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現代数学解説
文献あり

Andrewsの恒等式

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少し前の記事 でBailey対とBaileyの補題について扱った. (αn,βn)aに関するBailey対であるとは,
βn=k=0nαk(q;q)nk(aq;q)n+k
を満たしていることであり, そのとき,
αn:=(b,c;q)n(aq/b,aq/c;q)n(aqbc)nαnβn:=1(aq/b,aq/c;q)nj=0n(b,c;q)j(aq/bc;q)nj(q;q)nj(aqbc)jβj
とすれば, (αn,βn)aに関するBailey対になるというのがBaileyの補題であった. この(αn,βn)に対してさらにBaileyの補題を適用して(αn,βn)を得るが, このようにBaileyの補題を繰り返し用いることによって以下の等式を得る.

Andrews(1984)

Nが非負整数, (αn,βn)aに関するBailey対であるとき,
0n(b1,b2,,br,c1,,cr,qN;q)n(aq/b1,,aq/br,aq/c1,,aq/cr,aqN+1;q)n(arqr+Nb1brc1cr)nq(n2)αn=(aq,aq/brcr;q)N(aq/br,aq/cr;q)N0n1nr(qN;q)nr(brcrqN/a;q)nrqnr(j=2r(bj,cj;q)nj(aq/bj1,aq/cj1;q)nj(aqbj1cj1)nj1(aq/bj1cj1;q)njnj1(q;q)njnj1)(b1,c1;q)n1βn1
が成り立つ.

左辺は
0n(b1,b2,,br,c1,,cr,qN;q)n(aq/b1,,aq/br,aq/c1,,aq/cr,aqN+1;q)n(arqr+Nb1brc1cr)nq(n2)αn=(aq,q;q)N0n(b1,b2,,br,c1,,cr;q)n(aq/b1,,aq/br,aq/c1,,aq/cr;q)n(arqrb1brc1cr)nαn(aq;q)N+n(q;q)Nn
右辺は
(aq,aq/brcr;q)N(aq/br,aq/cr;q)N0n1nr(qN;q)nr(brcrqN/a;q)nrqnr(j=2r(bj,cj;q)nj(aq/bj1,aq/cj1;q)nj(aqbj1cj1)nj1(aq/bj1cj1;q)njnj1(q;q)njnj1)βn1(aq,q;q)N(aq/br,aq/cr;q)N0n1nr(aq/brcr;q)Nnr(q;q)Nnr(aqbrcr)nr(j=2r(bj,cj;q)nj(aq/bj1,aq/cj1;q)nj(aqbj1cj1)nj1(aq/bj1cj1;q)njnj1(q;q)njnj1)(b1,c1;q)n1βn1
となる. これは
(b1,b2,,br,c1,,cr;q)n(aq/b1,,aq/br,aq/c1,,aq/cr;q)n(arqrb1brc1cr)nαn

1(aq/br,aq/cr;q)n0n1nr(aq/brcr;q)nnr(q;q)nnr(aqbrcr)nr(j=2r(bj,cj;q)nj(aq/bj1,aq/cj1;q)nj(aqbj1cj1)nj1(aq/bj1cj1;q)njnj1(q;q)njnj1)(b1,c1;q)n1βn1
aに関するBailey対であることと同値であり, それは(αn,βn)にBaileyの補題をr回適用して得られるBailey対である.

この応用として以下の等式が示される.

Andrews(1975)

N,rが非負整数であるとき,
0n(1aq2n)(a,b1,b2,,br+1,c1,,cr+1,qN;q)n(1a)(aq/b1,,aq/br+1,aq/c1,,aq/cr+1,aqN+1,q;q)n(ar+1qr+N+1b1br+1c1cr+1)n=(aq,aq/br+1cr+1;q)N(aq/br+1,aq/cr+1;q)N0=n0n1nr(qN;q)nr(br+1cr+1qN/a;q)nrqnrj=1r(bj+1,cj+1;q)nj(aq/bj,aq/cj;q)nj(aqbjcj)nj1(aq/bjcj;q)njnj1(q;q)njnj1
が成り立つ.

