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大学数学基礎解説
文献あり

ヘンゼル体では微分を用いたヘンゼルの補題も成立する

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今回は, ノイキルヒを読んでて疑問に思ったことが解決してうれしくなったので, 記事にしたいと思います.

ヘンゼル体

非アルキメデス付値vを持つ体Kについて, その付値環(o,p)が次の意味でヘンゼルの補題を満たす時, Kをヘンゼル体と呼ぶ:
原始的な多項式f(x)o[x]modpf(x)ϕ(x)ψ(x)(modp)と互いに素な多項式に分解するならばo[x]上でもf(x)=g(x)h(x)と分解する. ここでg(x)ϕ(x)(modp),h(x)ψ(x)(modp)かつ, deg(g)=deg(ϕ)である.

例えば局所体はヘンゼル体です. 逆にQはヘンゼル体ではないです. ただ, Kの局所化K^におけるKの分離閉包Kvとかはヘンゼル体らしいです(これが代数拡大の圏に収まってくれるのが嬉しいらしい).
今回はそんな踏み込んだ話をするわけではなく, 単純にヘンゼルの補題から微分を用いたヘンゼルの補題を導けることを主張するためにヘンゼル体を用います. 今回の主定理はこちらになります. これは雪江代数3などで書かれているヘンゼルの補題です.

微分を用いたヘンゼルの補題

Kをヘンゼル体とし, f(x)o[x]とする. aov(f(a))>2v(f(a))を満たす時, boであってf(b)=0かつv(ba)=v(f(a))v(f(a))>v(f(a))を満たすものが存在する.

証明のためにはニュートン多角形についての話が必要です. 詳細はノイキルヒを読んでください.

ニュートン多角形

f(x)=a0+a1x++anxnについて, (i,v(ai))達の凸包の下半分(下に凸になっている部分)をニュートン多角形と呼ぶ.

f(x)=a0+a1x++anxn(a0an0)をヘンゼル体Kの多項式とし, vfの分解体Lへの延長をwとする.
このとき(l,v(al))から(r,v(ar))fのニュートン多角形の傾きがmである区間であるとすると, fw(α1)==w(αrl)=mを満たす丁度rl個の根α1,,αrlを持つ.

証明は基本対称式の付値の値を丁寧に追えばわかります.

Kをヘンゼル体とするとfK[x]K上でf(x)=anj=1rfj(x)と分解できる. ここでfj=w(αi)=mj(xαi)K[x]である.

こちらの証明は定理2より既約多項式の根の付値の値が全て等しいことから帰納的にわかります.

この二つの定理を用いて定理1を示します.

(定理1)

f(x+a)を新たにfと置きなおすことでv(f(0))>v(f(0))と仮定してよい. f(x)=a0+a1x+a2x2++anxnとすると, 仮定よりv(a0)>2v(a1),v(ai)0が従う. v(ai)0より(i=2の状況が一番クリティカルだが), (0,v(a0)),(1,v(a1))はニュートン多角形の一辺をなす. 従って定理2よりv(b)=v(a0)v(a1)を満たすbL(LKの分解体)が重複を込めてただ一つ存在する. よって定理3よりfK上でxbを因数に持つのでbKがわかる. 従ってこのbが求めるものである.

微分の条件だったりいろいろ元のヘンゼルの補題からは厳しそうな見た目でもニュートン多角形を経由することで得られるの, かなり偉いですね~
これと同じノリで多項式の係数からその根を得る写像の連続性も言えたりしてうれしい.

追記 逆も成り立つそうです. 色々調べたたら全てが Valued fields という本に載っていることがわかりました. ノイキルヒの他の演習問題の答えとか載ってていい感じ.

参考文献

[1]
J.ノイキルヒ, 代数的整数論, 丸善出版, 2012, p.146-155
[2]
雪江 明彦, 代数学3 代数学のひろがり, 日本評論社, 2011, p.141
投稿日:2023102
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