シリーズ: ホップファイブレーション
ホップファイブレーションは射影の一種で、三次元球面(四次元空間内の超球面)上の点を二次元球面(三次元空間内の球面)上に射影します。四元数による計算方法を確認して、パウリ行列を求めます。
単位四元数$q$について、四元数共役を$q^*$とすれば、純虚四元数$p$に対して$qpq^*$は回転を表します。回転軸を$n$、回転角を$θ$とすれば、パラメーターは以下の通りです。7shi
$$ \begin{aligned} n&=n_x\,\mathbf{i}+n_y\,\mathbf{j}+n_z\,\mathbf{k}\quad(n_x^2+n_y^2+n_z^2=1,\ n^2=-1) \\ q&=\cos\frac\theta2+n\sin\frac\theta2=e^{nθ/2} \end{aligned} $$
Wikipedia からホップファイブレーションと四元数の関係を引用します。wikipedia
In fact, this identifies the group of versors with the group of rotations of $\mathbb{R}^3$, modulo the fact that the versors $q$ and $-q$ determine the same rotation. As noted above, the rotations act transitively on $\mathbb{S}^2$, and the set of versors $q$ which fix a given right versor $p$ have the form $q = u + vp$, where $u$ and $v$ are real numbers with $u^2 + v^2 = 1$. This is a circle subgroup. For concreteness, one can take $p = \mathbf k$, and then the Hopf fibration can be defined as the map sending a versor $ω$ to $ω\mathbf kω^*$. All the quaternions $ωq$, where $q$ is one of the circle of versors that fix $\mathbf k$, get mapped to the same thing (which happens to be one of the two $180°$ rotations rotating $\mathbf k$ to the same place as $ω$ does).
日本語訳
実際、単位四元数$q$と$-q$が同じ回転を決定するという事実を除いて、これは単位四元数の群を$\mathbb{R}^3$の回転群と同一視している。上記のように、回転は$\mathbb{S}^2$に推移的に作用し、与えられた純虚単位四元数$p$を固定する単位四元数$q$の集合は$q = u + vp$の形をしている。ここで$u$と$v$は$u^2 + v^2 = 1$を満たす実数である。これは円周部分群である。具体的には$p = \mathbf k$とすることができ、そうするとホップファイブレーションは、単位四元数$ω$を$ω\mathbf kω^*$に送る写像として定義できる。$q$が$\mathbf k$を固定する単位四元数の円周の1つであれば、すべての四元数$ωq$は同じもの($\mathbf k$を$ω$と同じ場所に回転させる 2 つの$180°$回転のうちの 1 つ)に写される。
2 点に絞って説明します。
始点を$k$に固定すれば、単位四元数$ω$での回転により、ホップファイブレーションが定義できます。
ホップファイブレーションは、単位四元数$ω$を$ω\mathbf kω^*$に送る写像として定義できる。wikipedia
$$ ω=ω_0+ω_1\mathbf{i}+ω_2\mathbf{j}+ω_3\mathbf{k}\quad(ω_0^2+ω_1^2+ω_2^2+ω_3^2=1) $$
$ω$によって虚数単位$\mathbf{k}$を回転させます。
