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大学数学基礎解説
文献あり

ラマヌジャンと方程式 a^3+b^3=c^3±1

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はじめに

 この記事ではラマヌジャンの発見した以下の奇妙な関係式について簡単に解説していきます。

 整数列an,bn,cn,αn,βn,γn
1+53x+9x2182x82x2+x3=n=0anxn=n=1αn1xn226x12x2182x82x2+x3=n=0bnxn=n=1βn1xn2+8x10x2182x82x2+x3=n=0cnxn=n=1γn1xn
によって定めると
an3+bn3=cn3+(1)nαn3+βn3=γn3+(1)n
が成り立つ。

 ちなみにこの等式はRamanujan's Lost Notebookにて登場しています。

Ramanujan's Lost Notebookより Ramanujan's Lost Notebookより

具体値

 以下にan,bn,cn,αn,βn,γnの具体値を記しておきます。

(a0,b0,c0)=(1,2,2)(a1,b1,c1)=(135,138,172)(a2,b2,c2)=(11161,11468,14258)(a3,b3,c3)=(926271,951690,1183258)(a4,b4,c4)=(76869289,78978818,98196140)(a5,b5,c5)=(6379224759,6554290188,8149096378)(a6,b6,c6)=(529398785665,543927106802,676276803218)(α0,β0,γ0)=(9,12,10)(α1,β1,γ1)=(791,1010,812)(α2,β2,γ2)=(65601,83802,67402)(α3,β3,γ3)=(5444135,6954572,5593538)(α4,β4,γ4)=(451797561,577145658,464196268)(α5,β5,γ5)=(37493753471,47896135058,38522696690)(α6,β6,γ6)=(3111529740489,3974802064140,3196919629018)
 例えば(α0,β0,γ0)=(9,12,10)からはかの有名なタクシー数の等式
1729=93+103=123+13
が得られます。
 なおこれ以降の項について知りたい場合はこれらが満たす漸化式
An+382An+282An+1+An=0
を用いると便利かもしれません。

導出

 例の如くラマヌジャンは証明を残していないので本人による導出を知ることはできませんが、Hirschhornらによるとラマヌジャンは次のような発想を用いて導出したのではないかと考察されています。

an,bn,cnの定義

(u2+7uv9v2)3+(2u24uv+12v2)3=(2u2+10v2)3+(u29uvv2)3

 ラマヌジャンが発見していた等式(この記事の公式9)
(3a2+5ab5b2)3+(4a24ab+6b2)3+(5a25ab3b2)3=(6a24ab+4b2)3
においてa=u+v, b=u2vとして両辺を33で割ることでわかる。

(別証明)

(x2+16x21)3+(2x24x+42)3=9(x6+145x4245x2+7203)
が偶多項式であることから
(x2+16x21)3+(2x24x+42)3=(2x2+4x+42)3+(x216x21)3
が成り立つ。
 またx=2y1とおき両辺を43で割ると
(y2+7y9)3+(2y24y+12)3=(2y2+10)3+(y29y1)3
となるので、y=u/vとして両辺にv6を掛けることで所望の式を得る。

 数列hnを漸化式
h0=0,h1=1,hn+2=ahn+1+hn
によって定めると
hn2hn+1hn1=(1)n1
が成り立つ。

 漸化式から
(hn+2hn+1hn+1hn)=(a110)(hn+1hnhnhn1)
が成り立つので、両辺の行列式を取ることで
hn+2hnhn+12=(hn+1hn1hn2)=(1)n(h2h0h12)=(1)n1
を得る。

(別証明)

hn+1=ahn+hn1hn+2=ahn+1+hn
に対しそれぞれhn+1,hnを掛けて差を取ると
hn+12hn+2hn=hn+1hn1hn2
が成り立つので後は同様。

 いま整数列hnを漸化式
h0=0,h1=1,hn+2=9hn+1+hn
によって定め、u=hn+1, v=hnとおくと
u29uvv2=hn+12hn+2hn=(1)n
が成り立つので補題2に注意して
an=u2+7uv9v2bn=2u24uv+12v2cn=2u2+10v2
とおくことで
an3+bn3=cn3+(1)n
が成り立つ。

母関数の導出

 これによって良い感じの整数列an,bn,cnが構成できたので後はこれらの母関数を求めれば終わりとなります。

n=0hn2xn=xx2182x82x2+x3n=0hn+12xn=1x182x82x2+x3n=0hn+1hnxn=9x182x82x2+x3
が成り立つ。

α=9+852,β=9852
とおくとhnの一般項は
hn=αnβn85
と求まるので
hn2=α2n+β2n(1)n285hn+1hn=α2n+1+β2n+1(1)n985
が成り立つ。したがって
n=0hn2xn=185(11α2x+11β2x21+x)=185(283x183x+x221+x)=xx2182x82x2+x3n=0hn+12xn=1xn=0hn2xn=1x182x82x2+x3n=0hn+1hnxn=185(α1α2x+β1β2x91+x)=185(9(1+x)183x+x291+x)=9x182x82x2+x3
を得る。

