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大学数学基礎解説
文献あり

2つの平均の混合(算術幾何平均の一拡張)

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初投稿です.


基本的な平均と算術幾何平均

高校生で習う「相加相乗平均の不等式」に代表されるように,いくつかの「平均」には特別に名前が付いている.

算術平均・幾何平均・調和平均

a,bを正の実数とする.

  • 算術平均・相加平均(arithmetic mean):A(a,b)=a+b2
  • 幾何平均・相乗平均(geometric mean):G(a,b)=ab
  • 調和平均(harmonic mean):H(a,b)=2a1+b1

これらのうち,算術平均と幾何平均を組み合わせた算術幾何平均というものが存在する.

算術幾何平均

2つの正の実数a,b (ab)に対し,a0=a,b0=bとして
{an+1=A(an,bn)=an+bn2bn+1=G(an,bn)=anbn
で数列{an}n=0,{bn}n=0を定める.このとき2つの数列はそれぞれ収束し,その極限値は等しい.この共通の極限値をa,b算術幾何平均と呼び, AGM(a,b)と書く.
AGM(a,b)=limnan=limnbn

※算術調和平均・調和幾何平均も存在する

収束することの証明には,はじめに言及した相加相乗平均の不等式を用いる[1]
算術平均や幾何平均が単純な四則演算や平方根を取る操作で定まっていたことに対し,数列の極限として定まる算術幾何平均はその存在が自明ではない.

同じように2つの「平均」を組み合わせて,新たな「平均」を手に入れることはできるだろうか?

「平均」の定義

本節は主に[2]Chapter 8に基づく.

正の実数の集合をR+と書く.

「平均」の議論をするにあたり,まず「平均」とは何かを定義する.

平均[2]

平均とは,R+の任意の2元a,bに対し,以下を満たすような関数M:R+×R+R+のことをいう.
min(a,b)M(a,b)max(a,b)

算術平均がa,bのちょうど真ん中であったことを思い出すと,平均とは2つの変数のその間に値を取る関数である,というこの定義は直感に則しているといえる。

このままだと抽象的すぎるので,平均に対していくつかの概念を導入する.

平均に関する概念[2]

a,bR+の任意の2元とする.
(1) 平均Mstrictであるとは,M(a,b)=a or M(a,b)=ba=bが成り立つことをいう.
(2) 平均M斉次であるとは,任意のλR+に対しM(λa,λb)=λM(a,b)が成り立つことをいう.
(3) 平均M対称であるとは,M(b,a)=M(a,b)が成り立つことをいう.
(4) 平均M(狭義)単調増加であるとは,
M(a,):R+R+M(,b):R+R+がそれぞれ(狭義)単調増加であることをいう.

※ここでのstrictの適切な和訳はなんだろう……

これらの定義を満たすようなものを「平均」と定めたので,あとはこれらを満たす関数を探せば平均を新たに作り出すことができる.
事実,多様な平均が考案されている[2][3][4][5]
Wikipedia:Mean#Types_of_means によくまとまっているので参照されたい.

次に,2つの平均の間に成り立つ関係を定義する.

平均の比較可能性[2]

平均Mが平均N比較可能であるとは,次の3つの条件のいずれか一つが成り立つことをいう.
(1) 任意のa,bR+に対し,M(a,b)N(a,b)
(2) 任意のa,bR+に対し,N(a,b)M(a,b)
(3) 次の2条件をどちらも満たす:

  • 任意のa,bR+ (0<a<b)に対し,M(a,b)N(a,b)
  • 任意のa,bR+ (0<b<a)に対し,N(a,b)M(a,b)
相加相乗平均の不等式との対応

相加相乗平均の不等式はAGを意味していたため,条件(2)を満たして算術平均Aは幾何平均Gと比較可能である,といえる.

比較可能性は対称ではない

M,Nがともに対称である場合は条件(3)は起こり得ない.
どちらかが対称でなく条件(3)を満たしている場合,「MNと比較可能」であるが「NMと比較可能」ではない.

2つの平均の混合

算術幾何平均の類似の話に戻る.
さっそく結論を述べると,strictで比較可能な平均に対してであれば同様に共通の極限値に収束し平均となることが言える.

compound meanの存在[2]

M,Nを連続な平均で少なくとも一方はstrictであるとし,MNと比較可能であるとする.このとき,任意のa,bR+に対し,a0=a,b0=bとして漸化式
{an+1=M(an,bn)bn+1=N(an,bn)
で定まる数列{an}n=0,{bn}n=0はともに収束し,共通の極限値をもつ.この共通の極限値をMN(a,b)と書き,MNは平均となり,compound meanと呼ぶ.

abかつMNを仮定する( 比較可能 条件(2) or 条件(3)).
収束することを示すためにまず次を示す:
(★)bnbn+1an+1an (n=0,1,2,)
NMの仮定からb1=N(a0,b0)M(a0,b0)a1を満たす.帰納的にbnanを仮定する.このとき同様にして
bnN(an,bn)=bn+1an+1=M(an,bn)=an+1
が言える.よって (★) が示された.
(★)から,{an}n=0は下に有界な単調減少列で,{bn}n=0は上に有界な単調増加列であることがわかるため,それぞれ収束する.極限値をα=limnan,β=limnbnと書く.このときM,Nの連続性から,漸化式の両辺でnの極限をとることで
{α=M(α,β)β=N(α,β)
を得る.M,Nの少なくとも一方はstrictであるため,上式からα=βを得る.したがって{an}n=0,{bn}n=0は共通の極限値に収束する.
a<bの場合( 比較可能 条件(1) or 条件(3))は,anbnの役割を交換すればよい.
最後に,MNが平均であることを示す.
{MN(a,b):=min(M(a,b),N(a,b))MN(a,b):=max(M(a,b),N(a,b))
と書くことにすれば,ab,MNのときbN(a,b)MNM(a,b)aで,一方a<b,MNのときaM(a,b)MNN(a,b)bであるから,
MNMNMN
がいえる.したがってMN 平均の定義 を満たす.

証明の肝としては,(1)数列の単調性と有界性のために比較可能であること,(2)共通の極限値のためにstrictであることしか平均の性質を用いていないことである.そのため,少なくともcompound meanのためには算術平均や幾何平均が持つような斉次性や対称性は必要ない.M,Nが斉次・対称・単調増加である場合にはMNもそうなることを示すことができる[2].また特に,この漸化式で定義された数列はM,Nが対称で1階微分可能な場合超1次収束,2階微分可能である場合2次収束することが示せる[3][4]
この定理により,算術平均・幾何平均の混合である算術幾何平均が,より一般の連続でstrictな平均のcompound meanに拡張される.[6]では,比較可能の条件を少し変えて斉次性を課すことで,compoundの対象となる平均を拡張している.

[5]ではcompound meanを指して"inductive mean"と呼んでいる.決まった呼び方がない?

最後に

  • 古くから知られた基本的な結果かもしれないが,定義や証明を書いた最近の文献が見つけられなかったため最終的に[2]を参照した
  • 算術・幾何・調和平均以外の平均でもcompoundしてみると面白い結果が得られるかもしれない(試したい)

参考文献

投稿日:20231118
更新日:20231126
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投稿者

行列が好き; 数理系修了

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  1. 基本的な平均と算術幾何平均
  2. 「平均」の定義
  3. 2つの平均の混合
  4. 最後に
  5. 参考文献