201dn2(2Kt)dt
とおくと
(§41, 2)(2kKπ)2cn22Ku=B+8n=1nqn1q2ncos2πnu(§42, 3)(2kKπ)21cn22Ku=B+1cos2πu8n=1(1)nnqn1q2ncos2πnu(§42, 4)(2Kπ)2dn22Ku=C+8n=1nqn1q2ncos2πnu(§42, 5)(2kKπ)21dn22Ku=C+8n=1(1)nnqn1q2ncos2πnu
が成り立つ。

 第一、三式については
cn2u=1sn2u,dn2u=1k2sn2u
に注意すると(§41,1)式からわかる。
 また第二、四式についてはそれぞれ(§42,2),(§42,4)式においてu12uおよびττ+1とすることで得られる。

公式集

 最後に今回出てきたヤコビの楕円関数のフーリエ級数展開公式を整理しておこう。なおテータ関数のランベルト級数展開については この記事 にまとめてあるのでそちらを参照されたい。
 以下v=πu/2Kとおく。

(19)2kKπsnu=+4n=1qn121q2n1sin(2n1)v(18)2Kπ1snu=1sinv+4n=1q2n11q2n1sin(2n1)v(21)2kKπcnu=+4n=1qn121+q2n1cos(2n1)v(20)2kKπ1cnu=1cosv+4n=1(1)nq2n11+q2n1cos(2n1)v(25)2Kπdnu=1+4n=1qn1+q2ncos2nv(26)2kKπ1dnu=1+4n=1(1)nqn1+q2ncos2nv(23)2kkKπsnudnu=4n=1(1)nqn121+q2n1sin(2n1)v(22)2Kπdnusnu=1sinv4n=1q2n11+q2n1sin(2n1)v(15)2kKπcnudnu=4n=1(1)nqn121q2n1cos(2n1)v(14)2Kπdnucnu=1cosv4n=1(1)nq2n11q2n1cos(2n1)v(16)2k2Kπsnucnudnu=tanv+4n=1(1)nqn1+qnsin2nv(11)2Kπcnudnusnu=cotv4n=1qn1+qnsin2nv(17)2Kπcnusnudnu=cotv4n=1(1)nqn1+(q)nsin2nv(12)2Kπsnudnucnu=tanv+4n=1qn1+(q)nsin2nv(13)2k2Kπsnucnudnu=+8n=1q2n11q4n2sin(4n2)v

(§41, 1)(2kKπ)2sn2u=A8n=1nqn1q2ncos2nv(§42, 2)(2Kπ)21sn2u=1sin2v+A8n=1nq2n1q2ncos2nv(§41, 2)(2kKπ)2cn2u=B+8n=1nqn1q2ncos2nv(§42, 3)(2kKπ)21cn2u=1cos2vB8n=1(1)nnqn1q2ncos2nv(§42, 4)(2Kπ)2dn2u=C+8n=1nqn1q2ncos2nv(§42, 5)(2kKπ)21dn2u=C+8n=1(1)nnqn1q2ncos2nv

参考文献

[1]
C. G. J. Jacobi, Fundamenta Nova Theoriae Functionum Ellipticarum, 1829
[2]
C. G. J. Jacobi 著, 高瀬正仁 訳, 楕円関数原論, 講談社, 2012
投稿日:202423
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子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  3. ヤコビの楕円関数のフーリエ級数展開
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  5. 8次の積について
  6. 公式集
  7. 参考文献