$$ \begin{aligned} ω\mathbf{k}ω^* =&(ω_0+ω_1\mathbf{i}+ω_2\mathbf{j}+ω_3\mathbf{k})\mathbf{k}(ω_0+ω_1\mathbf{i}+ω_2\mathbf{j}+ω_3\mathbf{k})^* \\ =&(ω_0+ω_1\mathbf{i}+ω_2\mathbf{j}+ω_3\mathbf{k})\mathbf{k}(ω_0-ω_1\mathbf{i}-ω_2\mathbf{j}-ω_3\mathbf{k}) \\ =&(ω_0+ω_1\mathbf{i}+ω_2\mathbf{j}+ω_3\mathbf{k})(ω_0+ω_1\mathbf{i}+ω_2\mathbf{j}-ω_3\mathbf{k})\mathbf{k} \\ =&\{ω_0(ω_0+ω_1\mathbf{i}+ω_2\mathbf{j}-ω_3\mathbf{k})+ω_1\mathbf{i}(ω_0+ω_1\mathbf{i}+ω_2\mathbf{j}-ω_3\mathbf{k}) \\ &+ω_2\mathbf{j}(ω_0+ω_1\mathbf{i}+ω_2\mathbf{j}-ω_3\mathbf{k})+ω_3\mathbf{k}(ω_0+ω_1\mathbf{i}+ω_2\mathbf{j}-ω_3\mathbf{k})\}\mathbf{k} \\ =&(ω_0^2+ω_0ω_1\mathbf{i}+ω_0ω_2\mathbf{j}-ω_0ω_3\mathbf{k}+ω_0ω_1\mathbf{i}-ω_1^2+ω_1ω_2\mathbf{k}+ω_1ω_3\mathbf{j} \\ &+ω_0ω_2\mathbf{j}-ω_1ω_2\mathbf{k}-ω_2^2-ω_2ω_3\mathbf{i}+ω_0ω_3\mathbf{k}+ω_1ω_3\mathbf{j}-ω_2ω_3\mathbf{i}+ω_3^2)\mathbf{k} \\ =&\{(ω_0^2+ω_3^2)-(ω_1^2+ω_2^2)+2ω_0ω_1\mathbf{i}+2ω_0ω_2\mathbf{j}+2ω_1ω_3\mathbf{j}-2ω_2ω_3\mathbf{i}\}\mathbf{k} \\ =&\{(ω_0^2+ω_3^2)-(ω_1^2+ω_2^2)+2(ω_0ω_1-ω_2ω_3)\mathbf{i}+2(ω_0ω_2+ω_1ω_3)\mathbf{j}\}\mathbf{k} \\ =&2(ω_0ω_2+ω_1ω_3)\mathbf{i}-2(ω_0ω_1-ω_2ω_3)\mathbf{j}+\{(ω_0^2+ω_3^2)-(ω_1^2+ω_2^2)\}\mathbf{k} \end{aligned} $$
$ω\mathbf{k}ω^*$は実部を持たない純虚四元数です。係数の 2 乗和を確認します。
$$ \begin{aligned} &\{2(ω_0ω_2+ω_1ω_3)\}^2+\{-2(ω_0ω_1-ω_2ω_3)\}^2+\{(ω_0^2+ω_3^2)-(ω_1^2+ω_2^2)\}^2 \\ =&4ω_0^2ω_2^2+8ω_0ω_1ω_2ω_3+4ω_1^2ω_3^2+4ω_0^2ω_1^2-8ω_0ω_1ω_2ω_3+4ω_2^2ω_3^2 \\ &+ω_0^4+2ω_0^2ω_3^2+ω_3^4-2(ω_0^2ω_1^2+ω_0^2ω_2^2+ω_3^2ω_1^2+ω_3^2ω_2^2)+ω_1^4+2ω_1^2ω_2^2+ω_2^4 \\ =&ω_0^4+ω_1^4+ω_2^4+ω_3^4+2ω_0^2ω_1^2+2ω_0^2ω_2^2+2ω_0^2ω_3^2+2ω_1^2ω_2^2+2ω_1^2ω_3^2+2ω_2^2ω_3^2 \\ =&(ω_0^2+ω_1^2+ω_2^2+ω_3^2)^2 \\ =&1 \end{aligned} $$
よって$ω\mathbf{k}ω^*$は純虚単位四元数であり、単位球面上の一点を指すことが確認できました。
$ω$ を 2 つの複素数へ分割します。$\mathbf{k}$の係数から$(ω_0,ω_3)$と$(ω_1,ω_2)$のペアに分けます。$\mathbf{i}$の係数を内積に見立てることで、実部$ω_0,ω_2$と虚部$ω_3,ω_1$が特定できます。これらを$α,β$とします。
$$ \begin{aligned} α&=ω_0+ω_3i \\ β&=ω_2+ω_1i \end{aligned} $$
片方の因子を複素共役にして積を求めれば、内積と外積が得られます。
$$ \begin{aligned} α^*β &=(ω_0-ω_3i)(ω_2+ω_1i) \\ &=(ω_0ω_2+ω_3ω_1)+(ω_0ω_1-ω_3ω_2)i \end{aligned} $$
