2
大学数学基礎解説
文献あり

「2.5=5/2みたいな数」問題の解答

167
0
$$$$

はじめに

餃子n人前 さんの「 2.5=5/2みたいな数 」について考えてみました.
厳密性を欠く部分があるのですが,厳密性を補った解答や,異なるアプローチの元になるかもしれないので記事を投稿します.

Like $2.5 = \frac{5}{2}$

以下を満たす正の整数の組$(N,M)$をすべて求めよ.\begin{align}N+\frac{M}{10^{[\log_{10}M]+1}}=\frac{M}{N}\end{align}ただし,$[x]$$x$を超えない最大の整数とする.

解答

残念ながら$(M, N)=(5, 2)$以外の解はないと思われます.


$L=[\log_{10}M]+1$とします.($L \in \mathbb{Z}^+$)
$x-1 \lt [x] \leq x$ですから,$M \lt 10^L \leq 10M$です.
したがって (式の意図からも明らかですが),$\frac{1}{10} \leq \frac{M}{10^{[\log_{10}M]+1}}=\frac{M}{10^L} \lt 1$となり,$\frac{M}{10^L}$$\frac{1}{10}$以上$1$未満の小数です.

与式の左辺を見ると,整数部分$N$と小数部分$\frac{M}{10^L}$に分かれた形になっています.
そのため,$M$$N$で割った商を$Q$,余りを$R$ $(0 \leq R \lt N)$とすると,$Q=N$ (つまり$M=N^2+R$),$\frac{R}{N}=\frac{M}{10^L}$となることが分かります.
$\frac{1}{10} \leq \frac{M}{10^L} \lt 1$だったので,$\frac{1}{10} \leq \frac{R}{N} \lt 1$も分かります.

$\frac{R}{N}=\frac{M}{10^L}$$M=N^2+R$を代入し$R$について解くと ($N \lt M \lt 10^L$より$10^L-N \gt 0$なので),$R=\frac{N^3}{10^L-N}$となります.
$\frac{1}{10} \leq \frac{R}{N} \lt 1$だったので,$\frac{1}{10} \leq \frac{N^2}{10^L-N} \lt 1$です.


ここで$D=10^L-N$とおくと,$D$について次のことが分かります.

  • $\frac{N^2}{D} \lt 1$なので$\frac{N^2}{D}$は整数ではない.
    $N=10^L-D$より$\frac{N^2}{D}=\frac{10^{2L}}{D}-2 \cdot 10^L+D$が整数ではないので,$D$$10^{2L}$の約数ではない.
  • $\frac{N^3}{D}=R$なので$\frac{N^3}{D}$は整数.
    $N=10^L-D$より$\frac{N^3}{D}=\frac{10^{3L}}{D}-3 \cdot 10^{2L}+3 \cdot 10^L D-D^2$が整数ではないので,$D$$10^{3L}$の約数である.
    $D$$10^{3L}$の約数であることから,$D=2^A 5^B$ $(A, B \in \mathbb{Z}_{\geq 0}, A \leq 3L, B \leq 3L)$とかけます.
    また$D$$10^{2L}$の約数ではないので$A, B$のいずれかは$2L$より大きい必要がありますが,$B \gt 2L$の場合は$D \gt 25^L$となり$D=10^{L}-N \lt 10^L$に矛盾するので,$0 \leq B \leq 2L \lt A \leq 3L$が分かります.

    $B$の範囲をもう少し絞っておきます.
    $N^2 \lt D \lt 10^L$より$N \lt 10^{\frac{L}{2}}$です.
    よって$10^L-10^{\frac{L}{2}} \lt D=10^L-N=2^A 5^B \lt 10^L$,すなわち
    $$ \begin{equation} 10^L-10^{\frac{L}{2}} \lt 2^A 5^B \lt 10^L \tag{1} \end{equation} $$
    です.$(1)$$10^B$で割ると
    $$ \begin{equation} 10^{L-B}-10^{\frac{L}{2}-B} \lt 2^{A-B} \lt 10^{L-B} \tag{2} \end{equation} $$
    となります.(特に,$B \lt A$より$2^{A-B}$は整数です)
    ここで$B \geq \frac{L}{2}$だとすると開区間$(10^{L-B}-10^{\frac{L}{2}-B}, 10^{L-B})$内に整数が存在しないことが簡単に分かり成り立たないので,$0 \leq B \lt \frac{L}{2}$です.


