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大学数学基礎解説
文献あり

【ホモロジー代数 2】 アーベル圏の定義と具体例

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まえがき

前回 は圏における特別な対象とその性質について見てきました。今回はこれらを駆使してアーベル圏を定義します。前回をまだ見ていない方は こちら をご覧ください。
また今回は圏の知識に加えて、簡単な群の知識を使います。ご了承ください。

アーベル圏の定義

以下は「零対象」を「0」、「直和」「直積」を「$\sqcup$」「$\times$」、「核」「余核」を「$\mathrm{Ker}$」「$\mathrm{Coker}$」と短縮して書いたものです

$\mathcal{A}$が以下の4つの性質を満たす時、$\mathcal{A}$をアーベル圏と言う。
$(1)\mathcal{A}$$0$を持つ
$(2)\mathcal{A}$の任意の対象$X,Y$に対して、$\langle X\sqcup Y,i_1,i_2\rangle,\langle X\times Y,\mathrm{Pr}_1,\mathrm{Pr}_2\rangle$が存在する。
$(3)\mathcal{A}$の任意の射$f$に対して、$\mathrm{Ker}f,\mathrm{Coker}f$が存在する。
$(4)\mathcal{A}$の任意の射$f:X\to Y$に対して、
  $f$がモノ射なら、ある射$g:Y\to Z$が存在して、$\langle X,f\rangle$$g$の核になる
  $f$がエピ射なら、ある射$h:W\to X$が存在して、$\langle Y,f\rangle$$h$の余核になる

具体例と反例

次にアーベル圏の具体例と反例について見ていきましょう

アーベル群の圏

$\mathrm{Ab}$を、対象がアーベル群(=演算が可換な群)、射が群準同型となる圏とする。
$\mathrm{Ab}$はアーベル圏である。

(1)$\mathrm{Ab}$の零対象は自明な対象で、零射は全ての元を単位元に送る写像。
(2)$\mathrm{Ab}$の圏の直和、直積は共に群の直積
(3)$\mathrm{Ab}$$f:X\to Y$の核と余核は$\mathrm{Ker}f,Y/\mathrm{Im}f$
(4)$f:X\to Y$がモノ射なら、$(X,f)$は商写像$g:Y\to Y/\mathrm{Im} f$の核、エピ射なら、$(Y,f)$は包含写像$i:\mathrm{Ker}f\to X$の余核

アーベル圏の双対圏

$\mathcal{A}$をアーベル圏とする。
$\mathcal{A}^{\mathrm{op}}$はアーベル圏である。

(1)$\mathcal{A}^{\mathrm{op}}$の零対象は$\mathcal{A}$の零対象で、零射は$\mathcal{A}$上の零射$f:Y\to X$の双対$f^{\mathrm{op}}:X\to Y$
(2)$\mathcal{A}^{\mathrm{op}}$の圏の直和、直積は$\mathcal{A}$上の直積と直和
(3)$\mathcal{A}^{\mathrm{op}}$$f:X\to Y$の核と余核は$\mathcal{A}$上の余核と核
(4)$f^{\mathrm{op}}:X\to Y$がモノ射なら、$\langle X,f^{\mathrm{op}}\rangle$$(\mathrm{ker}f)^{\mathrm{op}}$の核、エピ射なら、$\langle Y,f^{\mathrm{op}}\rangle$$(\mathrm{coker}f)^{\mathrm{op}}$の余核

関手圏

$\mathcal{A}$をアーベル圏とし、$\mathcal{C}$を小さい圏とする
関手圏$\mathrm{Fun}(\mathcal C,{\mathcal{A}})$はアーベル圏である。

(1)$\mathrm{Fun}(\mathcal C,{\mathcal{A}})$の零対象は,$\mathcal C$の対象を$\mathcal{A}$の零対象へ送り、射を$\mathrm {id}_0$に送る関手。零射は全てが零射の族となる自然変換
(2)$\mathrm{Fun}(\mathcal C,{\mathcal{A}})$の対象$F,G$の直和は$\mathcal C$の対象$X$と射$f$に対して、$(F\sqcup G)(X):=F(X)\sqcup G(X)$
$i_1:=\{F(f)\sqcup 0\Rightarrow F(f)\sqcup G(f)\},i_2:=\{0\sqcup G(f)\Rightarrow F(f)\sqcup G(f)\}$
となる関手と自然変換のペア(直積も同様に定義する)
(3)$\mathrm{Fun}(\mathcal C,{\mathcal{A}})$の射$\alpha:F\Rightarrow G$の核は$\mathcal C$の対象$X$に対して、
$\mathrm{ker}\alpha:=\{\mathrm{Ker\alpha_X}\to F(X)\}_{X\in \mathrm{ob}\mathcal C}$
(4)$\alpha:F\to G$がモノ射なら、$\langle F,\mathrm{\alpha}\rangle$$\langle \mathrm{Coker}\alpha,\mathrm{coker}\alpha\rangle$の核(余核も同様に示せる)

群の圏(反例)

$\mathrm{Grp}$を対象が群、射が群準同型の圏とする。群の圏はアーベル圏ではない

三次の置換群$S_3$その部分群$H:=\{\mathrm{id_G},(2,3)\}$に対して、、包含写像$i:H\hookrightarrow G$はモノ射です。一方$H$が正規部分群でないために任意の射の核にはなりえません(群の核は全て正規部分群のため)。よって(4)の条件を$\mathrm{Grp}$は満たさないためアーベル圏ではありません。

まとめ

お読みいただきありがとうございました!次回はアーベル圏における定理とその証明を紹介していきます。

参考文献

[1]
中岡宏行, 圏論の技法, 日本評論社, 2015
[2]
志甫淳, 層とホモロジー代数, 共立出版, 2024
投稿日:23日前
更新日:23日前
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投稿者

大学一年生です。解析的整数論とホモロジー代数に興味があります。抜けが多い性格なので、誤植とかあるかもしれません💦よろしくお願いします。

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