前記事 で周期的なインデックスにたいしての多重ゼータ値の漸近挙動を調べました。周期的でないインデックスも似た漸近挙動を持つか?という問いが発生します。例えば、
固定されたweightとdepth $k,r$を持つ一様ランダムな許容インデックス$\bk$について
$$\zeta(\bk)\approx\frac1{k!}B\Bigl(\frac{r}{k},1-\frac{r}{k}\Bigr)^{k}\text{、つまり}\Bigl(k!\zeta(\bk)\Bigr)^\frac1k\to B\Bigl(\frac{r}{k},1-\frac{r}{k}\Bigr)\text{\ as\ }k\to\infty$$
がほとんどの$\bk$で成り立つか?
などのように。この記事では上の問題を肯定的に解決します。より強い次の定理を示します。 まだopenです。次の定理は成立するかも怪しい。
$I$を許容インデックス全体の集合とする。この離散空間$I$の適当なコンパクト化$\bar{I}$が存在し、$F:I\ni\bk\mapsto(k!\zeta(\bk))^\frac1k\in[0,\infty]$という写像$F$は$\bar{I}$上に連続に延びる。
$\bar{I}$は具体的には
$$I\ni \bk\longmapsto \frac1k\sum_{i=1}^k \ve_i\delta_{\frac{i}k}\in M[0,1]_+^{\leq1},\qquad \mathbf{e}:=(\ve_1,\dots,\ve_k):=(1,\{0\}^{k_1-1},1,\{0\}^{k_2-1},\dots,\{0\}^{k_r-1})$$
というコンパクト空間への埋め込みの閉包として得られる。ここで$M[0,1]$とは$[0,1]$上の測度全体の空間であり、そのうち非負で全測度が1以下なものは弱収束の位相に関してコンパクトである。$\delta_x$は$x$だけに値を持つ点測度である。そのコンパクト化の剰余$\bar{I}\setminus I$は
$$\set{\mu\in M[0,1]}{\forall A\subset[0,1]\ \mu(A)\leq\abs{A}}=L^\infty[0,1]_+^{\leq1}$$
Lebesgue測度に絶対連続かつそのRadon-Nicodym微分が0以上1以下である測度全体になる。
この定理は前記事の定理と問題1を導く。何故なら周期的なインデックスや一様ランダムなインデックスはこのコンパクト化内で同じ点($L^\infty[0,1]_+^{\leq1}$内のある定数関数)に(後者はa.s.)収束するからだ。
$\bar{I}\setminus I$上での$F$は次のようになる。
$p\in \bar{I}\setminus I=L^\infty[0,1]_+^{\leq1}$に対し$F(p)$を
$$F(p):=\sup\left\{m\left(\prod_{i=1}^m w_1(t_{i-1})^{p_i}w_0(t_i)^{1-p_i}(t_i-t_{i-1})\right)^{\frac1m}
: m,\ 0=t_0\leq\dots\leq t_m=1\right\}$$
ここで、$p_i:=m\int_{\frac{i-1}m}^{\frac{i}m}p$ である。
分割を取って$p$の平均で有限近似して極限を飛ばすのである。すぐに分かることとしてこの$m$は無限に飛んでいる。実際、上の定義で$m$を固定したものを考えると、それを$2m$にしたものは各$t_{i-1},t_i$に中点を挿入することで大きくなることが分かる。
$$F(p)=\sup\left\{m\left(\prod_{i=1}^m w_1(t_{i-1})^pw_0(t_i)^{1-p}(t_i-t_{i-1})\right)^{\frac1m}
: m,\ 0=t_0\leq\dots\leq t_m=1\right\}$$
である。この総積の中身は$\int_{t_{i-1}}^{t_i}w_1(t)^pw_0(t)^{1-p}\dt$以下であり、ほとんど近いと期待できる。中身をこの積分に変えたものは
$$\sup\left\{m\left(\prod_{i=1}^m (X_i-X_{i-1})\right)^{\frac1m}
: m,\ 0=X_0\leq\dots\leq X_m=\int_0^1w_1(t)^pw_0(t)^{1-p}\dt=B(p,1-p)\right\}$$