    さて,ここで不等式$(2)$がどのくらい厳しいのか実験してみます.
    簡単のため不等式$(2)$の左側を緩めて$10^{L-B}-10^{\frac{L-B}{2}} \lt 2^{A-B} \lt 10^{L-B}$とし,$a=A-B$$l=L-B$ $(a, l \in \mathbb{Z}, \frac{3}{2}L \lt a \leq 3L, \frac{L}{2} \lt l \leq L)$とおくと不等式は
    $$ \begin{equation} 10^l-10^{\frac{l}{2}} \lt 2^a \lt 10^l \tag{3} \end{equation} $$
    となります.

    $l=1$のとき不等式$(3)$$10-\sqrt{10} = 6.8\cdots \lt 2^a \lt 10$となり$a=3$です.これは$(M, N)=(5, 2)$に対応します.

    次に$l \geq 2$のときを考えます.不等式$(3)$は,$l=2$のとき$90 \lt 2^a \lt 100$$l=4$のとき$9900 \lt 2^a \lt 10000$のようになり,$2^a$は最高位から$9$$[\frac{l}{2}]$個だけ並んだ$l$桁の数になる必要があります.
    ところが$2^a$の最高位の数がはじめて$9$となるのは$a=53$のときの$2^a \simeq 9.0 \times 10^{15}$ですし,$2^a$の最高位から$2$桁がはじめて$99$になるのは$a=93$のときの$2^a \simeq 9.90 \times 10^{27}$ですし,$2^a$の最高位から$3$桁がはじめて$999$になるのは$a=2621$のときの$2^a \simeq 9.991 \times 10^{788}$です.
    そのため「$2^a$は最高位から$9$$[\frac{l}{2}]$個だけ並んだ$l$桁の数になる」という条件は極めて厳しく,$l=1$のとき以外の解は存在しないだろうと想像できます.

より厳密な解答

$l$が十分大きいとき不等式$(3)$に解が存在しないことを,もう少し厳密に証明することに挑戦してみます.
不等式$(3)$の左側について,$2^a=10^{a \log_{10} 2}$を用い変形していくと
$$ \begin{equation} 1-10^{a \log_{10} 2 -l} \lt 10^{-\frac{l}{2}} \tag{4} \end{equation} $$
という形にできます.
不等式$(4)$の左辺は,もちろん$l$が大きくなると$\to +0$です.
いっぽう右辺については$a \log_{10} 2-l \lt 0$ $(\because 2^a \lt 10^l)$ですから$1-10^{a \log_{10} 2 -l} \gt 0$です.そして$a \log_{10} 2 -l \to -0$のとき右辺$\to +0$となります.

$a \log_{10} 2 -l$$0$に近いというのは$\frac{l}{a}$$\log_{10} 2$に近いということなので,無理数の近似分数の理論が使えそうです.
そこで$\log_{10} 2$$k$次主近似分数を$\frac{p_k}{q_k}$とします.これは連分数展開で求められ,$1$次以降は$\frac{1}{3}, \frac{3}{10}, \frac{28}{93}, \frac{59}{196}, \frac{146}{485}, \cdots$と続きます.(このとき明らかに$p_k \lt q_k$です)
証明は省略しますが,主近似分数の性質から次の定理が成り立ちます.