$ω\mathbf{k}ω^*$を書き換えます。
$$ ω\mathbf{k}ω^*=2\mathrm{Re}(α^*β)\mathbf{i}-2\mathrm{Im}(α^*β)\mathbf{j}+(|α|^2-|β|^2)\mathbf{k} $$
$\mathbf{j}$の係数がマイナスになっているため調整します。
$$ \begin{aligned} α&=ω_0-ω_3i \\ β&=ω_2-ω_1i \end{aligned} $$
$$
\begin{aligned}
α^*β
&=(ω_0+ω_3i)(ω_2-ω_1i) \\
&=(ω_0ω_2+ω_3ω_1)-(ω_0ω_1-ω_3ω_2)i
\end{aligned}
$$
$$
ω\mathbf{k}ω^*=2\mathrm{Re}(α^*β)\mathbf{i}+2\mathrm{Im}(α^*β)\mathbf{j}+(|α|^2-|β|^2)\mathbf{k}
$$
よく使われる形のホップファイブレーションが四元数によって得られました。
符号調整の結果を踏まえて整理します。
$$ \begin{aligned} α&=α_0+α_1i \\ β&=β_0+β_1i \\ ω&=α_0-β_1\mathbf{i}+β_0\mathbf{j}-α_1\mathbf{k}=(α_0-α_1\mathbf{k})+\mathbf{j}(β_0-β_1\mathbf{k}) \end{aligned} $$
$$ \begin{aligned} α_ω&=α_0-α_1\mathbf{k} \\ β_ω&=β_0-β_1\mathbf{k} \\ ω&=α_ω+\mathbf{j}β_ω \end{aligned} $$
$ω$で$\mathbf{k}$を回転させます。
$$ \begin{aligned} ω\mathbf{k}ω^* &=(α_ω+\mathbf{j}β_ω)\mathbf{k}(α_ω+\mathbf{j}β_ω)^* \\ &=(α_ω+\mathbf{j}β_ω)\mathbf{k}(α_ω^*-\mathbf{j}β_ω) \\ &=(α_ω+\mathbf{j}β_ω)(α_ω^*+\mathbf{j}β_ω)\mathbf{k} \\ &=(α_ωα_ω^*+α_ω\mathbf{j}β_ω+\mathbf{j}β_ωα_ω^*+\mathbf{j}β_ω\mathbf{j}β_ω)\mathbf{k} \\ &=(α_ωα_ω^*+α_ωβ_ω^*\mathbf{j}+β_ω^*α_ω\mathbf{j}+β_ω^*\mathbf{j}^2β_ω)\mathbf{k} \\ &=(|α|^2+2α_ωβ_ω^*\mathbf{j}-|β|^2)\mathbf{k} \\ &=2α_ωβ_ω^*\mathbf{i}+(|α|^2-|β|^2)\mathbf{k} \\ &=2(α_0-α_1\mathbf{k})(β_0+β_1\mathbf{k})\mathbf{i}+(|α|^2-|β|^2)\mathbf{k} \\ &=2(α_0β_0+α_0β_1\mathbf{k}-α_1β_0\mathbf{k}+α_1β_1)\mathbf{i}+(|α|^2-|β|^2)\mathbf{k} \\ &=2(α_0β_0+α_1β_1)\mathbf{i}+2(α_0β_1-α_1β_0)\mathbf{j}+(|α|^2-|β|^2)\mathbf{k} \\ &=2\mathrm{Re}(α^*β)\mathbf{i}+2\mathrm{Im}(α^*β)\mathbf{j}+(|α|^2-|β|^2)\mathbf{k} \end{aligned} $$
複素共役での虚部の符号反転によって、実部と虚部が分離できます。分離した虚部に$-i$を掛けることで実数化します。
$$ \begin{alignedat}{4} 2\mathrm{Re}(α^*β)&=&&α^*β+(α^*β)^*&&=&&α^*β+β^*α \\ 2\mathrm{Im}(α^*β)&=-i(&&α^*β-(α^*β)^*)&&=-i(&&α^*β-β^*α) \end{alignedat} $$
これを $ω\mathbf{k}ω^*$ に適用します。
$$ \begin{aligned} ω\mathbf{k}ω^* &=2\mathrm{Re}(α^*β)\mathbf{i}+2\mathrm{Im}(α^*β)\mathbf{j}+(|α|^2-|β|^2)\mathbf{k} \\ &=(α^*β+β^*α)\mathbf{i}-i(α^*β-β^*α)\mathbf{j}+(α^*α-β^*β)\mathbf{k} \end{aligned} $$
