Haar測度を作ります。$\R^n$にはLebesgue測度がありますが、これを局所コンパクト位相群に拡張したのがHaar測度です。$\R^n$上には平行移動不変な測度はlebesgue測度の定数倍しかないことが知られていますが、Haar測度は局所コンパクト群$G$上の左不変な(定数倍を除き)唯一の測度です。例えば、$G$がLie群の場合はこの存在はすぐに分かります、左不変な最高次の微分形式を取ればいいからです。$G$が一般の局所コンパクト群の場合はもっと泥臭く作る必要があります。
次の形の Riesz-Markov-角谷の定理 を使います(証明はリンク先の定理3です):
第二可算局所コンパクト(Hausdorff)空間$X$上の$\R$値コンパクト台連続関数環$C_c(X)$について、正値線形汎関数$\phi:C_c(X)\to\R$と$X$上の非負測度$\mu$は次の関係で一対一に対応する:
$\displaystyle \phi(f)=\int_Xfd\mu$
ここで$\phi$が正値とは$f\geq0$に対し$\phi(f)\geq0$となることで、$f\geq0$とは全ての$x\in X$で$f(x)\geq0$となることです。この定理を局所コンパクト群$G$に対して使います。ここだけの記号で$C:=\{f\in C_c(G):f\geq0\},\ C_+:=C\setminus\{0\}$と置きます。
正値というからには、$\phi$は単に$C$上のaffineな写像と扱うのが良さそうです。
$\phi:C\to\R_{\geq0}$が$\phi(f+g)=\phi(f)+\phi(g),\phi(\lambda f)=\lambda\phi(f)\ (\lambda\geq0,f\in C)$を満たすとする。このとき$\phi$は線形汎関数として$C_c(G)$上に拡張され、この拡張は一意。
$\phi(f-g):=\phi(f)-\phi(g)$とするしかないので、これのwell-defined性を確かめれば良いです。$f-g=f'-g'$のとき$f+g'=f'+g$から従います。
また、Riesz-Markov-角谷の定理の一意性から、左不変な$\phi:C_c(G)\to\R$は左不変な測度$\mu$に対応します。まだ陽には述べていませんが、$G$は$G$に左掛け算により作用をし、その作用によって$C_c(G)$や$G$上の測度全体の集合には$G$が作用をします。$(\gamma f)(x):=f(\gamma^{-1}x)$とか$(\gamma\mu)(E):=\mu(\gamma^{-1}E)$ということです。
左不変で単調な半ノルム$p:C\to[0,\infty]$を考える。単調とは$p(f)\leq p(g)\ (f\leq g\in C)$、半ノルムとは$p(f+g)\leq p(f)+p(g),p(\lambda f)=\lambda p(f)\ (\lambda\geq0,f\in C)$なることである。ある$f_0\in C_+$で$p(f_0)\in(0,\infty)$のとき、$p(f)\in(0,\infty)\ (f\in C_+)$となる。
コンパクト性から、$f,g\in C_+$に対してある$\gamma_1,\dots,\gamma_n\in G$と$c_1,\dots,c_n>0$が存在して$f\leq\sum_i c_i(\gamma_i g)$となることを示せばいい。実際、もしそうなら、両辺$p$を取れば$p(f)\leq p(g)\sum_ic_i$となって上が従う。
そのために、十分小さい$\epsilon>0$で$U:=g^{-1}((\epsilon,\infty))\neq\emptyset$として、$\supp f\subset\bigcup_{\gamma\in G}\gamma U=G$にコンパクト性を使って、$\supp f\subset\bigcup_i\gamma_i U$なる有限個が取れる。$c_i:=\epsilon^{-1}\norm{f}_\infty$と取ればいい、ノルムは単に$f$の最大値。
このようなものは単位元の開近傍$U$について$\{\gamma U\}_\gamma$での「容積」$p_U$により構成されます。劣加法性を加法性に(上の三角不等式を等号に)するために$U$についてのultralimitを取るのですが、その極限が自明にならないことに使います。
$$p_U(f):=\inf\left\{\sum_i c_i:f\leq\sum_ic_i1_{\gamma_i U},\ \gamma_i\in G,c_i>0\right\}\in[0,\infty]$$
これは左不変で単調な半ノルムである。
どれもすぐに分かる。
実際$f\leq\sum_ic_i1_{\gamma_i U}$を$\gamma f\leq\sum_ic_i1_{\gamma\gamma_i U}$にすれば左不変性が、
$f\leq g$に対し$g\leq\sum_ic_i1_{\gamma_i U}$を$f\leq\sum_ic_i1_{\gamma_i U}$にすれば単調性が、
$f\leq\sum_ic_i1_{\gamma_i U},g\leq\sum_jc'_j1_{\gamma'_i U}$の和をそのまま取れば劣加法性が、
$f\leq\sum_ic_i1_{\gamma_i U}$を$\lambda f\leq\sum_i \lambda c_i1_{\gamma_i U}$にすればスカラー倍が、出る。