$^\forall p, q \in \mathbb{Z}$に対して,
$(p, q) \neq (p_k, q_k)$かつ$q \leq q_k \Longrightarrow \vert q_k \log_{10} 2 -p_k \vert \lt \vert q \log_{10} 2 -p \vert$

$\vert q_k \log_{10} 2 -p_k \vert \gt \frac{1}{2 q_{k+1}}$

$\{p_k\}_{k=1}^{\infty}, \{q_k\}_{k=1}^{\infty}$は単調増加列であり,フィボナッチ数列以上の速さで発散する.

また,ほぼ確実に次の予想が成り立つものと思われます

$\frac{\ln q_{k}}{k}$は上に有界である.

ほとんど全ての無理数に対して,その$k$次主近似分数を$\frac{p_k}{q_k}$とすると$\lim\limits_{n \to \infty} \frac{\ln q_{n}}{n}=\frac{\pi^2}{12 \ln 2}$が成立します.成立しないのは$2$次無理数や,成立しないように人工的に構成した数などの「典型的ではない」無理数です.
しかし$\log_{10} 2$という個別の無理数が本当に「典型的な」無理数であると厳密に示すのは難しく,数値計算で確からしさを補強することしかできないと思われます.(この辺り詳しい方はコメントいただけると)
$\frac{\ln q_{k}}{k}$が上に有界とならないような無理数を人工的に構成することは可能ですが,$\log_{10} 2$は天然の(?)無理数なので,以降は予想が正しいものとして議論を進めます.


さて,もしも
$$ \begin{equation} 1-10^{-\vert q_{k+1} \log_{10} 2 -p_{k+1} \vert} \geq 10^{-\frac{p_k}{2}} \tag{5} \end{equation} $$
が示せたとすると,$q_k \leq l \leq q_{k+1}$なる$(a, l)$について,
$$ \begin{align} 1-10^{a \log_{10} 2 -l}&=1-10^{-\vert a \log_{10} 2 -l \vert} \tag{$\because a \log_{10} 2-l \lt 0$}\\ &\gt 1-10^{-\vert q_{k+1} \log_{10} 2 -p_{k+1} \vert} \tag{$\because$定理$1$} \\ &\geq 10^{-\frac{p_k}{2}} \tag{$\because$不等式$(5)$の仮定} \\ &\gt 10^{-\frac{q_k}{2}} \tag{$\because p_k \lt q_k$}\\ &\geq 10^{-\frac{l}{2}} \tag{$\because q_k \leq l$}\\ \end{align} $$
となり,不等式$(4)$が成立しないことが分かります.
$k$が大きいとき不等式$(5)$が成立することを証明しましょう.

不等式$(5)$の左辺$\gt 1-10^{-\frac{1}{2 q_{k+2}}}$ $(\because$定理2$)$です.
$k$が大きいとき$1-10^{-\frac{1}{2 q_{k+2}}} \simeq \frac{\ln 10}{2 q_{k+2}}$なので (この近似が気に入らない方は,$x \gt 0$が十分小さい時$1-10^{-x}>x$であることを確認し,$\ln 10$$1$に置き換えて読んでください),
\begin{equation} \frac{\ln 10}{2 q_{k+2}} \geq 10^{-\frac{p_k}{2}} \tag{6} \end{equation}
が示せれば目的達成です.

$$ \begin{align} (6)&\Longleftrightarrow \frac{2 q_{k+2}}{\ln 10} \leq 10^{\frac{p_k}{2}}\\ &\Longleftrightarrow \ln q_{k+2} +\ln \frac{2}{\ln 10} \leq \frac{\ln 10}{2} p_k\\ &\Longleftrightarrow \frac{\ln q_{k+2}}{k+2} +\frac{\ln \frac{2}{\ln 10}}{k+2} \leq \frac{\ln 10}{2} \frac{p_k}{k+2}\\ \end{align} $$
最後の式の左辺は「予想」より上に有界ですが,右辺は定理3より$k \to \infty$で発散します.
よって示されました.

以上のことから$l$が十分大きいとき,不等式$(3)$に解が存在しないことが少し厳密に証明されました.