複素数の$i$と四元数の$\mathbf i$を表記上区別しています。$-i(α^*β-β^*α)$は実数となるため、得られる結果に複素数と四元数が混在することはありません。
複素数$α,β$を成分とする複素ベクトル$\Psi$とそのエルミート共役(成分の複素共役を取る転置)を定義します。
$$ \Psi=\pmatrix{α\\β},\ \Psi^\dagger=\pmatrix{α^*&β^*} $$
$i,j,k$の係数を$x,y,z$とします。各項に含まれる複素共役を$\Psi^\dagger$に対応させ、ベクトルの内積で表現します。内積の右因子は、$\Psi$から変換するための行列$\sigma_x,\sigma_y,\sigma_z$を作って挟みます。
$$ \begin{alignedat}{5} x &=&&α^*β+β^*α & &=\pmatrix{α^*&β^*}\pmatrix{β\\α} & &=\pmatrix{α^*&β^*}\pmatrix{0&1\\1&0}\pmatrix{α\\β} & &=\Psi^\dagger\sigma_x\Psi \\ y&=-i(&&α^*β-β^*α) & &=\pmatrix{α^*&β^*}\pmatrix{\begin{array}{r}-iβ\\iα\end{array}} & &=\pmatrix{α^*&β^*}\pmatrix{0&-i\\i&0}\pmatrix{α\\β} & &=\Psi^\dagger\sigma_y\Psi \\ z&=&&α^*α-β^*β & &=\pmatrix{α^*&β^*}\pmatrix{\begin{array}{r}α\\-β\end{array}} & &=\pmatrix{α^*&β^*}\pmatrix{1&0\\0&-1}\pmatrix{α\\β} & &=\Psi^\dagger\sigma_z\Psi \\ \end{alignedat} $$
これらの変換行列がパウリ行列です。
$$ \sigma_x=\pmatrix{0&1\\1&0} ,\ \sigma_y=\pmatrix{0&-i\\i&0} ,\ \sigma_z=\pmatrix{1&0\\0&-1} $$
パウリ行列による計算は、$ω\mathbf{k}ω^*$と同等の計算を形式的かつ簡潔にまとめます。
$$\Psi\mapsto\pmatrix{ \Psi^\dagger\sigma_x\Psi \\ \Psi^\dagger\sigma_y\Psi \\ \Psi^\dagger\sigma_z\Psi}$$
量子情報では、$\Psi$を状態ベクトル、パウリ行列による座標変換によって構成される単位球をブロッホ球と呼びます。
ホップファイブレーションは単射ではなく、ある一点の逆像は円周となります。この円周はファイバーと呼ばれます。
与えられた純虚単位四元数$p$を固定する単位四元数$q$の集合は$q = u + vp$の形をしている。ここで$u$と$v$は$u^2 + v^2 = 1$を満たす実数である。これは円周部分群である。wikipedia
純虚単位四元数の 2 乗は -1 となります。
$$ p^2=-1 $$
$q$によって$p$を回転させます。
$$ \begin{aligned} qpq^* &=(u+vp)p(u+vp)^* \\ &=(u+vp)p(u-vp) \\ &=(u+vp)(u-vp)p \\ &=(u^2+v^2)p \\ &=p \end{aligned} $$
$p$ が固定されていることが確認できました。
$q$が$\mathbf k$を固定する単位四元数の円周の1つであれば、すべての四元数$ωq$は同じもの($\mathbf k$を$ω$と同じ場所に回転させる 2 つの$180°$回転のうちの 1 つ)に写される。wikipedia
$q=u+v\mathbf{k}\ (u^2+v^2=1)$ のとき $(ωq)\mathbf{k}(ωq)^*=ω\mathbf{k}ω^*$ となることを確認します。
$$ (ωq)\mathbf{k}(ωq)^*=ω(q\mathbf{k}q^*)ω^*=ω\mathbf{k}ω^* $$
$ωq$の軌跡が$ω\mathbf{k}ω^*$の逆像で、円周となります。ホップファイブレーションにより超球面は球面と円周に分解されます。