$f\in C_+$に対し$p_U(f)\in(0,\infty)$となることはすぐ分かるが、折角なら先の注意を台が$U$より小さい隆起関数$f_0$について見ればいい。$f_0\leq 1_U$と$f\leq\sum_ic_i1_{\gamma_i U}$ならば$f(e)\leq\sum_ic_i$を見れば分かる。
さて、$\phi(f):=\lim_\U p_U(f_0)^{-1}p_U(f)\in[0,\infty]$と置く。$\lim_\U$とは ultralimit のことであり、単位元の開近傍系というネットに適合するultrafilter(普遍ネット)での極限である。$[0,\infty]$のコンパクト性からここに値を持つ。$f_0$は適当な$C_+$の元であり、$p_U(f_0)\in(0,\infty)$だったが、今$\phi(f_0)=1$である。$\phi$も左不変で単調な半ノルム(ultralimitで等式と不等式は保たれる)だから$\phi(f)\in(0,\infty)\ (f\in C_+)$となる。
最後に$\phi$の加法性(つまり三角不等式と逆向きの不等号)を示す。
$f,\rho_1,\rho_2\in C$を$\rho_1+\rho_2\leq1$と取る。このとき幅$U$での変動$\delta_U(\rho):=\sup\{\abs{\rho(x)-\rho(y)}:x^{-1}y\in U\}$に対して
$$p_U(\rho_1 f)+p_U(\rho_2 f)\leq \Bigl(1+\delta_U(\rho_1)+\delta_U(\rho_2)\Bigr)p_U(f)。$$
$f\leq\sum_ic_i1_{\gamma_i U}$に対して$c_i^{1,2}$を$c_i^k:=\norm{\rho_k\lvert_{\gamma_i U}}_\infty c_i$と置く。$\rho_k$の$\gamma_i U$上の最大値である。$\rho_k f\leq\sum_ic_i\rho_k1_{\gamma_i U}\leq\sum_ic_i^k1_{\gamma_i U}$だから$p_U(\rho_1f)+p_U(\rho_2f)\leq\sum_i(c_i^1+c_i^2)$となり、残りは
$$c_i^1+c_k^2\leq\Bigl(1+\delta_U(\rho_1)+\delta_U(\rho_2)\Bigr)c_i$$
を示せばいい。$x\in\gamma_i U$に対し$\gamma_i^{-1}x\in U$より$\rho(x)\leq\rho(\gamma_i)+\delta_U(\rho)$だから$\norm{\rho_k\lvert_{\gamma_i U}}_\infty\leq\rho_k(\gamma_i)+\delta_U(\rho_k)$となる。$\rho_1(\gamma_i)+\rho_2(\gamma_i)\leq1$から従う。
後は$U$を小さくしたときに$\delta_U(\rho)$が$0$に収束すればいいですが、それは$\R^n$だと一様連続性のことです。
$\rho\in C$に対し$\delta_U(\rho)\to0$ as $U\searrow\{e\}$。つまり、$\epsilon>0$に対し単位元の開近傍$U_0$が存在して$U\subset U_0$ならば$\delta_U(\rho)\leq\epsilon$
$\delta_U(\rho)$は$U$に対して単調である。上が成立しないとすると、任意の開近傍$U$に対し$\delta_U(\rho)>\epsilon$となる。$x_U,y_U\in G$で$x_U^{-1}y_U\in U$かつ$\abs{\rho(x_U)-\rho(y_U)}>\epsilon$なるものが取れる。このとき、$x_U,y_U$のどちらかは$\rho$の台$\supp\rho$に属する。故に$x_U,y_U\in\supp\rho\cdot(U\cup U^{-1})$となる、ここで$U^{-1}$は$U$の元の逆元全体であり$\cdot$は積全体である。
今、相対コンパクトな開近傍$U_0$を取って$U\subset U_0$なものだけを考えたらいい。コンパクト集合$K:=\overline{\supp\rho\cdot(U\cup U^{-1})}$に$x_U,y_U$が全部入っているから、ultralimit$x:=\lim_\U x_U,y:=\lim_\U y_U$は$x_U^{-1}y_U\in U$より$x^{-1}y=e$であり、$\abs{\rho(x)-\rho(y)}\geq\epsilon$である。ここで群の積と$\rho$の連続性を使った。これは矛盾。
最後に$\phi(f_1)+\phi(f_2)\leq\phi(f_1+f_2)$を示す。$h\in C$を$\supp(f_1+f_2)$上$1$であるような関数とする。$f:=f_1+f_2+\epsilon h,\rho_k:=f^{-1}f_k\in C$は$\rho_1+\rho_2\leq1$である。
$$p_U(\rho_1f)+p_U(\rho_2f)\leq \Bigl(1+\delta_U(\rho_1)+\delta_U(\rho_2)\Bigr)p_U(f)$$
で$p_U(f_0)^{-1}$倍してからultralimitを取れば$\phi(\rho_1f)+\phi(\rho_2f)\leq\phi(f)$となる。$\rho_kf=f_k$かつ$\phi(f)\leq\phi(f_1+f_2)+\epsilon\phi(h)$だから、$\epsilon\to0$とすればいい。