さて,本題に戻りましょう.距離があるときに道のりの長さを考えたいのでした.そこで,距離が定義されているときに長さ構造を構成する方法を考えましょう.
前回
は長さ構造から距離空間を構成しましたが,逆に距離空間から自然に長さ構造を得る方法として,次の構成があります.
曲線の長さ
を距離空間,を道とする.の分割,を考える.
のすべての分割に渡る上限をの長さといいで表す.長さが有限である曲線を有限長という.
のときであることがリーマン積分のときと同様に示されます.また,ユークリッド空間に対しては通常の曲線の長さと一致します.この曲線の長さを長さ関数として長さ構造が定ります.
距離に誘導された長さ構造
すべての道を認容的道とし,長さをとする長さ構造を,距離から誘導された長さ構造という.
距離が明らかなときは省略することがあります.それでは実際に長さ構造となることや他の性質を見ていきましょう.
距離から誘導された長さ構造に対し次が成り立つ.
(1)(一般化三角不等式)
.
(2)(加法性)
のとき
,特にはの非減少関数.
(3)(連続依存性)
が有限長なら関数はに関して連続.
(4)(下半連続性)
道,が任意のに対してを満たすとき
.
- 任意の分割に対しだからは下界であり,の最小性から成り立つ.
- リーマン積分の区間の分割のときと同様.
- とし,任意にをとる.分割であって,となるものを考える.としてよい.このとき単調性からが成り立つ.よってに対し.必要なら分割を細かくしてとしてよい.よって連続である.についても加法性からわかる.
- 道が道に各点収束するとし,任意にをとる.分割をを満たすようにとる.このに対しに対する和を考える.を任意のに対してを満たすように大きくとる.このとき
.よって成立.
ここでが連続になるとは限らないことに注意しましょう.それは次の図のような状況を考えればわかります.
では具体的な距離空間からこの方法で構成した長さ空間をみてみましょう.
単位円にのユークリッド距離を制限したものから誘導される内在的距離は角度による距離である.
にで距離を定める.この距離から誘導される内在的距離を考えたは位相的にの個の直和に等しい.
距離は平行移動と倍で不変なので,として示す.とする.分割を十分細かくとってが任意のに対して成り立つようにすることができる.一般に実数でを満たすものに対しが成り立つので
.よって
であり示された.
これらの距離は長さ構造から得られた距離ということになり,それは内在的な距離といわれるのでした.