 以上より

n=0anxn=(1x)+79x9(xx2)182x82x2+x3=1+53x+9x2182x82x2+x3n=0bnxn=2(1x)49x+12(xx2)182x82x2+x3=226x12x2182x82x2+x3n=0cnxn=2(1x)+10(xx2)182x82x2+x3=2+8x10x2182x82x2+x3
を得る。  

αn,βn,γnについて

 なおαn,βn,γnについてはan,bn,cnの"負の項"となっているため、別途同様の証明を行う必要はありません。

αn=an1,βn=bn1,γn=cn1
が成り立つ。

 anの一般項は適当な定数α,β,γを用いて
an=Aαn+Bβn+Cγn
と表せることに注意すると
n=0anxn=A1αx+B1βx+C1γx=A(αx)11(αx)1B(βx)11(βx)1C(γx)11(γx)1=n=1Aαn+Bβn+Cγnxn
と変形できるので
αn1=(Aαn+Bβn+Cγn)=an
を得る。

McLaughlinの公式

 以上がラマヌジャンの公式の解説でした。
 ところで上での議論の核として
(u2+7uv9v2)3+(2u24uv+12v2)3=(2u2+10v2)3+(u29uvv2)3
という恒等式がありました。
 ラマヌジャンの公式はこの恒等式のある一項を±1とするような数列を持ってくることで構成できたわけですが、となるとこのように例えば
(X,Y に関する二次形式)=0
という形の恒等式があれば、それに合わせて適当な数列を持ってくることでラマヌジャンのような公式が作れてしまう、ということになります。
 そしてその最たる例としてMcLaughlinの公式というものが知られています。

 整数列an,bn,cn,dn,en,fnおよびpn,qn,rn,sn,tn
x2+164x+3x399x2+99x1=n=0anxn,5x2+138x+3x399x2+99x1=n=0pnxn7x2+134x+1x399x2+99x1=n=0bnxn,3x2+244x+1x399x2+99x1=n=0qnxnx2+298x1x399x2+99x1=n=0cnxn,x2+254x7x399x2+99x1=n=0rnxn5x2+228x7x399x2+99x1=n=0dnxn,7x2+148x5x399x2+99x1=n=0snxn3x2+258x5x399x2+99x1=n=0enxn,31x=n=0tnxn3x2+94x3x399x2+99x1=n=0fnxn
によって定めると任意のk=1,2,3,4,5およびn0に対し
ank+bnk+cnk+dnk+enk+fnkpnkqnkrnksnktnk=1
が成り立つ。

 例えばn=1の場合を考えると
(461)k+(233)k+(199)k+465k+237k+203k(435)k(343)k439k347k3k=1
という等式が得られます。
 中々いかつい公式ですが、元となった公式は割と対称性の高いものとなっています。

(Chernick)

a=5X2+4XY3Y2,p=5X2+6XY+3Y2b=3X2+6XY+5Y2,q=3X24XY5Y2c=X210XYY2,r=X2+10XYY2d=a,s=pe=b,t=qf=c,u=r
とおくとk=1,2,3,4,5に対し
ak+bk+ck+dk+ek+fk=pk+qk+rk+sk+tk+uk
が成り立つ。

 ただ見ての通りこの公式はそのままだとあまり面白くないので少し変形しておきましょう。
 いま上のようなa,b,,uと任意の多項式M,Kに対し
a=Ma+K, b=Mb+K, , u=Mu+K
とおいてもk=1,2,3,4,5に対し
ak+bk+ck+dk+ek+fk=pk+qk+rk+sk+tk+uk
が成り立つ(二項展開することでわかる)ことに注意して
a=a+2u, b=b+2u, , u=u+2u
とおくことにします。
 このときr=X210XY+Y2が良い形をしているので、これが1となるように
h0=0,h1=1,hn+2=10hn+1hn
なる整数列を持ってきてX=hn+1,Y=hnと置くことで
ank+bnk+cnk+dnk+enk+fnk=pnk+qnk+1+snk+tnk+3k
という公式が得られることになります。
 あとはhnに関する母関数を用いてanたちの母関数を求めることで上の主張が得られる、というわけです。

n=0hn2xn=x2xx399x2+99x1n=0hn+12xn=x1x399x2+99x1n=0hn+1hnxn=10xx399x2+99x1
が成り立つ。

 皆様も何か良い感じの恒等式を見かけたらこのような公式を作ってみてはいかがでしょうか。では。

おまけ

 最後におまけとしてHirschhornによる二通りのゴリ押し解法を紹介しておきます。参考までに。

方法1

 方針としては
an3+bn3cn3(1)n
がそれぞれ八項間漸化式を満たすことと、初期値0n6において0となることを確かめていく感じである。
 ただ漸化式と母関数の関係を説明するのは面倒なので、下では母関数の話だけで完結するように議論していく。

