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【相対論】Weylスピノルとnullベクトル

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相対論∩スピン幾何
次の記事: Dirac spinorが作るベクトル

 4次元時空においてWeylスピノルからnullベクトルを構成でき、またその逆もできます。これは4次元時空のスピン幾何をやる上で基本的なことであり、その手の教科書にはどこにでも載ってます。このことについて解説します。

convection

$\sigma_i:$Pauli行列
$\sigma_0=I_2$
$\gamma_\mu:$Gamma行列(chiral表現)

$S=S^+\oplus S^-:$4次元Lorentzのスピノル空間
Weylスピノル:$S^\pm$の元
$(V,g):(1,3)$型の擬Euclid空間
$g={\rm diag}(-1,1,1,1)$(添え字の上げ下げはすべて$g$で行う)

Majorana form
$ (\psi,\phi):={}^t\psi C\phi,\ C=\begin{pmatrix}-i\sigma_2 & 0 \\ 0 & i\sigma_2\end{pmatrix},\ i\sigma_2=\begin{pmatrix}0 & 1 \\ -1 & 0\end{pmatrix}$

charge conjugate
$ \psi^c=B\psi^*$
$ B=\begin{pmatrix} 0 & -i\sigma_2 \\ i\sigma_2 & 0 \end{pmatrix}$

 Majorana formとcharge conjugationについての基本的な公式は以下です。

\begin{align} &(X\psi,\phi)=-(\psi,X\phi),\ (\psi,\phi)=-(\phi,\psi)\\ &(\psi,\phi)^*=-(\psi^c,\phi^c) \end{align}

 以下では$\mathbb{C}l(4)$の既約表現を一つとり固定し、$\Lambda(V^*)^\mathbb{C}\simeq\mathbb{C}l(4)\simeq M(4,\mathbb{C})$を適宜同一視して議論します。

Isotropic部分空間とnullベクトル

 $\phi\ne0\in S$に対して、
$$ T_\phi:=\{x\phi=0;\ x\in V^\mathbb{C}\} $$
と定義します。

$x,y\in T_\phi$に対して、
$$ -2g(x,y)\phi=(xy+yx)\phi=0 $$
より、$g(x,y)=0$となります。よって$(T_\phi,g)\subset V^\mathbb{C}$は退化部分空間となります。これを$\phi$のisotropic部分空間と呼びます。

 $\Re(T_\phi)$が0でないベクトルを持てばそれは実のnullベクトルとなります。以下ではWeylスピノル$u$に対して、$ku=0$となる実ベクトル$k$を構成します。

Weylスピノルとnullベクトルの対応

 $u\in S^\pm\subset S$をWeylスピノルとします。このときベクトル
$$ k=\sum_a(u^c,\gamma^a u)e_a $$
を考えます。
$ (u^c,e_au)^*=-(u,(e_au)^c)=-(u,Be_a^*u^*)=(u,e_aBu^*)=(u,e_au^c)=(u^c,e_au)$
なので$ (u^c,e_au)\in \mathbb{R}$となり、$k$は実接ベクトルとなります。
さらに次が成り立ちます。

$u,v,w\in S^\pm$に対して、
$$ \sum_a(u^c,\gamma^a v)e_a\cdot w=-2u^c(v,w) $$
が成り立つ。

$u,v,w\in S_+$とする。$u$を複素2成分の縦ベクトルと見たものも$u$などと書くことにする。
$$ \sum_a(u^c,\gamma^a v)e_a\cdot w=({}^tu^*\sigma^\mu v)\sigma_\mu w $$
である。

$\epsilon:=-i\sigma_2$とし、$\varepsilon:\mathbb{C}^2\times\mathbb{C}^2\to\mathbb{C}$$\varepsilon(u,v):={}^tu\epsilon v$とする。また$\omega:\mathbb{C}^2\to\mathbb{C}^2$
$$ \omega(w):=\varepsilon(v,w)\epsilon u^* $$
と定義する。

$\phi_1,\phi_2\in \mathbb{C}^2$$\varepsilon(\phi_1,\phi_2)=1$となる$\mathbb{C}^2$の基底とすると、任意の$\phi\in S_+$に対して、
$$ \phi=-\varepsilon(\phi,\phi_1)\phi_2+\varepsilon(\phi,\phi_2)\phi_1=\sum_A\varepsilon(\phi,\phi_A)\phi^A $$
となる。ここで$\epsilon^{12}=-\epsilon^{21}=-1,\phi^A=\epsilon^{AB}\phi_B$とする。このとき$M\in Mat(2,\mathbb{C})$に対して、
$$ M=\frac{1}{2}\sum_\mu tr(M\sigma_\mu)\sigma_\mu =\frac{1}{2}\sum_\mu \sum_A\varepsilon(M\sigma_\mu\phi_A,\phi^A)\sigma_\mu $$
である。

