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大学数学基礎解説
文献あり

「2.5=5/2みたいな数」問題の解答

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はじめに

餃子n人前 さんの「 2.5=5/2みたいな数 」について考えてみました.
厳密性を欠く部分があるのですが,厳密性を補った解答や,異なるアプローチの元になるかもしれないので記事を投稿します.

Like 2.5=52

以下を満たす正の整数の組(N,M)をすべて求めよ.N+M10[log10M]+1=MNただし,[x]xを超えない最大の整数とする.

解答

残念ながら(M,N)=(5,2)以外の解はないと思われます.


L=[log10M]+1とします.(LZ+)
x1<[x]xですから,M<10L10Mです.
したがって (式の意図からも明らかですが),110M10[log10M]+1=M10L<1となり,M10L110以上1未満の小数です.

与式の左辺を見ると,整数部分Nと小数部分M10Lに分かれた形になっています.
そのため,MNで割った商をQ,余りをR (0R<N)とすると,Q=N (つまりM=N2+R),RN=M10Lとなることが分かります.
110M10L<1だったので,110RN<1も分かります.

RN=M10LM=N2+Rを代入しRについて解くと (N<M<10Lより10LN>0なので),R=N310LNとなります.
110RN<1だったので,110N210LN<1です.


ここでD=10LNとおくと,Dについて次のことが分かります.

  • N2D<1なのでN2Dは整数ではない.
    N=10LDよりN2D=102LD210L+Dが整数ではないので,D102Lの約数ではない.
  • N3D=RなのでN3Dは整数.
    N=10LDよりN3D=103LD3102L+310LDD2が整数ではないので,D103Lの約数である.
    D103Lの約数であることから,D=2A5B (A,BZ0,A3L,B3L)とかけます.
    またD102Lの約数ではないのでA,Bのいずれかは2Lより大きい必要がありますが,B>2Lの場合はD>25LとなりD=10LN<10Lに矛盾するので,0B2L<A3Lが分かります.

    Bの範囲をもう少し絞っておきます.
    N2<D<10LよりN<10L2です.
    よって10L10L2<D=10LN=2A5B<10L,すなわち
    (1)10L10L2<2A5B<10L
    です.(1)10Bで割ると
    (2)10LB10L2B<2AB<10LB
    となります.(特に,B<Aより2ABは整数です)
    ここでBL2だとすると開区間(10LB10L2B,10LB)内に整数が存在しないことが簡単に分かり成り立たないので,0B<L2です.


    さて,ここで不等式(2)がどのくらい厳しいのか実験してみます.
    簡単のため不等式(2)の左側を緩めて10LB10LB2<2AB<10LBとし,a=ABl=LB (a,lZ,32L<a3L,L2<lL)とおくと不等式は
    (3)10l10l2<2a<10l
    となります.

    l=1のとき不等式(3)1010=6.8<2a<10となりa=3です.これは(M,N)=(5,2)に対応します.

    次にl2のときを考えます.不等式(3)は,l=2のとき90<2a<100l=4のとき9900<2a<10000のようになり,2aは最高位から9[l2]個だけ並んだl桁の数になる必要があります.
    ところが2aの最高位の数がはじめて9となるのはa=53のときの2a9.0×1015ですし,2aの最高位から2桁がはじめて99になるのはa=93のときの2a9.90×1027ですし,2aの最高位から3桁がはじめて999になるのはa=2621のときの2a9.991×10788です.
    そのため「2aは最高位から9[l2]個だけ並んだl桁の数になる」という条件は極めて厳しく,l=1のとき以外の解は存在しないだろうと想像できます.

より厳密な解答

lが十分大きいとき不等式(3)に解が存在しないことを,もう少し厳密に証明することに挑戦してみます.
不等式(3)の左側について,2a=10alog102を用い変形していくと
(4)110alog102l<10l2
という形にできます.
不等式(4)の左辺は,もちろんlが大きくなると+0です.
いっぽう右辺についてはalog102l<0 (2a<10l)ですから110alog102l>0です.そしてalog102l0のとき右辺+0となります.

alog102l0に近いというのはlalog102に近いということなので,無理数の近似分数の理論が使えそうです.
そこでlog102k次主近似分数をpkqkとします.これは連分数展開で求められ,1次以降は13,310,2893,59196,146485,と続きます.(このとき明らかにpk<qkです)
証明は省略しますが,主近似分数の性質から次の定理が成り立ちます.

p,qZに対して,
(p,q)(pk,qk)かつqqk|qklog102pk|<|qlog102p|

|qklog102pk|>12qk+1

{pk}k=1,{qk}k=1は単調増加列であり,フィボナッチ数列以上の速さで発散する.