 ある7次多項式f(x)が存在し、an3,bn3,cn3の母関数はそれぞれ
(6次以下の式)f(x)
という形に求まる。特に
an3+bn3cn3(1)n
の母関数についても同様である。

α,β=83±9852
とおくと
182x82x2+x3=(183x+x2)(1+x)=(1αx)(1βx)(1+x)
と因数分解できるので、上の母関数たちは
(二次式)182x82x2+x3=(定数)11αx+(定数)21βx+(定数)31+x=n=0((定数)1αn+(定数)2βn+(定数)3(1)n)xn
と展開できる。
 つまりan,bn,cnの一般項は
αn,βn,(1)n
の線型結合として表せる。
 特にan,bn,cnの三乗は
α3n,β3n,(α2β)n,(αβ2)n,(α2)n,(β2)n,αn,βn,(1)n
の線型結合として表せ、またαβ=1つまり
(α2β)n=αn,(αβ2)n=βn
に注意するとan3たちの母関数は7次多項式
f(x)=(1α3x)(1β3x)(1+α2x)(1+β2x)(1αx)(1βx)(1+x)
を用いて
(6次以下の式)f(x)
と表せることがわかる。

 n=0,1,2,3,4,5,6において
an3+bn3=cn3+(1)n
が成り立つ。

 上の具体値を用いて頑張って計算すればわかる。

定理1の証明

 いま補題9から
n=0(an3+bn3cn3(1)n)xn=(6次以下の式)f(x)
が成り立つのであったが、補題10より左辺はx7で割り切れるので右辺の分子は0でなければならない。
 つまり
n=0(an3+bn3cn3(1)n)xn=0
が示された。

方法2

 方針としてはan,bn,cnの一般項を具体的に求め、また
an3+bn3cn3(1)n
を頑張って計算することで、これらが0となることを確かめていく感じである。

α=83+9852,β=839852
とおくと
an=185((64+885)αn+(64885)βn43(1)n)bn=185((77+785)αn+(77785)βn+16(1)n)bn=185((93+985)αn+(93985)βn16(1)n)
が成り立つ。特に
an3=1853((1306624+14182485)α3n+(130662414182485)β3n(1230144+13209685)(α2)n(123014413209685)(β2)n+(96960+1212085)αn+(969601212085)βn+267245(1)n)bn3=1853((1418648+15366485)α3n+(141864815366485)β3n+(484512+5174485(α2)n+(4845125174485)(β2)n+(466620+4242085)αn+(4666204242085)βn+173440(1)n)cn3=1853((2725272+29548885)α3n+(272527229548885)β3n(745632+8035285)(α2)n(7456328035285)(β2)n+(563580+5454085)αn+(5635805454085)βn173440(1)n)
が成り立つ。

 母関数を部分分数分解し、頑張って計算すればわかる。

参考文献

[1]
M. D. Hirschhorn, An amazing identity of Ramanujan, Math. Mag., 1995, 199-201
[2]
M. D. Hirschhorn, A proof in the spirit of Zeilberger of an amazing identity of Ramanujan, Math. Mag., 1995, 267-269
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M. D. Hirschhorn, Ramanujan's approxiation to the zero of a continued fraction, Austral. Math. Soc. Gazette, 2004, 256-257
[4]
J. H. Han, M. D. Hirschhorn, Another look at an amazing identity of Ramanujan, Math. Mag., 2006, 302-304
[5]
J. Chernick, Ideal Solutions of the Tarry-Escott Problem, Amer. Math. Monthly, 1937, 626-633
[6]
J. McLaughlin, An identity motivated by an amazing identity of Ramanujan, Fibonacci Quart, 2010, 34-38
[7]
G. E. Andrews, B. C. Berndt, Ramanujan's Lost Notebook Part IV, Springer, 2013
[8]
S. Ramanujan, Lost Notebook and Other Unpublished Papers, New Delhi, Narosa, 1988, p.341
投稿日:420
更新日:420
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  9. 方法1
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