「予想」が正しかったとしても,ここから分かることは「元の問題の解は有限組しかない」ということだけです.
とはいえ不等式$(5)$について数値計算をしてみたところ$3 \leq k \leq 150$の範囲では余裕をもって不等式$(5)$が成立したので,$N \simeq 10^{2.6 \times 10^{73}}$くらいまで$(M, N)=(5, 2)$以外の解はないことは確認できました.
ですので,$(M, N)=(5, 2)$以外の解はないと考えて差し支えないと思います.

余談1

元の問題を次のように緩和すると,無限組の解が存在します.

$\mathrm{弱Like}$ $2.5 = \frac{5}{2}$

以下を満たす正の整数の組$(L, M, N)$をすべて求めよ.\begin{align}N+\frac{M}{10^L}=\frac{M}{N}\end{align}

ただし問題1のときと同様に考えることで$L \geq [\log_{10}M]+1$である解は$(L, M, N)=(1, 5, 2)$しか作れないことが分かります.


参考まで,$L=1, 2$の解を示します.ただし$(1, M, N)$が解のとき$(2, 100 M, 10 N)$も解になることはすぐ分かり面白くないので,そのような解は省略してあります.

$L=1$

$(M, N)$式に直すと
$(5, 2)$$2.5=\frac{5}{2}$
$(50, 5)$$5+5.0=\frac{50}{5}$
$(90, 6)$$6+9.0=\frac{90}{6}$
$(320, 8)$$8+32.0=\frac{320}{8}$
$(810, 9)$$9+81.0=\frac{810}{9}$


$L=2$

$(M, N)$式に直すと
$(2025, 36)$$36+20.25=\frac{2025}{36}$
$(14450, 68)$$68+144.50=\frac{14450}{68}$
$(22500, 75)$$75+225.00=\frac{22500}{75}$
$(44100, 84)$$84+441.00=\frac{44100}{84}$
$(105800, 92)$$92+1058.00=\frac{105800}{92}$
$(180500, 95)$$95+1805.00=\frac{180500}{95}$
$(230400, 96)$$96+2304.00=\frac{230400}{96}$
$(480200, 98)$$98+4802.00=\frac{480200}{98}$
$(980100, 99)$$99+9801.00=\frac{980100}{99}$

余談2

「解答」の中で,$\frac{l}{a}$$\log_{10} 2$に近いことが分かりました.
このような$(a, l)$の組を使って$(M, N)$を逆算することを考えます.(逆算の過程で$B$を決める必要がありますが,適当に$B=0$としておきます)
このとき$(a, l)=(3, 1)$でなければ$M$は整数になりませんし,また$a \log_{10} 2-l \lt 0$でなければ$N$は正になりませんが,$2.5 = \frac{5}{2}$に似た形の式を得ることができます.

$(a, l)$の組を$\log_{10} 2$の中間近似分数から求めると,次のような結果が得られます.
このような式はいくらでも得ることができますが,$(a, l)=(23, 7)$の例から分かる通り$\frac{M}{10^l}$の項が急速に大きくなっていきます.

$(a, l)$$(M, N)$式に直すと
$(3, 1)$$(5, 2)$$2.5=\frac{5}{2}$
$(4, 1)$$(22.5, -6)$$6-2.25=\frac{22.5}{6}$
$(7, 2)$$(612.5, -28)$$28-6.125=\frac{612.5}{28}$
$(10, 3)$$(562.5, -24)$$24-0.5625=\frac{562.5}{24}$
$(13, 4)$$(3990312.5, 1808)$$1808+399.03125=\frac{3990312.5}{1808}$
$(23, 7)$$(3095369550781.25, 1611392)$$1611392+309536.955078125=\frac{3095369550781.25}{1611392}$

参考文献

[2]
木村 俊一, 連分数のふしぎ, 講談社, 2012
投稿日:215
更新日:215
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

∉数学科

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 解答
  3. より厳密な解答
  4. 余談1
  5. 余談2
  6. 参考文献