$\omega\in Mat(2,\mathbb{C})$と見なすと、
\begin{align} tr(\omega\sigma_\mu)&=\sum_A\varepsilon(\omega\sigma_\mu\phi_A,\phi^A) =\varepsilon(\varepsilon(v,\sigma_\mu\phi_A)\epsilon u^*,\phi_A) =\varepsilon(v,\sigma_\mu\phi_A)\varepsilon(\epsilon u^*,\phi_A)\\ &=\varepsilon(\sigma^\mu v,\varepsilon(\epsilon u^*,\phi_A)\phi_A) =\varepsilon(\sigma^\mu v,\epsilon u^*) =-\varepsilon(\epsilon u^*,\sigma^\mu v)\\ &=-{}^tu^*\sigma^\mu v \end{align}
であるから、
$$ \sum_a(u^c,\gamma^a v)e_a\cdot w=-2u^c(v,w) $$
となる。

 よって次の命題が得られます。  

$u\in S^\pm$に対して、$k=\sum_a(u^c,\gamma^a u)e_a$はnullベクトルである。

補題1より
$k=\sum_a(u^c,\gamma^a u)e_a$に対して、$k\cdot u=u^c(u,u)=0$であるから、$k\in T_u$はnullベクトルである。

Weylスピノルが作るNullベクトル

$$ u=\begin{pmatrix}a \\ b \\0 \\ 0\end{pmatrix} $$
に対して、
$$ k=\sum_a(u^c,\gamma^a u)e_a=(|a|^2+|b|^2)e_0-(\bar ab+\bar ba)e_1+i(\bar ab-\bar ba)e_2+(-|a|^2+|b|^2)e_3 $$
となる。

 また次も分かります。

nullベクトル$k$に対して、$k=\sum_a(u^c,\gamma^a u)e_a$となる$u\in S^\pm$が存在する。

$ (u^c,e_iu)={}^tu^*\sigma_iu$であるから、$ u_1,u_2,u_3\in S^\pm$$ {}^tu^*_i\sigma_ju_i=k^j\delta_{ij}$となるように取れば、$ v=\sum_i u_i$$ {}^tv^*\sigma_iv=k_i$となる。また$ (v^c,e^av)e_a$はnullベクトルであるから、$ k=(v^c,e^av)e_a$である。

 与えれたnullベクトル$k$に対して、$k=\sum_a(u^c,\gamma^a u)e_a$に対して、$u\mapsto e^{i\theta}u$としても$k$は不変なので、$u$にはU(1)の不定性があります。

Appendix

$S\otimes S^*$の代数構造

 Majorana formに関する双対をMajorana conjugateと呼びます。すなわち$\psi\in S$に対して、$\tilde\psi\in S^*$
$$ \tilde\psi(\phi):=(\psi,\phi) $$
と定義します。$\phi,\psi\in S$に対して、
$$ \phi\otimes\tilde\psi\in End(S)=\mathbb{C}l(4) $$
となります。

\begin{align} \phi=\begin{pmatrix} a \\ b \\ c \\d \end{pmatrix}, \psi=\begin{pmatrix} e \\ f \\ g \\h \end{pmatrix} \end{align}
のとき
\begin{align} \phi\otimes\widetilde\psi= \begin{pmatrix}a f & - a e & - a h & a g\\b f & - b e & - b h & b g\\c f & - c e & - c h & c g\\d f & - d e & - d h & d g\end{pmatrix} \end{align}
である。

 このとき次が成り立ちます。

$(\psi,\omega\phi)=(\omega^\dagger\psi,\phi),\ \psi,\phi\in S,\ \omega\in\mathbb{C}l(4)$とするとき、
(i) $(\phi\otimes\tilde\psi)\omega=\phi\otimes\widetilde{\omega^\dagger\psi}$
(ii) $ tr(\phi\otimes\tilde\psi)=(\psi,\phi)$

(i)
$(\phi\otimes\tilde\psi)\omega\alpha=(\psi,\omega\alpha)\phi=(\omega^\dagger\psi,\alpha)\phi=(\phi\otimes\widetilde{\omega^\dagger\psi})\alpha$

(ii)
$ E_A$をMajorana formに関する任意のo.n.b.とすると、
$ tr(\phi\otimes\tilde\psi)=\sum_A(E_A,\phi)(\psi,E_A)=(\psi,\phi)$

$\mathbb{C}l(4)$の基底について

 $e_A=\{1,\ e_a,\ e_{ab}=e_ae_b\ (a< b),\ e_{abc}=e_ae_be_c\ (a< b< c),\ z=e_0e_1e_2e_3\}$などとします。このとき、次が成り立つことが簡単な計算で分かります。

$\omega\in \mathbb{C}l(4)$に対して、
$$ \omega=\sum_A\frac{1}{4}(-1)^{[\frac{|A|}{2}]+1}tr(\omega \gamma^A)e_A $$
ただし、$|\cdot|=-1,|a|=1,|ab|=2,|abc|=3,|abcd|=4$である。

$\phi,\psi\in S$に対して、
$$ \phi\otimes\tilde\psi=\sum_A\frac{1}{4}(-1)^{[\frac{|A|}{2}]+1}(\psi,\gamma^A\phi)e_A $$

$tr((\phi\otimes\tilde\psi) e_A)=(e_A^\dagger\psi,\phi)=(\psi,e_A\phi)$と公式2から従う。

投稿日:2023727
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Submersion
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専門は相対論やLorentz幾何です。Einstein系の厳密解の構成や接触幾何の応用などの研究をしています。Ph.D保有者の中ではクソ雑魚の部類です。

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