また,ほぼ確実に次の予想が成り立つものと思われます

lnqkkは上に有界である.

ほとんど全ての無理数に対して,そのk次主近似分数をpkqkとするとlimnlnqnn=π212ln2が成立します.成立しないのは2次無理数や,成立しないように人工的に構成した数などの「典型的ではない」無理数です.
しかしlog102という個別の無理数が本当に「典型的な」無理数であると厳密に示すのは難しく,数値計算で確からしさを補強することしかできないと思われます.(この辺り詳しい方はコメントいただけると)
lnqkkが上に有界とならないような無理数を人工的に構成することは可能ですが,log102は天然の(?)無理数なので,以降は予想が正しいものとして議論を進めます.


さて,もしも
(5)110|qk+1log102pk+1|10pk2
が示せたとすると,qklqk+1なる(a,l)について,
(alog102l<0)110alog102l=110|alog102l|(定理1)>110|qk+1log102pk+1|(不等式(5)の仮定)10pk2(pk<qk)>10qk2(qkl)10l2
となり,不等式(4)が成立しないことが分かります.
kが大きいとき不等式(5)が成立することを証明しましょう.

不等式(5)の左辺>11012qk+2 (定理2)です.
kが大きいとき11012qk+2ln102qk+2なので (この近似が気に入らない方は,x>0が十分小さい時110x>xであることを確認し,ln101に置き換えて読んでください),
(6)ln102qk+210pk2
が示せれば目的達成です.

(6)2qk+2ln1010pk2lnqk+2+ln2ln10ln102pklnqk+2k+2+ln2ln10k+2ln102pkk+2
最後の式の左辺は「予想」より上に有界ですが,右辺は定理3よりkで発散します.
よって示されました.

以上のことからlが十分大きいとき,不等式(3)に解が存在しないことが少し厳密に証明されました.

「予想」が正しかったとしても,ここから分かることは「元の問題の解は有限組しかない」ということだけです.
とはいえ不等式(5)について数値計算をしてみたところ3k150の範囲では余裕をもって不等式(5)が成立したので,N102.6×1073くらいまで(M,N)=(5,2)以外の解はないことは確認できました.
ですので,(M,N)=(5,2)以外の解はないと考えて差し支えないと思います.

余談1

元の問題を次のように緩和すると,無限組の解が存在します.

Like 2.5=52

以下を満たす正の整数の組(L,M,N)をすべて求めよ.N+M10L=MN

ただし問題1のときと同様に考えることでL[log10M]+1である解は(L,M,N)=(1,5,2)しか作れないことが分かります.


参考まで,L=1,2の解を示します.ただし(1,M,N)が解のとき(2,100M,10N)も解になることはすぐ分かり面白くないので,そのような解は省略してあります.

L=1

(M,N)式に直すと
(5,2)2.5=52
(50,5)5+5.0=505
(90,6)6+9.0=906
(320,8)8+32.0=3208
(810,9)9+81.0=8109


L=2

(M,N)式に直すと
(2025,36)36+20.25=202536
(14450,68)68+144.50=1445068
(22500,75)75+225.00=2250075
(44100,84)84+441.00=4410084
(105800,92)92+1058.00=10580092
(180500,95)95+1805.00=18050095
(230400,96)96+2304.00=23040096
(480200,98)98+4802.00=48020098
(980100,99)99+9801.00=98010099

余談2

「解答」の中で,lalog102に近いことが分かりました.
このような(a,l)の組を使って(M,N)を逆算することを考えます.(逆算の過程でBを決める必要がありますが,適当にB=0としておきます)
このとき(a,l)=(3,1)でなければMは整数になりませんし,またalog102l<0でなければNは正になりませんが,2.5=52に似た形の式を得ることができます.

(a,l)の組をlog102の中間近似分数から求めると,次のような結果が得られます.
このような式はいくらでも得ることができますが,(a,l)=(23,7)の例から分かる通りM10lの項が急速に大きくなっていきます.

(a,l)(M,N)式に直すと
(3,1)(5,2)2.5=52
(4,1)(22.5,6)62.25=22.56
(7,2)(612.5,28)286.125=612.528
(10,3)(562.5,24)240.5625=562.524
(13,4)(3990312.5,1808)1808+399.03125=3990312.51808
(23,7)(3095369550781.25,1611392)1611392+309536.955078125=3095369550781.251611392

参考文献

[2]
木村 俊一, 連分数のふしぎ, 講談社, 2012
投稿日:215
更新日:215
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