であり、これは相加相乗不等式で$B(p,1-p)$である。このmaximizerでは$t_i-t_{i-1}$が非常に小さくなるから、元の総積とほとんど変わらず、$F(p)=B(p,1-p)$となる。
こっちは正しい。
$\bk\to p\in \overline{I}$のとき、$\liminf_{\bk\to p}(k!\zeta(\bk))^\frac1k\geq F(p)$となる。
反復積分表示にLaplaceの原理を使うと$\sup$の形が出てくる。
$$\zeta(\bk)=\int_{0\leq t'_1\leq\dots\leq t'_k\leq1}w_{\ve_1}(t'_1)\dots w_{\ve_k}(t'_k)\dt'_1\dots \dt'_k$$
にて$k$を$m$等分する。$t_i:=t'_{[\frac{k}m]i},t_m:=t'_k$とおく。上の反復積分を小さくして$t_i$だけが登場するようにしたい。それは$w_0,w_1$の単調性を使う:$w_0$の中身は少し大きい$t_i$に、$w_1$の中身は少し小さい$t_i$に変える。そう変えると
$$\int_{t_i\leq t'_{Ni+1}\dots t'_{Ni+N-1}\leq t_{i+1}}\dt'_{Ni+1}\dots \dt'_{Ni+N-1}=\frac{(t_{i+1}-t_i)^{N-1}}{(N-1)!}$$
により、$k!\zeta(\bk)\geq k!\int_{0\leq t_1\dots t_m\leq1}\text{hoge}$にStirlingの近似とLaplaceの原理を使うと所望の評価を得る。
似たようなことをするのだが、$w_0,w_1$の単調性で積分を大きくしたときに今度は$\sup$の中身が暴れてしまう。それは$w_0(x),w_1(y)$が$x=0,y=1$で無限になることが原因だが、この両端を甘く見積もると上手くいく。 多くの$t_i$が$\ve$以下になる場合が考慮されていない。
$\mathbf{e}=(\ve_1,\dots,\ve_n),\ \ve_1=1$は$0,1$の有限列であり、$1$が$l$回現れるとする。このとき次の評価を得る。
$$\int_{0\leq t_1\leq\dots\leq t_n\leq x}w_{\ve_1}(t_1)\dots w_{\ve_n}(t_n)\dt_1\dots \dt_n\leq\Bigl(\frac1{1-x}\Bigr)^{n-l}\frac{x^l}{l!}$$
これは右辺の単調性に気を付ければ帰納法からすぐ分かる。
$$\int_{y\leq t_1\leq\dots\leq t_n\leq 1}w_{\ve_1}(t_1)\dots w_{\ve_n}(t_n)\dt_1\dots \dt_n\leq\Bigl(\frac1{y}\Bigr)^{n-l}\frac{(1-y)^l}{l!}$$
も$\ve_n=0$に対して$l:=\text{(0の個数)}$について成立する。
こっちが怪しい。
$\bk\to p\in \overline{I}$のとき、$\limsup_{\bk\to p}(k!\zeta(\bk))^\frac1k\leq F(p)$となる。
同じように反復積分表示にLaplaceの原理を使う。
$$\zeta(\bk)=\int_{0\leq t'_1\leq\dots\leq t'_k\leq1}w_{\ve_1}(t'_1)\dots w_{\ve_k}(t'_k)\dt'_1\dots \dt'_k$$
$k$のうち両側割合$\ve$を捨てて$[\ve k,(1-\ve)k]$を$m$等分する。$t_i:=t'_{\ve k+\frac{(1-2\ve)k}mi},t_m:=t'_{(1-\ve)k}$とおく。上の反復積分を大きくして$t_i$だけが登場するようにしたい。それは$w_0,w_1$の単調性を使う:$w_0$の中身は少し小さい$t_i$に、$w_1$の中身は少し大きい$t_i$に変える。そう変えると
$[\ve k,(1-\ve)k]$の部分では似たような式が出てくるが、$x=t_0,y=t_m$について$w_0(x)^{O(\frac{(1-2\ve)k}{m})},w_1(y)^{O(\frac{(1-2\ve)k}{m})}$が出てくる。それ以外の部分については$w_1,w_0,\dots,w_1,w_0$の順に出てくるから下からの評価の時と似たような形である。