前の記事 の補題1より(αn,βn)aに関するBailey対であることは
αn=1aq2n1aj=0n(aq;q)n+j(1)nq(nj2)(q;q)njβj
Kroneckerデルタを用いてβn:=δn,0として
αn:=1aq2n1a(a;q)n(q;q)n(1)nq(n2)
とすると(αn,βn)はBailey対である. よって, これを定理1に代入し, rr+1として添字を少し書き換えると定理を得る.

Andrewsの恒等式はかなり一般的な等式であるので, いくつか具体例を見ていく. まず, r=0のとき, (b1,c1)=(b,c)と書くと
0n(1aq2n)(a,b,c,qN;q)n(1a)(aq/b,aq/c,aqN+1,q;q)(aqN+1bc)n=(aq,aq/bc;q)N(aq/b,aq/c;q)N
となる. これはRogersの6ϕ5和公式のterminatingな場合である. 次に, r=1のとき, (b1,c1,b2,c2)=(b,c,d,e)と書くと,

0n(1aq2n)(a,b,c,d,e,qN;q)n(1a)(aq/b,aq/c,aq/d,aq/e,aqN+1,q;q)(a2qN+2bcde)n=(aq,aq/de;q)N(aq/d,aq/e;q)N0n(aq/bc,d,e,qN;q)n(aq/b,aq/c,deqN/a,q;q)nqn
となる. これは Watsonの8ϕ7変換公式 である. 次にr=2のとき, (b1,c1,b2,c2,b3,c3)=(b,c,d,e,f,g)と書くと,
0n(1aq2n)(a,b,c,d,e,f,g,qN;q)n(1a)(aq/b,aq/c,aq/d,aq/e,aq/f,aq/g,aqN+1,q;q)(a3qN+3bcdefg)n=(aq,aq/fg;q)N(aq/f,aq/g;q)N0nm(f,g,qN;q)m(aq/d,aq/e,fgqN/a;q)mqm(aq/de;q)mn(q;q)mn(aq/bc,d,e;q)n(aq/b,aq/c,q;q)n(aqde)n
となる.

定理2においてNとすると, 以下を得る.

rが非負整数であるとき,
0n(1aq2n)(a,b1,b2,,br+1,c1,,cr+1;q)n(1a)(aq/b1,,aq/br+1,aq/c1,,aq/cr+1,q;q)n(ar+1qr+1b1br+1c1cr+1)nq(n2)=(aq,aq/br+1cr+1;q)(aq/br+1,aq/cr+1;q)0=n0n1nrj=1r(bj+1,cj+1;q)nj(aq/bj,aq/cj;q)nj(aqbj+1cj+1)nj(aq/bjcj;q)njnj1(q;q)njnj1
が成り立つ.

この特別な場合として, b1,,br+1,c1,,cr+1とすると,
0n(1aq2n)(a;q)n(1a)(q;q)n(1)n(aq)(r+1)nq(2r+3)(n2)=(aq;q)0=n0n1nrj=1ranjqnj2(q;q)njnj1
とシンプルな式になる. これより, a1の極限において, Jacobiの三重積を用いて
0=n0n1nrj=1rqnj2(q;q)njnj1=1(q;q)lima10n(1aq2n)(a;q)n(1a)(q;q)n(1)n(aq)(r+1)nq2r(n2)=1(q;q)nZ(1)nq(2r+3)(n2)+(r+1)n=(qr+1,qr+2,q2r+3;q2r+3)(q;q)
と表される. これはAndrews-Gordon関係式と呼ばれる関係式族の中の1つであり, r=1の場合Rogers-Ramanujan恒等式
0nqn2(q;q)n=1(q,q4;q5)
に一致する.

参考文献

[1]
G. E. Andrews, Problems and prospects for basic hypergeometric functions, Theory and application of special functions, 1975, 191-224
[2]
G. E. Andrews, Multiple series Rogers-Ramanujan type identities, Pacific J. Math., 1984, 267-283
投稿日:27日前
更新日:14日前
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Wataru
Wataru
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超幾何関数, 直交関数, 多重ゼータ値などに興味があります

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