集合と演算を組み合わせて構成される代数的構造と、その名称を導入します。抽象的な代数は扱わず、自然数・整数・実数に限定して説明します。
ある集合について、その元に対する二項演算を考えます。演算結果がその集合に属していることを、演算が集合の中に閉じていると表現します(はみ出さないということ)。また、この性質を閉性と呼びます。
2つの自然数の足し算を考えます。対象となるのは自然数全体の集合で、これを$\mathbb{N}$と表記します。二項演算は$+$です。
自然数と自然数を足せば自然数となるため、演算は閉じています。
自然数$a$と自然数$b$の引き算$a-b$を考えます。集合は$\mathbb{N}$で、二項演算は$-$です。
$a< b$のとき$a-b$はマイナスとなりますが、負の数は自然数から外れるため、演算は閉じていません。(自然数からはみ出す)
整数と整数の引き算を考えます。対象となるのは整数全体の集合で、これを$\mathbb{Z}$と表記します。二項演算は$-$です。
整数は負の数を含むため、演算は閉じています。
集合と、その中に閉じている演算の組をマグマと呼びます。
$$ (\text{集合},\text{演算}) \xrightarrow{\text{閉性}} \text{マグマ} $$
入れ子になった二項演算に対して、演算の順序を変更しても結果が変わらないことを結合的であると表現します。また、この性質を結合性と呼びます。
3つの実数$a,b,c$を足す演算を考えます。対象となるのは実数全体の集合で、これを$\mathbb{R}$と表記します。二項演算は$+$です。
$(a+b)+c=a+(b+c)$より、演算は結合的です。
3つの実数$a,b,c$を引く演算を考えます。集合は$\mathbb{R}$で、二項演算は$-$です。
$(a-b)-c \ne a-(b-c)$より、演算は結合的ではありません。
3つの実数$a,b,c$を掛ける演算を考えます。集合は$\mathbb{R}$で、二項演算は$\times$です。
$(a \times b) \times c = a \times (b \times c)$より、演算は結合的です。
どのように演算が結合していても結果が変化しない、というイメージで捉えておけば良いでしょう。
演算子を省略して$(ab)c=a(bc)$と表記すれば、結合のイメージが湧きやすいかもしれません。
集合と、その中に閉じている演算が結合的であるとき、その集合と演算の組を半群と呼びます。
結合的なマグマが半群です。
$$ (\text{集合},\text{演算}) \xrightarrow{\text{閉性}} \text{マグマ} \xrightarrow{\text{結合性}} \text{半群} $$
ある特定の数$e$との演算が、集合のすべての元を変化させないとき、$e$を単位元と呼びます。
演算の種類によって単位元は異なります。
$0$はどの実数に足しても値を変化させません。つまり、任意の実数$a$に対して以下の関係が成り立ちます。
$$ a+0=0+a=a $$
つまり実数の足し算において、単位元は$0$です。
$1$はどの実数に掛けても値を変化させません。つまり、任意の実数$a$に対して以下の関係が成り立ちます。
$$ a \times 1 = 1 \times a = a $$
つまり実数の掛け算において、単位元は$1$です。
$0$は任意の実数$a$に掛けても$0$となり、$a$の値を変化させるため単位元ではありません。
$$ a \times 0 = 0 \times a = 0 $$
集合と、その中に閉じている演算が結合的で、演算に単位元が存在してその集合に属するとき、その集合と演算の組をモノイドと呼びます。
単位元を持つ半群がモノイドです。
$$ (\text{集合},\text{演算}) \xrightarrow{\text{閉性}} \text{マグマ} \xrightarrow{\text{結合性}} \text{半群} \xrightarrow{\text{単位元}} \text{モノイド} $$
自然数が$1$から始まると定義した場合、足し算の単位元$0$は自然数に含まれません。つまり、自然数は足し算に関して半群であって、モノイドではありません。
ただし、自然数が$0$から始まると定義すれば、足し算に関してモノイドとなります。
このようにモノイドとして定義するには、集合を適切に定義する必要があります。
ある数$a$に対する演算で、単位元が得られるような数$b$が一意に存在するとき、$a$と$b$の関係を逆元と呼びます。
演算の種類によって逆元は異なります。
ある実数$a$に対して、$-a$を足すと$0$が得られます。つまり、以下の関係が成り立ちます。
$$ a + (-a) = (-a) + a = 0 $$
実数の足し算において、$a$の逆元が$-a$で、$-a$の逆元が$a$です。つまり$-1$を掛けることで逆元を得ることができます。単位元$0$の逆元は$0$自身です。
ある$0$でない実数$a$に対して、$1/a$を掛けると$1$が得られます。つまり、以下の関係が成り立ちます。
$$ a \times \frac{1}{a} = \frac{1}{a} \times a = 1 $$
実数の掛け算において、$a$の逆元が$1/a$で、$1/a$の逆元が$a$です。つまり、逆数が逆元となります。単位元$1$の逆元は$1$自身です。なお、$0$には逆数が存在しないことから、逆元も存在しません。
負の数や分数は自然数には含まれないため、足し算に関しても掛け算に関しても逆元が存在しません。
集合と、その中に閉じている演算が結合的で、演算に単位元が存在してその集合に属し、すべての元に逆元が存在してその集合に属するとき、その集合と演算の組を群と呼びます。
逆元を持つモノイドが群です。
$$ (\text{集合},\text{演算}) \xrightarrow{\text{閉性}} \text{マグマ} \xrightarrow{\text{結合性}} \text{半群} \xrightarrow{\text{単位元}} \text{モノイド} \xrightarrow{\text{逆元}} \text{群} $$
演算は集合の元に対して定義されるため、逆元が集合に含まれなければ、逆元との演算を考えることができません。つまり、逆元を求める操作は閉じていることが必要です。
$0$には逆元が存在しません。実数全体の集合$\mathbb{R}$は$0$を含むため、掛け算に関して群ではありません。
実数全体から$0$を除いた集合$\mathbb{R} \setminus \{0\}$($\mathbb{R}^\times$とも表記)は、すべての元が掛け算に関して逆元を持つため、群になります。
このように群として定義するには、集合を適切に定義する必要があります。
集合と、その中に閉じている演算の組をマグマと呼びます。
マグマが結合的であれば半群、半群が単位元を持てばモノイド、モノイドが逆元を持てば群と呼びます。
$$ (\text{集合},\text{演算}) \xrightarrow{\text{閉性}} \text{マグマ} \xrightarrow{\text{結合性}} \text{半群} \xrightarrow{\text{単位元}} \text{モノイド} \xrightarrow{\text{逆元}} \text{群} $$
また、これとは異なる順番で代数的構造を拡張したものにも名前が付けられています。
マグマが逆元を持てば準群、準群が単位元を持てばループ、ループが結合的であれば群と呼びます。
$$ (\text{集合},\text{演算}) \xrightarrow{\text{閉性}} \text{マグマ} \xrightarrow{\text{逆元}} \text{準群} \xrightarrow{\text{単位元}} \text{ループ} \xrightarrow{\text{結合性}} \text{群} $$
一度にすべての名前を覚えることは難しいかもしれませんが、最も重要な群に焦点を絞ると良いでしょう。